富籤--遊び人の誘い
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■イベントシナリオ
担当:周利芽乃香
対応レベル:フリーlv
難易度:易しい
成功報酬:4
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月31日〜12月31日
リプレイ公開日:2009年01月08日
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●オープニング
●自称冒険者の誘い
「富籤買いに行かねェか?」
「ちょいと、銀さん。それ依頼で言ってるの?」
ギルド員が面食らうのも無理はない。
この男、銀次という。冒険者を名乗りギルドにちょくちょく顔を出すのだが、いつも出がらし茶を片手に駄弁っているばかりで、誰も依頼を請けている姿を見た事がないのだ。故にこの男、通称を『遊び人の銀さん』と言う。
遊び人・銀次は「おうよ」と応えた。
「ちと面白ェ話があってな」
江戸の某寺で、普請の布施集めに富籤をやるのだという。
坊主が富籤の板を配るので、それを1枚10Cで購入、当たれば丸儲け、当然外れれば10Cの損だ。
「冒険者やってる奴ァ、金持ってんだろ。10枚ぱぁッと買ってやろうや。お布施だと思ってよ」
‥で、報酬は?尋ねるギルド員に「んなモンあるかよ」平然と銀次は言う。
「当たればいいじゃねェか。それが報酬だ。ほれ、寺のもんがこれも貼っといてくれってよ」
「‥‥ま、いいけどね。報酬なし、集まんなくても知らないよ」
ギルド員は呆れたように言うと、募集の書類を張り出した。
●富籤概要
・一等:七桁全て合いし札 『七支剣+2』
・二等:下六桁合いし札 『黄金刀+2』
・三等:下五桁合いし札 『豪華+2アイテム』
・四等:下四桁合いし札 『レミエラ用合成アイテム』
・五等:下三桁合いし札 『黄金像』
・六等:下二桁合いし札 『金3G』
「‥‥」
何気なく張り出した富籤概要を改めて見た、ギルド員が絶句した。
「ねぇ、これ、本当に当たるの? そもそもお坊さん達大丈夫!?」
「大丈夫なんじゃねェか? 仏像と引き換えにしてでも、普請費を捻出したいんだろうしよ」
他人事だとばかりに、あっけらかんと銀次は言い放つ。
「どうせ当たらないんじゃないんですかねぇ‥‥」
「夢のねえ野郎だなぁ。いいんだよ、当たらなくたって夢を買うんだからよ。でもよ‥‥三等まではどう転んでも業物だぜ、いいよなァ。叩き売ったって何百両って代物だぜ。そいつがたった10文でいただけちまうなんてよ」
銀次は少々羨ましげに呟いた。
●リプレイ本文
●遊び人の誘い
ギルドの座敷で銀次の誘いに乗ったのは、土方伊織(ea8108)だった。
「銀さんの言う通りなのですよ。お布施を兼ねた運試し、富籤さんで挑戦してみるのです」
「そそ、こういうのはご祝儀気取っとけ。楽しくやろうぜ」
同意した巴渓(ea0167)と三人、一緒にギルドを後にした。
話を聞いていたのは二人だけではない。
イリア・アドミナル(ea2564)は一旦長屋に帰り、新年準備を整えてから件の寺へ向かおうと席を立つ。今年の厄を落とそうと、結城友矩(ea2046)も黙ってギルドを去った。
年越し‥‥年末に行われる寺の富籤は、彼らにとっては新しい年を迎える為の儀式でもあった。
●年越し準備
一旦帰宅したイリアは、棲家の大掃除を行った。年越し用に料理の仕度も忘れない。
「うふふ、今年は懐が温かいので‥‥」
じゃーん、と取り出したのは、白地に椿を主とした花々が咲く白い振袖。帯と伊達衿は、それぞれ椿の色から選んでみる。そっと袖を通せば、新年への期待も膨らんだ。帯は無難な太鼓に結ぶ。
初詣を何処にしようか、あれこれ迷いつつも楽しく新年への準備をし、富籤の行われる寺へと向かう。当たりますようにと念じつつ無作為に札を選んだ。
●寺にて
ギルドを発ち、一人で寺へ向かったのは友矩だ。
(「今年の厄を浄財で落とし、さっぱりした気分で新年を‥‥」)
今年の彼に何があったのか、はたまた現在の世情を憂いてか。
念入りに富籤の札を見入り「これだ!」直感で1枚を手にした。あとは至極普通に連番札を手にしたが、周囲の購入者が一瞬固まったのは、友矩の気魄に押されての事だろう。当の本人は至って平然と売り場を後にしたのだが。
一方、銀次と同行した渓と伊織は、札を選んだ後、銀次の提案で一部の札を交換していた。
「交換した札が当たっても、恨みっこなしだぜ?」
「そりゃそうだろ。こういうのはガツガツ当たりを期待する方が野暮ってもんよ」
渓の同意の言葉に、伊織も首肯する。
それでも2人にも拘りはあるらしく、渓は『4126888』を、伊織は『1192296』を自分の手元に置いた。
「何か『ヨイフロ』って感じだろ?あ〜露天風呂に行きてぇや」
「『良い国作ろう』なのです。この国が良い国になりますように、ですよ」
富籤は願いでもあるのだ。
「さぁて、当選発表まで、呑むか呑むか!」
銀次の肩を抱いた渓、周囲の富籤購入者をも巻き込んでの大酒盛りが始まった。
●抽選会
大勢の富籤購入者が見守る中、寺普請費捻出の年越し抽選会は厳かに開始された。
三門まで埋め尽くす人々を分けるように、境内の一角が空けられている。空き地の端には大きな円盤が据え付けられていた。良く見ると円盤は中央で止められており、回る仕掛けになっているらしい。『零』から『九』までの数字が均等に割り振られている。
僧達の読経が始まった。本堂から小姓姿の稚児を先導に、長刀を携えた大柄の僧兵が一人出てきた。その雄雄しさに購入者の間から歓声と掛け声が上がった。境内の空き地に到達した二人、僧兵は中央に留まり稚児は止まる事なく円盤へと歩んで行った。稚児が到着した時点で、暫し時が止まる。
静寂の後、僧兵の剣舞が始まった。
剣舞は本来、日本刀を用いての武道の型を表すものであるが、僧兵のそれは長刀を用いた奉納舞に近かった。勇壮な舞を大見得で終了させ、僧兵は稚児の方を向く。奥で控えていた稚児が、円盤を回し始めた。
再び長刀を舞わせ、僧兵が円盤を一突きする。
『いちぃ〜』
読経にかき消されぬよう、稚児が高い声で、突かれた場所に書かれた数字を読み上げる。当たりか外れか、見物客がどよめいた。
「最初は全員当たってますですよ!」
一人、酒盛りに参加していない未成年の伊織が冷静に状況を報告するが、大酒盛りは既に最高潮に達していた。
「お、銀さんイケるねぇ」
「姐さんこそ、いい呑みっぷりじゃねェか」
「‥‥お、そこのおまえ、杯空いてるぜぇ」
‥‥誰も聞いちゃいない。
かくなる上は自分がしっかりしなくてはと、伊織は全員分の札を握り締めた。
単独行動の二人も、最初の番号は当たりだった。
『しちぃ〜』
稚児の声にイリアが落胆する。でも夢はまだ始まったばかり、最後まで見届けるべく、声に耳を傾ける。
一方、落ち着かないのは友矩だった。
『ろくぅ〜』
『さ〜ん』
『よ〜ん』
稚児の間延びした声がもどかしい。あと二桁、どうなる‥‥
『ごぉ〜』
『ろぉ〜く!』
「よ〜し!!」
周囲も驚く地を這う重低音が響き渡った。
●交換
「わわ、銀さんと交換した札が当たっているのですよ!」
へべれけの連中を他所に、素面の伊織が札の確認をする。
銀次と交換した札が3枚当たっていた。渓へ移動した札2枚と伊織へ移動した1枚だ。
「いいってコトよォ。言ったろォ、交換したのが当たっても恨みっこなしだぜェって」
「銀さん、ほんとに良いのですか!?」
三等の当たった伊織が確認する。うんうんと頷く酔っ払い達に、渓さんは四等と六等が当たってますよと言い残し、伊織は本堂へ景品交換へと向かった。
「六等‥‥?んじゃ当たりの金も、パーッと使っちまうか!」
渓の景気の良い宣言に、飲兵衛達は更に盛り上がった。
一方、友矩は一等、イリアは六等が当たっていた。
本堂で顔を合わせた三人、互いの幸運を喜びあう。
「来年は良い年になりそう」
友矩と伊織に晴れ着を褒められたイリアは嬉しそうに寺を後にした。
「しからば拙者もこれにて」
刀剣類を好む友矩にとって、一等は殊更に嬉しそうだ。既に帯刀している為、景品は桐箱のまま大切に押し抱き、家路に着く。
「さて僕は‥‥皆さんが待っているですね」
更に盛り上がっているであろう酒宴を想像して、伊織は溜息をついた。勿論、朝まで白湯と肴で付き合ったのは言うまでもない。
「これも年越し‥‥ですね」
良い年になりますようにと願いつつ。案外、伊織は楽しそうだった。