【東風西乱】黒色槍兵団

■ショートシナリオ


担当:シーダ

対応レベル:10〜16lv

難易度:難しい

成功報酬:7 G 56 C

参加人数:10人

サポート参加人数:6人

冒険期間:05月19日〜05月27日

リプレイ公開日:2006年05月27日

●オープニング

 ビビッ、ビビッ‥‥ シュバッ、ジャッ‥‥
 半兜がと大鎧が黒光りする武者が街道に姿を現した。大小を腰に佩き、槍を構え、弓を担いでいる。
 その数は20‥‥
 額当ての下に覗くは焦げ茶の毛並みの猪の顔‥‥ 胴は熊のように太くがっしりとしている。
 黒の一団は、逃げて行く那須藩領民を無視して南下し始めた。その歩みは遅いものの、確実に‥‥

『申し訳ない。仙台藩にて追い立てた熊鬼に逃げられた。那須藩には申し訳ないが、対処をお願いする』

 仙台藩主・伊達政宗公からの書状には、略してこのような内容が書かれていた。
「どう思う、小四郎?」
「政宗公の謀略やも知れませぬ。仙台藩に兵を進めるために兵を出したなどと悶着を着けられ、奥州の兵を呼び込むやもしれませぬ」
「しかし、放置すれば逆に那須藩にこれ以上迷惑をかけるわけにはいかないと兵を進めてくることもありえる」
 那須藩主・那須与一公と那須藩家臣・小山小四郎朝政は、那須藩士たちを交えての協議は紛糾の様相を呈してきた。
「エルフ軍に頼みまするか?」
「いやいや、盟約は同等の立場によるもの。こちらが兵を出せぬのに、かの里にだけ出兵を求めるのは不義理」
「では‥‥ 那須の天狗たちに助力を求めまするか?」
「それもできぬだろう。元々、俗世との関わりを断った者たちゆえ、頼んでも断られるのが落ちでございましょう」
 那須藩に手の打ちようはないように見える。
 そのとき、1人の那須藩士が口を開いた‥‥
「冒険者を呼びましょう」
 与一公も小山殿も直ぐには口を開かない。
「そうだな。彼らの実力は、我らが嫉妬するほどのもの。任せてこれ以上安心できる相手もおるまいて」
 老家臣が皮肉たっぷりに若い藩士に言った。
「そう言われるな。汚名返上のために黒の輩を討つ先陣を‥‥と、我々はうずうずしているのですから」
「その辺にしておくのだな。我らは許されたとはいえ、償いは何ひとつしておらん。殿の下知に従うまで」
 小山殿は、クーデターを起こした若い那須藩士を諌めながら与一公に話題を振った。
「今回の件に関して、その処理に当たり、冒険者に召集をかける。
 過去の冒険者たちの那須での業績を鑑み、かつ我らの戒めとし、那須藩預かりの冒険者の班組みを『蒼天隊』と呼称する。
 なお、今回の召集に関して、仙台藩との外交を鑑みて、この呼称を用いない。
 また、『蒼天十矢隊』に関しては、『公(おおやけ)には』今後も存在しないこととする。このことに関して私は理由を語らない。
 『那須藩士』たちは、那須のために全力を尽くすように」
 ここまで那須藩士たちは押し黙って聞いている。
「此度の召集に関しては、白河の豪族・結城義永殿から江戸冒険者ギルド那須支局を通じて行うこととする。
 あくまで結城領での魔物襲来事件と位置づけ、仙台藩からの書状に関しては必要あるまでなかったものとせよ」
「ははっ‥‥」
 与一公の言葉が終わって一瞬の後、那須藩士たちから一斉に服命の言葉が返ってきた。

●今回の参加者

 ea0204 鷹見 仁(31歳・♂・パラディン・人間・ジャパン)
 ea0270 風羽 真(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea1488 限間 灯一(30歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea3225 七神 斗織(26歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 ea5640 リュリス・アルフェイン(29歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 ea5908 松浦 誉(38歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea8417 石動 悠一郎(35歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea8714 トマス・ウェスト(43歳・♂・僧侶・人間・イギリス王国)
 ea8917 火乃瀬 紅葉(29歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb0712 陸堂 明士郎(37歳・♂・侍・人間・ジャパン)

●サポート参加者

アゲハ・キサラギ(ea1011)/ 九竜 鋼斗(ea2127)/ ユキ・ヤツシロ(ea9342)/ 不破 斬(eb1568)/ 八城 兵衛(eb2196)/ 風魔 隠(eb4673

●リプレイ本文

●矢戦
 阿武隈川近くに展開した冒険者たち。
「さてと、力量だけでなく数をも含めた不利‥‥ 如何にして埋めるかねぇ?」
「敵の士気は高い‥‥ だがそれを逆用すれば」
 風羽真(ea0270)、鷹見仁(ea0204)らは、戦煙を上げて押し進む黒の一団を見据えている。
「国が乱れれば泣くのは民。放っておくことは、紅葉にはできませぬ」
「えぇ、何とか早く排除しましょう」
「今は、結城様の御蔭で戦場を選べることを良しとしなければいけませんね」
 熊鬼の中でも闘士と称するほどの強敵であると火乃瀬紅葉(ea8917)から伝えられ、七神斗織(ea3225)と限間灯一(ea1488)は顔を曇らせた。
 この時期は突如の雨で川の水量が一変するため、渡河途中で敵を討てる最善の場所は得られなかった。
 その代わり、風羽の意を受けた結城義永の指図により、流域猟師の投網が並べられている。
「はぁ、預けた駿四郎は無事にやっているかな」
「それよりも自分たちの心配をしませんと。渡河を許せば白河城は目前。頑張りましょう」
 松浦誉(ea5908)は、愛馬家の石動悠一郎(ea8417)に穏やかな笑顔を向けた。

 少し時間は前後する‥‥
 フライングブルームで僅かに早く那須入りした陸堂明士郎(eb0712)は、結城義永殿に話を通すために白河小峰城を訪れた。
「ふっ、白河城代など目端が利かねばやってはおられんよ」
 結城義永は笑顔で陸堂を迎え、黒の一団の位置、予想進路などの情報を与えてくれ、民衆に扮した白河兵を要所に伏せてあるなど、既に準備万端なことを教えた。
「自領内を防衛する名目で兵を出す限りは問題はないと思われます。援兵をお願いできますか?」 
「伏せ勢はするが、最後の手段だ。結城領民の手にかかったと奥州が干渉してくるもしれんからな。公や小四郎も、その辺りを気にして冒険者に頼んだのであろうしな。見殺しにはせん。存分に戦うが良い」
 この人には敵わないとばかりに苦笑いする陸堂の隣で、那須密偵が笑っている。
「いや、失礼。こういう方だ。陸堂殿、心配はいらんよ」
「ほれ、お前さんは物見をせんか」
 密偵は笑顔で部屋を下がった。

 そろそろ両部隊は激突する‥‥
 逆茂木を設置する猶予がないため、取って付けの矢盾つきの大八車を、冒険者たちは互い違いに並べた。
「黒の槍兵団‥‥ もしや黒脚絆の黒、か?」
 盾車に隠れて限間が鳴弦の弓を引き絞って放つ。
「しっかし、鬼の類を私兵にするってな、ロード級の鬼と結託してるか支配してるかだよな。まともな人間にできることじゃねえよ」
「けひゃひゃ、熊鬼の軍なんて、なかなかに壮観だね〜」
 リュリス・アルフェイン(ea5640)は飛来する矢を甲羅盾で受けると、ドクターことトマス・ウェスト(ea8714)と不適に微笑む。
「今一度、その黒色を朱で染め抜いてやりましょう」
「かつて姉様たちが戦った相手、相手にとって不足はありませぬ‥‥ 灯一さん、姉様に代わって見事、奴らを撃退しましょうぞ」
 限間と火乃瀬は互いに頷いた。
 ずどっ、ずどどっ‥‥
「川の深さを図りかねて橋に来たようですね」
 川には目もくれず、目前の橋を目掛けて突進してくる熊鬼に、限間は唾を飲んだ。
 橋の袂に仕掛けた火乃瀬のファイヤートラップが火を吹いたとき、本当の戦いが始まる‥‥

●炎の突進
 3頭の熊鬼が押し寄せるが、戦場の橋を通れるのは一列が限度。
 熊鬼の援護射撃に対抗して限間たちも射返すが、焼け石に水だ。
 ごぉおぅ!
 先頭の熊鬼がリュリスの投げた壺で油まみれになった寸暇、ファイヤートラップの盛大な炎が熊鬼を包み込む! 1体を巻き込み、橋の中途の最後尾の熊鬼はバランスを崩して川中に落ちた。
「やった!」
 鷹見は叫ぶが、すぐに驚愕の表情に変わる‥‥
 炎に焦げた熊鬼たちも、川に落ちた熊鬼も突き進んでくる。
「迎撃をお願いしまする!」
 火乃瀬は咄嗟のマグナブローで、橋を越えた2頭の熊鬼を炎に包むが突進は止まらない‥‥
「けひゃひゃひゃ!」
 間一髪、ドクターのコアギュレイトが熊鬼2頭の動きを止めた!
 小太刀で七神が一閃斬りつけ、同時に繰り出された鷹見の胴田貫と十手が激しく討ち、風羽の大脇差が胴丸の隙間を貫き、陸堂の渾身の斬馬刀が腕を首を刎ね、大きく振りかぶったリュリスがシールドソードを叩きつけ、更なる猛攻を加えて熊鬼2頭が血煙の中に倒れる!
「渡らせません!」
「我、武の理を持て斬を飛ばす‥‥ 飛斬!」
 松浦と石動は渡河中の熊鬼に剣撃を放ち、ふと、敵の矢襖が止んだのに気が付く。
「おい、まずいぞ!」
 石動はリュートベイルを構えなおし、横一線に突進してくる熊鬼たち黒の群れを見た。
 一斉に渡河が始まれば石動と松浦だけでは防ぎきれない‥‥
「手の空いている者は網を持つんだ! 投げ方は松浦に習ったろ!」
「私も投げます。これ以上は熊鬼の侵攻を許さぬ所存!」
 石動は相変わらず剣撃を放っているが、手応えのなさを感じた松浦は剣を治め、急いで川原に駆け下り、膝半下まで水に踏み込んだ。
 松浦は最初の熊鬼に網をかけて転ばせることができたが、深さは人の膝下‥‥
「ま、まずい‥‥」
 熊鬼は四つん這いから、熊のように身体を起こした。
 鎧のあちこちに網が残っているが、熊鬼の膂力の前には殆んど無意味‥‥
「退け! 立て直すんだ!」
 咄嗟に刀を構えた松浦を援護するように石動の剣撃が飛ぶ!
 丸太のような腕に薙ぎ払われ、刀で受け止めたものの、松浦は足場の悪さに川に手をつく。
 槍を取り落としたのか、代わりに振り上げられた熊鬼の大刀が松浦の肩をえぐる!!
 反撃を試みるが、効かない‥‥
「強すぎ‥‥ます‥‥よ」
「大丈夫か!」
 鷹見が熊鬼の背後から強烈な斬撃を加え、ようやく熊鬼が沈黙。
 松浦が間、渡河を終わらせて接近する別の熊鬼に鷹見が刀を繰り出す。
「松浦、退くぞ!」
「はいっ!」
 ポーションを飲み干した松浦は、鷹見と川原を駆け上がり、仲間に合流を果たした。

●豪腕
 先陣で討たれた3頭、渡河の際に深みに嵌って溺れた2頭、コアギュレイトで動きを止められて溺れた2頭、投網を被って運悪く溺れた1頭、橋を渡り集中攻撃で倒れた2頭‥‥ 20頭のうち10頭の熊鬼が討たれていたが、冒険者たちも撤退の機会を失い、乱戦に持ち込まれていた。
 びぃいいい‥‥
 耳障りな限間の鳴弦の弓の音を止めようと遮二無二迫ってくる熊鬼に対して正面戦力が足りない。
 盾車が僅かに足止めに役に立っているが、いつまで保つものか‥‥
 ぼぅっと風を切った槍が、大八車の即席の盾を切り裂き、頭から突っ込まれて熊鬼の重量で押しつぶされる。
「こいつら、好き勝手‥‥」
「何だっていうんだ、全く!」
 風羽や鷹見らはカウンターすることの危険を感じ、得意の戦法がとれずにいる。
「こいつら戦いなれてやがる」
 石動は熊鬼の攻撃をさけ、霊刀を振るうが、オーラパワーを付与してさえ、剛毛の体皮と鎧に阻まれ、手応えは薄い。
「きゃああ!」
「しっかりしろ」
 鎧の隙間を縫って素早く突くと、熊鬼の小太刀の一撃を受けた七神を身体の後ろに隠して、風羽は両手を広げて熊鬼に立ち塞がる。
 熊鬼の攻撃を半身を残してかわすと、逆襲をかけるが毛に僅かに血が滲むのみ。
「頑丈な奴らだ‥‥」
 手繰りの大刀に一か八か鷹見がカウンターを仕掛けた。大刀を十手で受け、胴田貫が熊鬼の太腿を切り裂く。
「頑丈すぎるぜ‥‥」
 百戦錬磨の熊鬼たちが鷹見の隙を見逃すわけがない。槍、槍、大刀‥‥ 鷹見の腕が血に濡れた。
「やらせるかよ。ジャパン産鬼畜生のお前らに、異国傭兵の戦い方ってのを教えてやるぜ!」
 リュリスが、勢いを決めようという敵の更なる一手の槍を防ぎ、笑った。
 間髪入れずに魔剣とシールドソードの同時攻撃!
 しかし、僅かに手応えのあった魔剣での一撃に比べ、シールドソードでの一撃に期待したほどの手応えはない‥‥
 リュリスと鷹見が捌いた攻撃に乗じて、風羽の鋭い突きが熊鬼の喉近くを切り裂き、七神の一閃が傷を与えた。

 手練と言えど、集中攻撃をくらえばその優位も揺らぐ。
 斬馬刀を片手で振るい、返す刀で熊鬼を血の海に沈めた次の瞬間、大八車を踏み潰して熊鬼4頭が殺到した。
 必死に捌くが‥‥
「俺に傷を与えるかっ‥‥」
 唸りを上げる槍が陸堂を遂に捉え、穂先はそのまま陸堂を宙に浮かせた。割れた腹から血が噴き出す!
「リカバーに感謝するのだよ〜、けひゃひゃ。御礼に中身を分けてくれないかね」
「助かる! が、中身は遠慮してくれ」
「残念だねぇ、けひゃひゃひゃ」
 不幸中の幸い、ドクターの側に落ちた陸堂は腸を押し込まれ、リカバーで癒された。
「これだけ密集すれば!」
 松浦が陸堂の抜けた穴に向かって全力の剣撃を放った。集中攻撃のために密集していた熊鬼の何頭かの血が衝撃波に乗って飛ぶ。
 地煙は、いつしか血煙へと変じていた。

●薄氷の勝利
「これで最後だ!!」
 最後の熊鬼の首を刎ねた斬馬刀を地面に突き立て、柄に頭を乗せるように陸堂は大きく息を吐く。
「皆、生きてますね‥‥」
「危なかったのだがね〜」
 七神とドクターが傷を治療し始めるが、周囲は惨憺たるものだ。
「さぁて、いかが出るかねぇ‥‥ 仙台は」
「さぁな‥‥」
「死ぬかと思いました‥‥」
 疲労困憊した風羽と鷹見は、座り込んだ松浦の隣で大の字になった。
「よく、突撃するだけの者を馬鹿にして猪武者と申しまするが‥‥ 此度は悪口になりませぬ」
「全くだ‥‥」
 火乃瀬もリュリスも壊れた大八車に腰掛けてぐったりしていた‥‥