【乱の気配】荒廃は人の心から

■ショートシナリオ


担当:シーダ

対応レベル:3〜7lv

難易度:普通

成功報酬:2 G 4 C

参加人数:8人

サポート参加人数:3人

冒険期間:05月19日〜05月24日

リプレイ公開日:2006年05月23日

●オープニング

●荒心
「もうすぐ京の都でやんすね」
「うるさい。静かにしていろ」
 小太刀を腰に差した軽薄そうな男を追い払うように、精悍な顔つきの男が太い腕を払った。
 旅装の上から陣羽織を羽織った鋭い目つきの精悍な男を先頭に7人の一団が京へ向かいつつある。
「鎧兜がほしいのう。合戦にでもなれば必要になろうて」
 陣鉢に半槍という出で立ち、大刀を腰に差した男はカカと笑った。
「金子など商人に用立ててもらえば良かろう」
「で、どうするんで?」
「矢銭を用意するんだ。民としては当然の領分だろう?」
 野太刀を担いだ着流しの男が荷物持ちの男の額を小突いた。
「京の都に入れば、やりにくくなるかもしれませんねぇ。近場で探ってみますか?」
「どこに肩入れするにも武具と銭は必要になるか」
 大小を差し、着古した揃いの着物を着た男たちは、互いを見つめて頷いている。
「そうだな。それもよかろう」
 精悍な男は髭を扱いた。

●不安
 東に西に‥‥北に南に‥‥京の都に漂う、いや‥‥きな臭い風が吹き荒れようとしているのを多くの者が感じ始めていた。
 往来の感じ、物品の流通、旅人の噂‥‥
 そういったものから、民草にも漠然とした不安、または歴然とした感覚として実感されるものだ。
「浪人たちの姿が多くなりましたな」
「あぁ、京は荒れる。そんな気がしてならん」
 商人たちは店先を闊歩する浪人たちを見つめながら不安の声を漏らしている。
 戦になれば野盗が町にまで現れる‥‥ 落ち武者や浪人の暴行が横行する‥‥ 軍による略奪が起こる‥‥
 民衆は自らの身を自らの手で護らなければならない。
「背に腹はかえられない‥‥ですな」
「金目の物は隠しましたが、いざとなれば逃げ出す算段も‥‥」
 商人と番頭は顔を見合わせた。
「念のために用心棒を雇うべきか」
「浪人を雇って、番犬が虎にでもなれば目も当てられませぬぞ」
 暫く考えて、商人は溜め息をつきながら頷く。
「冒険者ギルドというものが手練をよこしてくれるとか聞いたな」
「確か陰陽寮の息掛かりとか?」
「浪人たちよりは安全であろう。ひとっ走り使いを走らせてくれ」
 番頭は返事をすると丁稚を走らせた。

●今回の参加者

 ea4759 零 亞璃紫阿(30歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb0356 高町 恭也(33歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb3600 明王院 月与(20歳・♀・ファイター・人間・華仙教大国)
 eb3834 和泉 みなも(40歳・♀・志士・パラ・ジャパン)
 eb3933 シターレ・オレアリス(66歳・♂・ナイト・人間・神聖ローマ帝国)
 eb4510 ララーミー・ビントゥ(48歳・♀・僧侶・ジャイアント・インドゥーラ国)
 eb4668 レオーネ・オレアリス(40歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 eb4757 御陰 桜(28歳・♀・忍者・人間・ジャパン)

●サポート参加者

橘 一刀(eb1065)/ 拍手 阿義流(eb1795)/ パラーリア・ゲラー(eb2257

●リプレイ本文

●間一髪
「ああ、刻が見える‥‥」
 ララーミー・ビントゥ(eb4510)は、ふと不安を覚えて両手を合わせた。
「あれ‥‥」
 虫の知らせに足を速めた零亞璃紫阿(ea4759)たちの視界に、通りの先の物騒な雰囲気の7人の集団が入る。
『商人さんたち不安で一杯かも。早く行って安心させてあげようよ。冒険者は頼ってきた人を見捨てないんでしょ?』
 明王院月与(eb3600)の笑顔に、確かにそうかもと早足で来たのだが‥‥
「きゃぁあ‥‥」
 丁稚の女が腕を掴まれて投げられ、それを受け止めた侍風の男は下卑た笑いを浮かべている。
「ちっ‥‥ 月与の言ったとおりになったか。どうやらいきなりのお出ましのようだ‥‥ 急いで来て正解だったようだな‥‥」
 まさかの展開に高町恭也(eb0356)は駆け出した。
「お茶受け‥‥」
 休む気満々だった明王院の口が僅かに尖る。
 ドドッ、ドドドド‥‥
「無駄口は後だ」
 レオーネ・オレアリス(eb4668)が軍馬・ピナーカを疾駆させる。
「第一印象と信用が肝心でしょ。行こう」
「近頃は何かと物騒なのですね。早く行って安心させてあげましょう」
 近くの者に驢馬や馬を預け、僅かに遅れて駆け出した明王院や和泉みなも(eb3834)たちも得物に手をかけている。
「人心の荒廃が進んどるようじゃの。こういったものこそ、守護殿の出番じゃと思うのじゃがな」
 まずはオーラエリベイション。シターレ・オレアリス(eb3933)は、緒手の動きを見極めるために敢て一歩出遅れた。
 拙速な突撃はレオーネたち若い者に任せておけば良い。突撃の後の乱戦には的確な助太刀が必要だと、この老練な騎士は知っていた。

●緒手
「ぉお!」
 3mはあろうかという槍、ブレイブランスを脇に抱え、すれ違い様のタイミングで鋭く繰り出す!
「甘いわ」
 最も体格のよい首領格と思しき男は、背後からの渾身の一撃を体と刀の捌きで捌いてみせた。
 穂先に手応えを感じなかったレオーネは小さく舌を鳴らし、馬首を巡らす。
「なら‥‥」
 気合を入れ、集中している着古した着物を着た男に軍馬ごと突っ込むように蹴散らした。
 男は血を吐き、地面を滑るように家の壁にぶつかって止まった。
「兄者!!」
 揃いの着物を着た男が背後からレオーネに斬りつけようとしたとき、割り込んできた男はその身を以て刃を受け止めた。
「何ぃ!?」
 その傷は浅い‥‥
「させぬよ」
 男は踏み込みと同時に突き出された十手を辛うじて捌くが、シターレのもう一手までは捌ききれない。
 肩の付け根に十手が突き刺さった男は、ようやく起き上がった兄と肩を合わせるように冒険者たちに対峙した。
「そこです」
 不意に和泉の矢が飛来し、男に突き刺さる。
「まずいぞ、兄者‥‥」
「いったい何者なんだ‥‥ くそっ‥‥」
 揃いの着物は、揃って血に染まっていく‥‥

「おじさんの相手はあたいだよ!」
 明王院は陣鉢の男に斬りかかった。
 風を切った半槍が月桂樹の木剣を受け流し、あるいは避けた。
「できるのは認めてやるが、俺の邪魔をするな。死ぬぞ」
 ライトシールドで受けるが、陣鉢の男の一撃は鋭い! 運がなかった方が恐らく先に倒れる‥‥
「俺の金や名誉のために消えてもらう。降参するなら、命は助けてやろう。どこかへ売っ払ってやるからさ」
「酷い! そう言う考えが、みんなを不幸にするんだよ。悲しみの連鎖なんて、もういらないんだっ」
「綺麗ごとを! くらえ!!」
 木剣は弾かれ、受けた盾は僅かにぶれた。
 ピィイイ!
 半槍の突きが明王院を襲おうとした直前、主人の危機を感じた愛鷹・玄牙が陣鉢の男の顔に爪を立てた。
 バサバサと羽ばたいてバランスを取り、男は顔を背けた。
「やぁああっ!!」
「ごがっ、ばごあっうぉおあ!」
 盾で押し倒し、喉仏を狙って木剣を突き出した。
「ありがとう、玄牙」
 鷹は一鳴きして主人に答えるのだった。
「しっかりせぃ!」
「がたじげ‥‥だい‥‥」
 首領格の男が斬り込んで来たのを盾で受け、陣鉢の男は何とか立ち上がった。

「一刀殿、お守りください」
「いいわねぇ。あたしもかっこいい人の守りが欲しいわ」
 祈りながら走る和泉の横を駆け抜け、御陰桜(eb4757)は屋根の上に上った。
 生憎と敵は風下にいる。春花の術は使えない。屋根を破ると屋敷の梁に飛び降りた。
「主人! 店の者たちは一箇所に集めておいてくれ‥‥ その方が護りやすい‥‥」
 虚を突いた高町やララーミーたちが店の中に飛び込んでくる。
 軽薄そうな男は店に置いてあった陣羽織を羽織っている最中。咄嗟に隣にいた商人の妻を引き寄せた。
「武器を捨てな! こいつがどうなっても良いってのか?」
 小太刀を抜いた軽薄そうな男は、内儀に刃を当てて引きつった笑いを浮かべている。
 そこへ御陰の手裏剣が飛び、気がそがれた瞬間‥‥
「野盗風情が陣羽織とは‥‥ 志士である私にとって陣羽織は神皇様への忠義の証。誇りを汚させはしませんわ!!」
 零が斬り込み、軽薄そうな男は思わず内儀を放して、その刃を受けた。
「神皇様の志士がいる限り、京の都で好きにはさせません!」
 和泉が手を引いて内儀を誘導する。
「何なんだよ。こいつらは」
 軽薄そうな男は、その身に幾筋もの傷を付け、零の猛攻に瞳を恐怖の色に染めながら後ずさりする。
「カツドンカツドン」
「ふぉ‥‥っ」
 ララーミーのブラックホーリーが男に傷を負わせた隙に、高町の一撃が男の小太刀を落とし、零は小太刀を両手でしっかりと固定すると身体を預けるように男に突き刺した。
「こ、降参だ‥‥ 殺さないで‥‥くれ」
 男は血を流しながら倒れこむ。
「ここは頼んだぞ」
「任せておいて」
 零が頷き、ララーミーがホーリーフィールドの結界を張ったのを確認して、高町は表へと駆け出した。

●白昼の戦い
 緒手で態勢を崩された男たちであったが、互いに庇いあい、乱戦を避けるように隊列を組まれてしまった。
 一気に攻め、息の切れた冒険者たちも緊迫した状況で一息ついている。
 互いに肩で息をし、戦線は膠着したといってもいい。
 そこへ現れたのは高町! 元気を活かして男たちに突っ込む。
 それが呼び水になったかのごとく、全員が一気に雪崩れ込んだ。
 手傷を負ったとはいえ、敵の実力は冒険者たちと伯仲している。
「強いな‥‥ 久しぶりの実戦で腕がなまってないといいが‥‥」
「そんな心配は死んでしろ!」
 大刀を振るう首領格の男の一撃を、小石に躓いて運よくかわした高町は、しっかと踏ん張ると間合いを詰めた。
 黒勾玉を貸してくれた零に胸の中で礼を言いつつ、叫ぶ!!
「小太刀二刀流‥‥ 高町恭也、参るっ!」
「小童が!」
 突きを大きく捌かれ、身体がフワッと回転する。
「流石にやるな‥‥ だがっ‥‥」
 着地の暇もないように踏み込んで、高町は小太刀の峰で男の小手を狙った。
 咄嗟に一刀を受けるが、もう一刀までは捌ききれず、男は大刀を落とした。
「やるなぁ!」
「これを使え!」
 陣鉢の男は大刀を抜いて投げ、首領格の男はそれを受け取った。
 しかし、その隙を見逃す冒険者たちではない。
「自分の身を護ることを第一とせよ」
「沈めっ!」
 ズドドッ‥‥
 シターレは陣鉢の男の腹に十手を突き出し、明王院の木剣が再び男の喉を捉えた。
「ええぃ、退け!」
「そこだ!」
 高町の小太刀が小手を捉え、首領格の男は再び大刀を落とした。
 それに構わず首領格の男は逃げ出し、他の者も後を追った。
「うわぁああ」
 血路を開こうと荷物持ちの男がシターレの背後から斬りかかるが、僅かに身体を開いてかわすと相手の突進と自らの踏み込みを加えて両の十手を一気に突き出した。
「う‥‥」
 十手の先がズブリとめり込み、バキィと不快な音を響かせる。男は、そのまま気を失って倒れた。
「ちきしょう!」
 野太刀の男は首領格の男について逃げようとするが、追いつけない。そこへ‥‥
「これまでです。悪行を悔い改めなさい」
 和泉の矢が足を射て、男は踏鞴を踏んで倒れた。
「逃がさん」
「兄者ぁごがぁ!」
 兄を庇うようにレオーネのブレイブランスを背に受けた男は、起き上がろうとして地に伏す。
「弟よぉ!!」
 揃いの着物の男が駆け寄って抱き上げたが、高町の小太刀が突きつけられ、ついに彼らは降伏した。

 一人逃げ出した首領格の男は‥‥
「オ・ヤ・ス・ミ」
「ぐっ‥‥ 何が‥‥起き‥‥」
 御陰の放った春花の香りが武者崩れたちを眠りに誘い、通りの風に吹かれて香りは消えていく‥‥
 安堵の息を漏らすと、御陰は屋根の上から飛び降りた。
「終わったか」
 レオーネは愛馬の首筋を撫で、その働きを褒めている。
「あの‥‥ もしかして、冒険者の方々で? ありがとうございました」
「いや、依頼だからな。仕事を果たしたまで」
 恐る恐る話しかけてきた商家の主人は、シターレに頭を下げた。
「このように幼い方々や女性にまで手を煩わせてしまって」
「都の平和と民の生活を守るの事は志士の務めであり、神皇様の御心に沿う事です」
「おや、志士の方も混ざっておられたのですか。本当に心強い」
 和泉はそう言うと商人は笑った。彼の家族や、店子たちも安心したように笑顔を見せてくれた。
「上手くいったけど疲れたし、甘い物が食べたいわ。寺田屋のお月見善哉なんていいわねぇ」
「それでは、何か用意させましょう」
「やったぁ♪」
 そう御陰に答えた商家の主人に、明王院は大喜びするのだった。

 なお‥‥
 7人の男たちのうち、生き延びた4名は陣屋へ連行され、裁きを下されたという。