長寿の願い
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■ショートシナリオ&プロモート
担当:周利芽乃香
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:0 G 97 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月16日〜11月19日
リプレイ公開日:2008年11月21日
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●オープニング
●ある男の幸福
男は裸一貫のボテ振りから大店の主になった。
天分の商才があったのだろう。
しかし大勢の店子を抱え、娘ほど歳の離れた妻を娶った頃には、男は既に壮年へと差し掛かっていた。
ようやく攫んだ幸せに溺れるとは、このような事を差すものか。
我侭な妻と幼い娘を目に入れても痛くない程に、男は妻子を溺愛していた。
●互いの幸せの為に
「‥‥という訳で、どなたか供をお願いしたいのです。わたくし共は店を離れられませんので‥‥」
番頭は、困ったようにそう言った。どことなし、必死さが感じられるのは気のせいだろうか。
彼の勤め先は、それなりの規模の古着屋である。番頭の持ち込んだ依頼は、3歳になるお嬢様の七五三参りの供。勿論、主と奥方も同行するが、店自体は今が掻き入れ時なので、店の者を供に付ける事はできないのだと言う。
流麗な筆跡で書きとめながら、係員は僅かに首を傾げた。
目的地は近場の神社、確かにこれからの時期、冬物を求める客は多かろう。だが丁稚の一人でも付ければ良いだけの話ではないかと。大店であれば丁稚一人程度、融通つけられぬ事もあるまい。
「‥‥さ、最近は物騒ですし‥‥い、行き帰りに‥‥旦那様方に何か起こっては‥‥」
番頭の歯切れが悪い。
この地は七五三参りを満足に行えない程物騒だっただろうか‥‥係員の不審げな顔に、正直一路の番頭は遂に折れた。
「‥‥じ、実はですね‥‥誰も供に行きたがる者がいないのです。それこそ‥‥丁稚ひとりに至るまで」
原因は、母と娘にあるらしい。
見目で娶われた若い女房は派手好きの癇癪持ちで、連日店の奥で贅沢三昧。さすがに店頭で女主人が客に無礼を働いた事はないのだが、とにかく裏での使用人達に対する傍若無人振りは、凄まじいものがあるらしい。
主は実直勤勉真面目を絵に描いたような人柄で、商人としては至極まともではあるものの、若い女房に関してだけは別で、ベタ惚れの彼女に頭が上がらない。
そんな二人の間に生まれた娘は、両親に猫可愛がりされ我侭放題。
皆、店を離れてまで女衆のお守りは御免だと、繁忙期を理由にして同行を渋るのだと言う。
「御礼は、はずませていただきますので‥‥なにとぞ、よろしくお願いいたします」
つまりは‥‥身内の厄介事を押し付けたいだけか。
呆れた顔はおくびにも出さず、係員は書類を書き上げ筆を置いた。
書き上げられた依頼書が新たに貼られる。『依頼:七五三の護衛』という名目で。
●リプレイ本文
●顔合わせ
「しちご‥‥さん?ジャパンには面白い風習があるんだね」
仲間から七五三の謂れを聞いた、クォル・トーン(ec5651)は大仰に感心した。
陰陽師の女性が2人と異国の青年が一人、大店の立ち並ぶ往来を歩いている。
一行が今回の護衛対象者のいる古着屋の前に到着すると、既に主と番頭が店先に出ていた。決して時間に遅れた訳ではないのだが、先に出迎える辺り、主の商人としての生真面目な一面が伺える。
お出迎え恐縮ですと齋部玲瓏(ec4507)が柔らかく笑み挨拶すると、依頼人の男二人は、にこやかに屋内へと迎え入れた。
店内の端の暖簾を潜り、一行は長い廊下を渡ってゆく。ここから先は主家族の住まう住居区間だ。
「おや‥‥私と同年輩のお坊様もお越しと伺っていたのですが‥‥」
廊下を渡りながら、主が一人足りない事に気付き、残念そうに「色々とお話しとうございましたな」と言った。護衛の3名は皆20代、少々寂しかったのかもしれない。
離れが近づくにつれて、不穏な雰囲気を誰もが感じるようになっていた。
番頭が足を止め「旦那様」と一言小声で囁いた。主は無言で頷くと一行に少し待つよう頼み、一人奥へと入って行った。
「恐れ入ります‥‥暫し、お待ちくださいませ」
番頭が言わんとしている事は、大体の想像がついた。おそらく主が妻に来訪者の到着を伝えているのだろう。
「‥‥相当なもの、なんでしょうね」
日下部明穂(ec3527)が念を押した、その時。
青痣を作った小僧が、ベソをかきながら派手な柄の湯飲みだったモノの欠片を抱えて、離れの方向から小走りにやって来た。
「もう、大丈夫なようです。さ、どうぞ」
小僧とすれ違った番頭の苦笑混じりの言葉に、改めて覚悟完了する明穂であった。
部屋は惨憺たる有様だった‥‥が、誰も何も言わなかった。
否、言ってはいけないと思わせる状況だった。
泣き喚き、手当たり次第物を投げようとしている幼子を、主が宥めている。主が如何説明したものか、多少不貞腐れてはいるものの、妻は来訪者を出迎える体裁が整っていた‥‥が。
「失礼いたします。お客様をお連れいたしました」
「お客‥‥ったって、頼んだ護衛だろ。雇ってんのはこっちさね」
番頭の口上に、女主人の返事はそっけない。失礼な第一声に、冒険者達は愛想良く耐えた。
「お内儀様、初めまして。齋部玲瓏と申します。お嬢様の健やかなるご成長、お喜び申し上げます」
「日下部明穂よ」
(「奥方様がこんなに見目麗しい方だなんて、ご亭主様が羨ましいわ」)
続きをテレパシーで挨拶すると、妻は少し驚いたように明穂を見る。
「クォル・トーン、ロシアのキエフから来たんだ。ジャパンの事はよくわからないけど、お祝い事おめでとうございます」
「おや、異人さんはジャパン語が上手なんだねえ」
妻は猫背の青年を珍しそうに見遣り、艶やかに笑ってみせた。3名共、妻への印象は良かったようだ。
第一関門を突破した所で、一同改めて膝を付き合わせる。
主の名は伊兵衛、妻はお蔦といい、娘は小春と言う。
「丁度、今くらいの時期に生まれましてね」
伊兵衛が皺に紛れる程目を細めて破顔すれば、お蔦も「漸く歩けるようになって」と顔を綻ばせた。派手な見た目よりも優しい女なのかもしれない、少なくとも娘には。
供をする神社は、店から見えている場所だった。大店通りの喧騒の中、幼子を連れて歩くのは難儀かもしれないが、然程問題はないだろう。
「小春さま。明日、お迎えにあがりますね」
玲瓏が小さな手に指を絡ませ約束をする。その様子を夫婦は微笑ましげに見つめていた。
●七五三ご一行様
参詣日当日。誰が主役だと尋ねたい程の、妻の派手さを咎める者はいなかった。
「本日はおめでとうございます。奥方様素敵なお着物ですこと」
「小春さまのおかわいらしいこと‥‥お着物は重くはないですか?お嬢さまのおあしに合わせて、今日はゆっくりと参りましょうね」
明穂と玲瓏が寿ぎの言葉を述べる。お蔦も小春も、二人を褒められた伊兵衛も嬉しそうだ。
「お嬢さまは、お父さまお母さまとお手をつないで歩かれますか?」
「じゃあ、行こうか」
まるごとわんこで盛り上げるクォルの様子も賑やかに、一同は神社へと歩き出した。
伊兵衛とお蔦に両手を繋がれた小春は途中何度か疲れた様子をみせたが、その度に3名は根気良く宥めあやした。玲瓏は子供の好みそうな歌や手遊びであやし、クォルは着ぐるみの犬で道化を演じ、道中を楽しませる。
お蔦が明穂の話に耳を傾けている。
「私が冒険者の仕事で見た事なんですけどね、裕福に気を良くして贅沢三昧した貴族がいたのよ。湯水のように金子を使いまくった挙句没落して困窮、それまで貴族は我侭でもあったから、誰も助けてくれる人がいなくてね‥‥あれは悲惨だったわ」
「そうなんだよねえ。金のあるうちゃ人が来る、落ち目と見れば即離れる。地震前のネズミみたいさね」
お蔦にも思い当たる節があるらしい。年齢が近い年下の、教師を生業とする明穂に、お蔦は気を許したようだった。
「あたしもね、伊兵衛さんに拾って貰わなければ、今頃夜鷹にでもなってただろうねえ」
お蔦は元々ある男に囲われていた女だったが、年齢を理由に放逐され、行き場をなくして途方に暮れた彼女に出逢ったのが伊兵衛だったのだと言う。
「伊兵衛さんは良い人だよ。あたしみたいな身を持ち崩した女を拾って女房にしてくれた。それにね、商いには厳しいけれど店の者には優しくて‥‥」
はっとしたように口をつぐむお蔦。暫くして明穂と目を合わすと「喋り過ぎちまったねえ」と少女のようにはにかんだ。そんな様子を伊兵衛はにこやかに見つめている。
幼子の足が疲れぬよう配慮し、ゆっくり進む一行。しかし漸く歩けるようになった子どもの身にはやはり負担らしく、神社の手前で遂に小春は動けなくなってしまった。
「お着物が重うございますものね。もう少しですから‥‥こんなに大きくなったんだよ、と神様に元気な姿をお見せしなくてはね?」
玲瓏が宥める。あと少し‥‥着崩れないよう注意して玲瓏の肩の高さに抱き上げられた小春は、側に付き従う小さな男の子の妖精に気がついた。
「お見せしなくてはネ」
「??」
玲瓏の言葉尻を真似る羽の生えた少年に興味津々。かくして一行は無事に神社へと辿り着いたのだった。
「結構大変だったね、一時はどうなるかと思ったよ」
クォルがにやりと笑って言った。家族が参詣している間、冒険者は門前待機、ここには3人と一人しかいない。
「この子は何ていう名なの?」
「シフール‥‥ではないよね?」
明穂とクォルが問う。『うらやす』という名のエレメンタラーフェアリーですよと玲瓏が答えれば、うらやすも「ですよ」と後に続いた。
伊兵衛一家が戻って来る。小春の手に千歳飴が提げられているのを見、それが大変な貴重品である事を知る一同は一瞬言葉を失ったものの、小春に対して好意的に言祝いだ。今日の主役は小春、物事の道理の判らぬ幼子に物の価値を諭す必要はないのだ。
さすがに疲れたようで、帰路は小春の機嫌が少し悪かった。
クォルが着ぐるみでの道化に精を出す。うらやすが玲瓏とクォルの周囲を飛び回るのを眺めているうちに、小春の機嫌は徐々に治まった。さらに千歳飴で気を惹いて、クォルのもふもふした着ぐるみの腕に抱かれると、やがてすやすやと眠り始める。
「眠ってしまったね‥‥このまま自分が送って行ってもいいかな?」
伊兵衛が頷く。夫婦は玲瓏と話をしていた。
お蔦のどんな所が好きかと尋ねれば、壮年の男は初々しく顔を赤らめた。人生の大半を商売に捧げてきた男は見た目に似合わず、かなり純情らしい。
「では‥‥小春さまに、どのような女性に育って欲しいですか」
そう尋ねると、美しく聡明であって欲しいと伊兵衛は答えた。明穂とお蔦が側で聞いている。お蔦が母の顔になっている事に、明穂は気づいた。きっと大丈夫、小春はお蔦のように美しく、伊兵衛のように聡明な娘に育つと信じよう。
「これから‥‥お友だちとのやり取りを通して、成長して行くのでしょうね」
クォルの腕の中で寝息を立てている小春を見つめて、玲瓏は呟いた。
●愛し愛され成長し
日暮れまでに家族を店に送り届けた一行は、翌日ギルドで会う事を約束し店頭で解散した。
そして翌日、ギルドで待つ一行の許に番頭が現れた。丁寧に昨日の供の礼を述べ、提示していた金子をそれぞれに手渡す。
さらに番頭は「些少ですが‥‥わたくし共一同より感謝の気持ちでございます」と前置きし、小さな包みを上乗せした。
何でも、帰宅後のお蔦の様子が穏やかで、店の者への当たりも柔らかかったらしい。番頭達はそれを冒険者達のおかげだと感じ取っていた。
お蔦が長年続けた傍若無人で自堕落な生活が、周囲の評価も含めて簡単に変わる保障はない。
だが‥‥長い時間を掛けてでも、お蔦は変わってゆく事だろう。
伊兵衛が、小春の成長が、お蔦を変えてゆく。
いずれ、店の者達が彼女を女主人として慕うようになる日が来るに違いない。
足取り軽く店へ戻って行く番頭を見送りながら、冒険者達はそう思ったのだった。