今日もギルドは大騒ぎ♪
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■ショートシナリオ
担当:シーダ
対応レベル:フリーlv
難易度:易しい
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:6人
サポート参加人数:8人
冒険期間:03月01日〜03月06日
リプレイ公開日:2006年03月10日
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●オープニング
寒さを緩ませる風が吹き始め、三寒四温、武蔵の国の中心都市・江戸でも春の気配を肌で感じることができるようになってきている。
さて、大火の影響から完全に立ち直っていない江戸の町であるが、大火の前も後も変わらぬ賑わいを見せる場所がある。
江戸冒険者ギルド‥‥
近頃では異国の者たちの姿が多く見かけるような感じもして、以前に比べると賑わいすら感じさせる気配。
しゃっとはらり。
暖簾を潜ると結構誰か居るものだ‥‥
「新入りには小鬼退治なんかお勧めだぞ」
「お侍様が退治してるとこを見たことあるんだ、俺。格好良かったなぁ」
憧れに似た様子で自分にその姿を重ねているのだろう。
冒険者になれば、そんな機会は幾らでもあるのだと希望を抱いているのだ。
しかし、現実はそんなに甘くはない。下手をすれば死ぬ可能性だってあるのだ。
「でもな。村の腕自慢だからって自分がやるとなると話は別だ。人里襲うような奴らだからな。油断するなよ」
「わかってるって。何人かで倒せばいいんだろ? 小鬼は弱いって聞いてるし」
ギルドの職員は新米冒険者の言葉を聞いて溜め息をついている。
「それが油断だって言うんだ」
自然と周囲を圧倒するような雰囲気を醸し出している浪人風の男が新米冒険者に視線だけ投げた。
他の職員のところに向かうと依頼の斡旋を頼んだようだ。
職員は幾つか依頼を示すと、そのうちの1つを引き受けて帰っていった。
「格好良い〜」
ギルドの職員と様子を見ていた新米冒険者が浸るように目を細めた。
「あんな風になりたかったら『油断』しないことだ。言ってたろ? あの人も」
「あぁ、俺の座右の銘にする」
ふんと鼻息を吐く新米冒険者にギルド職員は吹き出すのであった。
「う〜ん、こっちの依頼も受けたいけど、あっちの依頼も捨てがたいよな。どうすっかなぁ」
「それじゃ、こっちの依頼はあたしが貰うよ。早い者勝ち。そっちの依頼でもいいなら問題ないよね?」
「ま、待てって!」
別の場所では、こんな遣り取りが‥‥
冒険者同士、全員が家族とか親戚とか昔からの知り合いとかいう訳ではない。
とはいえ、当たり障り無くなどという感じではなく、それぞれに結構仲良く付き合っているようで楽しげな様子だ。
「幡ちゃん、顔見せないかな〜」
「おいおい、ギルドマスター捕まえて幡ちゃんはないだろ」
奥を覗こうとしている冒険者にギルドの親仁も苦笑い。
こんな風に依頼によっては戦うことがあるなど感じさせない冒険者もいる。
尤も荒事以外で生計を立てている冒険者も居ないわけではないが‥‥
「でもでも〜〜」
「でもじゃねぇ。忙しい方なんだから騒がすんじゃない」
首根っこ引っこ抜かれた冒険者は、ぶうぶう言っている。
‥‥とまぁ、十人十色で様々な冒険者が居るわけで。ともすれば色んな出来事が起こるわけで‥‥
さてさて‥‥
『冒険者ギルドの職員の許で依頼受付や斡旋の手伝いや依頼主の御持て成し、他に掃除など雑用をしてくれる冒険者を募集』
ギルドの人手が足りないときは、こんな依頼が出されたりするのであった。
●リプレイ本文
●暇が忙しい
「暇ね〜」
面白いことを探してギルドへと漂うプリム・リアーナ(ea8202)は、知り合いに手を振ると暖簾を潜った。
「このお茶、美味しいですね‥‥」
「それにしても、丁度良い仕事って中々ないですね」
そんなこんなでギルドの隅で、ぼーっとお茶を飲んでいる者もいる。
プリムは楽しそうにそんな受付の様子を眺めていたのだが、今日はいつもと少し違った。
「あ〜、何とかの魔女さんだったか? 雑用を手伝ってくれないか? 勿論、給金は出すから」
職員が風邪を引いて急に人手が足りないらしい。ギルドの親仁がこんなことを言い出したのである。
言語に長けているプリムのような存在は、異国の者も多い冒険者のパイプ役としてギルドとしても重宝しているようだ。
「依頼?」
「そう。確か色んな国の言葉を喋れたよな? 恩に着るから。な?」
どうやら、この言葉がプリムの琴線に触れたようである。
「そこまで言われちゃね。氷夢の魔女の称号もいいけれど、プリムって呼んで」
満面の笑みの裏側にちょっぴり打算を隠してプリムはポーズをとった。
「ミィナ、仕事を教えてやってくれるか?」
まるごとトナカイ姿で他の職員の手伝いをしていたミィナ・コヅツミ(ea9128)に、親仁が手を振る。
「ちまっとして可愛い〜。よろしくね♪ あたしはミィナ・コヅツミ」
「プリム・リアーナよ。よろしく‥‥お願いね」
嬉しそうに顔を緩ませるミィナを見て、プリムは微笑みを返すのだった。
さて‥‥
「だからな爺さん、気持ちは良くわかるが、そういうのは無理なんだ‥‥ ここは始末屋さんじゃないんだから‥‥」
「えぇ〜い、うちの孫娘に手ぇ付けた野郎を華国までぶっ飛ばしてやらなきゃ気がすまねぇ!」
「だから無理なんだって」
困った顔でジェームス・モンド(ea3731)が爺さんの相手をしている。
「それにあんた、始末屋やってるって噂で聞いたぜぇ」
「俺に直接? 人違いだと‥‥」
何度も言われたことがあるのか溜め息ひとつ。
「なんだぃ、人違いか。自分で何とかするしかねぇか」
「鈍器をお求めでしたら鈍器宝店へ♪」
妙な合いの手を入れるミィナ。
「ま、邪魔したな」
どうやら爺さんは帰ってくれるようだ。モンドは思わず溜め息をついた。
いつもお世話になっているギルドに、こういう機会だからこそ恩返しをしなくてはと気を取り直すモンド。にかっと笑顔を作った。
しかぁし‥‥
「えぇ〜い、オラとお絹の仲を引き裂こうとしてやがる爺ぃを月道の向こうまでぶっ飛ばしてやらなきゃ気がすまねぇ!」
今度は若い男が飛び込んできた。
「お客様、ここはそのような乱暴事を働く場ではございません。もしなんでしたら、私がお手合わせ致しますが、如何致しますか?」
「なぁにぃ?」
それでも笑顔を崩さない片東沖苺雅(eb0983)と若い男の視線に火花が走った。
「まぁまぁ」
こういう者の扱いはモンドの方に分があるようで、暫く話を聞いてやっていると落ち着いてきたようである。
「でもよぉ、あの爺さん‥‥」
「話を聞くに相見互い。あなたもお爺様の気持ちを少しは汲んであげなくては」
片東沖は真摯一途。辟易した若い男は一刻も早く帰りたいオーラを放っている。
「ちぇえ、何とかするしかねぇな」
「鈍器をお求めでしたら鈍器宝店へ☆」
またまた妙な合いの手を入れるミィナにモンドと片東沖は溜め息混じりに笑った。
変な客が多いなぁと苦笑いしていると、こんどは老婆がやって来た。
「婿殿、婿〜殿〜」
老婆は明らかにモンドの方に向かってくる。
「お婆ちゃん、あれが婿殿じゃないんですか?」
さっきの若い男を指差すと、そうじゃそうじゃと首を振っている。
手を引いて外へ連れ出す仕草は自然。
「上手いですね‥‥」
ポツリと呟く片東沖の後ろでミィナとプリムが頷いていた。
●一休み
「お、上手いもんだねぇ」
手の空いた時間に掃除を始めたジェームスに、ギルドの親仁が感心しきり。
「これでもイギリスにいた頃は宿を手伝ったこともあるし、こういうのは慣れてる」
「それだけじゃないだろ?」
「あぁ、妻を亡くしてからは娘を2人育てながらお姑さんのしごきにも耐えてきたんだ。ちょっとしたもんだぞ」
モンドが僅かに溜め息をつく。
「おまけに高い所にも手が届く。あぁ、やっぱりこの辺は手が届かないから汚れてるな」
モンドはミミクリーの魔法で胴や手を伸ばして高いところの掃除を始めた。
「すごい‥‥ですね。おや? ここにこんな壷が。一体中に何が入っているのでしょうね」
箒で掃く片東沖は、割らないかと冷や冷やしながら見ている親仁さんの視線に気づいていない。
「おやおや、此方には妖しげなお札がたくさん‥‥ 依頼人様から頂いたのでしょうか」
「気をつけてくれよ」
親仁の声にモンドは小さく笑って、でも掃除の手だけは止めないのであった。
さてさて‥‥
「キャメロットのHERO・葉っぱ男☆ことレイジュ・カザミ、今日はギルドのお手伝い! ウォルさん、よろしくお願いします♪」
「OK、レイジュさん。イギリスからジャパンに来て一ヶ月とちょっと。
この機会にジャパンギルドのあんな所やこんな所を探り出してみせるぜ!」
レイジュ・カザミ(ea0448)とウォル・レヴィン(ea3827)は楽しそうにギルドの受付を覗いている。
「これは難しそうだし、これも何か痛そうな仕事じゃのう。こっちは依頼人がうさんくさそうな奴じゃの。
何か楽で、派手に勇名轟かせることのできる依頼はないものかの」
「都合のいいこと言ってますね、レイジュさぁん」
「本当ですねぇ、ウォルさん」
実況を始めた2人だったが、冒険者に見つかって捕まってしまった。
「いい依頼を紹介してくれよ」
2人は顔を見合わせてニカッと笑う。
「うちは良い依頼ばかり取り揃えておりますよ」
「そう、変態退治とか変態撃退とか」
「という訳で親仁さん、受付よろしく。あれ? 手空きの人、だれもいないの?」
「はぁ‥‥ 仕事しろよ」
ギルドの親仁の突っ込みに2人は頭を掻いた。
「あのぉ、依頼を頼みたいのですが」
「はいはい、只今♪」
女性の声に素早く反応するウォル。
「それは俺の仕事だ」
「女性を持て成すのはナイトの義務」
「あの‥‥ 僕、男なんですけど」
顔を見合わせるウォルと親仁‥‥
「平和だねぇ」
カザミは3人の様子を見つめながら笑うのだった。
●おさんどん
「これ‥‥」
目の前に並んでいるのは微妙に和風テイストなイギリス料理たち‥‥
やり遂げた感の漂うカザミとは裏腹に、ようやく食事にありつけると思っていたギルドの親仁たちは微妙に驚いている。
「ここだってある意味戦いの場、だよね♪ 腕によりをかけて作った料理を、ゆっくりとお楽しみ下さい!」
このセレクトがなぜ通ったのか。それは単に手伝いに来た6人中5人がイギリス出身者であったという事実の裏付けに過ぎない。
「料理の味は俺が保障する」
モンドの姿が妙に様になっているから不思議だ。
「突撃・ジャパンギルドの昼ご飯ー! 味はどうだい?」
「美味‥‥い」
まくし立てるウォルの言葉に思わず料理に口をつけた親仁たちの箸が進む。確かに美味い。
「どうだ? 手伝いは慣れたか?」
親仁はぺろりと平らげている。
「うん、この機会に報告書を見せてもらった。
イギリスには変態が一杯いたけど、ジャパンにも変なのいるんだね。変態は、この僕が退治しなきゃ!」
変な使命感に燃えるカザミに親仁たちがブッと吹き出した。
「僕もイギリスで沢山の依頼を受けたけどね、変態とか葱とか、とにかく忙しかったよ。
勿論、国を巻き込んでの大きな事件も沢山あったよ。
僕が何で依頼を受けるかって? もちろん、誰かの役に立ちたいからさ♪」
カザミはハハハと笑った。
「いざって時の根性を忘れちゃいかんが、つまらん意地は張らないことだ。
生きているから得られるものも多いし、生きているから未来も護れる」
大真面目に話すモンドに冒険者たちは納得して頷いた。
「冬眠から覚めた巨大昆虫や熊とか、これからの温かくなるから気をつけないとね☆」
「そうだな。動物退治の依頼も増えてくる時期だからな。妖怪変化じゃないからって油断してると痛い目見るぞ」
ミィナの注意に親仁が付け加える。
「最も重要なことを忘れていたよ‥‥ 結婚する時はお姑さんに気を付けろ。
日常に忍び寄る分、下手なモンスターよりも恐ろしいからな」
自然と小声で話すところを見ると本当に恐ろしい経験をしたんだなと、一部の者は憐憫に心で涙するのだった。
「そういえばプリムさんは?」
ミィナが心配して一応探してみると‥‥
「甘噛みにしては痛いよぉ」
依頼報告書の整理が一段落して野良猫と遊んでいるうちに狩られてしまったらしい。
慌てて猫を追い払うとミィナがリカバーで傷を癒す。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫。もう痛くないよ。いざとなったら、みーんな纏めて氷漬けよ♪ 」
ふんと力こぶを作ってみせるプリムに安心したのか、不安そうだったミィナに笑顔が戻った。
「プリムさん、無茶したら駄目ですよ♪ それに‥‥」
「それに?」
「雛人形みたいにちまっとしてて可愛い」
結局それかい。というギルドの親仁の心の突っ込みは、どうやら届かなかったようで‥‥
「ああ、本当にこんな機会が得られてよかったですね。楽しかったです」
ギルドの片隅には片東沖が手書きしたギルド整理帳が忘れられている。いや、忘れて行った物が置かれているらしい。
それには、あんな秘密やこんな秘密が書かれているかも‥‥