【赤恨】四尾の狐包囲網

■ショートシナリオ


担当:シーダ

対応レベル:7〜11lv

難易度:難しい

成功報酬:2 G 6 C

参加人数:8人

サポート参加人数:4人

冒険期間:04月06日〜04月09日

リプレイ公開日:2006年04月15日

●オープニング

●江戸城にて
 武蔵国の中心都市、江戸‥‥ そこに聳える江戸城には日本の摂政・源徳家康がいる。
 過去最大級の大火に見舞われた城下町と対照的に以前と同じ姿を誇っているのが、逆に微妙な違和感を感じさせた。
 立て替えられた建物から匂ってくる真新しい材木などの建材の香りに混じって、未だに炭の臭いが漂ってくるからだろうか‥‥
 さて、江戸城内の源徳家康の嫡男信康の館。その一室において‥‥
 上座には家康。その脇には那須与一。下座には館の主人、信康が座っている。
「那須公、御足労であるな」
「いえ、そろそろ始まるようですね」
 うむと短く答える源徳家康の顔には薄ら笑みが浮かんでいる。
 下野など諸国からの見舞い、後の利を取れという魂胆が見え隠れする商人たちから献金、冒険者や市井からの基金など、助けはあるが、江戸の大火によって多くの出費を迫られた源徳に昔日の余裕はないのかもしれない‥‥
 ともあれ、源徳陣営、または源徳親藩に近々実行力を伴った動きがあるらしいことは、江戸城に糧食や武具などが運び込まれていることを掴んでいる一部の者たちにとっては間違いない。それがどこへ向かうかとなると話は別だが‥‥
「信康、おぬしは那須殿に同行せよ」
「しかし、父上。京都の‥‥」
 躊躇いを見せる信康の言葉を、家康は目で黙らされた。
「良いな。お前は那須へ行け」
「‥‥承知、与一公に御供して白河の関を見て参ります。奥州が動くのであれば背後を固めましょう」
 信康はそれ以上語らず、与一は一度だけ小さく頷いた。
 その後、源徳信康が家康の名代として泰平祈願のために関八州の鬼門である下野国に赴いて福原八幡神社や温泉神社への奉納を行うと家臣団に触れが出された。

●金さん
 江戸奉行所の一室では江戸奉行・遠山金四郎を上座に数名の与力たちが膝を突き合わせていた。
 彼らの前には、江戸のある区画の地図が置いてある。とある寺に印が付けられ、周辺の幾つかの場所にも同じく印が付けられている。
 寺の周辺は大火で焼けて復興の済んでいない地域で住民は50名程度、通りから少し奥まったところにあり、背後は川になっていた。
「‥‥で、最後に只野、お前さんは配下と子飼いの岡引を率いて周辺を押さえてくれ」
 寺から少し離れた場所の食事処に本陣、辻沿いや舟着き場に遊撃部隊、寺から江戸を離れる街道沿いに伏せ勢が配されている。それに‥‥
「凶状持ちの捕り物で後詰めなんて‥‥と思わずに、住民を巻き込まないようにしっかりやってくれよ」
 冒険者ギルドを襲撃し、江戸城下を荒らした妖狐・赤面黒毛四尾の狐シズナと配下と目される男女数名が江戸に潜伏し、とある寺を根城にしていることが冒険者たちの探索により判明したのである。これを改め、妖狐一派であれば退治も止む無しという事になっていた。
「それで奉行はどうなさるのですか?」
「おいらかい?」
 そう言って江戸奉行・遠山金四郎は人懐っこい笑顔を、与力・只野新三郎に向けた。
「また、先頭に立つおつもりですね」
「そう言うな。1人で動かないだけマシだと思って許せ」
 遠山は地図に目を移した。そこには、ここにいる与力の数よりも多い配置の書き込みが‥‥
「彼らの実力は知っておりますが、果たして大丈夫でしょうか?」
「大丈夫さ。彼らは戦うだけが能ではないということを知っているし、それを活かす方法も知っている。
 案外、遊兵の彼らが決めてしまうかも知れんぞ」
「捕り物は水物。だが、彼らの出番はないでしょう」
 只野たち与力は遠山に強い視線を向けた。

●シズナ
 江戸の、とある寺の堂には数人の男女が昼から暗い室内に額を突き合わせ、逆光を浴びて不気味さを醸し出している。
「兵が動けば源徳を討つ好機。我らも動くぞ」
 老婆の言葉に、他の者たちは異もなくニヤリと笑うのみ。
「しかし、吉次らとの繋ぎが遅うございますな」
「さて、どうするかのう」
 若い男の声に答えると、老婆は口を噤んで瞳を閉じ、深く息をついた。

●今回の参加者

 ea2127 九竜 鋼斗(32歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea2831 超 美人(30歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea3225 七神 斗織(26歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 ea3813 黒城 鴉丸(33歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea9191 ステラ・シアフィールド(27歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb2174 八代 樹(50歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb2658 アルディナル・カーレス(38歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 eb3532 アレーナ・オレアリス(35歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)

●サポート参加者

神楽 香(ea8104)/ ユキ・ヤツシロ(ea9342)/ 陸堂 明士郎(eb0712)/ ヨシフ・イゴーリ(eb4636

●リプレイ本文

●白昼の襲撃
「行ったぞ。任せる!」
 必ず四尾シズナを討つ‥‥ その気持ちは誰にも負けない。積年の恨みと言ってもいい。
 はやる気持ちを抑えて剣を振るった超美人(ea2831)の脇を別の男が抜けて行く。
「逃げ道はない!」
 アルディナル・カーレス(eb2658)は、敵の刃を受けながら反撃の刃を繰り出す。
「覚悟せよ」
「くそっ、ここにもいたか‥‥」
 ぐばっと血を吐く狐目の男にアレーナ・オレアリス(eb3532)は容赦なくレイピアを突き出した。怨嗟の声を残して男は崩れ落ちた。
 どうやら小物を多数揃えた遠山の本陣の突入にシズナ一党は撤退を決め込んだらしい。
 シズナの姿が見えないところを見ると、配下たちを先に逃がしたか‥‥
 流し舟に潜んでいた足軽が顔を見せ、川に逃れようとした女は次々に放たれた矢の半数をその身に受け、悲鳴を飲み込んで倒れる。くそっと歯噛みする商人風の男は、背負い籠を投げ捨てると刀を構えてアルディナルたちへと飛び込んできた。
「言ったはずだ。逃げ道はない」
 敵の一撃にタイミングを合わせて待ち構えていたアルディナルは、一瞬の隙を突かれた。男は仕掛けてこずに2人の脇を駆け抜ける。その背に刃を振り下ろすが、僅かに斬ったのみ。間髪居れずにアレーナが追うが、相手も全力だ。
「憶えているがいい‥‥ うわっ!」
 引きつった笑みを残した男は、次の瞬間、体を上下左右に揺さぶられて思わず地に転がった。
「抜刀術・閃刃!」
 グラビティーキャノンが上手くいったことに安堵するステラ・シアフィールド(ea9191)を尻目に、九竜鋼斗(ea2127)は容赦ない一撃を加える。男は、ぱくぱくと何か言葉を発しようとして血の海に沈んだ。
「私如きでは心配かもしれませぬが、後ろはお任せください」
「気にするな。互いを補えば自ずと結果はついてくる」
 九竜の言葉にステラは、はいと短く答えた。
「さぁ、次が来たぞ」
 逃げようとする男たちを見て、九竜が促す。
「任せてください」
 まるで胡蝶のように七神斗織(ea3225)の剣が男を切り裂く。
「急々如律令、来たれ雨雲‥‥ 」
 八代樹(eb2174)が詠唱を終え、その身が淡い日の光に包まれた。
 足軽たちは一息ついているが、雲の切れ間から指していた日の光が途切れたのに気づいて僅かに溜め息を漏らした。
「いよいよ雲行きが怪しくなってきたな」
「いえ、これは布石に過ぎません」
 どんよりと立ち込めてきた雲を見上げ、八代は九竜を見て微笑むのだった。
「背後が川だからといって油断すればそこから逃げられる。何せ相手はあのシズナだからな‥‥」
 超の言葉に一同は気を引き締めるのだった。

●逃げ道
「本当は戦いたく無いんですが‥‥ 目的は何‥‥でしょう? 場合によっては協力も‥‥」
 捕り物の配置を見て、よもやと思って張っていた場所をシズナが通るのは幸か不幸か‥‥
 黒城鴉丸(ea3813)はシズナとの対話を試みていた。本来ならば1人で相手ができるような敵ではない。
 後方で待ち受けている仲間がシズナとの対戦に集中できるように、手下たちと戦う時間を少しでも稼げればと思っているが下手をすれば命を落としかねない‥‥
「どことなく悪の臭いのする男じゃな。じゃが‥‥興味はあるが時間がない。邪魔をするなら押し通るまでじゃ」
 妖狐の姿をしたシズナは耳まで避けていそうな口をニヤリと曲げた。
「シズナ様‥‥」
 シズナの背後からは、御用、御用と声がする。すぐにでも追いついてくるのは目に見えていた。
 手下に急かされるように、わかっておるとシズナは呟く。そして、1歩踏み出す。
「クックックッ、やっぱり話し合いは却下ですか。まぁ、この状況で話し合いも無いでしょうが」
「ならばどけ」
 斬り込もうとする一党の者をシズナの前足が遮った。
「とはいえ、雇われの身。戦わなくてはならないのですよね‥‥ しかし、私一人でどうにか出来るとも思えません。
 ここで私が取り逃がしても仕方が無いこと。どうぞ、お通りください」
「良かろう。戦う気もないくせに良く言うわ」
 可笑しそうに武器も持たない黒城を見つめている。
「いずれ関八州は戦に見(まみ)えよう。その騒乱に乗じて阿紫を討った源徳家康を討つ。その時は我が元を訪れるがいい」
 落ち合う場所を告げ、シズナはその場を後にした。御用の声はかなり近い‥‥
「くくく、手段などどうでも良いのです。ですが‥‥ 策士も楽じゃないですね」
 黒城は静かに身を隠すのだった。

●シズナ
「許さぬぞ‥‥ 恨みの魂よ。一族の者よ。我に力を貸せ」
 地を溜まった血をべろりと舐め、低く唸るように身を低くすると赤面黒毛の妖狐・シズナは四尾を一杯に広げた。
 仲間を逃がしたと確信していたシズナは、逃走経路に倒れている一党の者たちを見て、逆上するように毛を逆立てている。
「聖母の白薔薇が聖母様に代わって、お仕置きします!」
「誠刻の武所属、アルディナル・カーレス! シズナよ、団長に代わってお前の首は自分が頂く!」
 見得を切るアレーナ、アルディナルたちの後ろではステラや八代が魔法の詠唱に入っていた。
「業物を引っ張り出して与力たちには渡してあったんだが、流石は妖狐ってとこだな。
 本気で暴れられちゃ、足軽なんて木っ端同然。与力も何人か目減りしちまった」
「やはり自分たちが行くべきだったか」
「そんなことねぇよ。お蔭で奴の配下は一網打尽だ。それに戦さ死には出ちゃいねぇ。奴ぁ、手下を逃がすのに必死だったからな」
 手短な奉行の戦況報告にアルディナルは頷く。
「いきます」
「雷精招来、急々如律令! 撃てよ、雷!!」
 ごうとステラから重力波が飛び、呼ばれた雨雲から八代の雷が四尾を撃つが、転ばせること能わず、黒毛がざわわと波打つ。 
 ふわと壁を蹴り、弓兵の列へと突っ込んで足軽を吹き飛ばす。
「鬼道衆が一人、『抜刀孤狼』‥‥ 九竜鋼斗、参る!」
 弓兵を救おうと九竜と遠山が斬り込むが、塀の上に退かれ、その刃は届かない。

「お主は、いつぞやの医者‥‥ そうか、冒険者たちもおるのじゃな。どうじゃ小娘、長生きのために手助けせい」
「あら、わたくしは人間のお婆様に言ったのであって、貴女のような人に仇なす妖怪狐に長生きしてなんて言ってませんわよ」
 七神も口ではシズナには負けていない。しれっとしながら手下の男の刃を捌く。
「そこのお前、隙を突こうなど小賢しい」
 目の合ったアルディナルはシズナの体が淡い光に包まれたのを、ぼぉっと見つめた。
 必死に負けちゃいけないと思うが、シズナに魅かれる気持ちを抑えることはできなかった。
 そこへバシバシバシッとアレーナが手刀を中て、アルディナルは崩れ落ちた。
「急々如律令、音を途絶えさせ呪を封じよ!」
 すかさず八代がシズナの音を封じようとするが、シズナはククッと笑ってみせる。
「悶え苦しむがいい」
 シズナの体が再び月光に包まれる。その視線の先にはアレーナの姿が‥‥ しかし、アレーナには何の変化もなかった。
「笑止。そのようなもの、聖母様の加護の前では効かぬと知るがいい」
「ばかな‥‥」
 こと相手が魔法ならばレジストマジックの効果は絶大だ。
 ワスプ・レイピアを繰り出したアレーナは四尾の黒毛がどす黒く染まっていくのを見た。
「九尾は倒れた。九尾より劣るお前に何ができる。諦めの悪いその思い、断ち切ってやる! 滅べ!!」
 強い思いの篭った超の剣がシズナの片目を切り裂く。
「くっ‥‥ 月影さえあれば‥‥」
 シズナの口から思わず愚痴が飛び出す。
 無論、月影のない場所で戦闘力が落ちることはない。それは次々と倒されている足軽たちを見れば一目瞭然。
「雑魚どもが!!」
 手傷を負わせた今でも爪や牙が振るわれる度に血煙が舞う。
 しかし、幾つかの魔法は使えず、シズナの戦法の幾つかを封じたのは確かだろう。
 それに、暗闇の中で戦わずに済むのも冒険者にとって有利な条件と言えた。
「あの時言ったはずだ‥‥ お前を必ず狩ると!」
「今度は憶えておくよ。坊」
「油断大敵、霞刀っ!」
 九竜の一閃、そして七神の一撃は空を斬った。
「ちっ‥‥ 幻影か!」
 シズナの姿は既に他の列に飛び込んでいた。

●顛末
「シズナ様‥‥ 無念じゃぁああ」
 ついに最後のシズナ配下が倒れた。
「この恨みは晴らす。必ずのう」
 その紅に染まった瞳の奥に憎しみが渦巻いているのを冒険者たちは感じ取っていた。
「マズい!!」
 九竜が叫ぶ!
「逃がすな! 射よ!!」
 遠山の指図で足軽たちは一斉に矢を放つが、地を蹴った勢いで一気に空中へと躍り出たシズナを止める手段は奉行所勢にも冒険者たちにもなかった。
 矢の殆んどは外れ、僅かに中った矢も弾かれた。当然、剣は届かず、僅かに八代の雷がその身を焼いたのみ。
「兵法の常道を突かれたか。妖狐を見くびってしまったようだ」
 アルディナルは詰めの甘さを痛感していた。シズナは一族と行動を共にするために地を行っていたのだ。
 一族という枷があればこそ飛ばなかったのだということに気づくのが遅すぎた。
「あれでは我が剣も届かぬ」
「確かに。口惜しいが、次こそは討つ」
 アレーナと超は剣を収め、妖狐が飛び去った方を見た。あれでは馬で追ったとしても追いつけないだろう。
「悔しい‥‥」
 思わず口を突いた八代の独白は、その場にいた全員の心中を代弁するものであった。
「源徳家康を討つ。そう言っていたな。あいつは」
「! 詳しく話してくんな」
 詰め寄った遠山に、黒城はシズナから聞いた話を伝えるのだった。