あてがわれた強敵

■ショートシナリオ


担当:シーダ

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:05月03日〜05月08日

リプレイ公開日:2006年05月12日

●オープニング

 ズズム‥‥
 枝ずれの音がし、木の葉がキラキラと光を反射しながら、バサッ、カサハラと舞う。
 ズササ、パキポキと枝を踏みしめる音の多さが、巨大な生物が移動している気配がヒシヒシと伝わってくる。
 春の木漏れ日の中、山野に犬の鳴き声が響く。木々の間からぬ〜〜っと出てきたのは猪の顔だ。
 不自然に高い猪の顔の位置の理由は、すぐに理解することができた。
 猪の顔の下には熊の体が‥‥ その身にはボロボロなった胴丸鎧が着けられている。
「猪の鬼? く、熊の鬼なのかぁ!?」
 狩人の男が言葉を漏らした瞬間、多少刃こぼれした野太刀は対峙した犬を薙ぎ払い、悲鳴をあげる間もなく木に叩きつけた。
 愛犬の体を抱えると狩人は、涙で足元を見誤って転びながらも谷間を駆け抜け、一気に熊の化け物を引き離した。
 川原で振り返る狩人の目には、熊の鬼に襲われた山の斜面と川を挟んで切り立った崖が映っている。
 視線を落とすと、その腕の中には狩りの相棒としてこの山野を駆け巡った冷たくなっていく愛犬がいる。
「牙‥‥ きぃ‥‥ばぁ‥‥」
 慟哭を漏らしながら狩人は山を降りた。

 『片道で丸1日程度の距離にある山村に、はぐれ熊鬼が1頭で出現。退治してくれる冒険者を募集。経費冒険者持ち』
 事件から暫し、江戸冒険者ギルドにこのような依頼が出された。
「これなら初心者の度胸付けにも、うってつけだな」
 ギルドの親仁はギルドを訪れた冒険者に声をかけてみるのだった。

●今回の参加者

 eb1044 九十九 刹那(30歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 eb2205 メアリ・テューダー(31歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb3241 火射 半十郎(36歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb3701 上杉 藤政(26歳・♂・陰陽師・パラ・ジャパン)
 eb3961 レオニード・ケレンスキー(33歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb3979 ナノック・リバーシブル(34歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb4971 鷹部 朔人(42歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)
 eb5073 シグマリル(31歳・♂・カムイラメトク・パラ・蝦夷)

●サポート参加者

七神 斗織(ea3225)/ ロニー・ステュアート(eb1533

●リプレイ本文

●凶熊鬼
「十中八九、1匹。あの辺りを縄張りにしているようです。
 遠くから見ましたが、刀を持ち、胴丸を着け、猪の頭に熊の身体、話に聞いたことのある熊鬼に間違いないでしょう」
 先行して依頼人の狩人と合流し、犬を連れて熊鬼の動きを追っていた火射半十郎(eb3241)は、山の一角を指差した。
 2人と1頭で戦闘になれば勝算は少ないと、慎重に痕跡を探しに専念し、彼らはそう結論付けた。
「足跡はバグベアに似ていますね」
 観察するメアリ・テューダー(eb2205)は、歩幅などから熊鬼の大きさを推測した。
 所々、木の皮がささくれている所があり、野太刀をぶつけたのだろうということが見て取れた。
「むう、しかし、狩りの相棒を殺されるとはまた不憫な‥‥ 
 無念は晴らさせてもらおう。それに、武装した怪物が増えて人里に出てきたら危険極まりない」
 幸いにも人里にまでは下りて来ていないと知ったレオニード・ケレンスキー(eb3961)たちは安堵したが、いつ人里を襲ってもおかしくないとも予感がする。
「そいつ、群れから逸れて1人でいるのか? バグベアファイターのような奴なら、かなりの強敵。互いの連携が大切になるぞ」
 ナノック・リバーシブル(eb3979)は周囲の地形を確認しながら進む。
 熊鬼の群れに遭遇したら‥‥ 確かに可能性はある‥‥
「まずは目の前の魔物を退治することを考えるんだ。予想外の敵が出てきたら、改めて対処しよう」
「そうだな。あなたには周囲の警戒をお願いしたい。バグベアがあれ一匹だけとは限らないからな。よろしくお願いするぞ」
 周囲に首を巡らす鷹部朔人(eb4971)とナノック・リバーシブル(eb3979)の言葉を、狩人は承諾する。
 やがて、狩人が襲われ、愛犬の流した血が僅かに木などに残っている現場まで辿り着き、狩人は思わず涙した。
「死地の卦が出ておる。ここには‥‥」
 上杉藤政(eb3701)は首を振った。
「あなたの無念、何とか私たちが代わって晴らしたいです‥‥」
 九十九刹那(eb1044)は手を合わせ、思わず目尻を湿らせた。
「思い出したくない場所だろうが、あなたの相棒の仇をとる為に、この先も道案内してもらえると助かる」
 ハシナウカムイが彼の愛犬の勇気を讃えてくれるようシグマリル(eb5073)は短く祈りを捧げた。
 相棒を失った悲しみはわかる。愛犬の別れの寂しさや、自らを犠牲にしてでも護れた満足な気持ちも‥‥
 だからこそ、シグマリルは狩人の力になりたかった。
「頼みます。あいつは、どこに行っても食うために見境なく殺す。俺にはわかるんだ」
「貴殿を護って逝った犬のためにも頑張るといたそう。犬の献身を無駄にせぬようにな」
 土下座して深々と頭を下げる狩人を、上杉は助け起こした。
「あぁ。カムイに似た姿で悪行を重ねる奴を許さない。必ず狩るさ。俺らは人あらざる者を狩る者だからな」
 そういえば辺りに動物の気配がしない‥‥ 恐らく手当たり次第に喰うから姿を消したのだろう‥‥
 シグマリルは狩猟の神・ハシナウカムイに祈りを捧げ、短弓を握り締めた。

●強襲
「やはり紛い物。カムイには及ばない。無様な」
 シグマリルは仲間たちを先導しながら熊鬼の動きを追った。
 ミシッ‥‥ バキバキ‥‥
 2足歩行しているために枝を踏み分け、木々に負担をかけながら山の中を熊鬼は進んでいる。
 運よく風下を取ることもできた。狩りとしては上々。
「あそこはどうだ?」
 ナノックは手ごろな広さの広場を指差して言った。
「足場もしっかりしてるし、手ごろな広さだね。窪地になってるし、あいつも簡単には逃げられないと思うよ」
 シグマリルと狩人の意見が一致して戦場は決まった。
「体力はあるから威力のない攻撃では役に立ちません。それに、見かけより足は速いですから気をつけて」
 メアリは、囮となって敵を惹きつける火射にアドバイスした。
「わかった」
 殆んど足音もさせずに火射は熊鬼に接近していく。

 暫時、火射はわざと足音を立てた。当然のように熊鬼もそれに気づいた。
 ぶひぃ‥‥
 舌なめずりをして1歩2歩‥‥
 突然、突進を始めた。メアリの言っていた通り、いや、火射の予想以上の速度で距離を詰めてくる。
「捕まえられるもんか」
 突進をかわしながら設定戦場まで引きずり回さなければならない。
 そこは身体の軽い軽業師であればこそ、足場の悪い場所を避け、木の幹や岩を足場にまるで飛ぶように移動するのだが、熊鬼は自らの重量と膂力を活かして下草や蔓などお構いなしに突進してくる。しかし‥‥
 おんっ、おんっ!
 火射の連れてきた犬が熊鬼の足元を走り、吼えまわっているからか、熊鬼は追いかけることに集中できずにいる。
 その隙に体勢を崩さないように、突進に捉まらないように駆ける。駆ける!
「滅せよ、魔物! くっ‥‥」
 上杉のサンレーザーが焼くが、焦がした程度。それでも注意を逸らすくらいには使える。
 戦場まで引きずり出したものの、思っていたよりも強い。勝てるとは思うが‥‥
 初心者の度胸付けとは親仁もよく言ったものだ。
 ザンッ!!
 鈍い音が響き、九十九は歯を食いしばった。
(「気を引き締めていかないと‥‥」)
 軍配で受ける分には何とかなる。しかし、気の抜けた一瞬が怖い。それで命を落とす武士は何人もいると九十九は習った。
 比較的広い場所を選んだとはいえ、広場の外縁には木々が立ち並んでいる。薙ぎ払いをすれば刃を持っていかれるだろう。
 振り下ろしもまずい‥‥ 枝に刃が食い込めば、隙が生まれる。
「捨身之重撃が‥‥討てない」
 九十九は熊鬼の恐ろしさを肌で感じていた。1対1で戦えば五分? 少なからず負傷を覚悟しなければ倒せない‥‥ 
 だが、今は仲間たちがいる。
 ひゅん‥‥
 シグマリルの短弓が突き刺さり、熊鬼はビッと小さく悲鳴をあげた。
「大丈夫か!」
 鷹部の六尺棒が唸るが、熊鬼はこれをかわした。
 強い‥‥ 冒険者たちは思わず唾を飲んだ。
「俺に任せろ! 皆は攻撃に専念するんだ。」
 両手を広げるように挑発すると、シールドソード『サバイバー』を構え、ナノックは熊鬼の目の前に出た。
 ギャリィイ‥‥ ギャン‥‥
 火花が飛び、野太刀を軽々と捌いた。
 盾に込められた、どんな戦いからも生還するようにという祈りと自らの剣の腕を信じ、ナノックは再び構えなおした。

●止め
「これでどうだ!」
 鷹部の繰り出した石突が熊鬼の胴丸を突き刺すように穿った。
 チクチクと矢が効いているのと、圧倒的な手数を以て熊鬼は次第に追い詰められつつある。
 窪地の底で戦っている状況が逃げるのを躊躇わせているようだ。
「地の精霊よ! 汝らの司りし命に我が意思を伝えよ、プラントコントロール!」
 メアリの詠唱と共に木の枝がざわざわと音を立て、幹が不自然な方向に曲がり始めた。
 気がつかずに背中から振り下ろした熊鬼の野太刀が幹に当たり‥‥
 パニュイン‥‥
 錆びていた刃が真っ二つに折れた。
「隙あり‥‥ まず‥‥ 守りを削ぎ落とす‥‥」
 ぼろぼろになっていた胴丸が九十九の霞刀による一撃で壊れ、バラバラに解けていく。
「これでどうだっ!」
 レオニードが刃を返し、日本刀の峰で熊鬼の小手を討つ! 痛みに耐えかね、熊鬼は思わず柄を離した。
「そこだ!」
 火射の手裏剣が顔向けて飛び、目にこそ中らなかったものの、顔をそむかせ、一瞬目を閉じさせれば御の字。
 上杉のサンレーザーが、更に気を逸らす。
 ぶぎゃああ‥‥
「そんなものが効くか」
 レオニードは巧く鎧で爪を受けると、日本刀を突き出す。
「地の精霊よ! 彼の者に枷を与えよ、アグラベイション! 木々よ、我に力を!」
 メアリの魔法に熊鬼の動きが鈍る。そこへすかさずプラントコントロールをかけ、熊鬼の足元の木の根を盛り上げた。
 ぶもぉおお‥‥
 耐え切らずに熊鬼が倒れた。その下に火射は車菱を投げ込む。
「滅びろ!」
「右に同じ! 喰らえ、重撃」
 ナノックと九十九は転んだ熊鬼に容赦ない一撃を叩き込んだ。
「終わりだ」
 虚ろな目で口から血を吐く熊鬼の顔面に、鷹部の六尺棒の石突が突き下ろされた。

「何とかなりましたね‥‥」
「束になってかかってこられたらと思うと、ぞっとしないな」
 九十九は火射は深く息をついた。
「ありがとう」
「いいの。仕事ですもの。でも、うまくいって良かったです」
 熊鬼の倒れた姿に、一言そう言った狩人の肩をメアリは叩く。
「だが、まだまだ修行が足りんなぁ‥‥」
 レオニードはリカバーで傷を癒しながら熊鬼を見下ろす。白魔法の腕だけではない。もっと、経験を積まなければ‥‥
「犬には安らかに眠ってほしきことだ」
「あなたの犬の魂が加勢してくれたからこそ熊鬼を討つことができた。ありがとうと言わなければならないのは俺たちさ」
 上杉とシグマリルの言葉に狩人は、声を上げて鳴くのだった。
「死体は放って置けば獣の餌になるだろう。行こう」
「せめて迷わぬように成仏させねば。この世で同じ過ちを繰り返そう」
「成る程‥‥」
「そのような考え方もあるのだな」
 ナノックと鷹部、そしてレオニードは、それぞれの信じる神仏に祈りを捧げ、この魂が悪しき行いを繰り返さないことを祈った。