●リプレイ本文
●仲間
「凄い話があったものですよね‥‥」
「きっと気に入ってもらえると思います。勇ましい暴れ巫女と、彼女を助けた親友の伝説ですからね」
獣耳の髪飾りを付けた巫女姿に女装した結城夕貴(ea9916)と、男装風の片東沖すみれ(eb0871)が連れ立って歩いている‥‥
「イカンな‥‥ 眠くて、気が遠くなる」
「で、も♪ まさにバード、吟遊詩人作家が、人々に伝えるべき話を探し出してきたんだから頑張ろうね」
欠伸する空魔紅貴(eb3033)に微笑みながら、アウレリア・リュジィス(eb0573)はローレライの竪琴を爪弾いている。
「はいっ、私もがんばりますっ。初仕事だもの。
それにしても、話を聞かせてくれた方、不思議な方でしたです。わたしが書き付けてる間にいなくなっていましたし‥‥」
ネム・シルファ(eb4902)は首を傾げた。
「それにしても、名も残ってないのに偉い方だったのね」
「フフ、凄い話だったよね。僕もあんな恋を是非ぜひゼヒしてみた〜い」
月下真鶴(eb3843)と慧神やゆよ(eb2295)も小さく欠伸すると、依頼人の家へ歩を進めた。
●巫女生誕
「暴れ巫女として世に伝わる話だよっ♪」
アウレリアの語りと共に、ネムと2人で重ねた琴の音色が響く。依頼人は冒険者たちを食い入るように見入っている。
「数々の戦いの果て。修羅道に落ち、永劫に続く戦場に身を投じた暴れ巫女。
神器の剣でアシュラの神に戦いを挑み、その勝敗を知る者はいないとか」
結城は大脇差をかざし、遠くを見つめた。
「その昔、とても勇ましく、心の強い巫女がいた」
「人呼んで暴れ巫女」
「御淑やかで、楚々として‥‥ 巫女の暮らすその村は、平和を絵に描いたような村でした」
「攻め寄せた鬼たちと飲み比べをして酔い潰したり、愛用の刀を抜き放ってバッサバッサと退魔行」
片東沖、月下、空魔が掛け合い、空魔のハリセンがパパンと合いの手を打った。
「そんな暴れ巫女の生まれと言えばね。代々、巫女の一族で♪ 力の証の綺麗な勾玉を持って生まれたんだって〜。
祖母の巫女様は言いました。この子は偉大な巫女になるだろうって♪」
アウレリアのほんわか笑顔に依頼人も笑みを浮かべる。
「でも、話もせず、あまり動かない子だったから皆心配したみたい。
3歳のときに、神殿守の男の子がお世話役に選ばれてね。
その子と初めて会ったとき、何だか辺りがぴかっと光に包まれて。
待っておりましたって、巫女が始めて話したのを聞いた御祖母様は、この子は巫女の終生の助けになるだろうって予言したの♪」
ぽろろん‥‥
アウレリアはネムと一緒に微笑んだ。
●鏡物語
「これは彼女が暴れ巫女って呼ばれる前の話」
月下は少し依頼人に顔を近づけて言った。
「ある嵐の晩に、傷を負い、息も絶え絶えにやってきて、巫女の手当てで一命を取り留めた男は言いました」
「私は南の村の漁師。漁をしている時に綺麗な鏡が網に掛かったんだ。
この鏡を見つけてからというもの豊漁に継ぐ豊漁で、ありがたいお宝が見つかったと思ったんだけどな」
空魔は、網を引くような格好をして依頼人の方を向いた。
「だけど違ったの。猟師は聞いてしまったんだ。鏡の中にいる何かの呟きを‥‥
『ホラ見ロ、周リノ妬ミヲ。
ホンノ少シ良イ目ヲ見セテヤッタダケデ、モウ、血縁デアロウト、親友デアロウト、殺シテデモ我ヲ独占シヨウトシテヲルワ。
サア、我ヲソノ欲望デ解キ放テ。コノ世ヲ闇ニ染メ上ゲヨ』
結城が月下の背中に隠れて、おどろしい声色で喋った。
アウレリアは照海鏡を胸に抱いており、あたかも鏡が喋っているかのよう。
「猟師は恐くなって鏡を海へ捨てようとしました。ですが、すでに時遅く、鏡の魔物はそれを赦すわけもなく、力を使って欲に溺れた人を、魔物、妖怪を呼び寄せて猟師を襲わせた」
「それでも私は命からがら逃げ延びて、御高名なあなた様を頼ってまいりました。どうかこの鏡を封じてください」
「任っせなさい」
猟師を演じる空魔は、照海鏡を手に取ると、結城にそっと手渡した。
「そして、一発ガンたれると」
「一発くらう?」
「幼い巫女は拳を握って、そう言ったのです」
空魔、結城、月下の絶妙な間に、思わず爆笑♪
「観念した鏡は‥‥、あはは。それ以来、彼女の神事の儀式に‥‥使われたそうですよ。はは‥‥」
月下は笑いを堪えながら一区切り話す。
「少し休憩です。お茶でもどうぞ」
片東沖は微笑みながら皆にお茶を配った。
笑いが収まって、ほわと溜め息混じりに一息つくのだった。
「鏡の話を聞いてればわかるよね? 拳で語り合った熊とか、斬り結んで子分にした妖怪だとか、暴れ巫女のいた村には幾らもいたの」
ネムの琴は、語りに合わせて調子を変えていく。
「でもね‥‥ でも‥‥ ある夜、神社の林で神主さんが殺されてしまったんだよね」
てろてろてろてろ‥‥
「神主様が殺されちまっただよ」
「大変なものを見てしまった〜。どーうしようー」
慧神と空魔が肩をすくめた。
「村人たちが神殿に押し寄せたけど、そこに現れたのは身支度を整えた暴れ巫女」
「占いの神事にて犯人を確かめます」
片東沖から重藤弓を借りた結城が、びししっと依頼人を指差した。
くるくる神楽を舞った後、天に向けて弦を張り、引き絞った弓を放つ。
「こんなん出ました〜」
「弓から放たれた光の矢は、神殿には落ちず、村の外へと飛んでいったのよ」
「犯人はあっちか〜」
ネムの説明に、村人役の慧神と空魔が走っていくふり。
「犯人は外に‥‥ 良くない風が吹いているわ」
「暴れ巫女は、遠くを見つめながら、そう言ったようね♪」
真面目な顔で静かな溜め息をつく結城は、ネムの歌に合わせるように拳を握り締めた。
●美しさは罪
「神様の言葉を聞いて神様の力を使って人々を助ける巫女様といえば神様のお嫁さん。ジャパンでは未婚の女性がなるんだよね」
「美しさと強さを兼ね備えた暴れ巫女‥‥ そんなものの噂が流れれば、世の男たちが放ってはおかないよ♪」
アウレリアが歌い、慧神は琴の音に合わせて杖を振り、可愛らしい装飾がされたカラフルなローブをフワリと翻して片目をつぶった。
「求婚したのは2人♪ 1人は結納金を1000両も用意した商人の跡取り息子。もう1人は貴族‥‥」
「いめ逢ふに袖は濡れ、妹いずこ、ただ暁露に枕は濡れし」
「歌を贈ったんだって」
慧神に続くように、空魔は歌を詠んで依頼人に視線を投げる。
「しかし、巫女に求婚を断られて」
「幼馴染みの巫女守の剣士との間を疑った!」
パパン!
「疑心暗鬼の2人の男は」
「巫女に化け物退治を押し付けたの!」
「藩主は巫女の刀を取り上げて、素手で怪蛇と戦えと言う!」
依頼人の表情は、ハラハラドキドキ。
ネムの琴の音がスローに儚げに響く。
「困り果てた巫女だったけど」
「勇ましく、豪儀な彼女もやっぱり女の子」
「困り果てた彼女を助けたのは、青い髪の巫女守の剣士」
「そう、彼がいたから暴れ巫女は無茶ができたのよ」
「そうそう。彼女が『強く』いられたのは、ひとえに幼馴染の守剣士がいたからだったんだ。恋心を胸の奥に閉じ込めてね」
慧神や片東沖の言葉には、静かながら感情が篭っている。
「結局、断れなくて、暴れ巫女は怪蛇退治の旅に出たの」
「だって村を取り潰すっていわれちゃね」
慧神の方を向いて、結城は指を振った。
「山は火を吹き、地は割け、川は遡り、海は割れたって言うよ」
「神様が力を貸してくれたんだけど、その代償は大きかったんだ」
「巫女の力を使い果たした御祖母様は白い犬になり、暴れ巫女さんの代わりに怪蛇に食べられた剣士さんは青い鳥になったんだって」
慧神は胸の前で両手を合わせ、天を仰いだ。全員で天を仰ぐと、依頼人と内儀も同じ格好で祈りを捧げている。
「そして!」
「悲しみの涙に濡れる暴れ巫女さんは、拳を握り締めて怪蛇を殴り飛ばしたの」
「拳からは巫女たちを哀れんだ星の煌めきが飛び、その星は涙に濡れて、砂になったっていう話さ」
結城は拳を繰り出し、一、二、一、二♪
合わせて空魔のハリセンが、パン、パン、パン、パン!
蛇役の月下が伸び上がるようにして倒れた。
「それ以来、怪蛇も暴れ巫女の姿も見かけなくなったんだって」
慧神は閉めの台詞に、依頼人は溜め息をついた。
●大喜結
「でね。どこかの村で、気心の知れた友人、家族、恋人‥‥に囲まれて、静かに大往生した女の人の話があるんだ。
大食い、大酒のみで、拳で語る‥‥、犬と鳥を連れた女の人の話なの。
巨大蛇の神様に護られた村に暮らす、この女の人をこう言ったんだって。暴れ巫女じゃないか‥‥ってね♪」
片東沖と背中合わせになりながら、結城は眠るように身体を預けていく。
そこでパッと両手を開きながら依頼人に顔を近づけると‥‥
空魔のハリセンがパパン!
「僕も武の道を行く者。修羅道に落ちたくありませんが、神仏を凌駕するほどの力と技を身に付けたいですね」
結城の悩殺美少女スマイルに依頼人さん大笑い。
「ありがとうございました。主人もあんなに喜んで」
「本当に良かったです。またこんな機会があればと思います」
微笑む内儀に、片東沖は微笑みを返すのだった。
「砂に変わった砂は、寄せては返す波にさらわれ、想い人の元へと流れていくんだって。
想いを込めてこの砂を海に返せば、やがては想い人に伝わる、恋する乙女のマストアイテムだよね♪」
一緒に盛り上がっている慧神はネムを他所に、片東沖たちはお茶で一服。
部屋には一時、笑い声が響きのだった。