【赤恨】シズナ追討戦
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■ショートシナリオ
担当:シーダ
対応レベル:10〜16lv
難易度:難しい
成功報酬:5 G 81 C
参加人数:8人
サポート参加人数:4人
冒険期間:04月27日〜05月02日
リプレイ公開日:2006年05月06日
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●オープニング
●赤恨の狐
「残ったのはこれだけか‥‥」
長く息を吐いて老婆は顔を顰めた。
「シズナ様、南町奉行・遠山めを討ちましょう。あ奴は最早、憎んでも憎みきれませぬ」
「冒険者も許してはおけない‥‥ くそっ!!」
激した男たちが空気を掴み、握り締め、握りつぶした。男の1人は急に立ち上がって血を吐いた。
「静かにしておれ。傷に響くぞ。遠山には惨たらしい生を与えてやろう。お前は安心しておれば良いのじゃ」
シズナと呼ばれた老婆に諭され、男たちは座ったり横になったりした。
彼らの包帯はどす黒く汚れており、静かだが肩で息をしている者もいる。その数は総勢6人。
「今は傷を癒すのじゃ」
老婆の声に全員、静かに息を漏らした。
カタッ‥‥
堂の入り口近くで音がして全員に緊張が走った。
「お困りのようですなぁ」
子供が扉を開けて入ってくる。
「吉次‥‥か」
堂の扉を閉じた子供は鼻で笑い、その身を浅黒い巨漢へと変じていく。
「困ったことになりましたな、シズナ殿」
「源徳は討つ。安心せい」
ねっとりと絡みつく視線で攻防するように一頻(ひとしき)り無言で見つめあうと、残忍な笑みを浮かべて失笑しあった。
「笑いに来るほど暇ではあるまい。何用じゃ」
断定するように言うとシズナは静かに座った。
それに対して吉次と呼ばれた巨漢は包みを置いて開いて見せた。
「実は私は手広く商っている中で、薬売りもしておりまして。こちらで必要ではないかとお持ちしたのです」
吉次は初老の商人に姿を変じると薬壷を堂の床に並べ、その場の者たちを見渡した。
「して、見返りは」
「流石、シズナ殿。話が早い」
「前置きは良い。話せ」
ふざける吉次にシズナは鋭い視線を投げた。
「江戸で暴れていただきたい。憎き遠山を討つも良し。冒険者狩りをするも良し」
「良かろう」
「それでは何かあれば繋ぎを入れてくださいませ」
「気持ち喋りを止めよ。」
「それじゃ、宜しく」
ククッと笑い、再び子供の姿に変じると吉次は堂を後にするのだった。
●追撃
江戸奉行所の江戸奉行・遠山金四郎は与力たちに命じて、包囲戦の折に冒険者・黒城がシズナ本人から聞いた場所を張っていた。
江戸の西にあるその屋敷には誰も住んでいない。一度だけ浪人が雨宿りに使っただけで人気はない。
狐の呪いで武家屋敷の一家が相次いで死んだとかで周囲の者たちは近寄らない。
西側に門、北側には勝手口があり、中程度の広さの屋敷を取り囲むように塀が建っている。
「早く来やがれ」
遠山は独り言を漏らした。源徳家を狙っていることは既に判明している。前回取り逃した以上、何度も取り逃がすわけにはいかない。
部下の報告を一日千秋の思いで待つしかないのである。
そのとき、配下がバタバタと足音を立てて走ってくるのが見えた。果たして‥‥
●リプレイ本文
●シズナの知略
(「江戸、上野の続いて四尾の狐さんとはもう3度目になるのですね‥‥ やはり戦わなければいけない運命なのでしょうか‥‥」)
動物学者としてレヴィン・グリーン(eb0939)は複雑な心境を抱きつつも、口に出していうことはない。
現に被害が出ている以上、社会とは相容れない化け物なのだから。
「飛んで逃げられてはどうしようもない。これを何とかしなくては」
「配下の狐に止めを刺さず、徐々に包囲に追い込み、シズナの足枷とする以外には‥‥」
「いつまでも討ち損じてはいられん。やはり、それしかないか」
超美人(ea2831)、ルーラス・エルミナス(ea0282)の表情は、苦虫を噛み潰したように厳しい。こちらに飛行能力がない以上、何かしらの理由をもって逃がさない方策とするしかない‥‥
「俺にも、それ以外の策は思いつかねぇな‥‥」
士気が上がらないのか遠山たちも口をへの字にしている。
「追い込むことばかりでなく、自分たちの退路なども考えておかないと大変ですわ」
レヴィ・ネコノミロクン(ea4164)の言い分にも一理ある。とりあえず、敵の逃走経路を特定することで、これが必ず自らの逃走経路としても役に立つと信じるしかなかった。さて‥‥
流石に大勢で囲めば、全て隠密に事が運ぶのは難しいか。
包囲網の一角を担っていた冒険者たちは先制の強烈なシャドゥボムをくらった。この威力を続けざまにくらえばダメージは馬鹿にならず、早速、ポーションの世話になる者もいて士気は微妙に上がらない。
「ふむ‥‥ 親玉が死んだのにまだ元気な狐もいるもんだな‥‥」
上野以来の妖狐戦に鋼蒼牙(ea3167)は楽しそうに鼻で笑う。
レヴィンがウェザーコントロールの経巻で晴天に雲を呼ぶが、日中に完全に影を消すことは難しい。
月夜の闇であれば影を消すこともできようが‥‥
続けて経巻を試してみたが、それ以上、天気を動かすことはできそうになかった。
「位置を特定できても狙うのは無理ですね‥‥」
ムーンアローの経巻を使ったクリス・ウェルロッド(ea5708)は首を振った。
呼吸の大きさから既に妖狐に変化しているらしいことや配下たちと屋敷内にいることだけはレヴィンのブレスセンサーでおおよそわかるものの、姿が見えないのでは対処法は限られる。
「篭城されるとは思わなかったぜ」
意図的に包囲を緩めた場所を作って誘った遠山や冒険者たちにとって晴天の霹靂とでも言おうか。
「噂どおり狡猾だな。罠の1つや2つ、覚悟してはいたが」
イグニス・ヴァリアント(ea4202)が歯噛みした。
冒険者の一隊に魔法を撃ちこんで来たことからも、彼らが作戦の肝であることも勘付かれているようだ。ならばと突入させた与力と足軽の一隊は殆んど一瞬で倒され、他の部隊と連携する前に沈黙してしまった。打撃力のある部隊で崩さなければ‥‥
「俺たちで斬り込む。それ以外にないだろうが」
クルディア・アジ・ダカーハ(eb2001)に一理ある。それに夜になれば妖狐に有利になる。
遠山は包囲の仕方だけ変更せずに冒険者たちに先陣を任せることにした。ルーラスたちにしてみれば不本意だが、戦いは水物、時の運。やるしかなかった‥‥
「短期決戦でいきましょう」
雰囲気に似合わずクリスが言う。
「妖狐の月の魔力の恐ろしさは話しただろう」
「下手に時間を掛ければ付け入る隙を与えるだけ。一気に攻めて妖狐の手数を抑えるしかないですよ」
超とクリスの意見はどちらも尤も‥‥ 水掛け論になると遠山は2人を宥めた。
「まぁ、少し待て。今回、俺が出来そうな事はこれぐらいだからな‥‥」
際どい戦いでは魔法の補助が勝敗を、生死を分けると、鋼は素早く集中してオーラパワーを付与していく。
●昼間の闇
「双撃の刃、その身に刻め!」
戸を蹴破って突入したイグニスたちは暗闇の洗礼を受けた。
イグニスの耳元を矢が掠め、クルディアは二の腕から矢を引き抜いた。
「同士討ちに気をつけて」
ルーラスが叫ぶ。
「見えないんじゃ、援護できないよ」
レヴィやレヴィン、鋼やクリスは攻撃のやり場に迷っている。
「右側に遠ざかっていきます!」
呼吸の動きを感じてレヴィンが指示を出すが、右も左も分からない暗闇に冒険者たちは互いにぶつかり、混乱、負傷した。
「では、シズナ様、お先に」
「後でな」
狐へと変じた男たちは暗闇に飛び込み、囲む与力や足軽たちの足元に紛れ込んだで床下や茂みに潜り込み、僅かの隙にその場から消え去っていった。
「どこに行った!」
冒険者たちは暗闇から抜け出し、大半は庭に降りた。
ズガァアン‥‥
屋根を破った赤面黒毛の妖狐の、四尾を立て、白銀の帳を纏った妖しい姿に足軽たちの動きが止まる。
「まさか‥‥」
そして、土煙の中に現れたのは白面金毛九尾の狐。与力や足軽たちが恐慌状態で壊走を始める。
「そんなはずはない! 九尾は俺たちが富士の火口で討った」
クルディアが叫ぶが、不死身なんだぁなどと叫びながら逃げ惑う足軽たちを簡単に収められようはずもなく‥‥
クリスの矢やレヴィンの稲妻が撃つが、手応えがない。
「どちらも幻影ですね」
「その塀の後ろ!」
シズナを捜すクリスに、レヴィンが叫ぶ。次の瞬間、突如として暗闇に包まれ、闇から抜け出そうとして、強烈な体当たりを受けた。吹き飛ばされ、起き上がった先でシズナの視線に見据えられ、超は身構えた。妖狐の姿が白銀の光を纏うが、何も起きない。
「耐えるか。やはり、お前たちを倒さねば先へ進めぬようじゃな」
「それはこちらの言い分! 今日こそ必ず!」
唸るようなシズナの言葉に、超は叫び返した。仲間から借りた月光の指輪に感謝しながら‥‥
一瞬の間が超には永遠にも感じられる。それを破ったのは白き一陣の風。
「そこかぁ、シズナ覚悟! ウーゼルの白い戦撃を受けよ!!」
「うがぁあ!!」
オーラを纏ったクリスタルソードを一騎打ちの要領で振り、助走の勢いのままルーラスが屋敷の壁に激突した。
「これでも浅いかっ‥‥」
シズナも壁に激突して、体勢を崩しているが、ルーラスが期待したほどの傷ではない。
「この一撃で決める。喰らえ!」
「傷を付けよったなぁ!」
オーラの力を得ても超の剣の威力では僅かに傷つけるのみ。喉元を狙う牙を受けるが、体重を乗せられ、押し倒されそうになった。
「離れろ、超!」
鋼とクルディアが割り込む。
「大丈夫?」
飛び退いたシズナはレヴィのローリンググラビティに巻き上げられた。
しかし、落ちては来ない。しっかりと空中に踏ん張る足からはポタポタと滲んだ血が流れていた。
●百戦錬磨
「手下はどうした。まだ、あの闇の中か?」
「珠を隠すなら石の中、人を隠すなら人の中‥‥」
シズナのゾクッとするような笑みに鋼たちはレヴィンを見た。
「今はシズナしか探知できません‥‥」
首を振るレヴィンにシズナ配下を逃がしたことを知った。
「1匹は捕まえたがな」
冷静ささえ奪えれば勝機はある‥‥とイグニスは血を滴らせた狐をシズナの方に投げた。
(「お願い‥‥」)
レヴィはアグラベイションをかけてみた。効けば、動きが鈍るはず‥‥
「シズ‥‥ナ‥‥さ‥‥ま」
そう言うように口をパクつかせて狐は瞳から生気を失った。
「よくも我が一族を‥‥ 」
シズナの顔が歪み、ビクビクと表情を引きつらせて牙をむいた。
跳躍するたびに待ち構える槍衾が吹き飛び、足軽たちの手足が飛ぶ!
鋼のオーラショットが撃っても、クリスの矢が突き刺さっても暴行は止まらない。
矢を、刃を弾き、怯んだ足軽の首を捻り、爪で切り裂き、咥えて毟り取った首を息絶えた一族の狐に供えるように投げた。
「来い! いや、何なんだ‥‥ こいつは‥‥」
クルディアは突っ込もうとして危険を感じた。ルーラスたちも格の違う殺気に変わったのを感じて足が止まる。
「お前の恨みの魂、妖力として我と共にある!」
ちりと鈴の音‥‥ 血の臭いが充満する戦場で、シズナは身震いし、魂を震わすような咆哮を上げた。
「嘘だろ‥‥」
4尾が銀の光に包まれ、5尾に分かれていく‥‥
濃紅の面毛、波打つ艶やかな漆黒の体毛、凄みを増した深紅の瞳‥‥ いずれもが内なる輝きを増したように見える。
赤面黒毛五尾の狐・シズナとなった瞬間だった。
「お願い、効いて!」
レヴィはストーンをかけたが変化はない。
「その尻尾、斬り落としてやる」
「騒がしい!」
走り出したクルディアは、シズナの一喝と共に影を縫いつけられたようにその場から動けなくなった。
シズナがすれ違い様の一撃をくらわせる瞬間にタイミングを合わせて、シズナの足を掴んだクルディアは刀を突き出した。
「はっ、この瞬間だけ待っていた」
「ぐっ‥‥ 潮時じゃな」
無理な体勢で突き出した刀はシズナの体毛を滲ませるが、尻尾を斬り落とすまではいかない。
「止まって!!」
クリスはシズナの目を狙うが、弾かれた。
「っは、九尾殺しとその太刀を見過ごして尻尾巻いて逃げるのかよ」
「無視かよ」
クルディアが叫び、鋼渾身のオーラショットが撃つが、シズナからの返答はない。
「親玉は逝ったんだ‥‥ お前も大人しくできないようなら逝け!!」
「あの方が? あの方がお前たち如きにやられると思うてか? くはははは」
暗闇に閉ざされた中で遠ざかる静かな低い声が遠山と冒険者たちに響いた。
「まさか生きてるわけないよな‥‥」
「富士の火口に叩き込んでやったんだ。生きているわけがなかろう」
鋼とクルディアの会話を聞いていた者たち全員の胸に一抹の不安が沸き起こるのだった。