【富籤屋】猿真似
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■イベントシナリオ
担当:周利芽乃香
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:5
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:03月29日〜03月29日
リプレイ公開日:2009年04月11日
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●オープニング
●一念発起
「なァお蓮、俺ァ考えたんだ」
「‥‥銀さん、私はお蓮じゃないンだけど‥‥」
やたら馴れ馴れしい男を前に、ギルドの女性係員は困惑していた。
目の前の男は銀次と言う。冒険者を自称しているが、江戸ギルドに彼が依頼を請けた履歴は残されていない。いつも出涸らしの只茶を片手に駄弁って帰ってゆく調子の良い人物で、何故か憎めぬ人懐っこさがある。いつしか周囲に馴染んでしまい、人は彼を『遊び人の銀さん』と呼んだ。
「‥‥で、何を考えたのよ」
自分を何処ぞの女と混同しているらしい男、訂正するの諦めて、係は銀次の話を聞いてやる事にした。
「博打ってェのはな、最後にゃ胴元が勝つ仕組みなんだよ」
「‥‥はぁ?」
ちっとも意味が解らない。
「わっかんねェかなァ、胴元になれりゃ大儲けって寸法よ」
銀次は、一呼吸置くと不敵に笑ってみせた。
「俺ァ富籤屋を始めるぜ」
●一石二鳥
富籤とは、寺社が普請費を捻出する為に行う集金方法の一種である。富札と呼ばれる木の札を売り、抽選日を設けて富札から当たりを出す。寺社は富札の販売収益から賞金を出し、残りを普請費に充てるのが一般的であった。
一瞬、係は罰当たりと言いそうになった。銀次は寺社関係者ではないはずだし、そもそも個人単位で興行するようなものではない。たかだか思いつきで、お布施の真似事などとは如何なものか。
彼女の不審な顔などお構いなしで、銀次は話を続ける。
「‥‥でよ。手伝いを頼みたいんだ」
漸く依頼らしくなってきた。黙ったまま係は筆を手に取る。
「富札を作って、その足で抽選だ」
「待って、話が飛び過ぎ」
「あーまどろっこしィな‥‥」
思いつきの戯言に付き合わされて間怠いのは此方の方だと言いたいのを我慢して、係は根気強く依頼内容を書き留めた。
『御手伝人募集』
富札製作。一人十枚以上。
報酬は、製作した富札による抽選とする。
・一等:四桁全て合いし札『金10G』
・二等:下三桁合いし札『金5G』
・三等:下二桁合いし札『金1G』
・四等:下一桁合いし札『金10C』
「こっちも商売なんでな、抽選には参加費をいただくぜ。1組につき1Gな」
「そんなに上手くゆくものかしらねぇ‥‥」
依頼書を纏めるのに掛かった時間は半刻。色々突っ込みたい部分はあったが、疲れ果てた係は『尚、抽選参加には別途料金が必要』と朱文字で書き添えて、それ以上問う事は放棄した。
●リプレイ本文
●一同到着
「富籤ねぇ、面白そうだよね〜」
純真無垢この上ないジェシュファ・フォース・ロッズ(eb2292)は、楽しげに妹の手を引いた。
求人の張り紙を片手に、妹――エリザベート・ロッズ(eb3350)は気が進まない様子だ。
(「富籤だなんて‥‥胡散臭いのに」)
疑う事など欠片も無い兄に、妹は溜息を吐く。
一見して姉と弟に見えるこの二人、兄はエルフで妹はハーフエルフである。共に外見よりも年齢を重ねている二人だが、精神年齢は外見に比例しているようだ。兄に従う妹は、実は兄のお目付け役なのかもしれない。
そんな二人の後ろに続くのは鷹碕渉(eb2364)、種族は人間――だが、童顔で、二十歳過ぎには見えない初々しさ。依頼内容に胡散臭さを感じてはいるものの、困っている人は放って置けない根の優しい人物だ。
運試しだと、さらりと言ってのけるのはオラース・カノーヴァ(ea3486)、藤枝育(ec4328)も富籤に参加する。
「‥‥ここね」
エリザベートが記載の地図と真新しい富籤屋の小屋を見比べて言った。
自分で作って自分で引く富籤。さて、如何に。
●一切合切
「お、来たねェ」
当の依頼人、富籤屋銀次は、まるで他人事のように出迎えた。
白木の香る真新しい小屋の内部は全く手が入っておらず、銀次の周りには無地の木札が積みあがっている。
木札に囲まれた銀次は手遊びに矢羽を玩んでいた。矢羽の先には千枚通しのような太めの針が取り付けてある。銀次の足元に転がっている的へ投擲して当選番号を決める趣向のようだ。
「おいおい、丸投げかよ」
一万枚の富籤作成と開店準備、全部冒険者に肩代わりさせるとはさすがに虫が良すぎるだろうと、オラースが思わず突っ込むと、銀次はへらりと笑ってみせた。
「大丈夫さね、綺麗処が手伝いに来てくれるからよ。ま、適当に札取ってくれや」
暫くして、恋人なのか女友達なのか判らないような女性達がなだれ込んで来た。一気に姦しくなる店内に思わず耳を塞ぎたくなるが、とりあえず開店準備は彼の女友達に任せて良さそうだ。冒険者達は木札の山を取ると、思い思いに番号を書き付け始めた。
最も多く木札を取ったのはジェシュファ、二千枚を書き付ける。エリザベートと渉が五百枚、オラースと育が百枚だ。
銀次言う所の綺麗処達は明るく賑やかで人懐っこく、お茶菓子を摘みながらの作業は和気藹々と進んだ。その間、銀次が何をしていたかと言うと、少し目を離すとサボりサボっては女に怒られるの繰り返しで、終いには行方知れずになる有様。
ジェシュファが最後の木札を書き上げた頃に戻って来た銀次は、そこはかとなく白粉の匂いを漂わせていた。
「おう、皆お疲れさん」
この日一番働いていない男が、抽選を始めるぜと偉そうに言った。
●一擲千金
「へえ、さすが冒険者。豪気だねェ」
一度に十組、10Gをぽんと出すオラースに、銀次はニヤリと笑う。
だが、その余裕の笑みも、渉の五十組には引き攣った。
「‥‥ほ、本当に買うのかい‥‥?」
「はい、買いますけど?」
胡散臭いとは思いつつもつい手助けしてしまう渉の人の良さが、作成分全ての札を選ばせる。
「‥‥そ、そっちの兄ちゃんは‥‥?」
ジェシュファが作成分全てを買えば200Gだ。銀次の声が震える。
「そんな事はさせないわ。それと、私は籤を買いませんから」
え〜、と不満げなジェシュファを抑えてエリザベートが釘を刺す。結局ジェシュファは三十組を購入、これでも充分に高額購入だ。
育が選んだ札を見て、銀次はおや、という顔をした。
「姐さん、『九九九九』は連番にならねェぜ」
思わず育の胸元に目が行った銀次、仕方ねえなと育の札を一枚、無料にした。
綺麗処達が整えてくれた店内の奥に据え付けられた的へ、離れた位置から矢羽を投げる。さすがに外れる事はなく、矢羽は的へ吸い込まれて行った。
「『0』『2』『2』『9』‥‥っと」
銀次は己の勝ちを確信した。
冒険者達から巻き上げた金子、しめて99G、全て己の手元に入ると思った。
たっぷり間を置いて、余裕の表情で購入者達を見遣ると――
「勝ち、だな」
「当たったよ〜!」
オラースとジェシュファが『零二二九』の札を手にしていた。
「ちょっと待て!何で札が被んだよ!」
当たり前である。
銀次は『適当に札を取れ』と言った。担当の番号を決めずに、各々任意の番号を書き付けたのだから重複しない方がおかしい。
「胴元さんよ、お前の不手際だ。仕切り直しはなしだぜ?」
今度はオラースが銀次にニヤリと笑いかけた。
●一件落着?
「‥‥てェ訳なんだがよ」
銀次がギルドで駄弁っている。先日の依頼の件、という名目だが殆ど世間話だ。
「やっぱ胴元はいいよなァ、借金返してまだ釣りが出たぜ」
地に足付いていない依頼人は、暢気に出涸らし茶を啜る。自らの職務を忠実にこなしつつ、係は「本当にこの商売続けるの?」と尋ねた。
「ああ。冒険者は上客だ。こんないい商売はねェ‥‥っと、俺ァ稼ぎで一仕事してくるぜ。じゃあな、お滝」
上機嫌でギルドを後にする銀次を見送って、お蓮でもお滝でもない係は疲れ切った様子でこめかみを押さえたのだった。