シフール特急便 〜年賀の知らせ〜

■ショートシナリオ


担当:シーダ

対応レベル:フリーlv

難易度:やや易

成功報酬:0 G 31 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:01月04日〜01月07日

リプレイ公開日:2006年01月18日

●オープニング

「あ〜、こんなのが残ってる‥‥」
「今度は何をしでかしたんだ?」
 上司に声をかけられてジト汗を浮かべながらシフール飛脚便江戸局員の月華が背中に何かを隠す。
「隠しても無駄だぞ。こりゃ、配達受付じゃないか」
「え〜っと、あはは」
 とりあえず月華は笑って誤魔化す。
「しかも配達予定日が明日じゃないか」
「怒ると老けるよ。笑って、笑って♪ ほら、しふしふ〜って★」
 上司の顔をびろ〜んと伸ばすが、その目は笑っていない。
「しかも、この配達先は一体何なんだ?」
 受付票の配達先は『神田長屋 どこか』‥‥
 受取人は『小鉄』
 さり気なく月華が体の後ろに隠した箱の中身を見て上司は脱力した。ふわっと美味しそうな匂いがしてくる。
 さてさて、問題の中身は魚の干物‥‥
 丁寧に『明けましておめでとう。小鉄ちゃん、今年も宜しくお願いします』と墨で書かれている。
 どうやら年賀状らしい‥‥
「だって〜。可愛い御婆ちゃんに『頼むわね、月華ちゃん』って頼まれたら嫌って言えないでしょ?」
「俺なら言う」
「ひっど〜〜い」
「酷くない。明日になったらさっさと配達してくること。だが、他の仕事も疎かにするなよ」
 一々尤もである‥‥
「えっと‥‥」
「皆まで言わなくて宜しい。追加の経費は手出しだからな。ほら、今日の分」
 でんと置かれた手紙の束に対しては笑顔を見せる月華だが、明日の配達を考えると神田長屋のどこに居るか分からないヌシ猫の小鉄を探して配達するのにどれだけ時間が掛かるのかわからない状況には溜め息1つ。
 尤も月華がこれくらいのことでへこんでいるわけもなく‥‥
「じゃ、行ってきま〜す♪」
 とりあえず手紙の束を鞄に詰めると江戸の空に消えてゆくのだった。

 さてさて‥‥
 飛脚便江戸支局を追い出された月華が向かった先は‥‥って特急便の名を聞き知る者ならば大体予想はつくだろう。
 そう、江戸冒険者ギルドだ。
「しふしふ〜♪」
「しふしふ‥‥って本気で流行らせるつもりだな。お前‥‥」
 眉を顰め、溜め息をつきながらも挨拶に付き合うギルドの親仁。月華はというと全然気にしていない様子。
「でね。おやっさん、冒険者のお手伝いを頼みたいの♪」
「おやっさんて‥‥」
 お気楽、元気が身上の月華だとよく知るだけに、親仁さんも苦笑いしつつ深くは突っ込まない。
 そして、特急便の新しい噂を作る片棒を担がされるのであった。

『至急の依頼。神田長屋のヌシ猫である小鉄に長屋の御婆ちゃんからの年賀状を配達するのを手伝ってくれる冒険者を募集♪』

 こんな依頼がギルドの掲示板に出されるのであった。

●今回の参加者

 ea0957 リュカ・リィズ(27歳・♀・レンジャー・シフール・イギリス王国)
 ea2473 刀根 要(43歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea2482 甲斐 さくや(30歳・♂・忍者・パラ・ジャパン)
 ea3899 馬場 奈津(70歳・♀・志士・パラ・ジャパン)
 ea5930 レダ・シリウス(20歳・♀・ジプシー・シフール・エジプト)
 ea6601 緋月 柚那(21歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 ea8531 羽 鈴(29歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 eb2892 ファニー・ザ・ジェスター(35歳・♂・クレリック・ハーフエルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

南天 輝(ea2557)/ ペペロ・チーノ(eb1012

●リプレイ本文

●年賀の舞い
「ヌシ猫小鉄♪ いったいどんな猫なのか♪」
 ピエロの格好をしたファニー・ザ・ジェスター(eb2892)がおどけてみせる。その姿は躍っているかのよう。
「ボクたちだって」
 シフールとして楽しいことを放っておけないのかリュカ・リィズ(ea0957)や月華も一緒に躍っている。
「はは、舞いなら負けぬのじゃ♪」
 レダ・シリウス(ea5930)も磨きをかけた踊りで見る者を惹きつけるように舞っている。
「むぅう、柚那も〜♪ 楽しそうじゃ」
「何やってんだ。正月の祝いか何かか?」
 緋月柚那(ea6601)も躍り始めて収拾がつかなくなってきた状況にギルドの親仁が苦笑いして突っ込む。
「日本の正月、とても楽しいネ」
「ひょひょひょひょひょひょひょ♪ 齢61、まだまだ現役じゃぞ〜」
 龍の形意拳の型を異国の衣装で舞う羽鈴(ea8531)、馬場奈津(ea3899)などは言われなくても踊りの輪に加わっている始末。
「全く‥‥楽しそうですね」
「ギルドに何しに来たんだか」
「刀根殿も親仁殿も明けましておめでとうでござるよ。月華〜♪ これも仕事でござるか♪」
 紋付袴で現れた刀根要(ea2473)とギルドの親仁の手を引いて、甲斐さくや(ea2482)も踊りの輪に加わる。
 ‥‥で、江戸冒険者ギルドで踊りに巻き込まれた冒険者数名がお手伝いに駆り出されたという。

●猫探索
 さて‥‥
 月華には通常の配達に専念してもらい、冒険者たちは小鉄を捜すことにした。
 月華と長屋の者たちからの話によるとヌシ猫の小鉄は『てふ猫』だそうだ。
 ボス的なところがあるかと思えば、喧嘩に強いのかどうか分からない。
 かといって時々見せる迫力というか存在感は普通の猫のそれではない。
 どこか抜けたようなところのある感じもあり、太った体型と合わせて『てふ猫』ということらしい。
「実は人間の言葉がしゃべれる化け猫さんなんですよ」
 リュカと同じく化け猫に違いないと言う者もいるが、今のところその証拠はない。
「寄ってきませんね‥‥」
「そんなに殺気だっていると寄って来ないのじゃ」
 魚を置いて息を殺している刀根の隣で、緋月はお茶を飲んで、はぁ〜〜と一息ついている。
「そうですよ。こういう時は気にしながら気にしないのが一番」
 猫なら日向ぼっこする、一見真実で一見当てにならない信念に基づいてリュカたちは長屋周辺を探索していた。
『そこにいる子達と相談してくれていい、長屋周辺にいる小鉄という虎猫知らないか? 知っていたら案内して欲しい』
 一盛り買いこんできた魚を置いて、刀根がオーラテレパスで猫たちに話しかけた。
『子供いない』
『暖か〜い』
『魚食べる、食べる』
 思い切りじゃれ付かれている。
 ぺぺぺぺぺぺ。
 ハリセンが撫でるように軽く音を立て、呆気に取られるように猫たちが動きを止める。
『何すんの?』
『魚1人締め?』
『いじめる?』
 次の瞬間、物陰に隠れる者、爪を立てようとする者、様々な反応が返ってきた。
『話があるのです。大人しくなさい』
 優しく話しかける刀根に猫たちは神妙な様子で押し黙った‥‥のも一瞬のことであった。
 ともあれ聞くところ小鉄のことは知っているらしいが、どこにいるかまでは知らないようだ。
 知っていたとしても少し前のことやずっと前のことなどの情報が錯綜していて裏づけは大変極まる。
「いいなぁ、猫語が話せて」
 あらゆる言葉を操る言語学者を志すリュカとしては単純にそう思うのだが、気まぐれな猫たちに構われている刀根は『それは違う』と反論する気力も失せ気味に小さく溜め息をついて猫たちとの会話を続けなければならなかった。
 御礼代わりにリュカが日干しの魚を渡す。なぁ〜と一鳴きすると物陰まで咥えていって美味しそうに食べている。
「美味しそうに食べてますね〜」
「猫にも正月祝いのお裾分けです。いいのではないですか」
「そうですよね。一緒に江戸に住んでるんですもの」
 手から餌を取ってくれるほど馴らすことはできなかったが、多少は仲良くなれたようであるが‥‥
「妖や魔物などと戦う方がまだ楽かもしれませんね」
 気まぐれな猫たちから情報を得るのに、年初めだというのに今年分の忍耐力を使い果たしそうな刀根なのであった‥‥

 一方、長屋の別の場所では‥‥
 まるで狩りを楽しむように距離を保ちながら猫たちが集まっている。
「小鉄を探しているだけなのじゃ。止めるのじゃ」
 シフールサイズだと食べるのに手ごろなのか、フワフワ飛んでいるのが興味を引くのか、原因はわからないが猫たちの構われているのは確かのようだ。
「大丈夫でござるか?」
 近所の老人たちを訪ねて小鉄の行方を探っていた甲斐が、外套をバサッと払って包囲網に割り込む。
「悪戯は止めるネ!」
「シフールは食べても美味しくないですよ」
 龍の構えを見せる羽と道化師姿のファニーにビックリしたのか、猫たちは一目散に逃げ出していった。
「助かったのじゃ、スペード」
 レダを守りきったパートナー犬のスペードは、良い子良い子されて目を細めながら首を伸ばすようにすると一吠えした。
「皆もありがとうなのじゃ」
「これを持っていたから、いざというときはこっちが助けてもらおうと思ってたのにネ。複雑な気持ちヨ」
 干し魚の年賀状を持ち歩いていた羽が苦笑いしている。こちらは箱に入れていたので猫ちゃんたちに気づかれてはいないようだ。
「捕獲‥‥は、まァたぶん無理だろうとは思ったけどね。こんなに見つからないとは」
「まさに神出鬼没でござるな。長屋の者たちに聞き込んできたのでござるが、ついさっきまで居たとか、そこを歩いていたとか」
 ファニーも甲斐も首を振る。
「皆、駄目みたいじゃな」
「あっちもね」
 指差す先には奈津婆さんの姿。
「目当ての猫が掛からぬのぅ」
 甲羅盾に突っかえ棒をして罠を作るものの、ヌシ猫とまで称される歴戦の猫にそのようなものが簡単に通用するわけもなく、他の猫たちも警戒心が強く見え見えの罠に掛かるほど単純ではなかった。
「たまには日向ぼっこしつつ、日がな一日すごしてみるのも良かろうて」
 改めてパラのマントの魔力で姿を消すのであった。
 どちらにしろ猫の心は複雑怪奇。捉えどころがないのであった‥‥

「いたぁ」
「やっと見つけたネ」
 冒険者たちは一目でそれが小鉄だと分かった。
 虎縞で額に三日月形の痕。そして、その体型。どう暮らせばそんなにぽてぽてのお腹になるのか‥‥
「あれに騎乗するのは止しておいた方がよさそうじゃ」
 レダが笑う。あれならシフールが歩いても勝てるかもしれない。本気でそう思える。
「正月の挨拶に来てくれたのよ」
 ニコッと笑う差出人のお婆さん。そういう問題じゃな〜いと奈津婆さんの呼子笛が響く。
「てぇへんだ、てぇへんだぁ!」
「慌てんじゃねぇ、八。岡引の呼子とは吹き方が違うだろうが」
 月華よりも先に辿り着いたのは、近辺を縄張りとする岡引の親分とその手下だ。
「あれが噂のカンダドーシン・ポリス、ゼニナゲですか」
「銭高じゃよ。平治親分じゃな」
 仲間たちも続々と集結してきた。そして月華も‥‥
「下手人は現場に戻る‥‥って、ことだな」
 事情を聞いた平治親分は笑いながら去って行った。
「あれ? 小鉄、こんなとこに居たんだぁ♪ しふしふ〜♪」
 喉の下を撫でるに任せる小鉄は、月華から年賀状を無事に受け取ることができた。
 お婆さんが膝の上に乗せて、年賀状代わりの干し魚を千切っては食べさせている。
「良かったでござるな」
「うん、皆のお陰だよ。ありがと♪」
 月華は満面の笑みを浮かべるのであった。

●年賀の参り
「あけましておめでとうでござるよ。今年もよろしくでござる」
 神田明神で神前に手を合わせる甲斐。正月三が日は過ぎているが、甲斐にとっては想い人でもある月華と2人での正月参りは感慨深い。
「おめしふ〜☆ こちらこそ、今年も宜しくね、さくや♪」
 きちんと正月用に正装し、髪を結って簪を差している月華がニッコリ笑う。
「隠れているみんな、出てくるでござるよ」
 2人だけの時間を独占したかったが、覗かれていては楽しい時間も変な汗をかくだけに終わりかねない。
「にゃぁ」
 まるごと猫かぶりで現れた緋月に周囲が首を振る。
「小姫ちゃん、可愛い〜♪」
 もふもふの毛に月華が突っ込む。
「偶然ネ」
「ほんと奇遇だね」
 わざとらしい言い訳に、甲斐も苦笑いするしかない。
「上司に嫌味言われずに済んだよ♪ みんな、小鉄捜しありがとね」
「そういうこともありますよ」
 実際には月華の上司に祝い酒を差し入れに行ったのが効いているのだが、刀根も多くは語らない。
 その時である‥‥
「ほっほっほっ」
 誰かの笑いが聞こえたような気がしたが、見渡した限りで目に付くのは参道をぽたぽたと歩いてくる小鉄くらいか‥‥
「小鉄っちゃ〜ん」
 リュカが背中に乗るのにも構わずに小鉄は本堂の前まで来ると、まるで自分の場所であるかのように丸くなって目を細めている。
「小鉄も正月のお参り? あ、ここ温か〜い♪」
(「半纏は必要ないようでござるな」)
 ふと肌を撫でた寒風に、月華が寒く無いかと脱ぎかけた半纏を甲斐は羽織りなおす。
「小鉄さんとおばあ様たちが、いつまでも親しくできますようニ。神様、宜しく頼むネ」
「そうじゃな。他人のことを祈るのも良いじゃろうて」
 手を合わせる羽の隣で馬場も手を合わせた。
「温かいのじゃ」
「気持ちいい場所ネ」
「確かに」
 日に焼けた木材の独特の匂い、温められた石畳、そのほかほかの場所で冒険者たちは小さな幸せを実感するのだった。