赤猫

■ショートシナリオ&プロモート


担当:周利芽乃香

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 94 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月19日〜01月26日

リプレイ公開日:2009年01月29日

●オープニング

●内密の依頼
 人目を憚るようにしてギルドの入口を潜ったのは、中年の男と臨月の女性だった。
「この件は‥‥内密にお願いしたい事なのですが‥‥それでも請けていただけるのでしょうか?」
「お話しいただいた内容によります。秘密は決して口外いたしません」
 係が請け合うと、男は神妙な顔つきで「娘を探していただきたいのです」と言った。

 娘の名は、おえん。16歳。
 幼くして母を亡くし、長い間、父親である男‥‥茂吉と二人で暮らしていた。母のいない寂しさを紛らわせる為だろうか‥‥幼少時から炎の暖かさに魅せられ、度々ボヤ騒ぎを起こしていたのだと言う。
 最近になって、茂吉は後添いを娶った。同行している妊婦が後妻で、おしなと言う。
 おしなは出来た女で、おえんに対し本当の母のつもりで接した。しかし、おえんは懐かず、おしなの懐妊を切欠に夜道を出歩くようになった。次第に家に戻る回数も減り、もう半年以上帰宅していない。
 それだけならば、ただの家出娘の捜索願だった。

「最近‥‥多発しているボヤ騒ぎをご存知ですか?」
 茂吉が尋ねた。係も勿論知っている、いまだ下手人が捕まらぬ放火だ。今の所ボヤで済んでいるが、一旦火事になれば江戸に混乱を起こす。故に放火は厳罰に処せられる。
「‥‥まさか、お嬢さんが‥‥?」
「そうでなければ良いと、願っています。ですが‥‥」
 娘の仕業かもしれない、捕まれば厳罰に処される‥‥親心の末の依頼であった。

●家出娘
 なにさ、あの女‥‥偉そうに。
 何が「家族が一人増えるわね」よ。
 父さん、何であんな女なんかを家に入れたの?
 あたしの母さんは、たった一人なのに。

 おえんは一人、江戸の街を歩いていた。ふと寂しくなって路地裏に入る。
「寒い‥‥」
 狭い場所は落ち着いた。だが冬の寒さ、殊に人恋しさは如何ともし難かった。無意識に懐から火打石を取り出す。
「こらァ、なにしとる!!」
 見咎めた住人の声に、おえんは慌てて逃げ出した。

●今回の参加者

 ec3983 レラ(28歳・♀・チュプオンカミクル・パラ・蝦夷)
 ec3987 雪村 真之丞(35歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 ec4175 百瀬 勝也(25歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ec4859 百鬼 白蓮(28歳・♀・忍者・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●友
 これも何かの縁だと思った。

 ギルドを訪れるのは、依頼人と仕事を探す冒険者だけではない。
 その日、百瀬勝也(ec4175)は友人の雪村真之丞(ec3987)に呼び出されて、ギルドで落ち合う約束をしていた。真之丞が「渡す物がある」という事だったのだが‥‥
「侍の百瀬勝也と申す。もう少し詳しい話をお聞かせ頂けるだろうか」
 放っては置けなかった。依頼人夫婦に声を掛ける友人に、真之丞も「しゃぁねぇなぁ」といった表情で付き合う。面倒見の良いのが友の美徳でもあった。そんな彼も根は面倒見の良い、似た者同士だったのだが。

 2人の様子を百鬼白蓮(ec4859)が静かに伺っていた。
(「最近の小火騒動と関連があるならば‥‥大火となってしまう前に、親元へ返してやりたいものだ」)
 忍びの身、多くは語らぬものの協力の意思を示す。
 途中、勝也が友人を呼ぶと一旦席を立ち、レラ(ec3983)を伴って戻って来た。4名改めて、ギルドの片隅で夫婦の話を詳しく聞く事にした。

●娘
「長い間、お父様と2人で暮らしていらしたのですね」
 小柄な少女のようでいて、分別のあるしっかりした口調を以てレラが話を切り出した。探索対象である、おえんの容姿については全員が気になる所だ。他に父娘の思い出の場所を尋ねる。
(「どんな事情で娘が家を飛び出したかなんて、わかんねぇよな」)
 差し障りなく、真之丞はおえんが好んで行きそうな場所を尋ねた。半年戻っていない娘、それ以前も家出を繰り返していたとの事から、レラは家出中におえんが何処で過ごしていたかも尋ねてみる。
(「‥‥え、ソレ尋ねるか?」)
 レラは至って真面目に尋ねている。年頃の娘だ、情夫の許にいるかもしれない可能性も考えれば、尋ね難い事ではあったのだが‥‥世情を知る何名かは天然恐るべしと思ったが、これも重要な問いだった。

 質問に対して、茂吉は丁寧に答えた。
 おえんには左の目尻に泣き黒子がある。背の丈は4尺5寸(約157cm)の中肉中背で、遠目には目立たぬ娘だと言う。
「最後に家を出た際に身につけていた物は‥‥」
「鳶色の黄八丈でしたよ」
 古い記憶を手繰って言い淀んだ茂吉に、おしなが助け舟を出す。生さぬ仲とは言え女親らしい記憶だった。

 おえんは6つの時に母親を亡くし、14まで茂吉と2人暮らしをしていた。寡となった茂吉には後添いを貰う話も何度か出ていたのだが、おえんがまだ幼く母を恋しがって紹介された女性に懐かなかった為、そのまま父娘で過ごして来たらしい。
 2年前まで父娘の2人暮らしだった事から、おえんが遠出する事は殆どなく、父娘の思い出の場所は近辺に限られた。
「そう言えば‥‥河川敷の花火大会へは、毎年連れて行ったものです」
 懐かしむような茂吉。幼い娘を肩車して夜空を見せたのだろう。おえんの喜ぶ様子を想像して、皆一様に微笑む。

 おしなが後添いに入ったのは、おえんが14の時。そろそろ分別も付いて来た事だろうと茂吉が話を振ってみた所、以前のような拒否反応がなかった為、安心して迎え入れたのだと言う。
 1年近く前におしなが身篭り、それを切欠におえんは出歩く事が多くなった。
 ふらりと出かけ、数日後に戻る。おしなが叱ると反発した。
「でもね‥‥あたしには、おえんが身を持ち崩したようには見えませんでしたよ」
 半年前を思い出し、おしなが断言した。

 尤も、半年の間に彼女にに何が起こったかは判らない。これから調べる事、それが依頼でもあった。
 初日は両親との対話と、小火発生地域の確認、それらの情報を纏める事に費やされた。

●焔
 2日目。真之丞と勝也、白蓮とレラに分かれて探索開始。
「こう見えても陰陽師だしさ」
 冬場の河川敷に住み着いている事はなさそうな事、小火発生地域の共通点が路地裏であった事から、真之丞は江戸市中の地図に発生地点を記し次の予想を占ってみる。一同、その地点を中心に警戒を始める事にした。

「当たるも八卦当たらぬも‥‥って、いやがった」
 初めに向かった路地裏で、おえんと同じ年頃の娘をちらりと見かけたものの、追うまでには至らず、娘は角で姿を消した。
「ああ、願望ではなく確かに娘の姿はあったな」
 勝也が肯定する。火付けの現場でなく見かけただけだったというのが、救いに思えた。
「アタリは間違ってねぇって事か。もう少し粘るか」

 一方、レラと白蓮は近辺の聞き込みをしていた。地図に記した地点の最寄にある茶屋へ向かい、おえんの容姿を問うた。
「泣き黒子の娘‥‥時折飯食いに来てたな。一昨日辺りも来てたよ」
 茶屋の親仁が覚えていた。おえんがこの近辺にいるらしい事は、ほぼ間違いなかった。

●艶
 日が翳り冬の寒さが一段と身に沁みる頃、泣き黒子の少女‥‥おえんを発見したのは女性陣だった。白蓮は目配せし尾行続行、レラは木霊の悠樹に話しかけた。
「悠樹さん、勝也さんの所へ行って貰えますか?」
「勝也さん、かつやさん‥‥」
 昼間4人は一度落ち合い、情報交換をしていた。地図で互いの張り込み場所も大体把握している。レラが勝也と面識がある事もあって、悠樹は素直に飛び立った。

「悠樹殿‥‥か?」
 人ならぬ物の気配を感じて、勝也が問うた。
「悠樹、ゆうき♪」
「‥‥向こうに掛かったみてぇだな」
 木霊の先導で、仲間が潜伏しているはずの場所へ向かう。2人を見つけたレラが小さく手を振った。路地裏という場所が幸いして、囲い込む事も容易だ。4人は気付かれぬよう、それぞれ道を塞ぐように位置を取った。

「‥‥おえんか?」
 振り返ったのは、半年以上も家出していたには小ざっぱりとした風情の娘だった。泣き黒子が艶っぽさを語るには、まだ少し年が足りないか。
 最初に声を掛けたのは、最年長の真之丞、そのままギルドで父親から依頼を請けた者だと告げる。
「オヤジさん心配してんぞ」
 年長者の、男の義理は果たしたと「後は任せたぜ」と、さっさと引き下がる。内心の焦りや弱みを見せたくはなかった。
「私、レラと申します。茂吉様から依頼を受けて貴女を探しておりました」
 警戒させぬよう物腰柔らかく、レラが話を引き取る。父の名を出されて、おえんの足が止まった。逃げる様子はない。
「父さん‥‥あたしの事、心配してる?」
 唯一の気掛かりとばかりに彼女に尋ねた。
「勿論。茂吉殿は、おえん殿を本気で心配しておられた。その事だけは‥‥理解していただきたい」
 誠実な人柄を映した勝也の言葉に、おえんの目が潤む。
「父さん‥‥元気‥‥ですか‥‥?」
 おえんだって、本当は父に会いたかったのだ。

「お体はお元気そうでしたよ。でも今は心痛がおありのようです」
 レラが続けた。私たちが此処にいるのは、お父様の心痛を取り除く為だと。
「おえんさん‥‥お父様にお会いして、お話なさっては如何ですか?」
(「一度、遠慮を取り去って、思いの丈をぶつけてみれば良い‥‥」)
 口出しこそせぬものの、白蓮の想いも同じだった。
「でも‥‥でもあたしより父さんは、あの女を‥‥」
「家族に選ぶ選ばぬはない。家族は家族だ、尊いものだ」
 無意識に懐へ手をやったおえんに、思わず勝也は語りかけていた。

「おえん殿。火は、暖かいか?」
「どうしてそれを‥‥?」
「父上殿に伺った。確かに火の温もりは冬の寒さに尊かろう。だが‥‥その火が尊い家族の絆を分かつ事もあるのだ」
 勝也の言葉に、真之丞は一歩退いていた。過去を思い出す。それ以上言うなと友に願う。
「おえん殿がしている事は、火付けだ。大火となれば、その火は罪科として、おえん殿と父上殿を分かつだろう」
 それでも良いのかと勝也は畳み掛ける。少しでも傍に居たいと願うならば、真っ直ぐに向き合ってみては如何かと。おえんは懐に手をあてたまま、耳を傾けていた。

●縁
「あの人‥‥言ったんだ。『家族が増えるわね』って」
 ぽつり、おえんが呟いた。臨月近い様子だったおしなを思い出し、一同はっとする。
「あたし‥‥もう要らない子なのかな、って思ったんだ‥‥馬鹿だよね‥‥」
「‥‥ああ、馬鹿だな」
 過去に大火で家族を亡くし、誰よりも家族の絆に敏感な真之丞が言った。照れ隠しのようなその言葉に棘はなく、寧ろ優しかった。

「あの人、許してくれるかな‥‥」
「許すも許さぬも、おしな殿は心配しておられたぞ」
 物静かに見守っていた白蓮が請合う。
 対人鑑識に秀でた彼女は気付いていた。おしながおえんの半年以上前の服装を覚えていた事、おえんがおしなを『あの女』から『あの人』と呼ぶようになっている事を。大丈夫、互いの心の垣根を越えれば、この義理の母娘はきっと上手くゆく。

 初日に聞いていた茂吉の家へおえんを送って行った。
 心配かけてと、怒ったような泣きそうな表情で出迎えたおしなは、おえんを家へ迎え入れた。上がり框でおえんは言葉を詰まらせた。
「これ‥‥あたしの好きな‥‥」
「そうだよ、小豆餅。さっさと上がってお食べ。お腹空いたろ」
 おしなは、娘の帰宅をずっと信じて待っていたのだ。
 陰膳のご相伴に預かった探索者達。これからの2人の絆を信じて、茂吉宅を後にしたのだった。