渡る世間は犬鬼ばかり

■ショートシナリオ


担当:シーダ

対応レベル:1〜4lv

難易度:やや易

成功報酬:1 G 0 C

参加人数:15人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月01日〜08月06日

リプレイ公開日:2004年08月09日

●オープニング

「ワゥ〜〜!!」
「アゥワォ!!」
 江戸近郊の山村で犬の遠吠えが木霊する。
 しかし、この犬たち、ただの犬ではない。その証拠に家々は硬く戸板を打ちつけ、息を殺して静まり返っている。
「早く来ぬかのぉ‥‥ 急がぬと毒にやられた者は体力が持たぬぞ」
「大丈夫、きっと来てくれる」
 村の中を犬鬼が動き回る音が聞こえる中、暗い家の中で村人たちは息を潜めている。

 江戸の冒険者ギルドに1人の若者が駆け込んできた。
「村が犬鬼に襲われてる!! これで助けてくれ!!」
 親仁の前に巾着がジャラッと置かれた。
「若いもんがちょうど人足に借り出されているときでよぉ。年寄りに女子供では満足に戦うこともできなかった。急いで助けに来てほしいんだ」
「落ち着いて状況を話しな」
「村は20匹以上の犬鬼に囲まれている。なんとかしてやらねぇと‥‥ 俺は死に物狂いで村を抜け出してここまで来たんだ。犬鬼に追っかけられてよ‥‥」
 よく見ればあちこち血の乾いたあとがある。必死に走ってきたというのは嘘ではないらしい。流れた血がそのまま固まっている。
「俺が村を出たときには10人が毒にやられてた。早く解毒しないと死んじまうよ」
「任せろ。犬鬼相手なら冒険者もすぐに集まるだろう」
 親仁は大声で手当たり次第に近くにいた冒険者たちに声をかけ始めた。

●今回の参加者

 ea0050 大宗院 透(24歳・♂・神聖騎士・人間・ジャパン)
 ea0238 玖珂 刃(29歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea0243 結城 紗耶香(29歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea0452 伊珪 小弥太(29歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)
 ea1497 佐々木 慶子(30歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea1569 大宗院 鳴(24歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea1665 スタニスラフ・プツィーツィン(22歳・♂・レンジャー・エルフ・ロシア王国)
 ea1966 物部 義護(35歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea2473 刀根 要(43歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea2478 羽 雪嶺(29歳・♂・侍・人間・華仙教大国)
 ea2657 阿武隈 森(46歳・♂・僧兵・ジャイアント・ジャパン)
 ea2794 六道寺 鋼丸(38歳・♂・僧兵・ジャイアント・ジャパン)
 ea3054 カイ・ローン(31歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea3511 柊 小桃(21歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea3592 佐々宮 狛(23歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●さて‥‥
 一行は馬を村の外れに繋ぐと、集落を一望できる丘の上に陣取った。
「何時いかなる相手でも全力で倒す。それが正しいやり方だろ? 死ぬ前に悔いるよりよっぽどマシだと思うが、如何かな?」
 その剣には毒がある。だが、油断しなければ、そうそう苦戦する敵ではない。
「もとより、犬鬼風情が我が物顔で村を占拠しているのが気に入らねぇ」
 佐々木慶子(ea1497)の言葉に阿武隈森(ea2657)は憮然として答えた。
「その通り。わたくしは、犬鬼を倒す方にまわらせていただきますわね」
 大宗院鳴(ea1569)の士気は高い。
「民なくして国は立たぬ。あたら犬鬼をのさばらせて置けば神皇家の威光にも関わろうと言うもの。この様な事が続かぬ様に思い知らす必要があろうな」
 物部義護(ea1966)は愛用の扇子をパチッと鳴らして仲間の気を引いた。
「犬鬼に囲まれた村に残っている人たち‥‥ 心配だね。はやく行って助けてあげなくっちゃ!」
 六道寺鋼丸(ea2794)の言葉に、一行は視線を合わせて突入の意思を確認した。

●突入!!
「わぁぁぁぁぁぁー!」
 大八車が犬鬼たちの群れに突っ込んでいく。しかし、体の小さな佐々宮狛(ea3592)が押しても犬鬼を蹴散らすほどの効果はない。
 犬鬼たちの隊列を崩すという目論見は成功していたが、逆に大八車に取り付かれて危機に晒されつつある。
(「あんなに近づかれたらヤバイかも‥‥」)
「よーし!! 狛くんの後ろに!!」
 柊小桃(ea3511)は印を組んで集中すると小桃を茶色の淡い光が包み、黒い光の帯がさらに取り付こうとしている犬鬼に向かって伸びていく。
「ギャウ」
 重力波で何頭かの犬鬼が弾き飛ばされ、佐々宮は難を逃れた。
「あくまでも俺達に歯向かうって言うのなら、容赦はしねぇ」
 阿武隈が飛び込み、大八車に取り付く犬鬼の剣を破壊する。驚いた犬鬼が逃げ出すが、阿武隈は気にせず他の犬鬼を狙った。
 バキィィン。
「ったく、イライラするが仕方ねぇ」
 解毒剤をより確実に手に入れるために、何よりこれ以上の毒の被害を防ぐためには犬鬼の剣を折るのが一番だ。
「ハァッ!!」
 気合一閃。武器をなくして慌てる犬鬼に佐々木が剣の重みを威力に乗せて切りつける。
「キャィ‥‥」
 続けて繰り出した刀が犬鬼を捉えた。
「こっちの手が足りない‥‥」
 血を吐きながら悶える犬鬼に止めを刺す。
 逃げ出す犬鬼を佐々宮たちが押さえているが、まともに戦うのが佐々木だけでは如何せん手数不足だった。
 結局、かなりの時間を費やして、その場の犬鬼を全滅させた。
「次はあっちだ」
 頭に叩き込んだ地図を頼りに佐々木が仲間を誘導しようとするが、その行く手を新たな犬鬼の集団が遮った。

「意外と多いですね。雪嶺、私との連携はいつも通りで頼みますよ」
「数が多くても刀根要さんが一緒なら、こんなに頼もしい事はない。僕は強くなる。犬鬼なんかに手間取ってはいられないんだ」
 刀根要(ea2473)と羽雪嶺(ea2478)は得物を抜くと互いの士気を確認しあった。2人の顔には覇気がみなぎっている。
「さあ、始めますよ」
 2人は駆け始める。
「犬鬼ども!! 示現流が剣士、刀根要。刀の錆になりたい者からかかって来い」
 村人にも聞こえるように刀根が大音声(だいおんじょう)を上げる。
 坂を駆け下りる2人を目掛けて犬鬼たちが殺到するが、その数は意外と少ない。他の場所から突入した仲間がいたこと、犬鬼が村中に散らばっていたこと、それが刀根たちに有利に働いていた。
 犬鬼が近付いてくるのを見て2人は足を止めた。
「ギルドの依頼で助けに来た! 安心するがよい!!」
 村人が聞きつけたかはわからない。しかし、聞こえていれば安心するはずである。
 雪嶺が自分と刀根の武器にオーラパワーを付与する。普段から共に戦うことの多い2人ならではの阿吽の呼吸といえた。
「ワゥゥオ!!」
 犬鬼の振り下ろした剣を刀根が巧みに受けて体勢を崩す。次の瞬間、雪嶺の爆虎掌が炸裂した。畳み込むように拳と日本刀が振るわれる。
 ギャリン! 雪嶺が十手で剣を受け、隙ができたところへ刀根の日本刀が袈裟懸けに引かれた。
「次!!」
「要さん、僕達2人で出来るだけこいつらを狩ろう。村人に目が行かないように徹底的に鬼神のように2度と人を襲わないように恐怖を与えるんだ」
 虫の息で何とか立ち上がろうとしている犬鬼の剣を持った手を蹴飛ばした上に、止めの鉄拳をくらわせる。殺しておいて『2度と』も何もない気もするが‥‥
「解毒剤は‥‥ 後回しだ」
 次から次に犬鬼が寄って来る。今はそれを捌くのが先決だった。

「さて、一刻を争うってな」
「・・・・・・急いだほうが、いいのだろうな」
 玖珂刃(ea0238)と結城紗耶香(ea0243)は解毒剤を持って村の中を1軒1軒、戸を叩いて回った。
「助けに来た。戸を開けてくれ」
「ありがてぇ。わぁっ!!」
 声を聞きつけたのか犬鬼が近寄ってくる。
「キャウン‥‥」
 突然飛んできた手裏剣に腰を抜かす犬鬼の目の前に大宗院透(ea0050)が土の中から現れ、腰に下げていた物の1つに狙いを定めると素早く掏(す)り取った。村人にそれを渡す。
「くのいちって奴か? ホンモンは初めてだぁ」
「解毒剤、使ってください‥‥」
 透は間違いを正そうともせず、村人にチラと視線を送っただけで、現れた6頭の犬鬼の方を向いた。
「紗耶香」
「はい」
 玖珂の声に応えて紗耶香が印を組んで集中すると大気が渦巻きはじめ、暴風が犬鬼を吹き飛ばした。
「居合いの技、見せてやるぜ」
 玖珂が日本刀を鞘に収めて、暴風に耐えた犬鬼との間合いを詰める。
「刃、任せた」
「合点承知!」
 一閃。犬鬼の血飛沫が飛ぶ。
 犬鬼の剣を掻い潜り、玖珂と透が攻撃を繰り出す。
「だ〜!! 数が多すぎる」
 一進一退の戦いの末に玖珂たちが押し始めた。
「危ないぞ‥‥」
「ちょっとだけ待てー」
 玖珂が咄嗟に離れたのと同時に、爆発と共に透の姿が消え、犬鬼が吹き飛ばされた。
「微塵隠れを使うなら、もっと早く言え」
「気をつけます‥‥ これ‥‥」
 動かなくなった犬鬼たちを確認しながら、隠れた透が姿を現した。その手には戦いの中で掏り取った解毒剤が2つ。
「助かったぁ‥‥ オラの家にいる毒くらったもんは、みんな解毒できる」
 村人は安堵の声を漏らして家の中に入っていった。

 騎乗した物部と鳴を先頭に伊珪小弥太(ea0452)らが村へと入っていく。
「さあて、六尺棒の餌食になって閻魔様と挨拶してえ奴はどいつだ? この伊珪小弥太さまが直々に引導渡してやるぜ!」
 挑発されたと思った犬鬼たちが3人に接近する。
「まずは!!」
「はいっ」
 緑色の光に包まれた鳴の手の先から稲妻が真っ直ぐに犬鬼へと伸びていく。
「ブルルゥ」
「どうどぅ。俺がついてる。安心しろ」
 怯える馬を手綱で押さえながら物部は馬の腹を蹴った。
 鳴もそれに従い、馬足が一気に加速する。
「物部朝臣義護、推して参る! 閻魔に会いたい者から掛かって来るがいい!」
 稲妻に撃たれ、馬が2頭も迫ってくるのに迎え撃つほど犬鬼は勇敢ではない。士気などないに等しかった。
 物部は犬鬼の剣を砕くことに専念して、敵の戦力を削っている。
 そして、戦いなれない馬が怯えて暴れたことも、この場合は特殊な状況といえるが有利に働いていた。
「閻魔様に宜しくな!」
 伊珪も六尺棒を駆使して犬鬼の剣を砕き、その身を叩き伏せる。
 そこへ欺瞞の攻撃を囮に剣撃を加える鳴が騎乗のまま突っ込んでくるのだ。
 犬鬼の混乱は広まるばかり。
「おい‥‥」
 伊珪の大声を聞きつけたのか村人が戸板を少し開けて覗いている。
「毒をくらった奴はいるか? 治療できる仲間のところまで連れて行ってやる。用意しろ」
「3人いるんだ! 助かったよ」
 村人は家の中に声をかけると戸板を剥がしにかかった。
「馬に乗せて」
 2頭の馬が引かれてきた。ぐったりした村人を馬と戸板に乗せると家を後にする。
「バウァウ」
 犬鬼たちが遠巻きに物部たちを取り巻く。
「後で相手をしてやる。待っておれ」
 物部の投げた手裏剣が犬鬼に刺さる。伊珪も両端に石を結びつけたロープを投げるが、こちらは射撃の心得のなかったためか犬鬼の群れに吸い込まれるばかり。
 しかし、物部たちの意図は伝わったようである。犬鬼たちは追ってこなかった。

「そこをどけー! 青き守護者カイ・ローン、参る」
 治療班の要であるカイ・ローン(ea3054)が仲間によって切り開かれた場所を馬で駆け抜ける。
「ワゥワゥ!!」
 仲間の襲撃にくいつかなかった犬鬼がいたらしい。勢いを殺さずに槍で突いて駆け抜けた。
 後を走る六道寺の六尺棒を受け、犬鬼が苦しそうに呻く。
 2人はそれを無視して村の家に近付いていった。
「ギルドの依頼で来ました。治療しますので開けてください」
「信じられん。お前、犬の化け物であろう」
「ちがいます」
 ギルドを尋ねてきた男の名前を出して、ようやく信用したのか戸を開けた。
 その間に六道寺も追いついてくる。
 家の奥に3人が寝ていた。おそらくあれが毒に犯されている村人だろう。
「問題は、鉱物毒と判っているけど俺の力で中和できるかどうかだな」
 祈りを捧げると、カイの心配をよそに解毒の魔法は効果を表した。寝込んでいた村人の顔色が徐々に良くなっていく。
 それを見ていた村人たちもホッと安堵の声を上げた。
「僕には解毒は無理だけど、怪我なら治してあげられるよ」
 六道寺は興味津々に覗う村人たちの中に入っていった。
「怪我をしている人はいませんか?」
 1人1人を見ながら、子供たちには安心させるように頭を撫でていく。
「血が出てるね。見せてごらん」
 子供の手を取ると、数珠を手に経を唱えた。白い光に包まれて子供の傷が塞がり、子供の顔に笑顔が戻っていく。
「ありがとう」
「どういたしまして」
 六道寺は子供の頭をポンポンと叩いた。
「こっちも終わりました。毒の心配はありません」
 抱き合う村人たちを見て、2人は自然と笑顔になっていた。
「他にも毒に犯された人がいると聞いていますが‥‥」
 そのとき、戸板がガタガタと揺れ、バシバシと何かを叩きつけるような音がしはじめた。
「敵だ‥‥ みんな下がって」
 戸板を破り、2頭の犬鬼が姿を現した。
「ここは通さないぞ! グッ‥‥」
 犬鬼を通さないように仁王立ちする六道寺の体を犬鬼の剣が裂く。かすり傷だが、やはり痛いものは痛い。
(「毒なんか怖くない!」)
 毒に対する恐怖心でいっぱいの気持ちを振り払うように自分に喝を入れる。
「がんばって!!」
 さっきの子供が心配そうに六道寺の方を見ている。
(「本当はこわいけど、僕がみんなを護ってあげなくっちゃ」)
 確固たる気持ちに後押しされ、六道寺の六尺棒が唸る。その迫力に犬鬼も押され気味だ。
 カイが戦いに加わり、程なく犬鬼たちを倒した。
「冒険者は誰かのために戦って怪我することも仕事のうちだもん。大丈夫だよ。村が護られたならそれでいいんだ」
 自分の傷をリカバーで癒し、笑ってみせると子供も安心したように笑って返した。

「あっ、あった」
 倒した犬鬼から入手した解毒剤を手にして佐々宮の顔に笑みがこぼれるが、その顔色はあまり良くない。
「あ〜あ。死んじゃうかと思った‥‥ 狛くん、顔色悪いよ」
「大丈夫‥‥」
 小桃が見る限り、顔色が良くない‥‥
「もしかして毒をくらったの?」
「村人の解毒が先だよ」
「でも‥‥」
「僕が苦しい分には、一向に構いませんから‥‥」
「カイ〜、カイ〜〜」
「どうした?」
 小桃の呼び声に応えるように騎乗したカイが駆けてきた。
「狛くん、毒を受けたみたい」
「僕は後でいいよ。それよりこれ」
 固辞の意思を表すようにカイに解毒剤を見せる。
「もう大丈夫だ。村人の解毒はみんな済んだし、俺もまだ余裕があるから解毒しよう」
 カイが祈りを捧げると、その身を包んだ白く淡い光が佐々宮の身にも宿り、やがて消えた。
「さぁ、残りの犬鬼を蹴散らすぞ」
 3人は、まだ戦っている仲間たちの元へ急いだ。

●啓示を受けし巡回医師
 村人の守りを固めた上で冒険者たちは反撃に討って出た。
 武器を持たぬ犬鬼も多く、蹴散らすのに時間はかからなかった。

 カイのアンチドートであらかた間に合ったこともあり、犬鬼から手に入れた解毒剤は余っていた。
「再度襲われることもありますので、この村に寄付するのはどうでしょうか‥‥」
 透の提案に仲間は概ね賛成した。村人たちも喜んでいる。
「これも使ってくれ」
 戦闘で自分が毒を食らった時のために持ってきていた解毒剤を刀根が差し出す。
「お気持ちはありがたいですが、それには及びませぬ。お高いと聞きましたぞ」
 長老がとても悪いという表情で固辞する。
「余った毒消し貰って‥‥フゴフゴ」
「今回はやめとけ」
 頷く雪嶺を見て、刀根は口を塞いでいた手を離した。
「本当は魔法に依存しないように、多少の負傷等は自然治癒にしたいのだけど」
 今回はカイと六道寺のリカバーもあり、冒険者と村人の双方に怪我人はない。今は弱っている者も安静にしていれば、すぐに良くなるだろう。
「村人も回復してよかったよ」
「本当にありがとうございました」
 村の長老に礼を言われて雪嶺が照れる。他の仲間も満更ではないように照れくさそうにしている。
「それにしても、あのような術が使えるとはさぞかし名のある方で」
 長老はカイを見て訊ねた。
「いや、大した者ではありません。
 でも、神の声が聞こえたんだ。『貴方にこの人達をを助ける力を授けます。さあ救いに行きなさい』とね」
「本当でございますか」
「というのは冗談で、ちょうど巡回医師として解毒を身に付けた所でね。目を引いた依頼だったんだ」
 苦笑いを浮かべるカイに、長老は頭(かぶり)を振った。
「いえ。あなたのような方が助けに来てくださったのは、まさに天の助けでございますよ。『啓示を受けし巡回医師』様」
 長老はニッコリと笑った。
「しかし、解毒剤って高いな」
 今回の功労者、カイが呟く。
「そうですよね。解毒剤がもっと安ければ、こんなことにはならかったでしょうに‥‥ これは流通、いや政治自体の改革が必要ですね」
 いささか的外れな外れた考えをもって、政治の改革に熱意を燃やす鳴。皆からふと笑いが漏れた。