【東風西乱・赤恨】堕僧

■ショートシナリオ


担当:シーダ

対応レベル:10〜16lv

難易度:普通

成功報酬:5 G 33 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月26日〜06月01日

リプレイ公開日:2006年06月04日

●オープニング

●凶変
 江戸から徒歩で1日半程度の田舎。
 こんな田舎にも人物はいる。
「和尚様、今年も豊作になるようにと仏様にお願いしてくださいな」
「おぅ、お前さんたちがしっかり働いていれば、御仏の後光は自然とここにも届くさ」
 畑仕事をしている女が、擦り切れた袈裟をかけた男に手を振った。
 道行くと、皆が挨拶をし、話しかけてくる。
 皆の表情を見ればわかる。彼を慕っているのだと‥‥

 ある日の夜‥‥
 まるで血に染まったかのような月が空を埋めていた夜‥‥
「何用かな? 邪気を乗せた風が、戸の隙間から入ってくるわ。いや、血の臭い‥‥ あるいは恨みか‥‥」
「ほぅ、流石は目をつけた僧だけのことはあるか」
「で、俺に何の用だ。力になれることなど何もないぞ」
 月の影に照らされたそれは、獣の口から人の言葉をはいた。
 座ったまま身体の向きを変えた男は、独鈷を手にし、頭をボリボリと掻いている。
「お前の協力など必要ない。我に必要なのは、怒り、恨み、無念。お前の死んだ後の魂がほしいのさ」
 獣が戸を開けると、そこには半透明の狐たちが空中に漂っていた。
「二尾の狐‥‥ 妖狐か」
 赤面黒毛二尾の狐‥‥ 妖しく月の光を纏った美しき獣はニタリと笑った。
「ケムという。我が力となれること、有難く思え」
 妖狐の言葉を待たず、男は経を唱える。
「しくじった‥‥」
 影から現れた爪に男は弾き飛ばされ、男の張った結界も振るった前足で霧散させられた。
「ば、馬鹿な‥‥」
「結界など小賢しい」
 声もなく笑う狐には5つの尻尾が‥‥
 驚きの表情は、二尾の狐の爪に踏みつけられ、ごっと息を吐き出させられ、苦悶のものになる。
「お前の法力は、変じて我らの妖力となる。お前の力が人間どもを殺すのを楽しみにするのだな」
 狐霊がその身を貫き、男は悶え苦しみつつ、瞳の光を失った。

●妖狐
「我には他にすべきことがある。くやしいが、今は吉次らの助力が必要。そうじゃな‥‥ お前は力が落ち着くまで、ここにいよ」
「はっ、シズナ様」
 二尾の狐は五尾の狐に頭を垂れた。
「人間どもを軽く見ぬことじゃ。経験の浅い二尾の狐が最も討たれやすいからのぅ。
 お前も、我が一族にとって久しぶりの二尾。油断するでないぞ」
「必ずやシズナ様のような大妖狐になってみせましょう」
「期待しておるぞ、ケム」
 五尾の狐の顔が、冷酷さの中に優しさを浮かべている。それも一瞬、ふわと床を蹴ると庭へ舞い降りた。
 実体を持っている狐が数頭、五尾の狐・シズナに従って去って行く。
 後に残されたのは、赤面黒毛二尾の狐・ケムと幾らかの狐霊のみ‥‥

●僧
「オンキリキリ‥‥」
 僧が唱えると、狐の霊たちは退散した。
「さすが和尚様じゃ」
「ではな」
 一瞬、ニヤッと残酷そうな笑みを見たような気がして、村人の1人がヒヤッと背中に冷たいものを感じた。
「それにしても、良くないことが多くないか?」
「いやいや、大丈夫じゃて。我らには和尚様がついておるではないか。魑魅魍魎など幾ら来ても祓ってくれよう」
 僧の後姿に村人たちは漠然と違和感を感じていたが、微妙なものであったため、忘れることで不安を拭うのだった。

 それでも数日後‥‥
「村の和尚様の様子がおかしいのです。どこがという訳ではないのですが、近頃は魑魅魍魎が村を襲うようになり、それも和尚様が退治してくださっているのですが、変事が起き始めた時期と和尚様に違和感を感じた時期が重なるのが、私には気になるのです」
 江戸市中に買い物に出た村人は、冒険者ギルドを訪れ、不安の種が何であるかの調査を依頼するのだった。

●今回の参加者

 ea2037 エルリック・キスリング(29歳・♂・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 ea2884 クレア・エルスハイマー(23歳・♀・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 ea3597 日向 大輝(24歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea5062 神楽 聖歌(30歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ea5456 フィル・クラウゼン(30歳・♂・侍・人間・ビザンチン帝国)
 ea7394 風斬 乱(35歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb0062 ケイン・クロード(30歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb0939 レヴィン・グリーン(32歳・♂・ウィザード・人間・ロシア王国)

●リプレイ本文

●不敵
「頻発する魑魅魍魎、それと同じ時期から雰囲気の変わった和尚さん、か。嫌なものが出て来なければ良いんだけどね」
 ケイン・クロード(eb0062)は、迎えの村人たちに苦笑いするが、村人たちの顔が不安の色に染まっていくのを見て、慌てて『もしかしたら』だからと付け加えた。
 さて‥‥
 境となる日で、村で変ったこと気がついたことがないか、些細なことでもいいからと聞き込むと、やはり多くの者が和尚の雰囲気が変わったと言う。
「遊んでくれるって約束してたのに和尚様に何かあったのかなぁ‥‥」
「それは魑魅魍魎を祓うのに、お忙しいからじゃ」
「でも‥‥」
 年長の者に諭され、子供は言葉を詰めた。
「詳しく調べなければ、わからないけど、俺たちも頑張るから待ってるんだよ」
 何やら裏がありそうだと思いながらもフィル・クラウゼン(ea5456)は、安心させるように子供の頭を撫でる。
 そこに‥‥
 和尚様、こんにちは、と、村人たちが口々に歩いてくる男に挨拶をしている。
「おや、旅の方々かね?」
「いや、最近物騒でな。この辺にも魑魅魍魎が出るようになったらか退治してくれと頼まれた」
「それでは冒険者か。ご苦労なことだ」
「まぁ」
 和尚に違和感を感じた風斬乱(ea7394)は、目を細める。
「こんにちは」
「武家の子かな。うんうん、きちんと挨拶できるのは良いことだよ」
 日向大輝(ea3597)は、見た目を活かして咄嗟に子供のふりをした。
 油断してボロを出してくれればという狙いだが、別におかしい素振りではない。
 思いすごしだったかと思いながらも、嫌な感じがする。何かが、そう告げていた。
「最近は変わったことが多いのですね‥‥ 何事もなければ良いのですが‥‥」
「そうだな。この辺も物騒になった。一度本格的に祓わなければならんだろう」
 微笑みかけるレヴィン・グリーン(eb0939)に、和尚は手を合わせて頭を下げた。
 と、そこで‥‥
「こら、止めなさい。失礼ですよ?」 
 突然吠え出した柴犬のガーディアン号を押さえながら、エルリック・キスリング(ea2037)は和尚に頭を下げる。
 釣られるように吼えるフェリックスに、クレア・エルスハイマー(ea2884)も困ったように頭を下げた。
「いや、その犬たちには嫌われてしまったようだ。俺は退散するとしよう」
 苦笑いを浮かべ、和尚は去って行くが、ガーディアン号とフェリックスは一時吼えるのを止めなかった。
「本当にどうしたのです?」
 クレアはテレパシーの経巻を取り出すとフェリックスに聞いた。
 血の臭いがしたという返事に驚いたクレアは、村人に聞かれぬように、仲間にそのことを伝える。
 どうやら、本格的に和尚が怪しい‥‥
「俺たちが坊さんと色々話をしてみるから、おたくらはその間、寺へは近付かぬようにな」
「どうか、和尚様をお助けください」
「任せておけ」
 最悪、和尚が死んでいることもありうる、とは言えず、風斬はそれだけ言った。

 暫時‥‥
「現れたのが狐の霊ばかりというのは気になるかな」
 農作業を手伝いながら聞き込みをしていたケインは、仲間たちの許に訪れると汗を拭う。
「それに坊さんのことも。疑うのは簡単だけど、妖怪か何かとしても正体を暴くのは難しそうですね」
 あの時に見た和尚の影は人間のものだったし、とエルリックは思ったが、愛犬があれだけ吼えるのには何か理由があるはずだ。
 何かの臭いを嗅ぎつけたのか‥‥
「俺たちの気のせいか、本性を出したか、偽者か‥‥ はてさて何が出てくるかな」
 仲間たちに周囲に伏せてもらい、日向は子供のふりで和尚と話をしてみたが、つっけんどんなところはあるが、酷いことをされはしなかった。昔はもっと遊んでくれたなどと、昔とは違うことを子供たちからの情報として得ているだけに、疑念の念は消えない。
「もしかすると妖狐なのかもしれませんね。考えたくはないですが」
 レヴィンの言葉に一同は大きな溜め息をついた。

●正体
 可能性を考え、妖怪の類ではないかと考えた冒険者たちは、互いの連携を確認して寺へ向かう。戦いやすさを考えて、日の昇っている時間帯を選んでだ。もし、妖狐相手であれば、月の光がなければ、ある程度の魔法は使えなくなることも考慮のうえである。
 念のためフレイムエリベイションやバーニングソードやテレパシーなどをかけ、お堂に近付く。
「1人みたいです」
「ですね」
 クレアがエックスレイビジョンの経巻で壁越しに覗く。
 レヴィンのブレスセンサーには仲間と和尚以外の目立った呼吸は感じられない。
「おや、誰か来たのかな?」
 和尚が笑顔で現れた。しかし、リヴィールエネミーの経巻を使用していたレヴィンの目には、敵意を示す青白く光が映っている。
 相手に敵意があることをレヴィンがテレパシーで風斬に伝える。
「坊さんがそんなに邪気を放って如何する?」
 間違いであれば後で謝ればいい‥‥ そう思いながら、風斬も笑顔の下の殺気を感じ取っていた。
 恐らくは強烈な殺気。
 しかし、笑顔の下から漏れるほどのものだ‥‥ 油断はできない。
「やはり、抑えられないか‥‥ 憶えているぞ、お前の顔!」
「生憎、私の方にはありませんが」
 指差されたレヴィンは、背筋も凍るような和尚の声に答えた。
「今までお会いした中には人に変身できる方々もおられましたし、あなたもそういった類の方ですか?」
「気に障る奴め、命が惜しければ帰ることを許してやろうか? この姿を見て、立っていられるならな!」
 和尚の姿が変じ、赤面黒毛の狐の姿になっていく。
 その尾は2つ‥‥
「二尾の妖狐ってところか」
 フィルが霊杖を構えるのを合図に、全員が戦闘態勢に移行し、冒険者たちと二尾の狐の間に殺気が漲る。
 ガーディアン号とフェリックスが一斉に吠え出す!
「お初にお目にかかる、ケムという。俺の名を憶えてあの世へ行け!
 そして、俺の力を思い知るがいい。死んでいった一族の恨みの魂の力をな!」
「要するに他力本願というやつだろう? 掛かって来いよ」
「妖狐か‥‥ 長い付き合いにはなりたくないからね。ここで倒させてもらうよ!」
「ほざけ! 生かしては帰さん!!」
 風斬とケインの軽い挑発に乗るくらいである。
 単純で直情径行、気が大きくなって無理・無茶・無謀を押し通そうとする‥‥そういうタイプだと、レヴィンは苦笑いした。
「笑ったな? 俺は新しい力を手に入れたんだ。お前らになど負けはせん!!」
 妖狐は庭に下りると、真っ赤な舌でベロリと口の周りを舐めた。
「引っ込んでいろ」
 回り込んで退路を断とうとしたトゥルーグローリー号の蹄をかわすと、妖狐は爪で一裂き。
 傷は深い、下手をすれば命を落とす‥‥
 エルリックは、リカバーを施すために慌てて愛馬を下がらせる。
「2本しかなくても妖狐は妖狐って訳だね」
「ガキは黙っていろ!」
 日向の挑発にケムが吼える。
「ガキ‥‥って、気にしてんだからな! 殴るぞ、マジで!!」
 言うが速いか、日向は小太刀を繰り出した。
「遅いわ!」
 それよりも速く、爪が日向の背を裂いた。
 とっと着地すると残忍な笑いを浮かべている。
「死ぬが良い!」
 風斬やケインたちの影が爆発する。
 フィルの一撃をくらい、妖狐が呻く。
「これならどうだ!」
 妖狐の身体が銀色に光るが、何も起こらない。
 恐らくは精神に作用する魔法を使ったのだろうが、備えは万全。
「狐‥‥ お前の力はそんなものか?
 お前も戦士なのだろう? ならば、全力でかかって来い‥‥ それがお前の実力と言うなら話は別だがね?
 遠慮も手加減もいらぬよ、無様に自慢の尻尾を巻きつつ、キャンキャン泣いて散るがいい‥‥」
「侮辱は許さん!」
 ケムの顔が引きつり、体毛は逆立っている。
 激闘の予感‥‥
(「私には癒ししかできないけれど、みんな頑張って」)
 エルリックは必死の祈りを捧げた。

●決着
 地上にあっては俊敏な動きを見せ、冒険者たちの合間を縫って接近、離脱を繰り返し、空中まで使って戦うケムに冒険者たちは大いに苦しめられた。
 風斬は倒れ、ケインも倒れた。
 日向たち前衛も傷を負って満身創痍。
 ケムの高笑いが響く。
 しかし、そこに冒険者たちの狙いがあった。
 相手は猪武者。単純な奴なら油断させるだけ油断させる。
 隙を狙い、風斬は身代わり人形を割り、ケインはポーションを飲み干した。
「これで終わりだ!」
「義父さんは言ってた、男ならどんなに傷ついても己の敵を倒せって!」
 風斬とケインの一撃がケムを捉える!!
「逃がしはしない、此処で必ず討ち取る‥‥ 覚悟しろ」
「飛燕剣壱式‥‥ 舞え、飛燕!」
 フィルとケインのソニックブームに不意を突かれ、ケムが態勢を崩した。
 そこへクレアのファイヤーボム! 威力に驚いたケムは逃れるように着地。
「そうさ! 逃がさない!!」
 小太刀をケムの身体に押し込み、そのまま体重をかけた。
「うぉっ! 放せ!!」
「逃がさないって言ったろ!」
 無理矢理振り解いて、再び空中へ逃れたケム。
「これで最後です! 稲妻よ、彼の敵を討て!!」
 レヴィンの身体が光り、手で組んだ印から電撃がケム目掛けて一直線に伸びる!
「うごぁああおおおぁが!」
 ブシブシと煙を上げながらケムは地表に激突した。着地もままならず、動く気配はない。
「やりすぎてしまいましたか。これでは記憶を覗くことはできそうにないですね」
 試しにリシーブメモリーをかけてみたが、やはり駄目だ。
「逃がすよりはいいさ」
 風斬は、溜め息をつくレヴィンの肩に手を当てた。
 兎も角、エルリックはホッと一息。仲間たちの傷を癒し始めた。

 和尚の死体を見つけた風斬たちは、そのことを村人に知らせ、弔った。
「悪いが同情はせんよ」
 酒を置いて、風斬は呟く。
 冒険者たちの選んだ道の最後もこんなものなのか‥‥
 果たして‥‥