奇妙な物語 〜呪いの面頬〜

■ショートシナリオ


担当:シーダ

対応レベル:1〜5lv

難易度:難しい

成功報酬:1 G 62 C

参加人数:6人

サポート参加人数:5人

冒険期間:12月30日〜01月04日

リプレイ公開日:2006年01月08日

●オープニング

「ふはははは‥‥」
 江戸の武家屋敷に不穏な声が響く。
 その声は、ふいに屋敷の庭を白くしたものとは関わらず、体の心まで‥‥心の奥まで寒くする。
 ぱきぃ‥‥
 分厚く、しかしながら人の重みに耐えられない厚みの透明な板は、容赦なく恐れ戦(おのの)いた者の足を冷水に叩き込む。
「何だってんだよ。たかが‥‥ たかが泥棒避けに‥‥こんな用心棒を雇うなよ‥‥」
 炎の波紋が両の頬にあしらわれた美しい面頬‥‥ 
 目の部分だけがくり貫かれ、顔の上3分の1しかないものの、見る者に恐怖を覚えさせるかのような般若の顔の造作‥‥
 背景が透ける武者が得物を振るう姿は様になっている。その太刀筋は、かなりの実力‥‥
 軽々と匕首(あいくち)をかわし、確実に刃は頬かむりをした男を捉え続けた。
「あの面は‥‥ 蔵に封印したはずの‥‥」
 男が動かなくなるのを屋敷の主人は物陰から垣間見るしかできなかった。

「‥‥という訳だ。どうやら幽霊か怨霊か‥‥ 詳しくはわからないが、そういう類のものが今回の相手だな。
 話に出てきた面頬は何代も前から依頼人の家に伝わる物で、箱に封印されていたらしいな。
 大火に便乗した盗賊が蔵を荒らしたみたいで、箱は壊されてしまったみたいだ。
 そのおかげで何も盗まれなかったのは不幸中の幸いみたいだがな」
 ギルドの親仁は冒険者たちを前に事情を説明していく。
「本来は、その面頬を着けて出陣した武士が主君の不興を買ったとか、落馬して満足な戦働きできなかったとか‥‥
 そんな縁起が悪い、まぁ他愛ない面だったらしいんだけどな。
 流石に今度のは何かあるってんでギルドにお鉢が回ってきた訳さ。
 気味悪がってるが、基本的には面頬は依頼人の物だからな。その辺をよく踏まえて依頼に望んでくれよ。
 それからな。霊の仕業なら普通の武器じゃ役に立たない。武具を選んで出発するんだぞ」
 親仁は苦笑いした。

●今回の参加者

 eb2275 オスカー・モーゼニア(37歳・♀・ファイター・人間・神聖ローマ帝国)
 eb2658 アルディナル・カーレス(38歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 eb3612 柿本 源夜(69歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb3736 城山 瑚月(35歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb3891 ヴァルトルート・ドール(25歳・♀・クレリック・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb3917 榊原 康貴(43歳・♂・侍・人間・ジャパン)

●サポート参加者

木賊 崔軌(ea0592)/ 七神 斗織(ea3225)/ 渡部 夕凪(ea9450)/ 陸堂 明士郎(eb0712)/ アルスダルト・リーゼンベルツ(eb3751

●リプレイ本文

●面妖の幽霊武者
 鬼威しの兜に大鎧、具足なども着いた完全武装の武者は相変わらず蔵の近くに佇んでいる。
 実体として存在感のある面頬とは裏腹に、それ以外の部分は向こう側が透けているおり、勇壮な姿の中に邪な感じが漂っている。
「それにしてもこんなマスクにつくんですね‥‥ なんというんでしたか‥‥ えっとメンヨウ?」
 ヴァルトルート・ドール(eb3891)はゴーストだと直感していた。
 具体的にどのようなゴーストなのかわかれば対処のしようも変わってくるだろうが、わからないものは仕方ない。
 封印されていた箱を見せてもらったが、こちらも収穫無し。日本のことは勉強し始めたばかりなので、そんなものだろう。箱を封じていたお札も何が書いてあるのかヴァルトルートにはわからなかった‥‥
 とは言え、名刀・業物にて祓うべしと神社で御告げを頂いて、冒険者たちは装備を整えて事に及ぶつもりである。
「どうなんですか? 鎮められますか?」
 面頬を収めていた壊れた箱を祓ってもらい、神社に寄進して代わりの箱をもらったものの、肝心の幽霊武者を祓えるのか依頼人も気が気じゃないらしく、冒険者たちを心配そうに見つめている。
「大丈夫、任せて」
 日本に来て日の浅いオスカー・モーゼニア(eb2275)にしてみれば神社での御払いなどもそうだが、建物1つにしても観光気分で胸を躍らせるに十分なモノばかりである。とはいえ、どうすれば幽霊武者を倒せるのか、戦士としての気構えは自然と1点に絞られていた。
「何だか魔物ハンターにでも依頼されそうな内容ですね」
「ハンター?」
 苦笑いするアルディナル・カーレス(eb2658)の言葉にオスカーが僅かに首を傾げる。
「あぁ、江戸の冒険者ギルドでは知る人ぞ知る少人数で強力なモンスターを倒す傭兵集団だ」
 成る程、そんなモノがあるのかと一瞬興味を示したが、今は仕事が先。
「ふ〜ん、それでどう攻める?」
 幽霊武者を尻目にオスカーは仲間たちの顔を見て微笑む。
「慌てない。戦場の下見は兵法の基本ですからね」
 アルディナルは依頼人に書いてもらった屋敷の見取り図を床に広げた。
「それで、どうなんです?」
 依頼人は落ち着かない様子で冒険者たちを見渡している。
「私の占いでは良くない卦が出ていますよ」
 柿本源夜(eb3612)は占ってそう言った。
「そんなぁ」
 涙目で駆け出す依頼人。
「さ、これでやり易くなりました。あの方が居ると成功するものも成功しそうにありませんからね」
 後で依頼人の心のケアはするとして‥‥と柿本は苦笑いしている。言外に同意しているのか皆苦笑いを浮かべるだけだ。
「確かに‥‥」
 オスカーが来客用のお茶を一服して、仲間たちを促す。
「周囲に無差別に被害を出しているわけではないんだし、あの面頬が悪い訳ではないんだよな?
 蔵が守るべき主人じゃあ可哀想だし、眠っているところを叩き起こされたのなら尚更可哀想じゃないか。
 やり方は強引だけど‥‥もう、解き放たれても良いんじゃないか?」
「しかし、依頼人にとっては伝家の家宝らしいですから尊重しないと‥‥」
 城山瑚月(eb3736)は依頼失敗を覚悟の上で仲間たちに提案したが、オスカーは反対のようだ。
「過去に何があったかは知らんが、醜態を晒してまでこの世に留まるというのは余程のことだったのだろうよ。
 せめてもの武士の情け。我々の手であの世に送ってやれればいいのだがな。とは言え‥‥」
 榊原康貴(eb3917)は面頬を壊さずに済ませたいようだが、
「ピュアリファイで浄化すれば神の元に召されますわ。面を砕かなくても大丈夫だと思います」
 ヴァルトルートの提案に、我が意を得たりと皆が頷く。
「だが、相手は手練れの様だ。油断は出来んぞ。それに、面頬自体も傷つけてはならんのだから慎重さも必要だ」
 榊原の言葉に冒険者たちは再び頷くのであった。

●戦によって救われる命
 炎の波紋が両の頬にあしらわれた美しくも恐ろしい般若の面頬を着けた完全武装の武士は、冒険者たちが近付くと闇の中から近付いてきた。
「何?」
 ヴァルトルートはグッと涙が込み上げてくるのを堪えた。よく見ると鎧の表面には人や獣の陰のような姿が混じっている‥‥
「戦場にて功を上げられなかった無念は分かるが、だからと言ってこの世に彷徨い出て、生者に迷惑をかけてよいという道理はあるまい」
 オスカーは、両手に魔力の込められたレイピアを構えてマントを翻した。
「違う‥‥ あれは」
 ヴァルトルートが言葉失う。
「う、あぁぁ‥‥」
 幽霊武者は、ただ刀を振るうのみ‥‥
「哀れな‥‥」
 アルディナルは全身を重厚な異国の鎧兜に身を包み、特別に重く作られた金槌と五芒星の紋章が描かれた巨大な盾を手に立ち塞がった。骸骨のマスクで顔を隠しており、不気味さは幽霊武者と比して遜色ない。
 ずむ‥‥ 重量級の巨獣がぶつかる音でも聞こえてきそうだが、そうはならない。
 実体を持たない刃をアルディナルは魔法の盾で受け止めた。
 いける、そう思ったのは、この瞬間までだった。重装甲で受け止められるはずだった一撃は鎧をすり抜け、まるで血の気が引くように体力を奪い去っていく。
「何としても持ち堪えなければ!」
 アルディナルが前衛で幽霊武者の攻撃を一身に受け、その間に一気に決めてしまう作戦だったのだが、前提から覆されて冒険者たちは怯む。
「態勢を立て直して! 榊原、ヴァルトルート、援護して」
 オスカーが割って入り、亡霊武者の剣を受け止めた。
「こっちは、いつまでも保たないですからね」
 びぃぃぃいい‥‥
 刀の冴え多少なりとも曇らせられれば‥‥ 城山の鳴弦の弓の効果で幽霊武者の動きが鈍っているとはいえ、油断できない。
「遅くなった」
 オーラパワーを自らの日本刀に付与した榊原が幽霊武者に斬りかかるが、その繰り出す刃が全て武者を捉えることはない。やはり油断できない相手だ。
(「効いていない?」)
 柿本の放ったメロディーの呪歌で幽霊武者の動きに変化があった様子はない。咄嗟に歌詞を勇壮なものに変えるが、やはり幽霊武者の動きに変化はない。抵抗されたのか、そもそも効かないのか‥‥
「くっ‥‥」
 アルディナルはハンマーを置き、ポーションを飲み干した。
 その間にヴァルトルートのピュアリファイが幽霊武者の体の一部を掻き消す。
 しかし、鎧で動きが制限されているアルディナルや時間のかかるヴァルトルートの祈りでは圧倒的な優位は望めない。

●残火の恨み
 オスカーの闘技場で鍛えた勘も長期戦は危険だと叫んでいた。
 受けに回ってばかりでは勝てない‥‥ ここは捨て身でも何でもやるしかない。
 仲間の様子を視界の端で追って、オスカーは飲み干したポーションの瓶を投げ捨てるとレイピアを構え直して突っ込む。
「一気に決めます!」
 オスカーが気合の入った声で幽霊武者を突く!
 ビュッ! ビュッ!!
 殆んど同時に突き出されたレイピアの切っ先で武者の姿が揺らぐ。
「貴殿は強く立派な武士だった」
「天に召されよ!」
 榊原の斬撃とアルディナルのハンマーが武者の姿を捉える。
 面頬にあしらわれた炎が燃え上がるように、動かなくなった幽霊武者を包む。
「火事で死んだ人や獣の魂だと思います」
 まるで炎に巻かれているかのような複数の周囲の影は、ピュアリファイで火炎の幻影が薄れるにつれ消えていく。
「あなた方を何があったかは存じませんが天に召されてください。セーラ様はきっとあなたを迎え入れてくださいます」
 ヴァルトルートの浄化の祈りによって、面頬から憑き物が落ちてゆくように武者の姿が薄れ、太刀が消え、鎧が失われる。
「終わりましたね」
 宙にあった面頬が地に落ちたとき、その下の武者の顔はオスカーの声に応えるように笑顔を浮かべたように感じた。
「迷わずに成仏してください」
 城山は成仏する魂魄への魔よけとして鳴弦の弓を掻き鳴らす。

「お陰で何とかなりました」
 依頼人は、どこかで様子を見ていたのか幽霊武者が消えたのと同時に冒険者に声をかけてきた。
「いつまた同じ様な事が起こらないとも限らない。然るべき神社や寺に預けるか、霊験あらたかな方に封印を施して頂いたらどうだ?」
「いえ、伝家の家宝ですから手放さずにおきます。これからは蔵に仕舞ったままにせずに供え物をしますよ」
 アルディナルの進言に依頼人は首を振った。箱に入れられた面頬に手を合わせると恭しく受け取る。
 早速、榊原は神社で貰っておいた香を焚き始め、城山や柿本と共に手を合わせている。
「陰極まれば陽と為す。面頬を覆っていた不吉な卦は、良い卦へと変じたようです」
 当たるも八卦、当たらぬも八卦。しかし、柿本は自分の占いを信じていたし、その場の誰も疑わなかった。