【ジャパン歳時記】満つ月に豊穣を祈って

■ショートシナリオ


担当:周利芽乃香

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 9 C

参加人数:9人

サポート参加人数:3人

冒険期間:09月08日〜09月13日

リプレイ公開日:2009年09月16日

●オープニング

●観月
 空澄み晴れ渡る秋の夜、薄を飾り供物を捧げて満月を愛でる風習がある。地方により満月法会や栗名月などとも呼ばれるこの風習は、秋の実りを捧げ収穫を祝う祭りでもあった。
 尤も‥‥収穫しなければ祭は始まらないのだが。

「そろそろ採れ頃じゃのう」
 年老いた村長は、ふうと息を吐いた。
 江戸から徒歩半日少々で辿り着く場所にある某村は、都市部を好まぬ年寄りばかりが集う村である。何故か若者の居付きが悪く、皆、成年を迎えると次々江戸へ居を移し、顔を出すのは偶の帰郷のみという有様。
「若いもんは来てくれるかのう‥‥」
 そろそろ、田畑の作物が収穫の時期を迎えていた。
「先日、瓜を持ち上げたおタカさんがぎっくり腰になっとったの‥‥」
 村長は少し俯いた。
 村民は老い、だんだん力仕事が辛くなってきている。作付の際には何とかツテを辿って助力を頼んだが、今回はどうだろう。子の世代も老い、孫世代となれば縁も薄くなる。だんだん頼みづらくなっているのが実情だった。
「‥‥ふむ。冒険者の方にお願いするか‥‥与平に使いを頼もうかの」
 村長は、老猟師の与平を呼んだ。

「‥‥という訳じゃ」
「‥‥訳、と言われましても‥‥長、農作業の為に冒険者の方々をお呼びするんですか?」
「そうじゃが‥‥何ぞ悪いかのう?」
「冒険者殿達は農夫ではありません!」
 好々爺の笑みを浮かべてへらへらしている村長に、与平は抗議した。力仕事を頼みたいなどと‥‥それでは便利屋ではないか。
「ならば‥‥こう言うがいい」
 与平は身構えた。この展開、何だか身に覚えがあるような気がする。
 村長は与平に『妖怪が出て、村との行き来が途絶えています』依頼の名目を与えた。

●そして、やっぱり
「‥‥出たッ!!」
 命からがらギルドに飛び込んだ与平は、息も絶えだえに助けを求めたのだった。
「今度はっ!山鬼が出た!‥‥助けてくれ!!」

●今回の参加者

 ea1181 アキ・ルーンワース(27歳・♂・クレリック・人間・イギリス王国)
 ea2562 クロウ・ブラックフェザー(28歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea6130 渡部 不知火(42歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb4757 御陰 桜(28歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ec0097 瀬崎 鐶(24歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ec0828 ククノチ(29歳・♀・チュプオンカミクル・パラ・蝦夷)
 ec4507 齋部 玲瓏(30歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 ec5098 入江 宗介(46歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ec6207 桂木 涼花(27歳・♀・浪人・人間・ジャパン)

●サポート参加者

ゴールド・ストーム(ea3785)/ フィニィ・フォルテン(ea9114)/ 渡部 夕凪(ea9450

●リプレイ本文

●嘘から出た真
 老人の尋常ならざる状態に、一体何事かと見遣るギルド内の面々。皆の視線を集めてなお興奮冷めやらぬ与平を聞き覚えのある声が呼び止めた。
「あらま、与平さぁん♪」
「‥‥わ‥‥わわわ渡部殿‥‥ッ!今度はやま、山鬼が‥‥ッ!」
 いまだ落ち着かぬ与平に呼ばれた渡部不知火(ea6130)、老人を生暖かく出迎えた。
「 ま た ? 」
 絶妙な間合いでの突っ込みは、与平と面識あるが故。あの時は確か――
「で、今度はナニシようとしたらナニが出たワケ?」
 御陰桜(eb4757)の問いも意味深だ。与平は何をしようとしたのだろう。近付き、お懐かしゅうございますと丁寧に頭を下げた齋部玲瓏(ec4507)が引き取って問うた。
「与平さまがいらしたとなると、また何か村のお祭りでもあるのでしょうか?」
 冒険者達に言い当てられて、与平は口をパクパクさせて頷いた。

「えっと、つまり‥‥農作業で呼ぶのが申し訳ないんで建前つけたら、本当になったって事?」
「「「「そう」」」」
「‥‥無事で、なによりでした」
 騒がしい再会がひと段落ついて、アキ・ルーンワース(ea1181)が事情を確認する。与平と旧知の三名に一斉に頷かれ、ある意味凄い事情に呆れ気味。
「はあ‥‥嘘が真になる、と。それはまた‥‥」
 何と申して良いのやら、と続きそうな雰囲気で桂木涼花(ec6207)も加わった。
 瀬崎鐶(ec0097)は友人の桜を見つけて寄り添うと、与平に会釈した。ちょっと買い物シてくるわねと、桜は鐶を連れて出発までの時間で買出しに向かう。
「山鬼退治か。収穫の時期だしな、そんなの居たら大変だろ」
「ふむ、山鬼か‥‥折角の作物が荒らされたら大変だ」
 時は実りの季節。収穫を前に山鬼に獲られては村人の生活も成りゆかなくなるというもの、クロウ・ブラックフェザー(ea2562)はサクッとやっちまうかと話に加わり、ククノチ(ec0828)は一刻も早く退治せねばと思案を巡らせた。
「そりゃ難儀な話だ。一肌脱がせて頂きやしょ」
 山鬼討伐の話を聞いて、入江宗介(ec5098)も加勢を申し出る。

 準備の整った一行はフィニィ・フォルテンに見送られ、どこかのんびりした風情で村へと向かう。
 まだ人死にが出た訳でなく待っているのは村長だ。とは言え警戒は怠りなく、与平を護るように囲んで進んでいった。
 与平が山鬼に遭遇した辺りで宗介が先行した。暫くして街道脇の茂みに目を向けていた不知火がアキに目配せ、探知魔法を使うと間違いなく何らかの生物がいるようだ。
「皆、気をつけろ!山鬼だ!」
 茂みに近付き正体を確かめたクロウが、横薙ぎに飛び出した金棒を避けて飛びのいた。
「かち合ったのがその身の不運、きっちり退治させて頂きます」
 涼花と不知火が茂みへ駆けた。茂みから半身を出した山鬼の背後を取るべくクロウは回り込む。術者は姿を現した敵に一斉攻撃。
「この面子だと相手にならないわねぇ」
 そんな桜の呟きと共に、山鬼を埋葬したのだった‥‥が。
「‥‥『依頼』は果たせたし、安心して村に報告、できますね」
「これで依頼終了って事で良いのかな?」
 アキの意味深な言葉を、クロウは依頼完了の合図と受け取った。江戸へ踵を返しかけたクロウを慌てて留める一同。
「ん?まあ、村の人に説明が要るなら村まで行くけど」
「そういう事じゃないのよぉ」
 これから向かう村の長にまつわる逸話を語り、不知火は「色々大変ねえ‥‥ホント」と結ぶ。ここに及んで事情を知ったクロウは脱力。いつしか戻った宗介も合流し、本当の依頼を果たすべく村へと向かったのだった。

●秋の実り
 小柄な体に襷掛け、日除けには市女笠。
 種族の特徴でもある身長と相まって少女のようであった。村の老女達が愛らしいと褒めそやすのを頬赤らめて聞き流し、ククノチは収穫の手伝いをする。お連れ様なれば遠慮なさる事はないと、快く迎えられたキムンカムイのイワンケも一緒だ。
「イワンケ殿」
 声を掛けるとククノチの求めるものを察して彼女を持ち上げた。背の低いククノチもイワンケと力を合わせれば木の上にも手が届く。水精霊のワッカを従え、黄金の神熊に乗り恵みへの感謝を捧げて収穫する娘の姿は微笑ましく、また神々しくもあった。
 その側の畑では不知火とアキ、ボーダーコリーのしろくろ。
 動きやすい服装になり村人から作物の説明を聞いたアキはせっせと瓜を採る。
「とりあえず、そこ置いといてねん♪」
 畑の土を起こしていた不知火が声を掛けた。足元に寄ってきたしろくろをちょっと撫でて薪割りへ。
「‥‥牛蒡、掘るの?しろくろ」
 収穫しやすいよう不知火が起こした土には、牛蒡と人参が植わっている。舌を出して見つめてくるしろくろは笑っているように見えて、何だか楽しそうだ。
(「とんでもないことになりそうなら、止めればいいか‥‥」)
 「よし」の返事を貰ったしろくろ、後脚で少し土を蹴上げた所から出て来た牛蒡の根を銜えた。うーんと引っ張るとするりと抜ける。けれど少し牛蒡の方が長かったようで、アキはさりげなく介助してやった。
 笊を片手に大豆を収穫していた玲瓏の横で戯れるは精霊二人。玲瓏と同じように収穫してみたい陽精霊のうらやすは、小さな体全体を使って両手で莢をもぎ取って。
「とれた」
 誇らしげにぎゅっと抱き締める仕草が愛らしい。月人のとこわかは両手で持っていた笊を地面に置いて、収穫しては笊を持ち。玲瓏が採った大豆を入れて貰ってご満悦のようだ。二人の様子に微笑みながら、次は掃除をしようと玲瓏は考える。床磨きも年配者には辛そうだ、高い場所は二人に手伝って貰って。

 茄子を採り終えた涼花は、他の収穫物と一緒に畦で待たせていた汗血馬の紅葉へ載せ、村長宅へと向かった。壊れた農具を集めて、臨時の鍛冶屋を営業開始。手際よく修理してゆきながら、老人達と世間話に興じる。
「佳きことばかり口にしては?」
 何故か嘘が真実になってしまうという村長に提案した。瓜を積んだ荷台を運んでいた不知火が近くを通りかかって提案に賛成。
「そうそ、瓢箪振る時良い事を思い浮かべればいいのよん」
「よいこと、のう‥‥」
「一定の日を定め、こんな事良いな、出来たら良いな♪を宣言するのです。皆さん、あんな夢こんな夢一杯あるでしょう?」
 言った事が真になるのでしたら良い事が真になる方がいい。涼花の提案を聞いて、村長宅の縁側で繕い物をしていたおタカ婆が「なるほどねぇ」納得した。
「娘さん、良い事を仰る。ええ、あたしは感激しましたよ」
 耳は紛失してしまったけれど、と繕ったばかりの衣服を押し付けられた。礼のつもりのようだ‥‥
「さあて、雨漏りしてる所はないかしら。折角若造の手があるんですもの、こき使って貰わなきゃ♪」
 自分で言って、やぁだと照れる不知火だが、この村では充分に若者だ。ではお言葉に甘えてと村人に引っ立てられて行った。
 ちなみに、この村では四十を数えても若者扱いされる。
 与平と共に村中を駆け回ってあれこれ手伝っていた世話好きの宗介、ふと我に返って考えた。
 何で我輩こんなに働いているのだろう‥‥?もしや、こちらの方が依頼だったのでは!?

(「危険な足跡はないな」)
 山へ向かったクロウは今の時期に遭遇しやすい冬籠もり前の熊、その他狼など猛獣の形跡がないかを確かめる。
「フォルスタン、あんまり採り過ぎるなよ」
 周囲に冒険者以外いない山、イガから顔を出した栗を拾っているケットシーのフォルスタンに話しかけた。この山にも生物がいる、彼らの食べ物を分けてもらっているのだという思いと共に、栗拾い。
「鐶ちゃん、イガを両足で分けるように踏んだら綺麗に割れるんだったかしら?」
 熟したイガを鼻先で押しやり寄越して来る桃から受け取って、桜は鐶に尋ねた。集めた栗が落ちないよう背負い籠に麻袋を敷いて、身につけていた刀を籠に突っ込んだ鐶はこくりと頷いて、黙々と拾い始める。
 栗以外の山の幸は茸とマタタビがあるそうだ。マタタビは果実酒にするしかないが、食べられる茸は採って戻ろう。
 やがて山菜採りにやって来たククノチ達も加わって、程なく大きな背負い籠を満たしたのだった。

●栗名月
「他の料理も、これくらい簡単ならイイんだけどねぇ」
 そんな事を言いながら桜が作ったのは白玉団子、形良くつやつやしていて美味しそうだ。綺麗に盛り月見棚に供える。
 玲瓏が誂えた月見棚は薄と秋の七草をあしらった品の良いもので、夕空にとても良く映えた。月が出れば尚の事美しいに違いない。
 ククノチが料理を運んできた。栗おこわに焼き茄子、瓜と茸の味噌汁、人参・大豆・牛蒡で煮物まで作っている。炊き上がりの一膳は月へのお供えと、そっと棚へ差し出した。
 月の美しい場所を探した鐶は、ぽつりと古の歌を口ずさんだ。
 帰ったら改めて月を見よう、今度は恋人と一緒に。愛しい人を心に思い描く。
 巴里でも栗おこわを作りたいと言うククノチに、おタカ婆は快く材料を分け、自慢の梅干の壷を添え「またおいで」孫に対するように愛おしんだ。

「村のみなさまのご健康、ご長寿を願って‥‥」
 月の下り酒を杯に注ぎ、玲瓏は皆の幸福を言祝いだ。
「まん丸で綺麗なお月さまねぇ♪」
 浴衣に着替えた桜の姿に、村長は又も鼻の下を伸ばしてご機嫌だ。美味しい料理に酒も少々。アキは杯を手にのんびり場を楽しみ、宗介と涼花は秋の味覚を堪能する。
 談笑し興が乗ってきたクロウは横笛を取り出し奏で始めた。そこへククノチが豊穣を願う舞いを合わせて。
(「酒の肴にゃ、最高だ」)
 心中本来の自身に戻り、月を愛でつつ不知火は杯を傾ける。その名の通り甘露よと喜ぶ村長には「労働力は、ご褒美で釣ると早いわよ」とこっそり。
 村長に酌をしていた玲瓏は悪戯っぽく囁いた。
「月を移せば変若の水に変わるかもしれません」
 注がれた杯の中で、月は空に違わず美しく輝いていた。