●リプレイ本文
●初夏の亡者は墓場踊り?
「実際に見てもらうのが一番ですかね‥‥」
冒険者たちが村に着いて、亡者たちは本当に先祖なのか、墓場から外に出てこないのかという疑問に対して開口一番。
墓場を出て襲ってくるんじゃないかと心配する冒険者の前を、村人は、さっさか歩いている。まぁ、確かに‥‥
「その亡者は先祖なのでしょうか?」
「先祖が帰って来るにはだいぶ早い。俺は半信半疑だな」
「供養を怠っちまったからな。怒られても仕方ねぇ。でも、あのままじゃお参りもできないし‥‥」
ヨシュア・ウリュウ(eb0272)と柚衛秋人(eb5106)は、村人の軽口に小さく溜め息をついた。
「墓掃除だけではないのではないですか? 念仏を忘れたり、墓が壊れていたり‥‥」
「バレたか‥‥ 実はそうなんだよ。この前の彼岸に念仏を忘れて、放ったらかしさ。
もしかしたら、壊れた墓もあるかも‥‥つうか、卒塔婆を振り回してる奴らもいたなぁ。あれがそうか?」
「年中行事、すっぽかすのもどうかと思うがな〜」
言いながらもヘヴィ・ヴァレン(eb3511)は、どこか仕方ない奴らと楽しげに見える。
「先祖の供養が当たり前なのは、コロポックルでも和人でも同じこと。今のあなたたちが在るのは、先祖の、言葉通りの、血と汗の弛まない努力の結果であり、彼らが生きた証を連綿と受け継いでいるからなのだから」
「うあ〜、わかったって」
ず〜〜ん‥‥
付ける薬はないと言った感じか。シグマリル(eb5073)たちは脱力気味だ。
「そうなると、倒す為に砕くことになると思いますが、よろしいのですね?」
「その了承は貰っておかなくてはな。あなた方の大切な人々に矢を、そして刀を向ける事を許してもらいたい」
「ま、俺たちが悪いのさ。先祖の霊のお叱りやら何やらは、そのときに考えるさ」
まぁ、そう言うなら、とシグマリルやヨシュアたち冒険者は歩みを緩めないで進む。と‥‥
夏には早いが‥‥
うぉうぉう、うぉうぉう‥‥ 死体の歌が聞えるは‥‥
ちゃんちゃん、ばらばら‥‥ 骸骨は躍るように暴れているは‥‥
「昼間から、こんなやつらがいるとはね」
懐にしまってある魔よけのお札を旅装の上から押さえ、少し安心した気分になって、龍堂冬弥(ea2510)は槌を構えた。
「何か動いているでござるな〜」
骸骨なんて、知り合いの治療院の看板にぶら下がっているから珍しくないよ、と思いながら、風魔隠(eb4673)はチャリッと対不死者戦用手裏剣『八握剣』を取り出す。
「‥‥ったく、まだ盆は先の話だよ」
「盆なら良いという話でもあるまい」
青海いさな(eb4604)の軽口にヘヴィが真面目に突っ込むのが、どこか可笑しい。
「死人の物の怪、ですか。気を引き締めていかないと‥‥」
真面目にシリアスしている九十九刹那(eb1044)が浮いて見えるのだから苦笑いするしかない。
「元は人だった奴、退治するってのも気分が良いもんじゃねえ。
そのまま墓の下で寝ててくれりゃ有難かったんだが、ま、出ちまったもんをとやかく言っても仕方無えか」
「頑張ってくださぇよ」
「何か調子狂うなぁ」
ヘヴィたちは村人を黙らせ、九十九やヨシュアによるオーラパワーの付与や突入のための位置取りなど戦闘準備に入った。
●先手必勝!
「こう!」
「流石、シグマリル殿、上手いでござる」
シグマリルの両手同時の手裏剣投げの腕前に感心しつつ、風魔も手裏剣を投げた。
それを合図に先制攻撃!
狙っても中々100%先制ができる状況は殆んどない。今回は、その点、冒険者たちに有利だ。
どどっ!
手裏剣が動く死体に突き刺さる。
「どうだ! こんなもんで!」
黒の六角棒を頭の上でブブンと回し、ヘヴィは衝撃波を骸骨に叩きつける。続けて、もう一丁!
腕が吹き飛び、髑髏が飛び、細かい部位が飛び散って、骸骨の体中にひびが入った。
すかさず、体格に似合わぬ敏捷さで茂みから飛び出し、闘気を纏った六尺棒を振りぬく。
腰骨のあたりを目掛けて思いっきり薙ぎ払った六尺棒が骸骨の腰骨を半ば吹っ飛ばし、青海は確信の微笑みで追撃を加えた。
「みんな、まずは1体。次を仕留めるよ」
追撃で腰骨を完全に砕いた青海は、六尺棒で次の骸骨を示す。
ずしゃぁ‥‥
骸骨は崩れ落ち、ぴきぃい、ぱきんと音を立てて墓石に当たって砕けた。
オーラパワーでダメージが上乗せされればこそ、凄まじい威力‥‥
対アンデッド戦でのオーラパワーの有用性を、龍堂は、とくと実感するのだった。
「骸骨どももやる‥‥が、遅いな」
龍堂は片足を軸に身体を回転させ、骸骨に槌を叩きつけた。
相手の動きは予想より鈍い。これなら攻撃にフェイントを使うまでもないか‥‥ とはいえ、大振りは禁物だ。
「これで、どうですか!」
槌が振りぬけた隙に、袈裟懸けに九十九の霞刀が骸骨の鎖骨を砕く!
「いけぇ!」
「倒れて!」
かたたっ‥‥
龍堂の叫びと共に、不自然な態勢で槌の一撃をくらった骸骨は手首から先が吹き飛ばされ、九十九の一閃で肋骨が何本か逝った。
「あと一息か!」
柚衛の薙いだ短槍が骸骨に斬り筋を加える‥‥が、よろっよろっとしながらも、まだ倒れない。
「これで止めです!」
魔槍レッドブランチ、その赤い枝のような柄を大きく振りかぶり、ヨシュアは足を止めた骸骨に遠心力を利用して武器の重さを乗せた一撃で討つ!
ばきゃっ!
肋骨は完全に砕け、背骨は吹き飛ばされて、バランスを失い下半身が倒れこんだ。
「これで2体!」
動かぬ骸骨に石突を突き立て、ヨシュアは優雅な所作で仲間たちに次を促す。
動く死体や骸骨たちが九十九たちの方へ向き、襲い掛かってこようとしている。
「カムイの宿る弓よ。我と共に戦ってくれ」
無手になったシグマリルはフェアリーボウを素早く構えた。
「在るべき場所に還れ。あなた達の暮らす場所はここではない」
素早く番えて、動きの鈍っている動死体に一瞬狙いをつけると矢を放つ!
「速い‥‥ 負けないでござるよ」
風魔は、アゾットを身体の前に構え、いつでも接近戦へ移れるように用心しつつ、次の八握剣を持ち、狙いを定めて投げた。
集中砲火により、ずるりと肉がもげ、腕が落ち、動死体は膝が抜けてズルように移動しなければならず、動きを鈍くしている。
「一気に決めますよ」
「いけるな!」
青海の六尺棒が唸りを上げ、ヘヴィの放った衝撃波が骸骨の骨を撒き散らし、間髪入れずに放たれた衝撃波は髑髏を砕いた!
「こんどこそ」
動く死体の腕を振り回してぶつけるような攻撃を軍配で受け止めた九十九は、霞刀をカウンターで繰り出し、深々と死肉を削り落とす。
柚衛の短槍が突き出され、二の腕を貫通。そのまま肉を引きちぎった。
そこへ笠の化け物の乱入!
「いた。ヘヴィ、後ろだよ」
「九十九神の傘化けか? こんなところに!」
卒塔婆に紛れるようにジッとしていた笠の化け物がヘヴィに飛び掛ってくるが、青海の忠告があればこそ背後を取られるのだけはさけた。
ころぉん‥‥
跳躍から突き刺すように突っ込んでくる傘のお化けを六角棒で捌く。
「さぁ、帰るがいい」
「残るは傘のみです」
シグマリルの放った矢が、青海の六尺棒の重い一撃が、2体の動死体に止めを差した瞬間‥‥
ひゅるっ!
墓場の木にぶら下がっていた骸骨が、青海の不意を突いた。
「な‥‥」
頑丈な身体ゆえに傷は浅いが、冷静な心に一瞬波紋が広がった。
「まだいたか!!」
ヘヴィは黒の六角棒で強かに討ち付けるが、他の髑髏も動いている。
「ハンゾウさん、行くでござる」
風魔は愛犬と共に傘のお化けに斬りかかり、龍堂の槌が討つ!
「うるさい!」
ヨシュアは飛び跳ねるように移動する傘のお化けの軌道を読んで、渾身の一撃を叩き込む!
柚衛の短槍が、九十九の刃が、ヘヴィの六角棒が亡者たちを捉え、予想外の不意打ちに動揺しつつも、何とか不死者たちを壊滅させることができた。
●嫌な予感
さて‥‥
念のため、九十九たちは夜に墓場の張り番をして、もう亡者が暴れていないと確認すると‥‥
「さぁ、気合入れていくぞぉ♪」
村人たちも大喜びで、次いで草刈り大会へと突入。
総出でやれば小さな村の墓場など見る見る間に綺麗になっていく。
「いやぁ、気持ち良いもんだなぁ」
あんたらが言うな。心で突っ込みをいれつつ、龍堂たちは草刈りも手伝い始めた。
知らぬ人の墓とはいえ先達には違いない。心を込めて掃除を始めた柚衛たちに、村人たちも頑張りを見せている。
「あったぁ!」
「こちらにも」
「忝いでござる」
草刈りをしていた村人やシグマリルが見つけてくれた手裏剣『八握剣』を受け取ると、風魔は懐にしまった。
「お掃除はご縁がある方がやればいいのでござるのに‥‥ まあ、ガンバルでござるけど‥‥」
「ぶつくさ言ってないでやろう、風魔」
「ええ〜い、お掃除も負けないでござる!」
ぱき‥‥
シグマリルに対抗し、力が入りすぎて思わず卒塔婆を折った風魔は、とりあえずピタッと卒塔婆を合わせたまま笑って誤魔化するのだった。
「可愛い〜、抱いてもいい?」
くぅ〜〜?
返事も待たずにヘヴィの子犬・バレットは村娘に抱えられ、好奇心旺盛に首を振り、前脚で娘をちょいちょい突いている。
刹那、こういうものを嗅ぎつける嗅覚は凄まじい。娘たちが押し寄せてきた。
「いいよ」
「さ‥‥ 帰ったら、うちのちびどものご機嫌とらないとね」
ボロボロの笠を日よけにして、娘たちに事後承諾を与えるヘヴィと一緒に、青海は柴っこ2匹に想いを馳せながら生草を焼いている。
煙は虫除けにできて一石二鳥だ。
青海は、根っこから草を引き抜くと、焚き火にくべた。
「げほげほ」
逃げれば逃げるほどに煙は追っかけてきたりするのだが、それは置いといて‥‥
「乱暴をして、すみません。あなたたちに恨みはないのですが、既に旅立たれた者にこの世に居られては困るのです。穏やかに神の御手の中にお帰りください」
「今度は、よく眠るのだぞ」
ヨシュアや柚衛は、倒した怪異を埋葬し、墓石や卒塔婆を洗って、線香をあげ、清めの酒をかけた。
先祖への感謝という意味合いを濃くする上でも、霊を断ってしまう清め塩よりも、やはり土地に帰る酒が適任だろう‥‥
兎も角、村人たちと冒険者たちの活躍で、村のお墓には安穏が訪れ、草が刈られ、初夏のじわっとする風が吹き抜けるほどに気持ち良くなった。これで悪い気も留まりはしないだろう。
「ここで敬う気持ちを示しておかないと、また出るぞ。彼らの本領発揮する夏は近いからな」
もう、供養を疎かにするなよ‥‥とシグマリルなどは思いながらも、きっとまた同じような依頼が来そうな予感に捉われる冒険者たちなのであった。