【ジャパン歳時記・初詣】御神籤

■イベントシナリオ


担当:周利芽乃香

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:4

参加人数:22人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月02日〜01月02日

リプレイ公開日:2009年01月14日

●オープニング

●初詣の誘い
 冒険者ギルドに休業の文字はない。正月の来訪者は紋付袴で現れた。

「新年明けましておめでとうございます」
 古着屋を営む大店の主、伊兵衛だ。
 旧年中は大変お世話になりありがとうございましたと丁寧に頭を下げる彼に、却って係の方が恐縮して平伏する。
 して、この度はどのような‥‥と尋ねると、伊兵衛は「初詣のお誘いに参りました」と言った。

 初詣客による混雑が予想される為、数え4歳の愛娘と妻は店に残して一人で行くと言う。
「一人では少々寂しく思いましてな。皆様をお誘いに伺ったのですよ」
 伊兵衛は鷹揚に笑った。ギルド内を見渡し、ご一緒してくださるお方はいらっしゃいませんかと声を掛ける。
「今年の吉凶を占いに、御神籤を引きに参りませんか?」

 場所はギルドから見えている近場の神社である。此方の誘いなので、御籤代は持つと言う。
 そのまま「驕りますよ」と言いかけた伊兵衛を、係は慌てて止めた。冒険者の中には大食いを得意とする者もいる。驕らせれば大変な事になりかねない。御厚意は御神籤代のみで‥‥という事で落ち着いた。
「屋台で飲み食いしたい人は、自腹でお願いしますよ。伊兵衛様にご迷惑をお掛けしないように」
 係が釘を刺す。ついでに屋台情報も調べてくれた。

●出し物
・御神籤(伊兵衛殿の驕り)
  『総合運』『恋愛運』『金運』が占える

・お神酒(成人のみ・長寿種族は外見年齢で判断・神社の振る舞い酒につき無料)

・屋台(各自負担の事・価格は1個の値段)
  『江戸前寿司:50C』
  『飴細工:30C』
  『蕎麦:10C』
  『あぶり餅:5C』

●今回の参加者

巴 渓(ea0167)/ アキ・ルーンワース(ea1181)/ クリシュナ・パラハ(ea1850)/ 美芳野 ひなた(ea1856)/ 結城 友矩(ea2046)/ 天乃 雷慎(ea2989)/ ファング・ダイモス(ea7482)/ ジルベルト・ヴィンダウ(ea7865)/ 渡部 夕凪(ea9450)/ パラーリア・ゲラー(eb2257)/ 忌野 貞子(eb3114)/ ジークリンデ・ケリン(eb3225)/ アンリ・フィルス(eb4667)/ エセ・アンリィ(eb5757)/ リン・シュトラウス(eb7760)/ 大蔵 南洋(ec0244)/ サリ(ec2813)/ パウェトク(ec4127)/ 齋部 玲瓏(ec4507)/ 水無月 茜(ec4666)/ ジルベール・ダリエ(ec5609)/ ラヴィサフィア・フォルミナム(ec5629

●リプレイ本文

●いつもと違う朝
 その朝、エセ・アンリィ(eb5757)は日課のロードワークの途中、ファング・ダイモス(ea7482)に出会った。これも似た者同士というのだろうか、種族も目的地も同じ二人、ファングもトレーニングの一環との事で共に神社を目指す。
「何てことだ!ジャパンの人達は、あのように動きにくい服装でトレーニングするのか!」
 エセが大げさに嘆くと、事情を知っているファングがラテン語で説明した。
「ジャパンの人達は正月に神社へ行くんですよ。初詣と言うそうです」
 一緒に参って行きましょうと誘われたエセ、ファングと一緒にハツモウデ初体験。選んだ籤も似た者同士の総合運。共に大吉という所までそっくりだ。
(「心強くあらば願いは必ず叶う‥‥この運気を逃さぬよう日々の精進は欠かしません」)
(「思いがけぬ幸運に恵まれる‥‥何だろう」)
 ファングの横で見よう見真似に拝礼しながら、エセは今年の運に思いを馳せた。

(「誰だろにゃ〜、わかってるにゃけど〜♪」)
 御神籤『誰かに見守られているかも。思い人はすぐ側に』を手に、くねくねしているのはパラーリア・ゲラー(eb2257)想い人がいるらしい。
「あ、そだそだ。どっか屋台のお手伝いして、お小遣い稼ご〜っと☆」
 うさみみメイドさん、冷やかしならぬアルバイト先を探しに屋台を回る。昼食込みで江戸前寿司の客引きを任された。
「精一杯ご接待するにゃよ〜♪」
 そろそろ忙しくなりそうだった。

●ぎるど御一行到着
 賑やかな団体が鳥居を潜った。
 大きいの小さいの異国の衣装を身に纏った人も多い。ギルドから出発した面々だ。

「ジャパンの正月とは、人混みに紛れて過ごすものなのですか‥‥?」
 ジークリンデ・ケリン(eb3225)は、伊兵衛に尋ねている。そうでもないですがと苦笑しながら、彼はジークリンデに手水の使い方を教えた。
 参拝の仕方を教えられたジークリンデは御神籤を引いてみた。『大吉』に良かったですねと言われ、無感動に「そう」と答える。反応の薄さにつまらなかったかと尋ねられれば「楽しかったです」と艶っぽい微笑みを浮かべた。
 丁寧な挨拶をしているのは齋部玲瓏(ec4507)だ。いえいえ此方こそお世話になりましたと返礼し、伊兵衛は玲瓏が連れているエレメンタラーフェアリー・うらやすに目が行く。
「うらやす様は齋部様とお揃いのお召し物ですか。良くお似合いですよ」
 ‥‥この反応、何処かで見たような気がする。
 玲瓏は金運を占っていた。淑やかで温和な彼女の選択としては意外だが‥‥実家の事情があるらしい『思わぬ臨時収入が』の文字に今年の期待を託す。
 そのままうらやすと過ごすと言う玲瓏に、伊兵衛はうらやす様と逸れませぬようと言い残し、破魔矢を求めに社務所へ向かった。

●願い
 人混みがざわりと揺れた。
 『駿河・温泉友の会』の一行だ。先頭を歩く大蔵南洋(ec0244)は、本人至って普通の顔をしているのだが、周囲はそうは思わない。そのまま割れるように空間が開いてゆくのは、居心地良いのか悪いのか。
 大勢で賑わう初詣の神社、本殿へ辿り着くのもやっと‥‥という者が多い中、一行は簡単に本殿へと辿り着いた。
「‥‥笑うなよ」
 南洋より寧ろ、髪を結い上げ女性らしく正装した渡部夕凪(ea9450)の方が気にしている。
「似合ってますよ♪」
 そんな夕凪に抱きつくのは、桃花の振袖を着たリン・シュトラウス(eb7760)。
「こら、抱きつくな」
「だって、ジャパンのお正月は初めてなんですもん♪」
 いずれ菖蒲か杜若、凛々しい美女と愛らしい少女のじゃれ合う(?)姿に、周囲の一部がおおぅと盛り上がる。実際には二人共成人なのだが‥‥
 そんな二人に苦笑しながら、天乃雷慎(ea2989)と夕凪の連れのアキ・ルーンワース(ea1181)が続く。礼儀正しいアキの挨拶に、仲間達は友好的に迎え入れた。
 想いはひとつ、という事だろうか。志を同じくする者達は全員総合運を選んだ。
(「私の事より主様の事が心配です‥‥」)
(「行動方針‥‥」)
(「我等の行い次第である事は十二分に承知‥‥なれど大願成就を祈りたい」)
(「ま、幸先良けりゃ御の字さね」)
 皆、互いに見せ合える結果が出たのは重畳だった。リンと南洋には『全力を尽くせ』の大吉が、夕凪には『一点集中で願え』の大吉、雷慎は小吉ではあったものの『ささやかな幸せ』に今年の行動を託す。
 一人こっそり恋愛運を引いているのはアキだ。
(「人じゃないんだけどね‥‥やっぱルチルに触りたいし」)
 ちっとも触れさせてくれないユニコーンへの想いを託す。大吉はともかく『相思相愛』の文字に、複雑な表情を浮かべた。

 アンリ・フィルス(eb4667)の運命は間近に迫っていた。
(「この正月の風景、眼に、心に刻み付ける‥‥」)
 為し得るとの大吉籤を手に、アンリは静かに見渡した。
 2日後には丹波での戦に出向く。生きては帰れぬかもしれぬ。しかし‥‥何も臆する事は無い。
 側で破魔矢を求めていた伊兵衛が、ただならぬ雰囲気を感じ一言「ご武運を」とだけ言った。アンリは無言で一礼すると、落ち着いた様子で去って行った。

「伊兵衛さんも良い年になると良いの」
 孫の来訪にパウェトク(ec4127)は嬉しそうだ。
 こちらの狛犬どのも夜のお散歩に行かれるのかと問われた伊兵衛は、きょとんとしている。江戸の狛犬は散歩をしないらしい。ともあれ江戸住民の幸せを願い、拝礼する。
『テレケとカントも、お賽銭を入れてね』
 鈴鐘を鳴らしたサリ(ec2813)、お供に連れて来たテレケとカントに小声で金子を渡す。先に賽銭箱へ入れてみせると、風のエレメンタラーフェアリー達は真似して投げ入れた。ちなみにテレケが女の子でカントが男の子、どちらも振袖や着ぐるみで暖かそうな装いだ。
(「エカシや皆が健康で安全に暮らせますように」)
 フェアリー達も一般人に見つからないよう、こっそりと真似をする。
 御神籤はパウェトクが引いた。『大吉』の文字に、心配していたサリが密かに安堵した。

「運命なんざ、神様の野郎から奪いとりゃいいまでよ!」
 漢らしく籤を引いたのは巴渓(ea0167)、考えるより先に拳が出る‥‥女性。荒っぽい言葉の割に『大吉』の結果には嬉しそうだ。同じく総合運を引いた水無月茜(ec4666)も大吉、『心強くあれ』の結果に歌への情熱を馳せる。
「神気が強い、わ…眩暈が…」
 恋愛運を引いたのは、忌野貞子(eb3114)と美芳野ひなた(ea1856)。人にぶつかり「お嬢ちゃん危ないよ」などと言われているが、ひなたは紛れもない二十歳‥‥のはずだ。
(「お稚児さん趣味でないステキな男の人が現れますように。それと‥‥」)
(「いい女なら男運は自分で…手繰り寄せるもの、だけど‥‥」)
 共に大吉だったものの、クククと笑う貞子は大凶だったらもっと嬉しい、などと思っているし、ひなたは「強い意志で大きくするんですか?」自分の胸を見下ろした。
 クリシュナ・パラハ(ea1850)は、研究費捻出の期待を込めて金運を。『労せずして多き収入。糧とし、より良き行動を』さて、この一年どう動く?
「お御籤も引いたし、タダ酒のんで屋台に特攻!」
「よーし、出店の食いもんは俺の奢りだ!」
「ジャパニーズスッシー大好物っスよ」
 盛り上がる渓とクリシュナ、貞子と、元旦が誕生日の茜・ひなたの5名、屋台へと繰り出した。

●想い
「ひなちゃん茜さんハピバスデ〜♪」
「あー!」
 茜は自分も誕生日だという事を思い出す。折角地球のバースデーソングを歌おうと思っていたのに。
「しかし、えれぇ混雑だな‥‥」
「ひなた、茜さんに暁褌持って来たのに〜」
 他の皆もそれぞれ贈り物を持参していたが、この混雑では交換会は難しそうだ。
「仕方ねぇ、食うもん食って、後にしようぜ」
 ひとしきり、渓の奢りで飲み食いした後、アトランティスでの再会を約束して5名は別れた。貞子は京、クリシュナはノルマンの実家へ、渓は両親の墓参りに‥‥

 ファングはエセと連れ立って、屋台を巡っていた。出店を回ってひとしきり食べた後お神酒を飲んで、これが日本の正月ですと説明する。すっかり観光案内になってしまったが、これはこれで良い1日を過ごせたような気がした。
「お神酒でも、お酒はほどほどに‥‥」
 祖父を心配するサリの想いを酌んで、パウェトクは餅が食べたいなと言った。二人とお供で、あぶり餅の屋台に向かう。小さく切ってくれとの指定に、屋台の売り子はフェアリー達の分だとは思わず、パウェトクの年齢を考えて勝手に納得する。境内を散策して獅子舞を見つけたサリは、もう少しゆっくりして行きましょうと祖父にねだった。

 境内で神楽を聴いていた玲瓏は、飴細工の屋台へ。頼んでひとつ、作らせて貰う。
「む、難しいのですね‥‥」
 高温の飴はすぐに冷えて固まってしまう。時間との戦いに意外な難しさを知る。本職には、うらやすの姿を模した飴細工を所望した。目の前に出す訳にもゆかず、玲瓏は言葉で説明する‥‥うらやすを思わせる可愛らしい男の子の飴が出来上がった。

 飴細工は時として優しいお土産にもなる。
 『駿河・温泉友の会』の一行も飴細工の屋台を訪れた。夕凪が3つの飴を買う。
「大人はお神酒で充分だろ?」
「え〜私もですか?」
 飴を受け取ったリンは不満そうだ。天乃さんはともかく‥‥などと、ぶつぶつ言いながら南洋とあぶり餅を買いに行った。リンの言う当の雷慎は細工師の手付きが珍しくて、ずっと見続けている。
 夕凪から飴を受け取ったにも関わらず、アキは飴を一つ所望した。伊兵衛と出会ったなら、別れ際に渡しておこう。娘さんへのお土産に、と。
 戻って来た南洋とリンに合流した一同、さて雑煮でも食いに行くかと相成った。
「勿論、大蔵さん家を襲撃でな?」
 夕凪の一言に南洋がどんな顔をしたか‥‥それは友の会の面々しか知らない秘密。
 
●慕情
「ラヴィさん、振袖着てくれたんやね。ホンマ可愛らしいわ」
「ありがとうございます。ジルベールさまのお着物も素敵ですわ♪」
 実に初々しい二人が鳥居を潜る。ジルベール・ダリエ(ec5609)とラヴィサフィア・フォルミナム(ec5629)だ。共にジャパンの衣装に身を包んでいる。髪を結い上げ薄く化粧を施したラヴィサフィアがあまりに可憐で、ジルベールはつい心配してしまう。
「裾踏んづけてコケたり、迷子にならんよう、俺の手に掴まってな?」
 ラヴィサフィアも、素直にジルベールの手を取った。
(「‥‥どうぞ誰しもが、微笑み合える平和な世界になりますように‥‥」)
(「今年一年、この子が幸せで、世界が今日みたいに平穏でありますように 」)
 二人一緒に鈴鐘を鳴らし、御神籤を引く。
「ラヴィさんは、どんな籤引いたんや?」
「えと、あの‥‥」
 まさか恋愛運『大吉:弱気は損。当たって砕ける覚悟が良縁を呼ぶ』だとは言えず‥‥「大吉でした」と頬染めてジルベールを見上げる。その様子に安堵した彼が引いたのは総合運。『為す事全て上手くゆく』に「‥‥お。今年はラッキーやなぁ」と、にっこり笑った。
「さ、屋台回ろか。ラヴィさんみたいな瞳の色の飴細工の兎、作って貰おな?」

 一方、大人の恋はすれ違い。
(「今年はオークションで大儲け出来るでござろうか‥‥」)
(「今年こそ結城の旦那と結ばれるかしら‥‥」)
 男は己の金運を神に問い、女は恋しい人の気持ちを問う。結城友矩(ea2046)とジルベルト・ヴィンダウ(ea7865)であった。『中吉:堅実一番』の文字にさっさと気持ちを切り替えた友矩、寿司と蕎麦を肴に神酒を呑もうと屋台へ向かう。
「寿司は江戸前に限るでござるからな」
「ねえ旦那、待ってよ」
 ずんずん先に行ってしまう友矩を追うジルベルト。寿司の屋台で追いついて、共に神酒を味わう。
「はい旦那から一献」
 先に買い求めた蕎麦と、旬の握りを味わいながら、ジルベルトは『ゆっくりと、しかし着実にその恋は実る』大吉籤に自らの気持ちを託していた。

 人々の願いは尽きる事がない。
 それでも‥‥誰もが幸せになりますように‥‥
 多くの人の願いを受け止めて、八百万の神々は静かに年の初めを見守っていた。