富籤〜遊び人の誘い

■イベントシナリオ


担当:周利芽乃香

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:4

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月31日〜12月31日

リプレイ公開日:2009年01月08日

●オープニング

●自称冒険者の誘い
 京都ギルドにひょっこり顔を出した男を見て、係は「あら、まだ生きてたの」と言った。
 この男、銀次と言う。冒険者を自称しているが、京都ギルドで仕事を請けた記録は残されていない。いつも只で振舞われる茶を飲みながら四方山話をして帰ってゆく。
 いつもふらりと現れ気づくと姿が消えている、人あしらいが良いのか自然と周囲に馴染み、その上何故か憎めない。周囲の者もいつしか慣れ、『遊び人の銀さん』と親しみ込めて呼ぶようになった、不思議な男であった。

「月道ってェのは便利だね、江戸から京都まで一跨ぎたァこの事さね」
 銀次が言うに、江戸でも似たような催しを見つけて誘うのだという。
 その催しとは、富籤。
 京都でも、ある神社が普請の布施集めに富籤を発行するらしい。
「こっちの富籤の趣向がちと面白くてな。神社だけに流鏑馬で数字を射るらしいぜ」

 遊びの誘いなので報酬はないと言う。
 10枚の富籤を購入し、その当たり外れを一喜一憂しよういう訳だ。
 生真面目に書類を作成する係員に「おい、これも貼っといてくれ」銀次は神社で配っていたものを差し出した。

●富籤概要
 ・一等:七桁全て合いし札  『七支剣+2』
 ・二等:下六桁合いし札   『黄金刀+2』
 ・三等:下五桁合いし札   『豪華+2アイテム』
 ・四等:下四桁合いし札   『レミエラ用合成アイテム』
 ・五等:下三桁合いし札   『黄金像』
 ・六等:下二桁合いし札   『金3G』

「ヤだ、これって‥‥ホントに当たるの!?」
 景品の余りの豪華さに、係が目を丸くする。
「さァてな。でも強欲は身を滅ぼすかもなァ、福は他人に分けた方が身の為よ」
 銀次は意味有りげにニヤリと笑った。

●今回の参加者

クロウ・ブラックフェザー(ea2562)/ 神木 秋緒(ea9150)/ 明王院 浄炎(eb2373)/ 明王院 未楡(eb2404)/ フィーネ・オレアリス(eb3529)/ シェリル・オレアリス(eb4803)/ 十野間 修(eb4840

●リプレイ本文

●人が大勢集う場所
 銀次が去った後、その場に居合わせた者の思惑は様々だった。
「『強欲は身を滅ぼす』‥‥か‥‥話に乗るのも一興か」
 明王院浄炎(eb2373)は妻を誘うべく、一旦帰宅しようと立ち上がった。神木秋緒(ea9150)は、友人を誘おうとギルドを後にする。この二人、ただ富籤を買う為に誘いに乗ったのではなかった。

 浄炎は帰宅し、妻の明王院未楡(eb2404)にギルドでの話をした。
「一計あっての誘いとも思えるが、悪いようにするつもりではなかろうて」
「そう‥‥ですね。年末の神社に一縷の望みを持って、頼って来られる方も少なくはないでしょう」
 神社で用意があるなら手伝いを、無いなら私達で炊き出しを‥‥未楡は、にっこり笑う。まこと二人は善き夫婦、愛馬に必要な荷を乗せ、炊き出し資金を持参した上で神社に向かう。
「所詮、蓄えた金子も元はと言えば、難儀した人々より頂いたものに過ぎぬからな」
 宮司に許可を取り場所を確保した後、未楡に仕切りを頼み、浄炎は妻の分の富籤も一緒に買い求める。
(「願わくば‥‥真に必要とする者達の元に、それぞれの品が届くと良いのだが‥‥」)
 心優しき大男は、富籤を購入する列を目に願わずにはいられなかった。

 一方、秋緒は友人のクロウ・ブラックフェザー(ea2562)を誘いに行っていた。
「神社での犯罪を警戒したいのよ」
「秋緒さんには恩があるからなあ。仕方ない、付き合うぜ」
 クロウは、ジャパンの言葉や習慣を教わった秋緒に頭が上がらないらしい。対して隠密行動の得意なクロウは、秋緒にとって良き協力者でもあった。
 それぞれ、運試しに一組購入後、秋緒は神社の巫女を装って、クロウは客を装い警戒にあたる。
 寒風吹き荒ぶ中購入に並ぶのは凍えようと、行列の希望者に白湯を手渡しつつ周囲を見ると、遠くで炊き出し準備をしている者がいる。器用に竹の切り出しをしているのはギルドで出逢った男か。志を同じくする者を目にし、秋緒はそっと微笑んだ。

●運試し
 銀次の誘いは富籤の購入だ。勿論、運試しを楽しむ為に参加した者達もいる。
「運よく当たれば、仲間に良いジャパン土産ができそうですね」
 そう言って銀次の後に続いたのは、十野間修(eb4840)だ。『仲間』の部分に含む所がありそうなのは気のせいか。

 オレリアス母娘は、純粋に富籤を楽しもうとしていた。
「えーと‥‥」
 娘のフィーネ・オレアリス(eb3529)が3組購入すれば、母シェリル・オレアリス(eb4803)は5組を購入する。
 周囲の購入客が「おぉぅ」と、どよめいたのは、母娘の買い方の豪気さ故か、はたまた金髪美女二人の胸元か。とにかく目立つ二人であった。

●流鏑馬神事
 富籤の購入が終了し、いよいよ当選へと移る。
 本殿へと長く伸びている境内の石畳は人が通らぬように縄が張られ、砂が撒かれた。購入者は片側に寄せられ、石畳を挟んだ向こう側に的が7つ据えつ付けられる。
 的は中心を赤丸に紅白の縞模様になっており、7つそれぞれの縞部分には違う番号が記されていた。射手の腕が良く中心ばかり当たったとしても、連番にはならぬ仕組みだ。まして流鏑馬、どの番号が当たるかは誰にも予想できない。

 待つ間、明王院夫妻の炊き出しは大盛況だ。富籤を買い終えた修が二人を見つけ、作業を手伝う。誰さえも分け隔てなく振舞われる、夫妻の心づくしは、味噌と魚で味を調えた雑穀混じりの雑炊。多く人々の体と心を温めた。
 オレリアス母娘の周りには、別の意味で人垣ができていた。男性が多いのは言わずもがな。最早抽選結果より母娘との親交を深める会と化していた。
 人が固まるという事は不心得な者が動き易い環境でもある訳で、秋緒とクロウは警備を厳しくする。
(「秋緒さん‥‥」)
 クロウが秋緒に合図を送った。相手に気づかれぬよう、二人は警戒を続ける。

 本殿から宮司と狩装束の男‥‥否、女が現れた。神社の巫女か花街の高位か‥‥いずれにせよ彼女が今回の射手だろう。凛々しくも美々しい男装姿に見物人は大いに湧いた。
 宮司と射手が拝礼を済ませ、本殿に背を向けぬよう両脇に逸れて一旦姿を消した。次に射手が現れたのは門前。飾り立てた白馬に騎乗し、弓と箙を装備している。再び本殿前に現れた宮司が、声高らかに宣言した。

『流鏑馬始めませ』

 射手を乗せた白馬が本殿へ向かって疾走する。
 射手は慌てる事なく箙から矢を取り弓を構えると、七つの的全てに当てた。一瞬の出来事だった。
 本殿手前で馬を止めた射手は下馬し、本殿へ向かって拝礼すると、馬を引き、下がった。宮司が的を確認する。
『六・零・五・五・六・八・七!』
 何処かで声にならない歓声が響いた。

●上手い話
「‥‥あ、当たってしまいました‥‥二等」
 フィーネがおずおず告白すると、周囲の男共がこぞって祝福した。彼女を妬んだりやっかむ者は誰もいない。
「さっきの豪気な買いっぷり、冒険者様でしょうか」
 それどころか、シェリルには景品を売りつけようとする者まで現れる有様。10Gで、と申し出られたその品を見たシェリルは思わず目を疑った。三等景品ではないか。
 10Cで当たったものだけに、当選者は相当吹っかけたつもりなのだろうが、価値を知る者にとっては、愚の骨頂とも言うべき申し出だった。値切りならぬ値上げで、何とか50Gで譲って貰う事に落ち着く。それでも、余りにも安い取引だった。
「そろそろ年越し蕎麦でも食べに行きましょうか」
「そうですね、一足早く初詣も‥‥」
 続く幸運に翌年の夢を乗せて、二人は神社を後にした。

 不審者警備をしていた秋緒とクロウは、流鏑馬に魅入っていた男から財布を掏ろうとしていた男を捕らえた。単独犯と見て、クロウは秋緒に犯人を託し、警備を続行する。
 見廻組詰所で犯人の尋問を行った所、富籤を所持していた。これも掏ったものだと言う。
「掏った相手も判らんとなれば、返す訳にもな‥‥お疲れ様、富籤持ってっていいぞ。どうせ当たってやしないだろうし」
 購入分より1枚多い富籤を持って神社へ戻った秋緒は、それが五等の富籤だと知る。
「どうしましょう、これ‥‥」

 神社に残ったクロウはと言えば、心無い人達が捨て去った外れ籤を回収していた。
「‥‥ったく、いくらハズレだからって交換所に返す位はしろよな」
 発行の富籤は木の板で、使いまわせるようになっている。欠番があれば追加で作り直す必要が出るし、その分経費も嵩む。夜だけに完璧とはいかなかったが、秋緒が当てにした視力を頼りに、見つけられる分だけでもと探した。
 集めた木札を交換所へ返しに行くと、番号を確認していた巫女が「当たりが混ざってますよ」と言う。俺の物でもないしと固辞したものの「神様のお授けものですよ」と言われて結局受け取る事になった。
「折角だから秋緒さん誘って呑みにでも行くか‥‥」
 クロウは見廻組詰所へ向かって歩き出した。

 浄炎は炊き出しの続きを未楡に任せ、修と二人で札の確認に行っていた。
「まぁ、やはり運試し‥‥でしたね」
 恋人に‥‥と願いを掛けた富籤を手に修は落胆する‥‥が。
「おめでとうございます!!」
 交換所の巫女に言われた修は面食らう。当たっているはずないのに‥‥間違えて1枚、違う札が入っていたなんて。しかもそれが四等の刀だったなんて!

 浄炎は妻の分も丁寧に確認した。間違いなく自分達の札は外れだ。
「あの‥‥先程はありがとうございました」
 浄炎に声を掛けたのは、共に当選を待っていた一人の女性だった。
「わたくし、黄金像を当ててしまったのですが‥‥貴方のようなかたにこそ、相応しい品と存じます。どうか‥‥佳きようにお役立てください」
 貴方こそ生き仏と丁寧に礼をされた挙句、像を押し付けられてしまった。
「なれば‥‥真に必要とする者達の為に、使わせていただく」
 何となく釈然としないものを感じながらも、浄炎は受け取らざるを得なかった。

 妻の許に戻ると、更に不可解な出来事が待っていた。
「炊き出しを受けられた方に『菩薩様とは貴女の事です』と‥‥」
 未楡も黄金像を持っていたのだ。妻が夫の持参物を見て驚いたのは言うまでもない。
「これは‥‥何か一癖ありそうだな」
 浄炎の呟きは、年越しの喧騒にかき消されて行った。