【ジャパン歳時記・針供養】蒟蒻砦

■ショートシナリオ


担当:周利芽乃香

対応レベル:6〜10lv

難易度:難しい

成功報酬:5 G 40 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:02月06日〜02月11日

リプレイ公開日:2009年02月18日

●オープニング

●針供養と縁起物
 家事に針仕事は欠かせない。1年を通じて酷使された針は、やがて曲がり、折れる。針へ掛かる力の方向が関係すると言われ、熟練者が曲げたり折ったりする事は初心者が指を刺すより少ない事から、冬の時期に行われる事の多い針供養は、酷使された針を休めると共に、縫い子の技量上達を願う行事でもあった。
 日頃の家事労働から女手を休める事をも意味し、土地によっては保存の利く煮物や汁物を縁起物として食す場合もある。
 これは、そんな食べ物の話。

●蒟蒻
 凍み蒟蒻というものをご存知だろうか。
 今の時期に極寒の地で作られる、保存食の一種である。農閑期の田に藁を敷き蒟蒻を並べる。一夜明けた蒟蒻は、内部の水分が凍り昼間の気温で蒸発する事により軽くなる。それに水を掛け、再び凍結させ水分を飛ばす。何度か繰り返す内に蒟蒻は独特の食感を生み出す珍味になってゆくのだ。

 ギルドを訪れた青年の村は、そんな珍味を作っている場所だった。
「針供養では‥‥豆腐や蒟蒻に針を刺して労をねぎらう‥‥らしいけど、俺の村の蒟蒻は‥‥それとは違う‥‥」
 青年――四郎は朴訥に語った。
 農閑期唯一の収入源である凍み蒟蒻、製作の最盛期を迎えているそれが、危機を迎えていると言う。
「‥‥山鬼が‥‥あらわれた。倉庫に立て籠もっている‥‥」

●占拠された倉庫を取り返せ
 山鬼は3体、1体のみ違う毛色をしており青銅色。2体は茶色で3体とも気が荒く、村人達は恐れて近寄れない。
 そのまま齧って美味いものかどうかは知らないが、完成した凍み蒟蒻の倉庫に立て籠もっているらしい。今のところ村人への被害は出ていないが、このまま倉庫の蒟蒻を食い尽くされると、村にとっては大被害となる。
「村の‥‥貴重な食料を‥‥守って欲しい‥‥」
 珍味がそれなりの収入となるのだろうか、多少多めの金子を取り出し四郎は頭を下げた。

●今回の参加者

 ea3054 カイ・ローン(31歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea7864 シャフルナーズ・ザグルール(30歳・♀・ジプシー・人間・エジプト)
 ea9150 神木 秋緒(28歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ec0129 アンドリー・フィルス(39歳・♂・パラディン・ジャイアント・イギリス王国)

●リプレイ本文

●出立前
 籠もるのなら山にでも籠もっていれば良かったのにねと、神木秋緒(ea9150)は溜息を付いた。
「問題は‥‥如何に凍み蒟蒻を残すか、だな」
 倒すのは容易き事、アンドリー・フィルス(ec0129)は村の貴重な財源でもある保存食に思いを馳せた。
「急いで倒す必要があるよね」
 シャフルナーズ・ザグルール(ea7864)は思う。人を襲わずに蒟蒻を齧るのは、鬼にしてはましな部類だろうけれど、食料庫の枯渇後に鬼が喰うのは村人だろうと。そうなる前に倒してしまいたい。
 カイ・ローン(ea3054)を中心に手短かに相談を終えた4名は、それぞれの方法で村へと急行を開始した。

 今回依頼を請けた4名は、いずれ劣らぬ猛者揃い‥‥運がなかったですねと、係は思わず山鬼に同情した。

●準備
 四郎の村は、人の足で徒歩1日の距離にある。4名は各々移動手段に騎乗できるペットを同行させており、カイのペガサス・メイであれば一刻弱、シャフルナーズの馬や秋緒の戦闘馬・雲竜ならば二刻弱に短縮できる。アンドリーに至っては阿修羅魔法のパラスプリントを修得、瞬間移動が可能だ。
 アンドリーはグリフォンのガルーダを残して詠唱を開始した。瞬間、淡い光に包まれた彼の姿が消えた。

 一刻早く村へ到着したアンドリーは驚かせぬよう人目に付かぬ場所に姿を現すと、まず村人達と接触した。食料庫の場所や内部の間取りなどを知る為だ。四郎がギルドに依頼を出した事を知っている村人達は、皆、彼に協力的だった。
 食料庫は村にいくつかある内のひとつで、凍み蒟蒻保管専用の最も大きな倉庫だと言う。内部は棚で入り組んでおり作業中の蒟蒻が並べられているのと、完成した凍み蒟蒻が暖簾の如く下がっているのが特徴だとか。
 倉庫は作業がし易いよう田の前に建てられており、農閑期の今の田は藁が敷いてあるだけの、村で最も広い場所に過ぎなかった。内部での立ち回りが不利な事は予想済、藁も戦闘後に敷き替えてくれるらしいので、安心して戦う事ができるだろう。
 アンドリーが一通りの情報収集を済ませた頃、カイが到着した。馬移動の女性陣の到着後すぐに作戦を開始できるよう、二人で誘い出しの仕込みを始めた。

●酒宴
 魚の焼ける、香ばしい匂いが流れて来る。
 山鬼の一体は、扉から外を覗き見た。ニンゲンが酒盛りをしているようだ。
 男が二人、脂の乗ったウナギやマスを炙り、酒を燗に付けている。実に美味そうだった。
 更に女‥‥その姿態を惜しげもなく晒している兎耳の美女が魅惑的な踊りを披露している。
 山鬼は仲間を呼んだ。我も我もと覗き見ようとした三体、思わず扉をぶち破っていた。

『‥‥何だ。珍しい鬼っていうから期待してたのだけど、ただの雑魚鬼か』
 三体を冷めた目で見たのはカイ。指輪の魔法を用いて山鬼達を挑発しているのだ。
『倒すのも面倒だ。自ら首でも括ってくれないかね』
 男の言葉が一々腹立たしい。美女が自分達にウインクした。手招きしている。誘っているのか?それとも馬鹿にしているのか?
 山鬼達は混乱した。腹は立つが色々美味そうだ。男達を倒せば魚も女も手に入る。決して思慮深くはなく己の力に過信していた山鬼達は、簡単に挑発に乗った。
(「やたっ!効果有り♪」)
 充分魅力的なのに心配だったらしい。シャフルナーズは内心ガッツポーズした。

 山鬼達が此方へ突進して来たのを確認したアンドリーは、すかさずパラスプリントで食料庫の入口に立ち塞がった。それを合図に、周囲で待ち伏せをしていた秋緒が戦闘に加わった。
 罠と気付いた所でもう遅い。
 真っ先に飛び出した茶鬼戦士は、美味そうな女に強かに斬り付けられた。狙いを定め反撃しようとするも、シャフルナーズは踊るように回避する。不利を悟った所で背後のアンドリーと秋緒が三体の逃走を許さない。
 如何に山鬼達が村人の脅威であっても、冒険者達とは格が違い過ぎた。ギルド係が同情した通り、勝敗は呆気なく付いた。
「確かに強かったよ。思っていたよりはね」
 山鬼戦士と相対したカイの言葉は、相手への敬意。青き守護者の慈悲の餞に外ならなかった。

●鬼も下りずば
 1日遅れて到着した四郎は、依頼した事柄すべて良きように終わっている事を知った。
 迅速に到着した上に早々の退治。戦闘も食料庫の外で行われた為、凍み蒟蒻の被害は最小限に抑えられていた。秋緒の声掛けで戦闘中に巻き込まれた被害者もおらず、退治した山鬼達も既に供養済みだという。
 山鬼に同情したギルド係員に何事かと思った四郎だが、理由が解ったような気がした。至れり尽くせりの見事な仕事振りだった。

「雲竜達を預かってくれてありがとう。安心して。もう危険はありませんから」
 到着後すぐに愛馬達と荷を村人に預け外出を規制していた秋緒は、引き取りがてら雑談を交わしていた。
「礼を言うのは、わしらの方だ。何から何まで、ほんに‥‥ありがとうございました」
「‥‥最近、この辺りで何か異変はありませんでしたか?」
 やや迷ったものの、尋ねてみる。山鬼達が山に居られない理由があったのではと考えたのだ。
「いんや。この辺りは元々山の幸に恵まれておるで、鬼も獣も人里まで下りて来た事は今までなかったのう」
 村人から有力な情報を得る事はできなかったが、都市部の様子を知る秋緒は却って胸騒ぎを覚えずには居られなかった。
(「人里まで下りて来た事のない鬼達が‥‥?」)

(「凍み蒟蒻の妙を理解していたとは思えぬが‥‥腹を満たしたかったのだろうな」)
 村から離れた山陰へ鬼達を葬って、静かに合掌したアンドリーは冥福を祈った。
 調理に使ってこそ美味い珍味を空腹凌ぎに口にして、鬼達は何を感じたのだろう。いずれにせよ村人達にとっては迷惑千万な行動だったのだが、ふとギルドを発つ時の秋緒の言葉を思い出した。
『籠もるのなら山にでも籠もっていれば良かったのにね』