【ジャパン歳時記・七草粥】七草を摘みに

■ショートシナリオ&プロモート


担当:周利芽乃香

対応レベル:11〜lv

難易度:やや難

成功報酬:7 G 0 C

参加人数:8人

サポート参加人数:5人

冒険期間:01月07日〜01月14日

リプレイ公開日:2009年01月16日

●オープニング

●七草を摘みに
「母さん、行って来るね」
「風邪引かんように準備して、雪崩に気を付けるんだよ」

 元旦明けて七日、あきは粥に入れる七草を採りに出かけた。
 藁沓を履き、笠を被る。母の言いつけ通り、雪崩に遭わぬよう念入りに準備した。
 しかし、あきは何時まで経っても戻って来なかった。

「雪崩に遭ったのかしら‥‥」
 しかし、近所で雪崩が起こったとの知らせは聞いていない。
「まさか、遠くへ‥‥それとも‥‥」
 母親は伝え聞く昔話を思い出して、ぞっとした。まさか本当に‥‥あれがいるのだろうか。
 心配した母親は、決意を固め街へと向かったのだった。

●雪女の伝説
 街に着いた母親は、人に尋ね尋ねギルドを探し当てた。
 此処なら相談に乗ってくれると聞いている。

「あの‥‥子供の捜索をお願いしたいのですが」
 恐る恐る声を掛けると、係は愛想良く「勿論ですとも」と答えた。
「13歳の娘が、七草摘みに行ったまま帰って来ないのです。娘が家を出たのは昨日の朝、いつもの年でしたら夕方までには戻って来ていました」
 さらに詳しいお話を‥‥と続けられて、母親は一瞬言葉に詰まる。
「‥‥あたしの村に伝わる話‥‥信じてくださいますか」
「お話を伺ってから判断いたしましょう」
 雪深い地域にはよくある伝説だった。
 吹雪いた翌日、晴れ渡る雪原に立つ白い女が立つと言う。
 女の姿を見た者は、二度と生きては戻らない‥‥所謂雪女伝説の亜流と言えた。
「あきは‥‥あの子は、雪女に逢ったのかもしれない」
 一度口にすると信憑性が増したらしく、母親は表情を曇らせ両手で顔を覆った。

「1日半、ですか‥‥」
 雪山遭難としては非常に危険な状態と判断した係は、急いで書類を書き上げ、冒険者を募ったのだった。

●今回の参加者

 ea0029 沖田 光(27歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea0988 群雲 龍之介(34歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea2831 超 美人(30歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea9689 カノン・リュフトヒェン(30歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb3225 ジークリンデ・ケリン(23歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb3736 城山 瑚月(35歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb5475 宿奈 芳純(36歳・♂・陰陽師・ジャイアント・ジャパン)
 eb5761 刈萱 菫(35歳・♀・浪人・人間・ジャパン)

●サポート参加者

リュー・スノウ(ea7242)/ コバルト・ランスフォールド(eb0161)/ 磯城弥 魁厳(eb5249)/ ウィルフレッド・オゥコナー(eb5324)/ ソペリエ・メハイエ(ec5570

●リプレイ本文

●出発の前に
 少女遭難から1日半‥‥事態は一刻を争うものだった。
 しかし、より早く確実に見つける為には、時として焦らぬ事も重要なのである。

 ジークリンデ・ケリン(eb3225)と刈萱菫(eb5761)が、係が用意した地図を写し取っている。殊に菫は多くの端切れを用意し、沢山の写しを取った。傍らでウィルフレッド・オゥコナーが菫へ雪上行動の注意点を伝授している。
 宿奈芳純(eb5475)も、協力者の磯城弥魁厳とソペリエ・メハイエからアイテムを受け取りながら、彼らの助言を神妙に聞いていた。

 母親から例年の採取場所を尋ねているのはカノン・リュフトヒェン(ea9689)と超美人(ea2831)、よく使う道を沖田光(ea0029)が確認し、採取が不十分な際の他の候補地を城山瑚月(eb3736)が問うた。
「問題は‥‥お嬢さんが、どれほど雪山に慣れているか、ですね‥‥」
 瑚月に首肯し、避難できる場所がないかを尋ねるのは群雲龍之介(ea0988)。
「もし‥‥あきの衣類等を今お持ちなら、拝借願いたいのだが」
 龍之介が、あきの綿入れを預かった。

 先に写し終えたジークリンデが、母親から情報収集している組に加わる。
「では私は、皆様に先行させていただきます」
 地図の写しに必要事項を書き足し終えた彼女は、フライングブルームで先に発った。

●雪山へ
 あきの遭難地帯が近づくにつれ、高度を上げたフライングブルームは寒さを増した。ジークリンデは炎の指輪で対処する。冷静に周囲を見渡し、天候や山の状況を確認し、作成した地図の写しに情報を書き足していった。
 空から見下ろす雪景色は美しく晴れ渡り、遠くに何かを見たような気がした。
 ‥‥あれは‥‥女?

 すぐに後を追った後発組は、はぐれないよう一纏まりになって地上を移動していた。雪山での行動は油断禁物だ。防寒・雪山移動準備だけでなく、カノンは慎重に装備品の金属が直接肌に触れぬように工夫を凝らしていた。
 母娘の家を教えて貰い、その周辺から探索を開始する。先導するのは、ボーダーコリーの天丸とパラスプリンタードッグの跳丸に、あきの匂いを覚えさせた龍之介だ。
「七草の取れる場所を大きく外れる事はないと思いますし‥‥」
 慎重に家からの足取りを辿ろうとしているのは光。彼の言う採取地を大きく逸れる事‥‥それは、あきの遭難を意味していた。

「救出せねば話にならぬ。依頼の絶対条件だ」
 強い意志を以て美人が気合を入れる。それは皆に共通する想い。美人は隊列の後ろから、見落としひとつ残すまいと目を凝らした。
 空中から彼らを見つけたジークリンデが合流し、菫は新たに得られた情報を地図の写しに書き足した。
「この印は‥‥?」
「人の姿が見えたように思いましたの」
「人‥‥」
 あきの足取りも犬達の向かう方向も、そちらへ向いていた。一縷の期待が過ぎる。ジークリンデに導かれ、一行は進める所まで進んだ。
「この辺りですと‥‥」
 一行が直進した時間から、芳純があきが通過しただろう時間を割り出しパーストを試みる。確かに、あきは此処を通っていた。過去視で見えた、彼女が一心に向かっている方向と、ジークリンデがバーニングマップを使った道筋が一致した。菫の地図に情報を与え役目を終えた地図は、一本の道を示していた。

 その後も一同は、天丸や跳丸、瑚月の琉にあきの足跡を辿らせ、時折パーストとバーニングマップを駆使し道を模索していった。道は瑚月が尋ねた他に取れる場所を通り、再び山を登った。あきは幼い頃からこの地に住み、地にも雪山にも習熟していると言う。出立前に美人が母に「いつも一人で行くか」を問うていたが、ここ2・3年は七草摘みを安心して任せられる状況だったのだとか。
「あきという少女です」
「あき‥‥?あき、あき」
 陽霊の蜃が芳純の指示を真似ながら探索に加わった。瑚月と菫が雪を掻き分け後続者の手助けをする。途中通った洞窟で休憩の後を見つけたカノンは、臨時の拠点を作っておいた。

 それにしても気になるのは、天気の良さ。悪天候を危惧していた一同にとって、気味が悪いほどだった。
 そして‥‥ジークリンデが言っていた、人影。道を失い魔法で道標を探る際に時折現れ、標は人影のあった方向に道を示すのだ。
「これは‥‥本当に『いる』かもしれません」
 何が、とは敢えて言わずにモンスター知識で足元を探っていた光が、言った。

 しかし人影は攻撃するでもなく、ただ導くかのように其処に立っているだけで、探索を再開すると消えてしまうのだ。
 夜になり、一行が提灯を使うようになっても、人影は白くぼんやりと光って見えた。6回も遭遇しているうちに、いつしか一行にはただの偶然とは思えなくなっていた。
 道を追う跳丸の様子から、龍之介には人影に悪意があるようには思えなかった。まるで案内するかのように現れたり消えたりしている。勿論、害意あらば応戦の覚悟はあったが、彼はできるだけ誠実に接したいと願っていた。
 夜半を過ぎた頃に遭難者の少女を発見した時、人影は見当たらなくなっていた。

●母子草
 少女は、雪に掘った穴の中で、じっとしていた。
「あきさん、ですか‥‥?」
 光が問うと、意外としっかりした口調で「はい」と答えた。しかし提灯に照らされたあきの唇は青紫に変色し、衰弱の様子が伺える。
「立てるか?」
 カノンが腕を貸し、あきを穴から出そうとした。自力では立てずにいたので、抱きかかえるようにして穴から出す。すかさず龍之介が母親から預かっていた綿入れを着せ、持参していた防寒具や毛布で包み込んだ。
「もう大丈夫だ。俺達は、母御にあきの事を教えて貰って助けに来たギルドの者だ」
 安心させるように語りかける龍之介の側で、光があきを寝袋に入れる。落ちぬように留意し、芳純が空飛ぶ絨毯に乗せた。皆の背丈と移動速度に合わせ、カノンが設営した最寄の拠点を目指す。ジークリンデが月や星から方向を読み取り方角を確認する。晴れ渡る夜道の雪原、足元こそ注意が必要だったが、帰路を迷う心配はなかった。

「かなり遠くまで来てしまいましたね。何故こんな所まで‥‥?」
 絨毯と並行しながら瑚月が問うた。母親の話では、あきはこの地に慣れている。七草が取れなかった場合の対処にも精通していると言っていい。それが家から半日以上も離れた場所で発見されるとは‥‥
「御形が‥‥見つからなかったの‥‥いつもなら簡単にみつかるのに」
 どうしても摘みたかったのだと、あきは言った。
 御形‥‥別名、母子草。父のいない母娘二人暮らしの彼女にとって、御形は大切な意味を持つ草だったのだろう。
「それで‥‥御形は見つかったの?」
 菫が尋ねた。あきは消沈していいえと答える。一行は拠点に辿り着くと火を起こし、全員の体を外側と内側から暖めた。
「私達が探しに行っても構いませんか?」
「あきさんは、此処でもう少し休んでいる方がいいでしょう」
 後に合流する事を約束し、拠点で二手に別れる事にした。出立前に七草の知識を授けられていた瑚月と菫、仲間から情報を得ていた芳純が、再び御形を探しに出る。芳純の絨毯に乗り、星読みで方角を確認しつつ探す。安全かつ比較的早く御形は見つかった。

●七草粥
 あきを連れての下山は、朝まで待つ事にした。人目に付かぬ辺りまでは絨毯に乗せ、街中に入った後はカノンが負うた。内に情熱を秘めた騎士が冷静に問う。
「雪山で‥‥誰かに出会わなかったか?」
 本当は『雪女』と言いたい所だったが、敢えて伏せて尋ねる。あきは「いいえ」と答えた。
「本当は‥‥怖かったです。吹雪の後に現れる雪女さまに‥‥会ってしまいそうで‥‥」
 この様子では遭遇していないようだ。だが、あきも母親と同じく雪女伝説を信じている一人だった。
(「行方不明者が出た事の、理由付けに伝えられているだけの可能性もあるのに‥‥」)
 口には出さず、カノンは思う。しかしその考えも確信には至らなかった。何故なら‥‥彼女達もまた、正体不明の人影を見たのだから。

「母さん‥‥!ごめんなさい!!心配かけてごめんなさい!!」
 ギルドに到着するや否や、あきは母の胸に飛び込んだ。雪山で発見した際の衰弱状態を知る一同は、その様子に安堵した。
「安心したら、腹減ったな。あき達は、今から家に帰っても半日掛かるだろう。皆、俺の家で七草粥を作らないか?」
 龍之介の提案に否を述べる者もなく、あき母娘も含めた全員で龍之介の長屋へお邪魔する事になった。粥の材料は皆で持ち寄った食料と、あきが集めた七草だ。隣近所から椀を借り、賑やかに食す。

「温まるな‥‥この粥に今年の無病息災を願おう」
 美人が椀を両手で包み込んで言った。この願いも、救出対象を無事に保護できたからこそと、依頼の成功を嬉しく思う。
 母親の心情を気に掛けていた光は、こっそりと母娘の様子を伺った。幸せそうに食卓を囲む親子‥‥今までもこうして幸せな時を過ごして来たのだろう。そして、これからも。
「あとで、あたしのお店に来てくださいね。おうちに帰る前に髪を結って差し上げたいの」
 勿論無償で‥‥ね?
 にこやかに、菫が母娘を見つめていた。