春が来る前に

■ショートシナリオ


担当:周利芽乃香

対応レベル:11〜lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 32 C

参加人数:6人

サポート参加人数:3人

冒険期間:03月06日〜03月09日

リプレイ公開日:2009年03月16日

●オープニング

●冬の終わりの来訪者
 暦の上では既に春、しかしまだ雪に覆われたある村での事。
「「「こーんにちはー!!」」」
 あきの家に、何人かの幼い声が訪問を告げた。
「あら可愛い。どこの子?」
 男の子二人に女の子が一人。応対に出たあきが膝を折り、三人の子供達と目線を合わせて問うと、子らの後ろから母親らしき女が姿を現した。
「この地の者にございます」
「‥‥村の人、ですか?」
 あきが戸惑うのも無理はない。小さな村だ。家々の間は離れてはいるものの、何処に誰が嫁いだと言った情報は自然耳に入る。最近そういった話を聞いた事はなかったし、女を見た事もなかった。
「山に棲んでおりますの」
 優しい笑みを浮かべた女は、透き通るような美しい白い肌をしていた。村の労働とは縁のなさそうな姿をしている。山には家などないはず‥‥否。
「‥‥雪女さま?」
「はい」
 雪氷の美女は、艶やかに笑ってみせた。

●春を迎える為に
 あきの住んでいる村には、雪女伝説が残っている。
 曰く、吹雪の翌朝の晴れには気をつけよ。雪原に雪女が現れ、その姿を見た者は二度と生きては戻らない――雪深い各地によくある伝説ではあった。
 誰も見た事はない。だが村人達は信仰にも似た感情で雪女の存在を信じていた。それは自然を畏怖する気持ちによく似ていた。

 街へ下りたあきは、ギルドへ行った。
「ご依頼の内容は?」
「雪の子達と、一緒に遊んでくださる人をお願いしたいんです」
 自分や村の人達だけでは、雪女さまを鎮める事はできないから。冒険者の人達ならば、きっと力になってくれるから。
「雪のない季節は、雪女さまと雪の子達は山で眠りに就くそうです。でも、遊び足りない雪の子達が眠るのを嫌がって‥‥」
 雪の子達が満足するよう、遊んでやって欲しいと、あきは言った。
 村周辺では今年の雪解けが遅い。雪女達が眠らない限り、村には春は訪れないのだと、あきは雪女から聞いている。
「雪女さま達を、鎮めて差し上げてください」
 春を迎える為に雪女達を眠りに就かせる事は、村の総意でもあった。

●今回の参加者

 ea0592 木賊 崔軌(35歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea3744 七瀬 水穂(30歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea9689 カノン・リュフトヒェン(30歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb5885 ルンルン・フレール(24歳・♀・忍者・ハーフエルフ・イスパニア王国)
 ec0097 瀬崎 鐶(24歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ec2813 サリ(28歳・♀・チュプオンカミクル・パラ・蝦夷)

●サポート参加者

ラテリカ・ラートベル(ea1641)/ ステラ・デュナミス(eb2099)/ アクア・リンスノエル(ec4567

●リプレイ本文

●局地的雪原
 総勢八名。一行は、あきの住む村へと差し掛かっていた。
「さむいぞーなのです」
 七瀬水穂(ea3744)が口走ったのも無理はない。春とは名ばかりの景色が其処には広がっていた。
 辺り一面、銀世界。
(「雪女さんを信仰しているなんて‥‥」)
 足跡ひとつない雪原は清らかに美しく、神秘的に見えて。ルンルン・フレール(eb5885)にとって、自然崇拝信仰は東洋の神秘に思えた。
 もう一人、思いを馳せるのはカノン・リュフトヒェン(ea9689)。
(「伝承の先の偶像ではなく、本当に居たとは‥‥な」)

「「わーい、おきゃくさんだー!!」」
 冒険者達の到着を待ちわびていた男の子二人が、転がるようにあきの家から飛び出して来た。雪ん子だ。
(「か、かわいい‥‥」)
 早速ほんわかと水穂が魅了されている。勢い余って雪原に転倒する雪ん子達を見て、長靴に穿き替えていた木賊崔軌(ea0592)が思わず声を掛ける。
「おいおい、気ぃ付けろよ?」
 やんちゃな子が二人‥‥いや、もう一人いるのか。母親が大変なのは何処の世界も同じらしいと崔軌は苦笑した。

「‥‥初めましてだね。僕、瀬崎鐶。‥‥よろしく」
「あきさん、はじめまして」
 小柄な二人、瀬崎鐶(ec0097)とサリ(ec2813)が、出迎えのあきに挨拶。あきの腰に纏わり付いているのは――雪ん子の女の子。
「お名前は?」
 女の子は、あきの着物の帯にきゅっとしがみ付いた。少し人見知りのようだ。
「もしよろしければ、この場での呼び名を付けてくださいな」
 あきの後ろから、いかにも世俗と縁がなさそうな美女が姿を現した。

●かまくら
 雪ん子の女の子を小雪、男の子を霰(あられ)・雹(ひょう)、雪女を於雪と呼ぶ事にした。三つ子の雪ん子、小雪はともかく霰と雹は区別が付き難い。
「おーい、坊主共、手ぇ貸せよー」
 二人一緒に呼んでも問題なく、霰と雹は嬉々として側に集う。
「「ねえねえ、なにするの??」」
「かまくらを作るですよー!」
 ルンルンと水穂が音頭を取って雪の仮宿を作る。崔軌と鐶、霰、雹が大量の雪を運んでいるのは、このあと雪だるまを作るからだ。
「‥‥雪合戦も」
 続く楽しみは沢山。雪室に形作るべく、鐶が雪をしっかりと固めている。

 遊ぶ場所が決まった様子を見て、サリが鍋の準備を始めた。村人から薪を分けて貰い、材料を用意する。
 持参した餅や平目、村人からの差し入れの山の幸、それから‥‥
「鍋に入れたいものは、ありますか?」
「‥‥豆腐。‥‥と、輪切り大根を‥‥‥‥少しだけ」
 挙手して食べたいものを希望した鐶は、控えめに、お湯の用意をサリに頼んだ。
 カノンは一日同行のラテリカとステラと共に、於雪と話をしている。カノンが二人から預かっていた甘味とサクラの蜂蜜を、子が喜ぶと言って於雪もとても喜んだ。
 話したい事があるけれど‥‥今はまだ。
「於雪さん、ちと頼まれてくんねぇかな?」
 崔軌に呼ばれてステラと一緒に遊びの場へ出てゆく於雪を、カノンはそっと伺う。於雪は少し色白の、人間の優しい母親のように見えた。

 これを凍らせたいんだけどと、於雪に差し出されたのは一枚の毛布。何が始まるのかと皆が期待して見守る中、毛布は於雪のアイスコフィンでカチカチに凍りついた。
「わぁ‥‥かあさま、すごーい」
「「おいらたちもー!!」」
 面白がった雪ん子達が、てんでにアイスブリザードだのアイスコフィンだのを始めたから堪らない。
「お前たち‥‥やめなさいっ!」
 於雪の怒声に誰もが一瞬びくりとしたとか。
 そんな脱線もあったものの、毛布はとても重宝な道具へと変化した。雪を集める作業が格段に楽になり、ソリ遊びに丁度良い大きさでもあり。雪ん子達の悪戯で出来上がった様々な大きさの凍結物も、かまくらや雪だるまの装飾に使えそうだ。
「少し休憩しませんか?」
 鍋はまだですけれど。お茶が入りますよとサリが呼んだ。

 お茶担当は鐶。実は火が怖い。
 サリに沸かして貰った鉄瓶の持ち手を覚悟を決めて攫む。お茶には拘りがあるから、淹れる為には妥協はしたくなかった。
 沸騰から暫く置き適温に冷ました湯を急須に移し、充分に蒸らして茶を抽出する。人数分を湯呑みに均等に淹れると、念の為四つの湯呑みを雪が入らないよう注意して積雪に埋めた。程なく周囲の雪が解けてゆく。
 鐶の心づくしを、於雪も子達も喜んだ。
「おねえちゃん、おちゃっておいしいね」
 初めて飲む味に雪ん子達は興味津々。おやつにクルミのクッキーやケーキを貰って、嬉しそうに茶を嗜んでいる。
「さて‥‥もうひと頑張りするですよ」
 雪玉を転がして転がして‥‥おっきくするですよ♪水穂が元気に言った。
 夕方までに、あらかた仕上げてしまおう。

 一休みした後は、あっと言う間に過ぎた。
 大きなかまくらを二つ仕上げて、雪だるまは大体の形を作った所で今日は終わり。
 雪だるまの周りにステラが水魔法を用いて雪ん子達の氷像を作ると、子供達はきゃっきゃと笑って喜んだ。日が暮れぬうちにと、ラテリカが雪の綺麗な部分を探し集めて来て、カノンに後はよろしくお願いしますですねと言い残し、二人は一足先に江戸へと戻って行った。
 辺りが暗くなれば夕御飯の時間だ。

 水穂持参のちゃぶ台の下に毛皮の敷物を敷いて、村の人達から拝借した火鉢を据える。かまくらのひとつに炬燵を誂え皆で集まり、鍋を囲む。
「芯までホカホカです」
 沢山遊んでちっちゃな頃を思い出しましたとルンルンが言うと、明日はもっと遊ぼうねと霰が笑った。熱々の鍋、雪の者達は少し冷ましながら食べている。
「これなあに?」
 出汁を取るのに使った昆布を珍しそうに見るのは小雪。山育ちの雪ん子達にとって、海のものは珍しい。雹は平目が気に入ったようだ。鐶が豆腐を黙々と食べている。雪ん子達の給仕をしていたサリに白菜を勧められて、素直に椀へと取った。
「三人の子供がいるなんて、実は肝っ玉母さんなのですね」
 鍋で一献傾けるのは水穂。於雪にも酌をしながら自分も杯を重ねる。
(「いずれは俺も親父になんだろうな‥‥」)
 子供達と、穏やかな母の顔をしている於雪の姿を恋人に置き換えて、崔軌は将来に思いを馳せた。

 酒宴はまだ続いていたが、呑まない者達は食後のおやつへ移行している。
「氷菓子を配ろうか」
 カノンが椀に雪を盛った上からサクラの蜂蜜をかけたものに、匙を添えて配ってゆくと、子供達の間から歓声が上がった。
 鍋料理の後の口に、ひんやりと甘味が解けてゆく。冷えすぎたなら甘いお菓子で綻ばせて。かまくらの明かりは夜遅くまで灯っていた。

●ゆきだるま
 翌朝。雪ん子達は至って元気だった。
「「「ゆきだるまー!」」」
「ちびっ子共、其処は『おはよう』だろ?」
 崔軌が笑って出迎えた。ルンルン始め、冒険者達もまだまだ元気だ。
「さぁ今日も思いっきり遊んじゃいますよー!」

「さて、今日は雪だるまの仕上げだが‥‥仕上げ権は雪合戦による争奪戦だ」
 途中で言葉を切ったカノンは、事も無げにさらりと言った。
「「「そうだつせん???」」」
「そーですねー。お顔の表情、誰が作るかを雪合戦で決めましょうなのですよ」
 水穂が補足して、その重要さを理解した雪ん子達は俄然やる気を出した。
 何故なら、この雪だるまは‥‥

 かまくらや雪だるまに当たらないよう合戦場所を決めて、雪玉による戦闘開始。
「パックンちゃんGO!」
 ルンルンの忍法炸裂!大ガマのパックンちゃんに雪玉用の雪を集めさせる。その傍らではペンギンのジィヤが‥‥
「雪ん子ちゃん達に遊んでもらえて、ジィヤも嬉しそうですね」
 ‥‥いや、雪玉の集中砲火を浴びているように見える。雪ん子達の側では鐶がせっせと雪玉作りで援護して。
「ほれほれ、当てられるモンなら当ててみな」
 自称大人げ無い三十路目前、崔軌が雹の前に立ち塞がる。己の腕は後手に、自ら枷を負うのが武道家の矜持。ひょいひょいと避けられて悔し涙を浮かべ始めた雹の顔につい怯んだのが運のツキ、霰と小雪の加勢で盛り返した雪ん子達に無茶苦茶に雪玉を投げつけられて沈む。
「こら、墜ちた後は加減しろー」
 子供の力は容赦ない。父の予行練習は、なかなかに厳しかった。
 雪ん子達に甘い水穂は反撃の暇もなく倒れた。サリの雪玉のルプシノンノと狐のイピリマ、ルンルンの忍犬Hi-ビスカスは楽しげに雪原を駆け回っている。サリは水穂の翡翠と崔軌の去夜と共に、そんな様子をにこやかに眺めていた。
「では私が相手だ」
 次なるはカノン。雪ん子達の状態を見ながら、適度に避けたり当たったり。
「ああ、こんな所に穴が」
 最後はわざと体勢を崩した振りをして、勝ちを譲った。

 雪だるまは雪ん子達が協力して仕上げる事になった。勿論、冒険者側の配慮による誘導なのだが、雪ん子達は大得意で雪像を作っている。
 雪像は雪ん子に任せ、一同は別の物を作り始めた。それはルンルンの子供の頃からの夢。大きな大きな雪の滑り台。
「「「「できたー!」」」」
 子供達は雪像を、冒険者達は滑り台を。皆、満足げに完成物を見上げる。
 大きな大きな、雪女の像だった。於雪を模した、優しげで怒ると怖い母の姿。
「すごいね、お母さんだね」
 サリが褒めて、帽子やエプロンを小雪に手渡す。どんなお母さんになるかな?と水を向けられて、雪像に箒を持たせた。

●また会う日まで
 サリの横笛に合わせて子供達が踊り、ルンルンと滑り台で遊ぶ。心地よい疲れに満たされた頃、別れの時がやって来た。
「何だか‥‥眠くなってきちゃった‥‥」
 霰が小さな欠伸をしたのを切欠に、欠伸したり目を擦ったり。
「そろそろお暇しなくては」
 礼を述べる於雪に、カノンは此方こそ世話になったと応えた。良く眠れますよと小雪に香袋を手渡すのは水穂。崔軌は愛情たっぷりに霰と雹の頭を両手でくしゃくしゃ撫で回した。
「また会おうね」
 皆の優しさに送られて、雪ん子達は春の眠りに就いたのだった。