【ジャパン歳時記・雛祭】災厄は水に流して
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■ショートシナリオ
担当:周利芽乃香
対応レベル:6〜10lv
難易度:普通
成功報酬:3 G 9 C
参加人数:5人
サポート参加人数:1人
冒険期間:03月02日〜03月07日
リプレイ公開日:2009年03月12日
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●オープニング
●形代流し
女児の健やかな成長を願って行われる雛祭の発祥は、いくつかの説がある。うちひとつが、祓い神事『形代流し』から発展したものだと言われる説だ。形代流しとは、紙で作った人形(形代・かたしろ)に災厄を移して川へ流し、人々の平安を祈るというものである。
そんな風習を受け継ぐ村があった。ただし流すのは形代ではなく、人間だったのだが。
「今年も流し神事の季節か‥‥」
年老いた村長は、ふぅと息を吐いた。
江戸から徒歩半日少々の距離にあるこの村は、江戸に近い場所にある割には何故か若者の居付きが悪い。皆、成年を迎えると次々と江戸へ住まいを移してしまう。現在村に住んでいる者は、都市部を好まない年寄りばかりだった。
「誰ぞ、子を呼んでくれぬかのう‥‥」
この村の流し神事は、生身の人間を川へ流す。当然体力のあるものに形代役を頼む事が多く、老人ばかりのこの村では例年は村人の親戚筋を頼って執り行って来た。しかし子の世代も年々老いてゆき孫世代は村へ寄り付かぬとなれば、ここ数年は形代役を決めるのにも一苦労の有様だった。
「今年は、冒険者の方にお願いするか‥‥与平に使いへ行って貰うかの」
村長は、老猟師の与平を呼んだ。
「‥‥と言う訳じゃ」
「‥‥訳、と言われましても‥‥長、形代役で冒険者殿達をお呼びするんですか?」
「そうじゃが‥‥何ぞ悪いかのう?」
「来てくれるんでしょうか‥‥?」
「ならば、こう言うがいい。『妖怪が出て、村との行き来が途絶えています』とな」
村長の口から出た与太話は、いずれまことの事となる。
●嘘から出た真
与平は街道で見慣れぬ老婆に出遭った。
「ご婦人、何かお困りかな?」
「‥‥お腹が空いておりまする」
振り返った老婆は耳まで口が裂けており‥‥気取って声を掛けた与平に醜い牙を剥いて、ニヤリと笑ってみせた。
「‥‥ッ、あンの長‥‥!俺を殺す気だったな‥‥!!」
かくして、本当に山姥に遭遇してしまった与平は、命からがらギルドに飛び込んだのだった。
「頼む!俺に力を貸してくれ!あの長、流してやる‥‥!!」
●リプレイ本文
●誤解
老人の尋常ならざる剣幕に、その場に居た者達が何事かと集まって来た。
「ご老体、いかがなされた」
声を掛けたのはイクス・エレ(ec5298)、怒り余って昇天しかねない与平を落ち着かせようと、物腰柔らかく場に馴染む。
「どうしたもこうしたも‥‥!俺は殺されかけたんだ!」
「あらま、えらく物騒ねえ」
自分に向けられた言葉を耳に、与平は一気に毒気を抜かれた。
構わずに、お話を聞かせてくれるかしらんと続けたのは筋肉質の大男、渡部不知火(ea6130)だ。にこやかに飄々と柔らかい言葉を投げる不知火は、心身共に歴とした男性である。尤も、この応対がこの男ならではの韜晦だという事を、与平は知らない。
「‥‥あ、あァ。長が言ったんだ『妖怪が出て、村との行き来が途絶えています』と。そうしたら街道に山姥が‥‥」
「それは大変な事でございましたね。でも『そうしたら』とは‥‥?」
落ち着いた様子で与平を労うのは齋部玲瓏(ec4507)、冷静に、与平の言葉を洗い直す。
与平は、う、と言葉を詰まらせた。
あれは確か、村長が冒険者を募る口実に出任せを言った事だったはず。流し神事の形代役を乞う為だけに、此処の人達は力を貸してくれるのだろうか。しかし山姥が出たのは真実。経緯を話さねば助力も得られないだろう。
「理由をお尋ねしてもよろしいでしょうか?」
落ち着かない様子の老人を心配した所所楽柚(eb2886)に水を向けられて、与平は観念した。
「なぁんだ、逸れ鬼じゃないのソレ。以前から居るのなら、噂位耳に入るでしょ?」
「当初、村で山姥の噂がなかったのならば、村長さまもご存知なかったのでは‥‥?」
老人の名と事の次第を知って、不知火と玲瓏が与平の疑惑を否定する。
「そ、そうだろうか‥‥?」
「与平さんの知っている村長さんは、人を陥れようとするような人なのか?」
「いいや、年老いてボケているだけかもしれないが、あれは天然だ」
イクスの問いに即否定する与平。
「偶然が重なったのでしょう。いずれにせよ街道の安全は守らなくては‥‥」
柚は与平に山姥と遭遇した詳しい場所を尋ね、同行するかを確認した。与平がそのまま帰ると言ったので、道案内と護衛を兼ねて連れて行く事にした。
(「ふぅん。流し雛役ね‥‥時期は早いけど水遊びってコトよね♪」)
一連の様子を眺めていた御陰桜(eb4757)が、同行を申し出た。
(「イロイロ流すのよね‥‥♪」)
悪戯っぽくイクスを見遣った桜は、何だか楽しそうだ。
●大木の下で
街道沿いの村々や行く道すがら出会った旅人達に、山姥出没の噂を確かめつつ移動したが、それらしい話は聞かなかった。寧ろ「知らせてくれて有難う」という反応が多かった。
「ね?村長さんも知らなかったんじゃなぁい?」
口では暢気な風を装って与平を安心させる不知火だが、周囲の警戒は怠らない。そろそろ山姥と遭遇したと言う場所に近づいていた。
柚がサンワードを試みる。はっきりとした居場所こそわからなかったものの、間違いなく潜伏している事は伺えた。玲瓏も耳目をそばだて警戒を強める。イクスが得物をマントに隠して狐のセブルスを与平の側に付ける。表情こそ変わらないものの桜も密かに風向きを確認していた。
「‥‥いた」
何時の間にか、老いた小さな人影が街道に立つ大木の下で蹲っていた。
(「イクスちゃん、山姥だったらサクッとヤっちゃってね♪」)
桜の目配せに見送られて囮に立ったイクスは、年若い旅人を装い老婆に声を掛けた。
「ご気分が悪いのだろうか‥‥おばあさん、大丈夫ですか?」
間違いだと困る。最初は失礼のないように。
「これは美味しそうなおのこじゃ‥‥」
遠慮の必要はなかった。振り返った山姥は呆気なく桜の春花の術で眠らされ、反撃する術もなく一方的にイクスの両刃刀と柚のムーンアローに叩きのめされた。
(「もとは人の子とも申します‥‥どうか迷う事なく」)
蹲っていた大木の根元に山姥を葬り、玲瓏は静かに瞑目した。
●村長
村へ到着し、村長と対面した依頼を請けた者達は、与平から事情を聞いていて良かったと思った。
「妖怪‥‥?はて、何の事じゃったかのう?」
「ああ、こういうお方だという事を忘れていた俺が悪かったよ‥‥」
がっくりと項垂れる与平。彼と村長の間には、きっと今までもこのような遣り取りが繰り返されていたに違いない。
「‥‥と、とにかく、山姥が街道に現れ与平さんが襲われたのです」
報われぬ老猟師に同情しつつ、さすがに村長を流す気力は失せたようだと安堵しながら柚が経緯を説明した。
「そうでしたか‥‥して、皆さんは流し神事の参加者様ですかな?」
神事に関してのみは、しっかりと覚えていた。
「そ♪イロイロ流しに来たの♪」
桜の『イロイロ』が自分達にも向けられているとは知らず、村長は久々の来訪者に喜んだ。
●流し神事
「こちらの神事は、古のものが残っているのでしょうか‥‥?」
てきぱきと手を休める事なく作業を続けながら、玲瓏は村長に話しかけた。形代流しは紙で作った人形を流すのが一般的、人間が流れる神事の由来に興味を引かれるのは神主を生業とする玲瓏ならではと言えた。
「そうさな、元々は生贄に厄を移して、海まで流す神事じゃったと言い伝えられておるのう」
架橋工事の際に人柱を捧げるが如く、村人達の災厄を一手に引き受けたひとりが犠牲になっていた神事だったのだと言う。いつしかそれが生贄を伴わぬものになり、川流れのようなお祭り行事になった‥‥という事だが、まだ川の水は冷たい。随分過酷な祭もあったものだ。
(「形代役の方々が暖まれるような手配は、済んでいるのでしょうか‥‥」)
柚は家々を回り、着替えや毛布、濡れた体を拭う為の布類を集めた。形代役達が川から上がる辺りに持参していた二人用の天幕で簡易更衣室を作り、集めたものを運び込む。すぐ側に、焚き火の用意も済ませた。
「ねぇねぇ、イクスちゃん。コレどぉかしら?」
早速着替え‥‥もとい、人遁の術で髪色と同じ桃色を基調とした水遊び用の衣装に代わった桜が、その神ボディを披露している。
「‥‥な‥‥ッ‥‥!」
真っ赤になったイクスを見て、桜はくすくす笑う。
「こんなのもあるンだけど♪」
ちらと見せたのは、さらに布面積が少ない。
(「‥‥紐‥‥!」)
「‥‥さ、山菜採りに行って来る!与平さん、案内願いたい!」
口をぽかんと開けたまま桜を見ている与平を引きずって、逃げるように去るイクスの背に、桜の楽しげな笑い声が聞こえた。
ジャパン文化を体感したいと形代役に参加したイクスは、植物知識と与平の地元情報を頼りに、春のジャパンで採取できる山菜を探した。
「与平さん、これも食べられるのではないだろうか」
「おお、よく見つけなさったな。それは珍しいぞ」
春の味を楽しみながらの雛祭。故郷とは別の春の楽しみを、彼は堪能していた。
村長たっての願いで、神事の進行は冒険者達が務める事となった。
玲瓏の先導で神事は粛々と執り行われている。村を流れる川上に設えた祭壇に銘酒桜火と雛あられを捧げ、日々の幸福を祈願した。
「水に入られるみなさまは、お風邪やお怪我をなさいませぬように」
予め村人達から形代役の心得を尋ねていた玲瓏が、神主の威厳を以て神事の進行を司る。形代役になる者は皆、厳かな心持で準備体操を行い、静かに水へと体を浸した。
(「持ってて良かったなあ」)
山菜採りの傍ら、与平から流される者のコツを伝授されていたイクスは、川水の冷たさを知っている。平気な顔をしていられるのは炎の指輪様々だ。
「瑪瑙、例のヤツお願い♪」
桜も見た目こそ露出が高いものの人遁の術での変化、防寒具を着用しており耐寒は完璧だ。水馬の瑪瑙にウォーターダイブを命じ、本格的に水遊びする気らしい。
「村長さんと与平さんも、一緒に楽しみましょ♪」
‥‥え、流すの?
「イイからイイから♪」
桜がウィンクして促す‥‥村長がフラフラと引き寄せられてゆく。
「長!心の臓が止まっても知りませんぞ!」
一度は流すと息巻いていた事も忘れ、止めに入った与平を不知火が引き止めた。
「山姥に出くわしちゃった厄は、さくっと流して忘れちゃいましょ。ね、与平さん♪」
私と一緒に流れましょと六尺近い大男に腕を掴まれれば、抵抗する術もなく。無論、不知火とて危険な目に遭わせるつもりは毛頭ない。
(「別嬪さん連中と流されるんじゃないのは、残念かもしれんが‥‥」)
水練の心得で老人を補助する構えは万全だ。かくして、今回の被害者加害者共に流される事に相成ったのであった。
川下では柚と玲瓏、村の老女達が火を焚いて待っていた。瑪瑙の背に乗りご機嫌で流れてきた村長を引き上げ、急いで体を暖める。
「村長さん、大丈夫でしたか!?」
「案外ラクじゃったのう」
「村長、それは皆さんの介助あればこそです」
柚の心配を他所に、毛布に包まれて勝手な事を言っている村長。長年の付き合いであしらい方を心得た村人は容赦ない。ならば来年もお願いするかのうなどと、村長はあくまで暢気だ。与平を担いだ不知火とカタシロ志願のイクスも無事流れ着き、毛布やマントに身を包む。
「お神酒をどうぞ。お体が温まりますよ」
玲瓏が銘酒を形代役達に勧めた。焚き火の側には鍋が煮え、季節の幸を使った料理も頃合だ。
恙無く神事を終えた今、これから始まるのは春を迎える宴。
日々に感謝し今後の幸せを祈る人々の、ささやかな願いを込めた非日常。
(「これがジャパンの風習か」)
若干一名に、誤解を与えたような気がするが‥‥それはそれで。