【真名・水】君の名は

■ショートシナリオ&プロモート


担当:周利芽乃香

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 72 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月28日〜02月04日

リプレイ公開日:2009年02月08日

●オープニング

●老僧の昔話
「和尚様、また女神さまのお話してー」
「ありゃぁ、いい女じゃった‥‥」

 老いた住職が境内のいつもの場所に座ると、子供達が一斉に集まって来た。
 午後の日向のいつもの風景。住職の若かりし頃の話。
 それはいつも違う女神の話だったが、ある時は心通わせ、またある時は想い通じずの昔話。相手が女神、語り手が坊主という事もあって、子供達以外まともに相手をする者はいなかった。誰もが与太話だと信じていたが‥‥
 いつものように語り終えると、住職は不安げに遠くの空を眺めるのだった。

「会っていただきたい人がいるのです‥‥精霊様、だそうですが‥‥」
 ギルドの敷居を跨いだのは、老いた住職の下に勤める寺男の孫七だ。遠出すらできぬようになった住職の足代わりとして、時折代理の依頼にやって来る。
「良寛さまの、ご依頼ですか?」
 係は居ずまいを正して問うた。

●君の名は
「相手は湖に住んでいる、水のエレメントだそうです」
 一般には『川姫』と呼ばれている水の守護者である。己の住まう場の水を使う者に試練を与え、恵みを受けるに相応しい者かを見極める。
「‥‥で、良寛さまは‥‥」
「お若い頃に、試練よりも口説こうとして逃げられたのだとか」
 力なく笑う孫七。良寛は女癖が悪かった。霊力が高く戒律を破る事こそなかったものの、煩悩だけは捨てきれずに数々の失敗を繰り返して来た。この悪癖さえなければ住職になど納まらず、もっと高位に就く事ができただろうに。
「最近、良寛様が仰るのですよ。あのおなごの名を知りたいと」
 孫七は溜息を付いた。

●川姫の試練
「それで‥‥川姫の試練というのは、どんなものだったのですか?」
「川姫の名を当てるものだそうです」
「‥‥は?」

 水霊の名など、当てようがないではないか。
 ところが話には続きがあって、川姫の住まう湖の底に、名を記した何かが沈んでいるのだと言う。つまりは寒中潜水をしろという訳だ。
「暖かくなってからでは駄目なのですか?」
「それでは遅いと良寛様は仰いました」
「?‥‥そういう事でしたら‥‥」
 係が書類を作成し始める。孫七は「そうそう」と付け加えた。
「なかなかに気の強い姫様だそうです。名が取られるとなれば、妨害して来られるかもしれません」

 真名、それは本質を表すもの。
 円満に得られれば、精霊の祝福をも得る事ができるだろう。

●今回の参加者

 ea3486 オラース・カノーヴァ(31歳・♂・鎧騎士・人間・ノルマン王国)
 eb2099 ステラ・デュナミス(29歳・♀・志士・エルフ・イギリス王国)
 eb5249 磯城弥 魁厳(32歳・♂・忍者・河童・ジャパン)
 ec0843 雀尾 嵐淡(39歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 ec3984 九烏 飛鳥(38歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ec4924 エレェナ・ヴルーベリ(26歳・♀・バード・エルフ・ロシア王国)

●リプレイ本文

●真名
 孫七から名を受け取った良寛和尚は、一言「そうか」と呟いた。

●ギルドにて
「暖かくなるまで待てないなんて‥‥」
 ステラ・デュナミス(eb2099)が言葉を詰まらせた。彼女は決して丈夫な方ではない。九烏飛鳥(ec3984)も「泣かせる話やないか」と首肯している。
「死の間際になって、昔の想い人の名前が知りたいやなんて‥‥」
「良寛様はお元気ですよ。今朝も若後家の後姿を『ええ尻じゃのぅ』などと‥‥」
 脱力気味に孫七が補足する。
「何だその色惚け爺。耄碌が始まってんじゃねえか?」
 オラース・カノーヴァ(ea3486)の突っ込みが、一同に妙な説得感を与えたのは気のせいではないだろう。ともあれ、教えられた川姫の棲家へ向かう事となった。

●湖へ
「フィディエルか‥‥楽しみだね」
 道中、エレェナ・ヴルーベリ(ec4924)が微笑んだ。一見優美な男性と見紛うような、中性的な女性だ。磯城弥魁厳(eb5249)は他の皆の足に合わせて移動しながら、雀尾嵐淡(ec0843)と打ち合わせを行っていた。
 川姫の試練は『寒中水泳を行い、姫の名を取る事』主に潜水するのは河童の魁厳、嵐淡達がその支援を行う。男性陣は潜水の用意もある。懸念は孫七が言っていた川姫の性格――気が強く妨害するかも――の点に集中していた。

「おや‥‥久々のお客さんやねえ」
 出迎えたのは、三十路前と思しき女性。はんなりと言葉を掛けて来た。
「なんだ、ババアじゃねえか」
 口の悪いオラースが滑らせた言葉に、きっと睨む。彼にしてみれば自分より年上に見えるのだから仕方ない。まして水霊、外見年齢では計れない存在だった。
「来たのは依頼の為だけど‥‥君に会ってみたかった。思った通り美しい‥‥良寛殿が惹かれたのも解る」
 エレェナの言祝ぎに、川姫も微笑みを返す。
「良寛はん‥‥お元気ですか?あれから60年くらい経つやろかねぇ‥‥良寛はん以来、試練を受けに来はる方も、とんと居のうなりはって」
 ‥‥60年?代理を立てた色惚け和尚は、一体幾つなのだろう。
 エレェナが相棒を紹介したのを皮切りに、同行させていた者達は連れに挨拶をさせた。

●試練
「さあ、名を教えて貰おうか」
 直接的な物言いだが、オラースの示唆する所は勿論試練を受けるという意味だ。
「試練の事は‥‥良寛はんからお聞きやん、ね?」
 川姫はあくまではんなりと返す。当然と答えヒポカンプスのルージュと共に周辺調査を始めた彼に、川姫は「試練をお受けになるのは主様だけやと、聞いてはりますか?」重ねて尋ねた。

 確かに、冒険者でもない限りペット、まして精霊を連れているのは稀だ。若き日の良寛も独りで此処を訪れたに違いない。試練は本人が受けるべきものだったのだ。
 孫七が伝え忘れたか、そもそも想定外だったのか‥‥とにかく一同は水系精霊を同行させる事によって、手伝わせる事を考えていた。
「ペット不可とは聞いていないぞ」
「そない言われたかて、自分の力だけで受けな試練とは言えませんやろ」
「そうとは限るまい」
 押し問答が続く。とはいえ、試練の主の意向には逆らえない。意外な展開にたじろいだものの、そもそも同行ペットは連れとして自ら潜水予定だった魁厳は、しっかりとした口調で応えた。
「一応河童でございますゆえ、潜るには支障はありませぬ」
 魁厳の覚悟に、川姫は艶やかな笑みを浮かべた。

「ならば‥‥確実に磯城弥さんを支援しなければなりませんね」
 嵐淡が穏やかに言った。川姫の笑みと合わせ、心なしか何か陽炎の如き物が背後に見える気がする。
 極寒の水中へ潜るにあたり魁厳が精神統一をしている間、オラースが陸上の導を探し、嵐淡は水中の生命反応を調べる。エレェナは水面に小石を投下し目標物の場所特定に勤しむ。三者三様、被る事のない見事な調査であった。
「それでは、参りまする」
「俺も行くぜ。寒中水泳も趣味のひとつだ、愉しんでやろうじゃないか」
 魁厳とオラースが湖に飛び込んだ。

●孤独の姫
 一方、陸に残った者達は、潜水した者達の為に焚き火を用意したり、川姫と会話している。焚き火はオラースのアータル・リンも楽しそうに手伝っていた。火霊だけに火が嬉しいのかもしれない。
「そやね‥‥人間は、協力する生き物なんやねぇ」
「人間だけでなく、全ての生きとし生ける者は、関わり合って生きているのですよ」
 差し出た事を申しましたと丁寧に詫びて、嵐淡が相手をしている。
「あたしは‥‥今まで、独りで試練に臨む人しか見て来ぃひんかったわ」

「君はずっとこの湖に?」
 エレェナが問うた。ううんと、子供のように首を振る川姫に、ステラは道中耳にした伝承を思い出した。
『この湖の水が飲用に適さないのは、川姫の涙で出来た湖だから』
 故に、此処に水を汲みに来る人間はいないし、偶に来る人間も、水の恵みの試練を受ける者だけ‥‥孤独な水霊なのかもしれない。
 エレェナのリュートは、陸上で待機する全ての者の心に響いた。生まれ故郷を昨年旅立ち、各地を巡る冒険の話――旅の先々で見た風景、経験した事柄‥‥それらは、境遇を同じくする冒険者だけでなく水霊の心をも動かした。
 川姫は――静かに涙を流していたのだ。

「うん、こういう時は相撲でもしよか!ジャパンの神事やで」
 湿っぽい雰囲気が苦手な飛鳥が言った。本当は潜水班への川姫の妨害阻止のつもりだったのだが、元気付けてやりたくなったのだ。
「あはは、そやね。待ってる間に皆も凍えてしまいそうやね」
 川姫が強がった笑みを見せる。では俺は行司をしましょうと、嵐淡が引き取ると、飛鳥と川姫の女相撲が始まった。

●真名を示すもの
 一方水中では、オラースと魁厳が同じ物を見つけていた。互いに頷き、それを握って陸へ上がる。
 名は、なかった。だが、これだと確信できた。

 陸へ上がった2人を、仲間はまず火の傍へと誘った。素早く水気を取り除き、毛布や防寒具で体を包む。
 2人が持ち帰った物を見て、川姫は「お疲れ様でした」と微笑んだ。真名の象徴に間違いないらしい。しかし、それには名がなかった。
「それを良寛はんに持って行ったって。そして伝えて『わかっております』と」
「ええ、わかったわ。貴女が譲ってくれた名と伝言、確かに住職さんへ伝えるわ」
 依頼者の急ぎの理由を心配するステラが出立の準備を始める。
(「湖から出た物が『波打ち際の貝殻』だとは‥‥ね」)
 道中得た伝承と合わせて、彼女は川姫の出自に想いを馳せる。川姫は‥‥否、今は詮索を止めておこう。また訪ねれば良い事だ。
「今度は暖かくなってから来ても良いかしら?」
「ええ勿論。楽しみに待ってるんよ」

 良寛はんとは、ね‥‥今でも良いお友達やと思うてるんよ。
 別れ際、川姫はエレェナに向け親しみを込め微笑んだ。