稀なる人よ
|
■ショートシナリオ
担当:シーダ
対応レベル:7〜13lv
難易度:難しい
成功報酬:4 G 55 C
参加人数:8人
サポート参加人数:3人
冒険期間:05月17日〜05月22日
リプレイ公開日:2006年05月25日
|
●オープニング
「武者修行にと旅立った息子・彰文が帰ってこない。供の五平もな」
そう言葉を切り出したのは、源田と名のる初老の武家の男だ。
「色々調べさせたところ、ある村で殺されたと」
冒険者たちに緊張感が走る。
「年に一度、生贄を供え、森神と崇めていた山鬼を倒したと‥‥ それで村人に殺されたようじゃ」
どこの世にも大抵ある異人殺しが目の前で起きたということだ‥‥
神殺しの祟りを恐れて‥‥ そういうことだ‥‥ そういうことだが‥‥
「主君に申し出れば兵を出してくれるだろう。村を討伐してでも息子の遺体を取り返してくれようが‥‥」
老武士は言葉に詰まった‥‥ 一度目蓋を閉じるとゆっくりと開き、再び話し始める。
「我が家督は分家から養子を取って継がせる。私の望みは息子の形見を手に入れ、供養してやることだ。
年でな‥‥ 村人たちを討ち果たし、息子の無念を晴らすという気概は残されておらぬ。
優しかったあの子が無体なことを望むとも思えんしな‥‥」
既に独り身で、守るべき家に執着もなく、妻と子供を供養するために出家したいのだと言う。
そのためにも血を流さずに息子の遺品を持ち帰るにはどうしたら良いか‥‥
思案の末に辿り着いたのが冒険者ギルドだったというわけだ。
「乱暴な方法でなければ、手段は問わないそうだ。
でき得るならば遺体と所持品を、最低でも遺髪の一束だけでも持ち帰ってきてほしい」
ギルドの親仁は冒険者たちにそう言うと、小さく溜め息をついた。
●リプレイ本文
●強行
「では、彰文殿が森神を武士が倒したというのは、真なのでござりますね」
「はい、それはもう。しかし、我らは森神様が祟り神になるのでは‥‥と恐れており‥‥」
「で、その後、彰文殿がどこに行ったか聞いているか?」
「‥‥」
柔らかく対応する白羽与一(ea4536)と、果断に踏み込む風斬乱(ea7394)の緩急により、村人たちは窮して答えた。
余所者に対して排他的な村と言えど、支配階級である武士たちの社会的存在は認知しているし、だからこそ武士として、源田家の家紋が記された文箱を携えて源田殿の名代として訪れた白羽たち2人を簡単にどうこうすることはできない。
「それで、仇を討って、神に捧げでもしたか?」
「それは神のお告げで、討たねば村に災いを起きると‥‥」
『息子である彰文が森神を討ち、村への非礼を働いた』ことへの源田氏の謝罪の文(ふみ)が、彼らに動揺を与えればこそ、風斬の直球に思わず村人が口を滑らす。
「せめて寛恕を請うためにも‥‥」
それは恐らく思い込み、自己弁護、狂乱の類であろうと白羽は思った。
篤い信仰は、得てして狂信的ともいえる。今回の事件の根幹は、そこにあるようだ。
「あの武士が悪いのだ。神を討つなど畏れ多い」
‥‥
「罪は罪だ‥‥ 源田の爺さんも、そのことに拘ったりはしていない。文を見ればわかるだろう?」
「しかし、森神を倒すほどの腕の方が何故‥‥」
風斬の言葉で村人たちは言葉を飲み込み、白羽の言葉で言葉を失った。
●闇霞
「血を流さずにとは面倒でござるな」
白羽たちとは別行動で搦め手として、物陰に隠れ、村に接近する甲斐さくや(ea2482)たちだったが、言葉ほどに面倒とは思っていない。正攻法の白羽たちこそ陽動であり、行動次第では命を失いかねない危険が伴う以上、甲斐たちは自らの役目を果たすまで。
「五平さんが心配だよね」
クリス・ラインハルト(ea2004)は気が重かったが、努めて笑顔を浮かべている。
森神を崇める村の噂については、かなり確かと思える噂として近隣で耳にすることができた。
排他的な気質は、他者が寄り付くことを妨げるらしく、隣村でも詳しくはわからないようだった。
生贄に人間やデミヒューマンなどが‥‥という心配はあったものの、森で獲れた得物などを捧げる風習であるらしいと聞き、多少は安心していた。
「生きていれば良いが‥‥」
鷹司龍嗣(eb3582)たちは村の中を探索し、森神に係わりあると思われる森を探し出していた。
『あの侍の亡骸が見つかる事はないでしょうね』
『見つからないように、あの場所から変えたほうがいいのではないか』
村の中で音無がこっそり触れ回ると村人たちに動きがあり、比較的簡単に突き止めることができたのだ。
とはいえ‥‥
森の入り口には見張りが立っていて、気づかれずに全員で近付くのは難しそうだ。
「探し人は森の中‥‥」
神秘のタロットを人差し指と中指の間に挟み、鷹司は卦を占う。
「神を屠った忌むべき者の死体があるなら、その方角を避けるなどするかと思ったが。逆か」
ここに何かある。それは恐らく‥‥
ランティス・ニュートン(eb3272)の直感は、その場にいる全員の直感と同じだった。
「春花の術で眠らせるでござるよ」
「わかりました」
音無藤丸(ea7755)と甲斐が足音を忍ばせ、念のために風下へ向けて春花の術を用いて森へ近付いていく。
「何があるんだろう‥‥」
見張りが眠りについたのを覗き見て、クリスは呟いた。
五平が何日か一緒にいたことのあるような良く知った人物ならば、クリスのテレパシーを乱発すれば村の何処かで居場所を特定できたかもしれない。しかし、外見だけの伝聞では如何ともしがたく‥‥ その姿を見つけるのが先決であった。
「森の樹は鬼が死んだと教えてくれました。少なくとも何かの情報が手に入ると思いますよ」
アディアール・アド(ea8737)がグリーンワードで得た情報からみても、ここに何かあるのは間違いない。
「それにしても、私はあちこちの森を歩いてきてますが、生け贄を求めるような『森神』なんて会ったことありませんよ? ジャパンの森はこんなに豊かなのに」
アディアールは咽るような緑の香りを胸いっぱいに吸い込んで周囲への警戒を強めた。
●忠義の人
見張りの隙を狙って森の中に入ると奥の社に男が1人いた。
特徴は聞き込んだ五平にそっくり‥‥
「五平さんですか? 無事で良かったですよ〜」
男はクリスの問いかけを無視して供物台に花など供えている。
「五平さん。源田のお館さまに頼まれて捜しに来たです」
「お館さまが?」
間違いない。五平だ。
「そうですよ。あの方は家を分家に継がせて、自身は出家して息子の供養をしたいと言っていました」
「それにしても無事で良かった。もし仮にあんたが生きているのなら、ここじゃないかと思っていたんだ。希望はあると思っていたよ」
ランティスとアディアールの話を聞いて、五平の拒絶するような雰囲気はなくなった。それでも、再び首を振って俯く‥‥
「ふむ、彰文殿は晒されてはいなかったか。無体なことになっていないか心配していたが」
「そんなことさせませんよ。守りきれなかった俺の責任だし、彰文様も村人たちとの争いは望んでおられません」
五平は鷹司の言葉に静かに食って掛かった。
「つらい記憶なら、思い出さなくてもいい 。しかし、おまえの進むべき道は本当にこれしかないのか?」
神楽鈴を振って文言を唱えると、鷹司の身体が銀の光に包まれていく。
「私たちと一緒に帰るのです。彰文殿の亡骸と一緒に」
「わかりました」
思わぬ自分の言葉に五平は絶句した。
「それが、おまえの本心です」
陰陽師の格好で言われれば、神の託宣でも下ったように思うだろう。
「わかりました」
暫く呆然とした五平は、地に伏して泣いた。
これでいい。
鷹司だけでなく、その場の冒険者全員が、そう思った。
●正脈の武士
「源田家当主は高齢でお詫びに伺う事が叶いませぬ。
村に討伐の兵を寄せることはできたにせよ、源田殿はそれを望んでおられませなんだ。
御当主は分家に家督を譲り、村で彰文殿や森神の祟りが起きぬよう、出家して供養をしたいとまで申されているのです」
村長たちを筆頭に村の多くの者を前に、白羽の真摯な言葉が染みとおる。
「まさか‥‥」
「しかし‥‥」
などと小声が聞えるが、白羽の静かなる威圧感に村人たちの心は大いに揺れ、引っかかりを感じているようだ。
風斬は腰を浮かせ、膝を立てた。
「我が手の者が五平の居所を突き止めた。主人・彰文の亡骸を供養するために森神の森に1人残っていた五平をな」
「これ以上、不幸な者を出したくはありませぬ」
「そうかもしれぬな‥‥ 神は死んだ。前を見て、生きてゆかねばならぬということじゃて」
村の長老が、村長の肩を叩いた。
「それでは白羽様、神殺しの刀だけでも村に残してくださいませ」
「わかりましてございまする」
白羽たちは村人の願いを入れ、源田の家紋があしらわれた刀を村に残して、遺体を手に入れられることになった。
祟らぬようにと死に装束で樽に収め、作法に従って鬼の森に埋められたのを掘り起こしたので多少は大変だったが、村人は皆、どこか安心したかのように晴れ晴れとした表情をしている。
見送りを受けて、暫時‥‥
風斬たちが大八車を引いて村を出ようとしている。
「11人も後をついてきています」
「未だ祟りを恐れるのなら、門を固く閉ざして閉じこもるんじゃないかと思ったが‥‥」
音無と甲斐の報告を聞いたランティスたちは、白羽と風斬の支援のために動いた。
「堂々と戦う者を亡き者にする行為は今後は許さぬ、肝に銘じよ」
霧を装い鷹司が発生させたスモークフィールドの煙の中、音無は静かに語る。
「も、森神様じゃあ」
「お怒りを静めくださいぃ」
ついてきた村人は、音無を鬼と勘違いしたのか、ビビッている。
しかし何人かは、鷹司の使ったコンフュージョンの効果で意識に反して逃げ出すことができない。
そこへ追い討ち‥‥
ぼぉおおお‥‥
出来は良くなかったが、この状況なら鬼の叫びか何かに聞えたことだろう。
ランティスはクリスの合図に合わせて笛つきの皮袋を操作した。
「命を破れば、ただではおきませんよ」
印を組んだ音無の体が突然2つになったのを見て、恐慌は増す。
おまけにアディアールのプラントコントロールで草が絡みつくように彼らに迫る。
「守るかぁ!」
「おめぇ、何てこと言うだ」
「く、口が勝手に」
「お許しを! お許しをぉお!!」
そこへ流れてきたのはクリスの歌声。メロディの効果で村人たちは心を落ち着け、静かになった。
春花の術で村人たちが眠りに落ちたのを確認して、甲斐たちは五平と一緒に白羽と風斬の後を追った。
さて‥‥
損傷と腐敗の激しい彰文の遺骸を、冒険者たちは荼毘にふして持ち帰ることにした。
「あんたはこれでよかったのかね? 森神殺しと一度手合わせしてみたかっただけに残念だよ。爺さんのとこに連れ戻してやるから成仏するんだぞ」
「セーラ様、この方の魂をお救いください」
風斬やクリスたちは各々の祈りを荼毘にふされる彰文に捧げるのであった。
さて、さて‥‥
源田殿のことだが‥‥
五平が無事に帰還したのを大層喜び、遺骨となった息子を迎えて大いに泣いた。
後に聞いた話だが、源田殿は出家し、息子の菩提を弔い、五平はそれを助け、共に彰文を祭っているという‥‥