【ジャパン歳時記】冬至に湯治で無病息災

■ショートシナリオ


担当:周利芽乃香

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 39 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月25日〜12月28日

リプレイ公開日:2010年01月13日

●オープニング

●冬至
 寒さが一段と厳しくなってくる年末の頃、日の陰りが最も早い時期に行う習俗がある。その日人々は柚子湯に入り小豆粥を食して無病息災を願う。
 尤も‥‥風呂を沸かすという事は大変な重労働であったのだが。

「寒うなってきたのう」
 年老いた村長が小さく身震いをした。鼻の穴に汁気を滲ませていたりなどするのが何とも侘しい。傍にいた猟師の与平が慌てて綿入れを掛けてやった。
「長、風邪引かんでくださいよ」
「そうそう、あたし達に感染されちゃ堪りませんからねえ」
 茶飲み友達は容赦ない。ほほほと笑ったおタカ婆が、村長の湯呑みに熱い茶を淹れ直してやる。
 ずずずと渋茶を啜って落ち着いた村長、熱い風呂に入りたいと言い出した。
「そろそろ冬至じゃしのう、柚子湯なんぞ温もるでの」
「ああ、そりゃよいですねえ」
「‥‥それで、誰が沸かすんです?」
 爺婆を現実に引き戻した与平は「お前だよ」の視線を浴びる事になった――

 閑話休題。風呂を沸かすという行為は、なかなかの重労働である。
 まず水を汲まなければならない、それも大量にだ。更に火を起こし、水を湯に変えねばならぬ。入るは極楽、しかし準備するは大変な事で、入浴の接待を受ける事を『ご馳走』や『呼ばれる』などと表現するのは、そこから来ている。
 江戸から徒歩半日少々で辿り着く場所にあるこの村は、都市部を好まぬ年寄りばかりが集う村である。若い者達は皆、成年を迎えると次々江戸へ居を移してしまう。年寄りと空き家ばかりが残っている村で、言葉通り『風呂を沸かし』ているのは村長くらいなものであった。

 さて、窮地の与平。
「そ、そうだ、冒険者殿達をお招きしましょう」
「‥‥お主からその言葉が出るとはのう」
 冒険者ギルドへ依頼を出す事を進言した与平に、村長はお株を取られたのうと、へらりと笑った。
「ならば‥‥」
「長、待った!」
 村長に名目を作らせないよう即行で制した与平、続きも聞かず江戸へ向かってさっさと飛び出して行った。
「わし、何も言うとらんがのう‥‥」

●柚子の香り
 所変わって――江戸は冒険者ギルド。
「懐かしいよなァ、去年は掃除に来てもらったっけ‥‥」
 柑橘類の香りの中、感慨深げに受付で係と談笑しているのは、銭湯『佐之湯』の主・佐野助だ。
「あはは、随分大変だったみたいですね〜」
 過去の書類を流し見た係が笑う。
 この男、江戸の街の衛生面を担うには少々問題があるような、大らかを通り越してズボラ過ぎる性格をしている。かつては大掃除だの湧いた油虫駆除などに冒険者達を巻き込んだものだが、最近はそういった依頼は持って来なくなっていた。
「‥‥で、遂に油虫に乗っ取られましたか?」
「失礼な!うちはまだあるぞ!人ォ雇ったんだよ!」
 相変わらず嫁の来手はないが従業員は来たらしい。人手が増えた事で、まともな銭湯として営業できているようだ。
 湯の番を任せて、冬至用の柚子を買い付けた帰りにギルドへ寄ったのだと言う。この男、今年は平穏無事に年を越せそうである。
「‥‥お、お客さんだぜ」
 ギルドの敷居を跨いだ与平を認め、佐野助は受付の端へ寄った。

 柚子の香りが漂うギルド内を良い香りですなと微笑んだ与平は、応対に出た係へ用向きを話した。
「風呂を沸かすのに人手が要る‥‥と」
 帳面へと筆を走らせる係。二人の遣り取りを見るともなく眺めていた佐野助は、老人の依頼が冬至の柚子湯準備である事に気が付いた。
「横からすまねェな。爺さん、柚子湯沸かすんだろ?持って行きな」
 多過ぎるほど買い込んだのだ、銭湯の湯船に浮かべれば数個減っても変わりないからと、佐野助は与平に柚子を譲ってやる。
「なんと‥‥これは忝い」
「いいって事よ。それで長生きしてくんな」
 手伝いが集まるといいなと与平に笑いかけ、江戸の男は街へと消えて行った。

●今回の参加者

 ea0592 木賊 崔軌(35歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea1542 ディーネ・ノート(29歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea3502 ユリゼ・ファルアート(30歳・♀・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 ea6130 渡部 不知火(42歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb2886 所所楽 柚(26歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb3310 藤村 凪(38歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ec4507 齋部 玲瓏(30歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 ec6207 桂木 涼花(27歳・♀・浪人・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●妖怪は出ません
 人々が忙しなく行き交う師走とてギルドは開いており、足を運んで来る冒険者も少なくない。
「あらまあまあ、与平さぁん♪」
 人手が欲しい与平に旧知の冒険者が気付いた。二度ならぬ三度目の邂逅、渡部不知火(ea6130)だ。ひらひら手を振り、近付いて来た彼は開口一番こう言った。
「‥‥で、今回は何に出くわした訳?」
 与平は首を振った。その様子がどことなく自慢げに見えるのが大人気ない。
「いや、今日は聞いて来なかった」
「あら残念」
「残念なのか?兄貴」
 事情を知らぬ弟、木賊崔軌(ea0592)が尋ねると、不知火と与平は真逆の反応を示した。片や生温く微笑み、片や全力で否定している。戸惑う崔軌へ、所所楽柚(eb2886)が口を添えた。
「崔軌にいさま、与平さんは色々と貧乏籤をお引きになる方なのですよ」
 命に関わる貧乏籤だったりするのだが。
 言いえて妙の説明に、与平と面識のある桂木涼花(ec6207)が、ふ、と吹き出した。
「今回は、貧乏籤を受け取る前にお越しになった‥‥と。では、道中に妖怪は出ませんね」
 村長の好々爺然とした様子を、次いで爺の茶飲み友達の婆を思い出す。青狸‥‥否、着ぐるみ猫を譲ってくれたおタカ婆は元気だろうか。
「‥‥でも、ちょおっと物足りないとか、なぁい?」
 ふうんと不満そうな不知火の言葉に、与平の顔が引き攣った。
 強張ったままぶんぶんと頭を横に振る彼に、不知火は人差し指を立ててイイ笑顔。
「冗 談、だけど♪」
 オネエなお兄さん、その笑顔は冗談言ってるようには見えないのだが‥‥?

「みなさまお元気でいらっしゃいますか?」
 齋部玲瓏(ec4507)は与平の応えを聞いて、御姿を再び拝見できるとは嬉しい限りですと品の良い微笑みを浮かべた。
 聞けば江戸の男が柚子のお裾分けをしてくれたのだと言う。
「まあ、佐之湯の‥‥柚子をくださったなんて、佐野助さまもお優しいのですね」
 ズボラだが人の良い独身男を思い出し笑顔を見せる。
「柚子湯‥‥知ってるわ。凄く良い匂いなんでしょ?」
 イギリスに居を構える冒険者、ユリゼ・ファルアート(ea3502)がジャパンの風習に興味を見せた。国外にもジャパンを模した場所がある。巴里の京都村がそれで、そこの薬湯に使えるのではと考えたらしい。
「ふむふむ」
 興味深く話を聞いているディーネ・ノート(ea1542)、ジャパン在住の友人達から柚子湯の話は聞いていたものの、実際に遭遇するのは初めてだ。
「柑橘類と一緒にお風呂に入るって、面白い習慣よね」
 確かに、その説明から想像する図は面白い光景かもしれない。しかも件の村人は老人ばかりで普段は風呂を沸かせず行水は盥に湯を張っての事だとか。
「‥‥今の季節、寒空の下で行水は応えるでしょうからね。よっしゃ、手伝ってあげやうじゃない♪」
 異国の魔術師は指をぱちんと鳴らして、快く協力を申し出た。
 そんな訳で、柚子湯を用意するという、与平にとって有難い人手が集まったのであった。

●ぬくぬくのために
 村長の妖怪発生譚を与平が聞いて来なかったお陰か、道中至って平和に安心した旅路となった。
 のんびりと風景を楽しみつつ徒歩半日で到着した村は、若い賑わいこそないものの何処か懐かしい雰囲気を漂わせる里である。

 村の老人達に喜んで迎え入れられた冒険者達は、早速手分けして風呂の準備に取り掛かった。
 まずは風呂の破損状況を確認しなくてはなるまい。鍛冶の心得がある涼花を中心に、女性陣が各家庭を回る。
「お風呂の状態を見せていただけませんか?」
 洗って使えるなら良し、朽ちていれば修繕して再生しますと声を掛ければ、どの家も喜んで様子を見せてくれた。
「村長さん宅のお風呂を皆さんで交代に使うとしたら、きっと沢山時間がかかってしまいますものね」
 柚はそう言って、破損程度を分けて集計してゆく。
 その場ですぐに直せるものは涼花が修復し、少し手間が掛かりそうなものは後回しにする。皆が凍えないようユリゼは焚き火を誂える。
 そのまま使えそうな風呂は綺麗に掃除を。ディーネが束子を手に、水を掛けながら釜を擦り上げていった。
 ごしごし。
「汚れって、確か簡単に落とせるばーちゃんの知恵袋みたいなのなかったっけ?」
「「んんー」」
 何だっけ?
 ごしごしごし。
「確か‥‥」
 ごしごしごしごしごし!!‥‥‥ごし‥‥ごし‥‥
 全力で擦り上げていたディーネの精神が疲弊し、滅びかけている‥‥
「‥‥すいません。それを教えて貰えると、ものっそ捗るんでお願いしたいデス。はい」
「柑橘類の皮で磨くというようなものでしょうか?ですが‥‥柚子は使えませんね」
 玲瓏は小さく笑って、家々から蜜柑の皮を集めて来た。かつて佐之湯の酷い汚れを掃除した時の事などを語りつつ、強めの酒を布に含ませ黴を除去したり手際よく掃除を続ける。
「せっかくですから湯船に浮かべる用以外にも柚子を分けていただきましょう」
「ゆずたべるの?」
「ゆずおいしい?」
 主が何か素敵な事を考えている。玲瓏の口調から何か予感したのか、彼女の精霊達――うらやすととこわかが、ご機嫌な様子でくるりと回ってみせた。

 一方、不知火と崔軌は大八車に樽や桶を積んで水汲みだ。不知火の戦闘馬・群雲と涼花の汗血馬・紅葉を引いて、川へ向かう。
 背に水桶を乗せた忍犬のゆうは柚のお供。火精霊のまいが手伝うように水桶を後ろから支えている。自身も水桶を運びながら、柚は供達に話しかけた。
「後で盥を借りて、あなた達を汲み湯のお風呂に入れてあげられるよう頼んでみますからね?」
「おふろでぬくぬくー」
「ぬくぬくー♪」
 着ぐるみクマのまいが歌うように口真似たのを、サンタ服の崔軌の月精霊・去夜が真似た。
 そう、みんなでぬくぬく温まれたらいい。風邪引く者が誰もないように、柚子湯を皆で分かち合おう。

 風呂の修理に薪や水の準備は皆で手分けして着々と作業は進んだ。
 充分に汲まれた水を湯に沸かす方法も独特だ。勿論従来の風呂を沸かす方法でも湯を沸かしたが、何と言っても冒険者には魔法を扱う者がいる。
「じゅっ♪」
 玲瓏のサンレーザーに合わせてうらやすも真似をする。微笑ましい真似っこに笑顔を見せて、ユリゼはヒートハンドを水桶に突っ込む。
「こればかりだと情緒がないけれど、大変な部分はいいわよね?」
 こっくり頷いた柚は湯で風呂を温めて汚れを落としやすくしながら磨く。鍛冶の心得があり器用に風呂を直している涼花を横目に、自身に心得がないのを口惜しく思ったりもするのだが‥‥
(「わたくしがせめてもう少し手先が器用だったら‥‥」)
 手先が器用、と言えば。姉の許婚は生業が罠職人、その兄も工作系は得意なはずだ。柚の助けを求める視線に兄弟が応じたのは言うまでもない。

●みんなでご馳走を
 水も湯も充分。丸ごと柚子をごろごろ浮かべ、注し湯用の湯も用意して。
 男女別に設えた風呂に村民達が順番に入り始めたのを見届けて、仲間に火の番を託した何名かが村内へ消えた。
 場所は違えど、考えている事は皆同じ。
「この村のお正月は、どんなにしてお迎えするのでしょうか」
 ――とは、玲瓏の言。
 時は年末、年越しの準備がまだであれば、芝や千代紙などで簡単な注連飾りでも作って家々に飾れればと思う。そんな彼女に崔軌が頷いた。
「年越し準備や冬支度が済んでないなら手伝わないとな」
 この村に住まうは老人ばかり。若い者と同じように難なく仕事をこなせる者ばかりではないだろう。日常生活の不便は、今の機会に少しでも解消しなくては。
 風呂釜点検に回った際に村人達の様子も確認している。少々気掛かりを思い出し、不知火が言った。
「さっき行ったおうちの人、動くのが難儀そうだったわねえ」
 外風呂を使うのは難しいだろうか。
 ならば出張すればいい。風呂介助の出来る面々が揃っているのだ。全ての人に柚子湯のご馳走を。不知火が出した出張盥柚子湯の提案に、皆は喜んで賛成した。

 一方、村長宅の庭。
「誰が、一緒に入るかぁ!?!」
 ディーネの突っ込みが村長に入っていた。が、村長全く懲りてない。若い者と一緒に入浴すると若返るとか、悪気全くなしで問題発言を発していらっしゃる。
 まだ言うかぁとディーネの指先が村長の頬に伸びるのを皆で押さえて、村長は与平とおタカ婆に叱られた‥‥が、やはり懲りていない。
「‥‥は、入れるなら最後に使うわよ」
 顔を真っ赤にしながら「勿論一人でっ!」そう付け加えるディーネである。
 玲瓏が戻って来た。小さな注連飾りをいくつか作ったのを持っていて、希望する湯上り老人達に分けている。暫くして茶の準備に立った。
「ほう‥‥これは良い香りですな」
 予め取り分けておいた柚子の皮を刻んで香りを茶に移す――玲瓏の気遣いに与平が顔綻ばせた。
 縁側では湯上りのおタカ婆と涼花がまったり徒然話。傍で涼花の風精霊・涼が神妙な顔して話を聞いていたが、飽きて風呂を覗きに行ったり玲瓏のいる厨へ行ったり。
 柚子の残り香を漂わせ、おタカは些か寿命が延びたようだと笑った。
「年越しねえ‥‥良かったら、ここで越して行きなされ」
 旅また旅の日々なのだと苦笑する涼花におタカ婆は滞在を勧め、ユリゼに肩を揉まれて心地よさ気にまどろみつつ、お布団干してあるよと婆孝行娘に囁いて。
 大切な預かり物をおタカ婆に届けに来たユリゼの周りにも柚子の香り。
 桶に湯を張った中にも柚子、三毛猫のアーモンドと黒猫のカシスがちょこんと座って温まっている。並んで入浴を楽しむゆうの周りで、まいが飛んだり柚子の香りを嗅いだり。村人全員が湯にご馳走を堪能した後は、冒険者達もご相伴に与って。

 やがて暖かな甘味を帯びた匂いがして来た。
 玲瓏が運んできた鍋は小豆粥。蓋を開けると兎餅が食べやすい大きさで浮いている。
 今夜は一年で最も夜の長い日。人々は慣習を通じて無病息災と幸福を願うのだ――