【那須落王】王の帰還
 |
■ショートシナリオ担当：シーダ 対応レベル：7〜11ｌｖ 難易度：難しい 成功報酬：4 G 48 C 参加人数：8人 サポート参加人数：-人 冒険期間：04月24日〜05月02日 リプレイ公開日：2006年05月03日 |
|
●オープニング
●落王帰還江戸城が信康出立に動き出した頃、那須藩江戸屋敷にて‥‥
「殿、出発ですな」
「あぁ、ようやく那須へ帰る目処がついた。源徳信康殿も同行するから那須軍も簡単には手出しはできぬ」
「しかし、微妙です。殿の身が心配で‥‥」
比較的に軽口に近い旅装の男の言葉とは一風変わって、下野国国守、喜連川那須守与一宗高の言葉に合いの手を入れる那須藩江戸詰めの藩士の言葉は緊張がピリピリと伝わってくる。
「後は仕上げだけだよ。どうなるのかは、その時になってみなくてはな」
「きっと信康殿から甘いと言われますなぁ」
「多分な」
与一公と旅装の男は苦笑いをかわすのだった。
さて、少し過去のこと‥‥
それは与一公が江戸城での家康公との会見を終え、信康殿が那須へ赴くと触れがあって直ぐの出来事だった。
「那須へ帰る」
「は？ 那須へ帰る？」
江戸詰めの那須藩士が驚いた表情で藩主へ聞き返した。
本来なら、そのように聞き返すなどあってはならぬようなことだが、半年も藩へ帰れなかった事情を知るだけに許される範囲と言えるかもしれない‥‥
「兵はどうするのです、殿？」
復唱した藩主与一公に旅装姿の男が問い返す。
「まずは喜連川にいる結城朝光を那須支局目付けの任から一時解き、そこで兵を集めさせる。
神田城を押さえている藩士たちも小四郎の弟が兵を挙げたと勘違いしてくれるさ」
「本当に兵を挙げたりしたらどうするのです？ 殿‥‥」
「私は家臣を信じる。例え裏切られても。腹を切らせる以外の道を探して許したい」
「殿‥‥」
「私と朝政を信じよ。朝光のこともな」
那須藩士にしてみれば、クーデター派の首班とされている小山小四郎朝政を信じろと言われても、にわかに信じられないだろう。那須神田からは定期的に小山朝政からの連絡があるのは知っているが、どうもということなのだ‥‥
ましてや、その弟である結城朝光に兵を集めるように指図するのであるから‥‥
源徳家康を烏帽子親に持つ結城朝光だけに信康を傷つけることはないと信じても良いような気はするが‥‥
「付き合わされる信康殿は災難ですな」
「神田城の那須兵は小四郎が押さえてくれよう。最悪、信康殿だけは逃がす。私の命にかけてな。そうでなければ那須の民は本当に地獄を見ることになる」
やはり不安だ‥‥ 那須藩士は、そう心の中で漏らすが、彼にしても自分の主君を信じるしかないのだった。
「それで喜連川まではどうするのですか？」
「冒険者を護衛に雇う。那須の兵たちを刺激しないよう信康殿の名義を借りることは了承済みだ。喜連川からは一気に神田へ寄せる。冒険者にはそこまで付き合ってもらうつもりだ」
那須藩士に対して与一は笑顔を向けた。
「しかし、それでも兵が足らぬでしょう。神田の那須兵が押し出してくれば少なくとも同数。篭城すれば城兵の３倍が必要となりましょう。殿が那須の藩士たちをお信じになる気持ちは分かりますが、できるだけ兵を整えなければ安心できません」
正面決戦になれば遠征している与一軍よりも反乱軍の方に分がある。補給からしてそうだ。
「それについては山伏・虎太郎の助けを得られている。釈迦ヶ岳にいる隠れ里のエルフの使者に繋ぎがついているからエルフの里が同盟軍を起こしてくれよう」
与一の言葉に那須藩士は頷いた。少しは安堵したようである。彼らの弓の腕前と精霊魔法の威力は八溝山の戦いを知る者であれば一騎当千と感じてもおかしくはない。実際の戦力以上の働きをしてくれるだろう。
「しかし雑兵が足りませぬな」
「それは神田兵にしても同じこと。田植えを控えては、そう多くを集めることはできないよ。
それに武蔵を国抜けした領民を喜連川に留め置いている。那須雑兵として使って構わぬと家康公には許可を頂いている。およそ１００にはなろう。兵役を終えれば武蔵へ帰国することも那須へ留まることも許すと、秘かに話はつけてある。」
不安は多々あれど、那須帰還をこれ以上伸ばすつもりはないらしい。
●金売吉次
「シズナ一党が討たれたか」
「吉次様、源徳の動きの前に討たれたのは痛かったですな‥‥」
「仕方あるまい。シズナは逃げ延びたと言うし、どこかで役に立ってくれるだろうさ」
吉次と呼ばれた浅黒い肌の筋肉質の巨漢は、配下の忍者にぶっきらぼうに答えた。
「佐治（さじ）と馬治（まじ）に与一を討たせろ。与一さえいなければ那須は一気に崩れる」
「はっ‥‥ それでは繋ぎをつけます。くくくっ‥‥ 影走りの佐治様、斬馬の馬治様であれば討ち漏らすことはありますまい」
黒脚絆の忍者は暗闇に消えた。
●今回の参加者
ea0176 クロウ・ブラッキーノ（45歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国）ea0270 風羽 真（36歳・♂・浪人・人間・ジャパン）
ea3813 黒城 鴉丸（33歳・♂・志士・人間・ジャパン）
ea5011 天藤 月乃（30歳・♀・忍者・人間・ジャパン）
ea7755 音無 藤丸（50歳・♂・忍者・ジャイアント・ジャパン）
eb1061 キシュト・カノン（39歳・♂・ナイト・ジャイアント・ビザンチン帝国）
eb2244 クーリア・デルファ（34歳・♀・神聖騎士・人間・ノルマン王国）
eb3272 ランティス・ニュートン（39歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国）
●リプレイ本文
●那須入り与一軍は結城の集めた兵を加え、源徳信康の兵と共に那須喜連川の本陣に入った。
両軍は補給を終え次第、神田へ向かうという。
ともあれ、補給の寸暇、冒険者ギルド那須支局の一室に腰を落ち着け、冒険者たちは情報収集に勤しむ。
「この国に来てからずっと京にいたものでね、その辺りの事情には疎いんだ。良かったら教えて貰えないかな？ 知っているのと知らないのでは、取れる動きも違うかと思うからね」
愛用のカップでお茶を楽しみ、一息つくランティス・ニュートン（eb3272）は爽やかな笑顔で喜連川家御家人と話をしている。
確かに地形を知っているのと知らないのとでは戦いに支障が出るが、地の利は武器。そうそう簡単に教えてもらえるものではない。
与えられたのは那須地形の相関図とでも言ったら良いだろうか。
「むふふ。神田には早く着きたいと言ってましたネ」
クロウ・ブラッキーノ（ea0176）のバーニングマップで地図が炎に包まれた。
慌てるランティスや御家人を尻目にクロウは動じる様子もない。
「近道あるじゃないデスカ」
焼け残ったところが近道らしい。
「そ、そこは大軍が通れる道ではない」
「教えては意味がないですよ」
「！ 申し訳なく！！」
与一公の突っ込みに、御家人さん、動揺しまくりである。
「じゃ、次の地図、イッテミマショウ」
御家人は地図を燃やされまいと焦っている。
「余計な力が入っているとイザという時にガンバレません。でっ、与一サーンはどんなタイプの男がお好きデスカ？」
与一公の身代わりに割って入った御家人の耳にクロウの息が吹きかけられ、おぅわと吐息が漏れる。
次の瞬間、涙目の御家人がクロウを凝視し、クロウはというと肩をすくめている。
余計に緊迫感が増した気がするのは気のせいか‥‥ ま、戦の息抜きになったのは間違いないだろう。
その証拠に、ほら。皆の顔に笑顔が‥‥
さて、与一公のやや下座の源徳信康が席を離れ、結城朝光と行軍の打ち合わせなどしている間に‥‥
「遂に与一っつぁんが動いた、か‥‥ これで吹いた風が、どう影響するやら」
「このまま何もなく行ければ良いのだが‥‥ 那須殿はどう思う？」
「そうはいかないだろう。私が神田に入れば那須兵が動くからね。それを好ましく思わない者はいるさ」
風羽真（ea0270）は、与一公の言葉に同意した。
「奥か？」
「どうかな」
動くのであれば、当然伊達。源徳寄りとして動くのか敵対するのかはわからないが、那須の動きに呼応して反作用は起きるだろう。
「尤も、那須もいつまでも受け身ではいないつもりですが」
那須殿は兵を動かすんだ‥‥とクーリア・デルファ（eb2244）は漠然と思ったが、気に留めることなく仲間たちの得物の手入れをしている。
荒れるな‥‥ 風羽は戦いの予感に僅かに身震いした。
さてさて、那須支局の別室では‥‥
「襲撃を受けそうな危険な箇所は、こことここ。それから‥‥」
先行していた天藤月乃（ea5011）が、兵の有無や伏勢の可能性を報告している。他の密偵や忍たちからも次々と報告がなされている。
「信康殿に同行されている隠密から情報によりますと、黒脚絆の者たち６名ほどが我々を追って下野に入ったと」
音無藤丸（ea7755）の報告に、那須密偵の旅装の男が藍熊、佐治、馬治など中忍以上と思われる忍が動いているようだと付け加えた。
「さて、新たに散ってもらうぞ」
「え〜‥‥ ぐぅ」
「ぐぅ、じゃないだろ？ 斥候を頼むよ」
「あ〜あ、面倒くさいな。後で絶対楽させてもらうからね」
天藤は密偵に言われ、渋々と腰を上げた。ちゃっかりと飯代と宿賃を分捕ってではあるが。
本番はこれから。それは与一公や信康殿を始め、皆も同じ気持ちだった。
●悪巧み
「バレバレ‥‥ 間抜けですね。シズナ殿のような思慮深い方だと助かるのですが‥‥」
斥候として単独行動を取っていた黒城鴉丸（ea3813）は、黒脚絆の２人組みを見かけて失笑した。
忍び歩きで接近すると相手の雰囲気が変わった。死角を補うようにしているのはわかっていた。気づかれるのは想定内だ。
「シズナ殿は大丈夫ですかね。まぁ、お互い生きていれば、また会えるでしょうが」
「何の話ですか？ 人違いでしょう」
男は困惑した表情で返事した。
「私はシズナ殿の知り合いでして、今後の関係を深めるためにあなた方の主人に御挨拶したいのですが‥‥ 戻って確認すると良いですよ」
悪の表情とでも言えばいいのか‥‥ 黒城自身、最近、頓（とみ）に板についてきた気がする。
「取引先のお嬢様のことでしたか？」
「赤面すると御美しい、黒髪の綺麗な、あの」
男２人は警戒を解かないまでも、当たりをつけてきた。
「えぇ。金太郎と申しますので、江戸でお会いすることもあれば宜しく」
「そうですか。私はここで引かせていただきます」
引き際も見事‥‥ 策士と呼ばれる所以か‥‥
（「１人の名しか教えなかったのは不自然‥‥ 符丁でしょうか‥‥」）
黒城は無意識に悪人顔で笑っていた。
●奇襲
与一軍と信康軍は福原八幡へ詣でるためと称して神田城近辺に陣取る予定になっている。
広さの関係から陣屋は別に取られ、供回りのみを連れての参詣となる。
冒険者たちは、信康からの連絡兵として与一の近くにいる手はずだ。
「当然、この機会を逃すわけがないな」
「誘き出すためにやったと思ってましたガ、違うのデスカ？」
周囲にさり気なく注意を払う風羽とは違い、クロウは襲撃されるであろう与一公以上にくつろいでいるようにも見える。
「兎も角、陽動や奇襲には気をつけないと。人遁の術で人混みに紛れて襲われたりすることも考えておかないと」
「私に化けようなんて勇気ある忍がいたら誉めてあげますヨ」
笑うクロウに、音無などは思わず溜め息をついている。
八幡の参道を歩いていると‥‥
ズバンッ！！
不意の爆発音に全員の注意がそちらへ向いた。向いてしまうのが反射の怖いところだ。
「いけない！」
風羽が危険を直感して振り向いた。
「微塵隠れか！！」
音無が剣を抜くが、事態の推測が精一杯で斬馬刀を振り下ろす男の動きには対応しきれていない。
「南無三‥‥」
与一公が斬られる‥‥
「悪党たちの好きにさせるわけにはいかない！」
その咄嗟に間に合ったのはランティスだ。シールドソードで斬馬刀を受け止めた。
「与一公を御守りするんだ！」
ここで止めないと後ろは与一公である。男は外套の影から予想外の手裏剣を放ってくる。
しかし、白き女神の鎧などで全身を覆うクーリアにとって手裏剣程度の武器は殆んど意に介せずに済む。
「那須殿、あたいの後ろに」
「わかった。しかし、大丈夫か？」
「そのために重厚な装備だ。気にするな」
与一公はクーリアたち冒険者を盾に男と対峙した。
「討ちそこなうか。運の良い奴め」
「本気で殺りに来ているのだとしたら、伏兵がいてもおかしくない。俺なら注意を引きつけておいて、影から忍び寄る。気をつけろ」
大きく振りかぶった両手のシールドソードを同時に繰り出してランティスが討って出る。馬治は、それを捌いて見せた。
「よく分かるものだ。冒険者とは侮れんものよ」
「くっ‥‥」
男の外套から飛び出した影による不意の攻撃を防ぐのに精一杯。ランティスは斬馬刀の一撃を覚悟した。
「忘れるな。俺を」
風羽は、大脇差の一文字で衝撃を巧く受けた。
「ハハ、斬馬の馬治を憶えておけ。お前の名は」
「真。風羽真だ」
馬治と名乗った男はククッと笑って飛び退いた。
「ちょこまかと」
黒城がグラビティキャノンで援護するが、闘気に優れた屈強な忍者相手に転倒効果までは望みすぎか‥‥
「佐治、黙らせろ！」
「おぅ」
馬治の叫びに呼応して、一気に距離を詰めた佐治の突きが黒城を捉える。
「面倒くさいから何もしないで帰ってくれればいいのに‥‥」
天藤は金属拳、龍叱爪と同時に頭突きを繰り出した。影のような男が苦痛で顔を歪め、たまらず息を飲み込んだ。
「佐治！」
体に似合わず馬治の動きは速い。振り抜きの一撃が天藤を吹き飛ばした。
止めの一撃を振り下ろそうとした瞬間、音無の鞭が馬治の手元を狂わせた。
「やるな‥‥」
腹を押さえる佐治は馬治と与一公を睨みつけた。しかし‥‥
「何人かかってこようが、与一公には指一本振れさせない。秩序の証たる、この腕輪にかけて！」
「与一公を討たせはしない」
ランティスやクーリアの護りに中々打ち込めずにいる。下手に仕掛ければ、風羽の刃の猛襲が来るのは目に見えていた。
「「仕損じるとはな‥‥」」
息を合わせて２人は退いた。
ひゅう‥‥ どざ‥‥
バーニングソードが付与された矢の風切り音の遠くなり、何かが倒れる音がした。
「ヤルネ。流石は与一サーン」
「手応えはあったが‥‥」
弓を抱える与一公の隣ではクロウが手を叩いている。
「追手は不要。まだ、伏勢がいるかもしれんからな」
とりあえずは体勢を整え、周囲の索敵を行うことにした。
「あたいは異国から来た者だが、あたいの力では那須殿の力になれないか？ この国の平穏にする為に那須殿の力になりたい」
暫し、沈黙の時が流れる‥‥
「私の行く道が正しいのか、それはわからない。それでも良ければ力を貸してほしい」
クーリアへの与一公の返答に、らしいやと黒城は思った。ともあれ‥‥
「美味しい料理を食べれたけど、面倒な仕事だったよ。ホントに」
必要経費で貰った分、きっちりと食った天藤にとって、怪我するなんて踏んだり蹴ったりであった。
