続:けだまぢごく

■ショートシナリオ&プロモート


担当:周利芽乃香

対応レベル:6〜10lv

難易度:やや難

成功報酬:3 G 80 C

参加人数:4人

サポート参加人数:2人

冒険期間:12月09日〜12月14日

リプレイ公開日:2008年12月14日

●オープニング

●こけつまろびつ
「も、もう‥‥うち、家へ帰れやしまへん!」
 初雪の積もった翌日、年配の女が怒り心頭でやって来た。
 この女、急斜面の頂上に住まいを構え、地歌の師匠を生業としている『お一人様』な身の上である。派手な小紋の上に着込んだ道行には泥混じりの雪がこびりつき、ふくよかな女の姿も相まって、ちょっとした出来損ないの雪達磨のようだった。
「まだ‥‥あれ、いてますやんか!!!」

 女の顔を一目見て、係はああ、という顔をした。
 住居近くの坂道に、すねこすりが出現したので退治して欲しいという依頼だったか。確かあれは‥‥冒険者が集まらず、そのまま放置になっていたのだった。
「あれ、子を産みますのんか?」
「すねこすり‥‥ですか?」

 すねこすりは夜道などに出没し、人の足元に擦り寄って転ばせては喜ぶ、はた迷惑な妖怪である。妖怪としての力は低い。毛並みが良い事から飼ってみたいと考える数寄者もいるようだが、知能が低すぎて躾けるには程遠く、実際に飼えるものではない。しかも子を産んだなど、聞いた事もない。
 係は真顔で詳細を尋ねた。
「どういう事ですか?」
「あれ‥‥その、すねこすりが、ぎょうさんいてますのや」

●毛玉地獄
 すねこすりが沢山‥‥それは通常、考えられない事態だった。
 何匹くらいかと尋ねると、判らないと師匠は言う。目視では数えられない程いるらしい。
 加えて、積もった初雪に紛れて、何処にいるかがわからない。冬場という事もあり日暮れが早く、頻繁に出没するようになったのだと言う。
 師匠も被害者の一人だろうか‥‥あるいは、慌ててギルドに駆け込む為に転げ降りて来たか。
 いずれにせよ、これから凍結するであろう急斜面で転ぶ事は大事故に繋がる可能性もあった。
「もう‥‥うち、暫く帰りとうおへん。暫く知り合いの御宅に厄介になりますよって、それまでに片付けておくれやす」
 風呂敷を抱えた泥混じりの雪達磨は、今度こそお頼みしますと頭を下げた。

●今回の参加者

 eb1422 ベアータ・レジーネス(30歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 eb2099 ステラ・デュナミス(29歳・♀・志士・エルフ・イギリス王国)
 eb9449 アニェス・ジュイエ(30歳・♀・ジプシー・人間・ノルマン王国)
 ec2418 アイシャ・オルテンシア(24歳・♀・志士・ハーフエルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

ゴールド・ストーム(ea3785)/ 御堂 楓(ec4466

●リプレイ本文

●けだま
「何でそれだけの数が集まっているのかしらね?」
 ドンキーのミーティスに荷物を乗せて、傍らを歩くステラ・デュナミス(eb2099)は、若干闘志が鈍る相手だけど、とひとりごちた。
「今回こそもふもふs‥‥じゃない、退治してみせますよ!」
 本音と建前を交錯させながら、アイシャ・オルテンシア(ec2418)が気合を見せた。戦闘への気合か『すねこすり』という初めて遭遇する妖怪の姿を想像しての事か‥‥とりあえず目的地へ行ってみましょうと、歩を進める。
 銀の髪に白い肌。静かに付き従うベアータ・レジーネス(eb1422)は、華奢な容姿も相まって一見少女のようだが歴とした成年男性だ。共に歩くアニェス・ジュイエ(eb9449)は、自分の生業柄か依頼人に思いを馳せる。
(「地歌のお師匠さん‥‥そりゃ、転んで手首でも傷めた日には、商売上がったりだわ」)
 途中で、アニュスが滑りにくい履物を見繕って来ると言って姿を消したので、一行は現場の坂下で落ち合う事にした。

●げんば
「これは‥‥」
 急斜面を見上げて、アイシャが思わず声を上げた。ステラから受け取った投網を手に、息を呑む。
 広く、長い、坂道だった。まだ日があるうちは大丈夫だろうが、夜道で転べば大変な事になりそうだ。
「人通りもないし、寄ってくるらしいから、まずは探敵から始めましょうか」
 ストーンウォール何枚分だろう。囲い込むにしろ、敵位置を‥‥と、ベアータは数分間、坂を見上げる。
「かなり点在している‥‥4・50体くらい、いそうだ」
 点在の状況から、囲い込む為の壁を作るには相当の魔力を要しそうだと判断し、5日間で地道に捕獲・倒す作戦に切り替える事にした。

 アニュスが人数分の履物を手に合流した。皆に手渡しながら、事の次第を聞く。
「じゃ、あたしは見晴らしの良い場所に、陣取らせてもらおうかな」
 周辺住民への説明と場所拝借の許可を取りに、すたすたと坂を登る。履物を装備した他の者も、それぞれ急斜面を登り始めた。

●そうぐう
 アイシャが投網を構えている間に、ベアータが一瞬のブレスセンサーを使う。
「そこに3体」
 声と同時に投網を投げると、3尺程の白い塊が掛かった。

 確かに毛玉だ。白い毛並みはつやつやと、触ると気持ちが良さそうだ。
 3匹全て掛かったようで、網の中で逃げようと3匹別方向へ動いているのが、さらにもふもふして見える。
「わぁ‥‥」
 初めて目にしたアイシャは、思わず手を伸ばした。
 網の中の3匹がアイシャに寄る‥‥毛玉との遭遇。
 ‥‥のはずが、3匹に擦り寄られ、愛らしさに惑わされて無警戒だったアイシャは派手に転がり落ちた。

「‥‥え!?」
 坂全体が見通せるような屋根への拝借許可を得て、1軒の家から出てきたアニュスは、投網と共に転げ降りてくるアイシャの姿に、一瞬言葉を失った。
 ‥‥が、次の瞬間、慌てて救助に向かう。
「あ、ありがと、う‥‥ございます」
 雪混じりのアイシャが礼を言う。暫し二人は無言で見つめあった。

「これが、すねこすり‥‥」
「何だか可愛いですよね」
「うん‥‥ふわもこは好きなんだけどね、特に冬は」
「持って帰りたいです‥‥」
「だめだめ、転んで打ち所悪かったら大変だし」
「これ、本当にすねこすりでしょうか‥‥一応確かめて‥‥」

 もふもふもふもふもふもふもふもふ‥‥‥‥

「お二人さん、そろそろいいかしら?」
 ステラのウォーターボムが炸裂した。

 囲い込みをするまでもなかった。
 日の高いうちは感じなかったが、時が経つにつれて、向こうが勝手に寄って来るのだ。
「暗くなって来ると、こちらが不利ですね‥‥」
 急斜面という地形条件的にも、これ以上の続行は危険だとベアータは判断し、一行は闇が道を覆い隠す前に切り上げる事にした。
 初日の討伐数、11匹。

●かくれんぼ
「そこ6体、あちらは2体」
 ベアータが素早い指示を出す。
 投網を持ったアイシャは、反応するのにてんてこ舞いだ。結局、アニュスも屋根から降りて加勢する事にした。予備の投網を使って、2人がかりで捕獲する。
 時折毛並みに見とれては転んだりもしたが、おおむね順調に事は進んだ。
 網に捉えたすねこすりはステラが瞬殺し、投網から逃れた取りこぼしを、アニュスが短刀を用い落ち着いて止めを刺す。
 すねこすりが寄り付き始める頃を見切りの判断にし、連日、毛玉との隠れん坊に勤しんだ。

 4日目の夕方の事だった。
「そろそろ来る頃なんですが‥‥」
「来ないわね」
 いつもなら寄って来るはずの毛玉が、いなくなった。怪訝な表情のステラに、ベアータは「見て来ます」と言い残し、フライングブルームで坂全体の様子をじっくりと探った。
「‥‥いません」
「という事は、全部倒してしまったのかな?」
 目を凝らしてもそれらしき物を発見できなかったアニュスが、彼の言葉を引き取って言った。少し残念そうな様子のアイシャが、別の何かがいないか確認してみたが、本当に何もなかった。
「終わった‥‥みたい、ですね」
「あと1日ありますね。すねこすり達が化けて出ないよう、明日は弔いをしましょう」
 ベアータの言葉に、一同4日目は解散となったのだった。

●けだまよやすらかに
 5日目。
 濡れてしんなりしていたり刺されて力尽きている毛玉の残骸を、一塊に集める。これ以上、周囲住民の目に触れさせてはならないし、化けて出られても困る。簡易ながら弔いをしようと言う訳だ。

 ジャパンの妖怪でもあるし、ジャパン式に弔おうという事にした。
 異国のウィザードの若者が経を詠む様子は、一見不思議ではあったが、ベアータの知識に間違いも迷いもない。弔いは粛々と行われた。
(「持って帰りたかったです‥‥うう‥‥クスン」)
(「皮を剥いで、三味線って出来ないかしら‥‥?」)
(「出てくるところが悪かったわね」)
 神妙に手を合わせる女性陣の思惑は様々だ。懇ろに弔い、人目に付かぬ所へ埋めて、一行はギルドへ報告に向かった。

「ですから‥‥すねこすりは子を産まないのですよ」
「ほなら、あの増えようは何どすのん?」
 暖簾を潜った一行、依頼人は一目で見分けが付いた。あの姦しい中年女が地歌を教えているのだろう。
「失礼。依頼を達成したわよ」
 二人の間に割って入るステラ。異国の美女の登場に、師匠は目を見張る。
「ぎょうさん、いてましたやろ?」
「ええ、沢山。1匹残らず居なくなったわよ。でも明るいうちに帰った方がいいかもね。あの坂道では、転んで大怪我は妖怪だけの事ではなさそうだから」

(「地歌に歌われる女ってのは、大抵愚痴っぽいものだけど‥‥」)
 礼を述べ、慌てて帰宅してゆく中年女の姿を見送り、アニュスは何となく納得した。
「やっぱり‥‥妖怪って‥‥子供、生まない‥‥よね?」
 彼女の問いに、陰陽寮から出仕している係は「さあ」と答える。
「先程はああ言いましたが、実のところ、妖怪の生態はよく分かっていません。すねこすりもどうやって増えているのか‥‥子供を産み育てるという説もありますが‥‥いずれにしろ、今回のような異常事態を調べる事で明らかにしていくしか無い」
「何だろね?」
 ‥‥それは、溜まっていたすねこすり本人(?)達に、尋ねるほかないだろう。