●リプレイ本文
●正体見たい、枯れ尾花
「火の玉かぁ。なにがあったんだろうな」
「火の神カムイフチが蔵米を燃やすのを望んでいるとは思えない。米は農業の神ヌサコロカムイからの大切な贈り物だ。
もし、火の玉が鬼火であれば、カムイフチが報せてくれているのだろう‥‥
蔵米を燃やすのを望んでいる者がいると、悪しき火の使い方をする奴がいると」
「そうね。だとすれば誰が?」
「俺がカムイの声に応えていれば導いてくれるさ。たとえ故郷より遠く離れたこの江戸の地でも」
頷くチュプペケレ(eb5099)に、シグマリル(eb5073)は笑顔で応えた。
「でも、ギルドの親仁さんなんかも鬼火っぽいって言ってたけど。ま、他の原因かもしれないけど」
ミスティ・アシュヴィン(eb4862)の軽口で全否定するよな感じになり、慌てて付け加えた。
「水の反射とか太陽の加減というわけではなさそうだし‥‥ 季節ものというわけでもないようだな」
「えぇ、そのような過去はないと古老は言っていました。
3個は多いが野良の魔物かもしれない。それに、それを利用しようと思いついた悪漢くらいの可能性はありそうだな。
稀に渡来した錬金術師の新型行灯の実験とか考えられるか?」
夕食を共にしながら、白鳥氷華(ea0257)たちは情報交換している。
「山。合言葉は覚えていただけましたか?」
「川。了解ている。妖怪の仕業だとか、米の値を吊り上げるための付け火とかではないのか?」
その場には草薙鰹雄(eb4909)ら冒険者たちだけでなく、奉行所の仲介で警備の侍たちも同席していた。
「もう少し、調べてみる必要がありそうですね」
「ま、このまま火事にでもなれば鬼火の仕業‥‥で手打ちになりそうだしな。
蔵米が火事に遭って得をするのは、米商人かと考える。その線は探っておいて損はない」
白鳥と無双空(ea4968)は、互いの顔を見つめて頷く。
「あまり派手に動かない方がいいです。米商人を刺激して、役人との仲違いを狙っているのかもしれません」
「何にしろ大火があったばかりですもの、火事になる前に止めるように頑張るわ」
ティア・プレスコット(ea9564)とサラン・ヘリオドール(eb2357)に同意すると、一同は食事と酒を楽しんだ。
「まあ、源徳軍への攻撃なのかもね」
ミスティの軽口に皆は笑ったが‥‥
さて、火の玉の目撃例は夕方から朝方と情報を得た冒険者たちは、提灯を灯して蔵の周辺を哨戒した。
「うわぁ、建物がたくさんあるね。夜だと何だか不気味」
チュプペケレは物珍しげにあちこち眺めている。
「3人ほど近付いてきます。ほら」
ティアは、3つの明かりを指差した。
「3つ、と言った方がいいんじゃない?」
サランは、仲間に知らせて注意を促す。
「?」
ライトを唱えたサランは誰かに見られていた気がしたが、3つの光が本当に提灯だったのを確認して、気のせいだったかと疑念を振り払った。
「新型提灯でもなかったし、どんな謎が隠されているのかしら」
結局、白鳥たちは、その日は何も得られず‥‥
●金さん
「いい仕入れ先を足で探してまして、よかったらお話聞かせてもらえませんかねぇ」
軟らかい口調で無双が商人に酒を勧めている。米商売の知識はないが、話術ならお手の物。
「それならば私どもが御用意させていただきますよ‥‥」
どうやら、この米商人ではなさそうだ。ここに来る前に探りを入れた米屋も真っ当な商家のようだし‥‥
「浮かぶ火の話を聞いた事がある?」
「あるけど俺は見たことないな」
別の卓ではサランとティアが遊び人と話している。他の仲間たちも追っ付け情報交換にやってくるだろう。
「そう。それでは、最近、買い付けを積極的にしている米問屋がある?」
「そういう事実はなかったよ」
ふと違和感を感じてサランは首を傾げている。
「あ、もしかしてお奉行様?」
ティアの奉行という言葉に、ぴくっと反応する者が数名。
「俺が奉行なら、こんなとこで油なんか売ってるかよ。気楽な任侠、これがその証拠さ」
袖を巻くって遊び人が刺青を見せると、盛大に溜め息が聞こえるのだった。
「シグマリルって奴が表に立ってるんだが、呼んできてくんねぇか?」
ティアにそう頼むと、遊び人は主人に金を握らせて、2階へと上がって行く。
『奉行様、蔵米を狙う鬼火らしきものについてお話を聞かせて頂きたい。
こちらから会いに行きたいが、コロポックルの俺では怪しまれて通してもらえぬだろう。
無礼を承知で、飯の時間を割いてもらえればと思う』
シグマリルから遠山に宛てられた手紙を渡されたティアは、それを読んで表に向かった。
「気づいているなら声をかけてくれ‥‥れば?」
コロボックルの部族の衣装で駆け上がってきたシグマリルは驚いた。
颯爽とした雰囲気だが、そこに座っていた男は侍にはとても見えない。
「遠山様‥‥ですか?」
「そうみたいね」
「町中では、この方が楽なんでな」
ティアに合わせるように金さんはシグマリルに答えた。
「驚かしたのと、からかったのは謝るよ。ところで何が聞きたいんでぃ?」
「目撃現場で不審な死に方をした者はおらへんか?」
「そんな報告は受けてねぇな」
「なら、死者の魂じゃなしに、鬼火は別のもんなのかもしれへんな」
草薙は難しい顔をして考え込んでいるが、情報不足。火の玉の正体を確定するにまで至っていない。
どうも確かな情報に行き着かない。
冒険者たちは、喉に魚の小骨でも刺さったような不快感を感じていた。
●鬼火
「お日様さん、お日様さん、教えてくださいな」
チュプペケレがサンワードで火の玉について太陽に尋ねると、近いと聞えた。
慌てて仲間たちに告げ、蔵に向かうと‥‥
ぼやぁ‥‥
空中に火が浮かぶのを見て、その場に居合わせた冒険者と警備の侍たちは声を上げた。まさか昼に現れるとは‥‥
「侍方は持ち場を護ってや」
「相わかった」
果たして本当に鬼火であったことに草薙たちは鼻を鳴らした。
「そうでもないみたいだけど。そこに隠れているの。出てきたら?」
ミスティの声に僅かな気配が‥‥
「火種の臭い‥‥ ちっ、俺としたことが‥‥」
臭いを感じた無双が、そこへ踏み込む。
「くそっ、忌々しい火の玉め。遂に気づかれてしまったか」
顔を隠した黒脚絆の男2人が短剣を抜いた。
「火を悪事に用いるときに火の精霊エシュロンが現れると聞いたことがあります。鬼火が現れたのは、それと同じなのかもしれません」
「大火を繰り返していけない、絶対に!」
ポンとティアが手を叩き、シグマリルはフェアリーボウを構えた。
「逃がさないでね、ソール」
熊犬は、サランの声に従って男たちの向こう側に飛び出した。
「これでもくらえ」
ミスティのウォーターボムが黒脚絆の男2人に命中し、じゆと音を立てて火種が消えた。
「ちっ‥‥」
「我が弓にカムイは宿る。その矢は疾く、流星よりも疾く!」
不覚を取ったとばかりに男たちは逃げの一手。しかし、シグマリルの矢がその背に突き刺さる。
一方、火の玉も放ってはおけない。
「魔よ退け!」
白鳥はアイスブリザードを放った。
これなら頑丈に作られている蔵には殆んど被害はいかないはず。
侍たちも矢を射たりしてくれている。その炎を魔法が吹き飛ばすたび、矢が貫くたびに炎が減じていく。しかし‥‥
「何?」
鬼火は火の鳥のように変じると、白鳥と侍たちを撃った。
「えぇい、なんて奴だ」
「全く」
無双は再び火の玉と化した鬼火に斬りかかる。必ずしも退治が必須の依頼ではないが、これ以上被害が出すわけにもいかない。
ピュアリファイが効かず、不死の者ではなかったかと草薙が不満の声を上げた。
●自然の使者
「はしっこい奴らめ。恐らく忍者だな」
無双は大きく息をついた。
冒険者たちは男たちの足に引き離され、サランの熊犬ソールも塀など障害物で蒔かれ、川で臭いを断たれては、追跡もままならず。
「でも、火事にはならずに済んだんだし、警備も厳重にしてくれるはずよ」
「大丈夫ですよね?」
サランとティアの問いに侍たちは諾した。
「黒幕は別にいて、鬼火を操り、警備隊の注意を鬼火に向け、その隙に蔵を襲うつもり‥‥かと思っとったけど」
「あながち間違ってなかったってことだね」
動いてずり落ちかけているフードを被りなおし、ミスティは草薙の背中を叩いた。
「あの火の玉、強敵でしたね」
3つ現れた火の玉のうち2つまでは白鳥たちで討ち消し、残る1つは男たちが逃げた段階で消えた。
「カムイフチの使いが返事を知らせてくれたということだったのかな」
「そうですね。きっと」
シグマリルとチュプペケレたちは、自然に感謝した。
「そんなもんかね」
侍たちは、火傷を痛そうに冷やしている。
「とりあえず、傷を」
草薙は気を取り直して、皆にリカバーをかけていった。