【東風西乱・上州騒乱】連合軍討ち入り 甲
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■ショートシナリオ
担当:シーダ
対応レベル:10〜16lv
難易度:難しい
成功報酬:9 G 89 C
参加人数:10人
サポート参加人数:5人
冒険期間:05月31日〜06月12日
リプレイ公開日:2006年06月08日
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●オープニング
●那須神田城
「武蔵の武士たちは痺れを切らしていましょうな」
「出兵の内定が延び延びになっていますからな」
那須藩主、与一公の屋敷に招かれた源徳信康殿は、酒を交わしながら堅苦しい話をしていた。
彼らの傍らには那須藩家臣である小山朝政と信康の側近で補佐役の平岩親吉が、話を邪魔しないように座って杯を傾けている。
現在、上野国、つまり上州はクーデター状態にある。
事の発端は、金山城を拠点とする新田義貞の上杉憲政公に対する挙兵にあった。
激戦の末、1月16日、新田真田連合軍の攻撃を受けていた上杉憲政公の居城、平井城が陥落。憲政公は落ち延びて姿を隠した。時を前後して平井城の陥落の前日1月15日、新田氏の居城、金山城が反上州連合を名乗る者たちによって陥落。報せを受けた新田軍は反転するが、動向を見守っていた源徳家康公が金山城に兵500を差し向けた事を知り、平井城に戻った。前橋に入り体勢を立て直した新田義貞は、金山城の奪還を目指すが、源徳兵と大雪の為に、新田兵は一時断念して撤兵するしかなかった。
なお、1月末に義貞は平井城から上野国府・前橋の蒼海城に入ったと言われ、関東上杉氏を打倒した義貞に上州の主だった国人領主たちが臣従したと伝えられている。
その上州へ源徳家康公は摂政として鎮圧の兵を送ろうと画策しているのだが、中々うまくいかない。
北の越後上杉氏、西の甲斐武田氏の動きが鈍く、足並みが揃わず、最初の一歩が踏み出せないのだ。
源徳家康の嫡男、信康が白河の関を望む那須へ赴くことで何らかのリアクションがあるかと期待したが、各地の兵、いわんや反乱の当事者たる上州の兵にすら確たる動きは見られなかった。裏面では那須への移動中に、奥州に関わりがあると噂される忍軍に襲撃されたことと、白河への魔物襲来に対する伊達政宗公の探りを入れるような書状が届いただけで奥州の兵も動いていない。
他の者の動きに対応できるように積極性が失われているのかもしれないが、本当のところはわからないでいる。
さて‥‥
「幸いにも那須兵の戦準備は万端。狙って帰還したのですから、いつでも出陣できます」
「しかし、与一公‥‥ 父は沼田を攻めて上杉に揺さぶりをかけよと言っておりましたが、必死の戦いですね」
「これ以上、時を寝かせれば新田の支配は既成の事実となりましょう。今は動く一手です」
家康公から謀反征伐の檄文が発せられてから時が経っている。
これ以上、動きがなければ家康公の影響力低下と見られて各藩の離反が懸念されるだろう。
「沼田の主将は沼田万鬼斎‥‥でございましたな。関東上杉から離反した者なのに謙信が討たぬとは‥‥」
「信康殿、言っても詮なきこと。動き出せば諸大名の思惑も見えてきます。それに連なる者たちの思惑も」
沼田は越後との境界にあり、新田氏が上野国を押さえるための北の要ともいえる急所だ。
下野や武蔵からならば、平井、前橋を抜かなければ到達できない場所である。
「日光の難所を抜け、山道を用いて行けば敵の裏をかけましょう。道案内は那須密偵と知己の修験者にさせますれば」
「わかりました。源徳隠密衆の調べでは、沼田城の総勢は270〜300。目付けに近い形で、沼田の支城に真田昌幸と手勢が入っているということですが、恐らくはこれは100に満たないだろうと聞いております」
与一公と信康殿は、地図に目をやって表情を引き締めた。
「那須から250、信康殿の兵から250で宜しいか?」
「総勢500ですか。異存はありません。多ければ行軍に支障をきたしましょうし、少なくては目的が達せられませぬ」
「城を落とさないまでも一定の勝利を収めなければ意味がないですからね」
2人は頷くことで互いの了承を確認した。
「しかし。前橋の蒼海城の新田の兵に邪魔されないようにせねばなりませんな」
「真田の主力、幸村の兵も前橋にいるとか。そちらは間諜をかけましょう」
細かい打ち合わせがなされていく。そして、一段落した後‥‥
「「殿、主将を仕りたく」」
小山朝光と平岩親吉が同時に声をあげた。2人は顔を見合わせ、僅かに笑う。
「「許す」」
与一公と信康殿も静かに溜め息をついて同じ答えを返した。
那須釈迦ヶ岳に秘かに終結した小山朝政率いる那須兵250、平岩親吉率いる源徳兵250、それに道案内の修験者・虎太郎と那須密偵を加えた10ほど、それに那須預かりの冒険者たち蒼天隊を加えた那須・武蔵連合軍は6月1日、日光の難所を越え始めた。
那須兵主力は小山朝政を筆頭に先の那須藩クーデター騒ぎに加担した者たちが多く参加している。那須帰還に伴う主君の采配に罪悪感を感じるのか、雪辱を晴らすためと士気は高い。那須兵足軽には、昨年の江戸の大火以降、下野に流れた武蔵国抜けの者たちが付けられ、対外的には那須藩内の兵力は推移しておらず、那須兵が動いたようには見えにくい。国抜けの者たちは本来重罪が課せられるのだが、今回の派兵が一段落したところで罪を減じられ、晴れて那須藩に入植するか武蔵に戻ることの選択を許される‥‥と那須与一と家康名代の信康の名で触れを出されており、こちらも士気は高い‥‥ とはいえ、脆さと裏腹の士気の高さではあるのだが‥‥
●六文銭
沼田北方の支城に展開中の軍勢100程度‥‥ 馬印は真田昌幸の軍勢を示していた。
「殿、沼田城が襲撃を受けましてござります」
「ほぅ‥‥ 上杉が迂回して‥‥という訳ではないな。となれば‥‥雛っ子の与一と信康が山を越えてきたか?」
「そこまでは‥‥」
忍びの報告を受け、真田昌幸はニヤリと笑った。
「それで」
「沼田様は討って出られる由」
「蒼海城は」
「幸村様からは何も。急を知らせに向かいました故、いずれ返事が参りましょう」
打てば響くように忍びは答える。
「奇襲か。上杉に揺さぶりでもかけるつもりか‥‥ 狸爺いめ。とすれば固持はしまい。
雛っ子の羽を叩き折ってやるとしようか。出陣の用意だ!!」
真田が動き始めた。
●独立遊撃隊
沼田城に迫る那須藩預かりの冒険者部隊である蒼天隊甲隊。
彼らは沼田城の東方に展開する攻撃部隊の本隊と行動を共にし、主将である小山朝政と平岩親吉の指揮下にあることを前提としながら独自の采配で攻撃に参加する搦め手としての任務を受けている。
勝負を決める一手として存分な働きを期待すると本営から訓等を受けており、攻め手における期待は高く、それに相互するように、負けてなるものかと那須兵や源徳兵の士気は高まっている。
短期決戦において、彼らはどのような働きをするのか‥‥
果たして‥‥
●リプレイ本文
●戦端
那須・武蔵の連合軍が沼田の地に踏み入った当初、『敵総兵力は、およそ500』との報せに沼田城は物見の兵を繰り出すだけで篭城の構えを見せていた。北の支城の真田兵100に伝令を飛ばしたし、前橋から主力が援軍に来てくれれば、敵を倒すのは容易と沼田城主・沼田万鬼斎は踏んでいた。
しかし‥‥
連合軍の布陣は僅かに薄く、物見が切りの良い数で報告したのだなと櫓の上の沼田は笑む‥‥
馬印を見る限り、源徳兵を左正面に押し出し、右翼の那須兵を下げた斜線陣を用いているようだ。
その中央は、記憶にない白の矢が染め抜かれた蒼の幟の部隊が、僅か10程度‥‥
主従関係に基づいた部隊編成が常の武士の兵法では、簡単に右から左へ兵力の割り振りはできない。
部隊の到着が遅れていると踏んだ沼田万鬼斎は‥‥
「はっ、源徳の小倅は戦の仕方も知らんらしいわ」
250の兵を率い、敵兵が現れて数刻、自ら討って出ることを決めた。
さて‥‥
連合軍側から見ると、多少事情が異なる。
陣形は変形の鶴翼陣。中央を故意に薄くして冒険者たちが受け持ち、中央突破を誘って両翼から挟み撃ちにする作戦である。
平岩が源徳の武威を示すためにも先陣を仕りたいと引かなかったこともあり、軍議の結果、小山が一工夫を加え、先に触れたような斜線陣になったというわけだ。
今のところ、連合軍の思惑通りになりつつあるが、仮に蒼天隊の危機を救いに那須兵が動くようなことがあれば挟撃の機会を失い、敵主将・沼田万鬼斎を討ち漏らすことになろう。そうなれば、目的を達することなく撤退となるだろう‥‥
程なく、蒼天隊の左方に鬨の声と戦塵が上がった。
「武蔵兵、沼田兵と槍を交えるなり。合戦で御座る!」
白羽与一(ea4536)の承知の声に、伝令は走り去る。
程なく、横陣に布陣した敵の中央部隊が蒼天隊に殺到すると見て、限間灯一(ea1488)は戦闘準備を発した。
寡兵と侮ったのか、沼田兵は機動力の高い騎馬中心の部隊が、武蔵兵と敵左翼が戦闘状態に入ったのを見計らって進撃してくる。
「白羽隊長、流石に怖いですね。姉さんに怒られるのは、もっと怖いですけれど」
戦の手順に従って投石や矢襖の応酬から始まっていれば、結果は違ったかもしれない。
『我々の目的はひとつであり、
我々には還るべき場所があり、
我々には命を預けた主君の為、この戦を生き抜く義務がありまする!』
白羽の鼓舞に武蔵・那須兵が応と声をあげた姿を限間は思い出し、必ず無事に帰るという姉との約束を再び心に刻んだ。
「天下一の大剣豪になるまでは死ねないさ」
鷹見仁(ea0204)は、自分の唾を飲む音が何故かはっきりと耳に届くのに驚いた‥‥
敵左翼が那須兵に向けて進撃を始めるのに合わせて、中央の騎馬隊が速度を上げた。
「南無八幡大菩薩‥‥」
白羽の梓弓から放たれた矢が風を斬り、先頭を切っていた騎馬武者の頬を射抜いた。
思わずバランスを崩した騎馬武者は、後方の味方に突き飛ばされるように転倒し、踏み潰された。
「これも戦の慣わしでござりまする‥‥」
休まずに白羽の矢が馬を狙う!
前のめりに膝を折り、1騎を巻き込んで倒れた。
しかし、そんなものは無視して敵は突っ込んでくる。
その時、後方の那須兵から号令と共に矢襖が飛来、騎馬武者に降り注いだ。
数騎が隊列を乱し、突進力が一瞬、損なわれる。
「ありがたいな」
陸堂明士郎(eb0712)は後方をチラリと見た。
那須兵は敵の矢襖に晒されながらも矢の応酬を始め、双方とも間隙を縫って槍襖を繰り出し、進撃を始めている。
「迎え撃つぞ!」
「応! 修羅の如き戦働き、この沼田で見せてくれようか。与一公の為にもな!!」
限間の掛け声で前衛となるべき陸堂たちは部隊の前方に進み出た。
●激突
連合軍の布陣にはジークリンデ・ケリン(eb3225)の功績によるところが大きい。
テレスコープ、インフラビジョンなどを駆使し、リトルフライで上空から敵の伏勢の有無などを確認しているからこそ、安心して奇策の陣形を採れたのだから‥‥
尤も、北には真田昌幸の兵が早晩、南からは前橋の主力が数日中には押し寄せてくるだろう。
それまでに決めなければ‥‥
白羽は休まず矢を射ていく。
「敵主将は騎馬隊の背後から中央突破する模様!」
伝令の密偵が疾風のように駆け抜けた。
「こういうのは、苦手ですのよ」
ジークリンデは作戦通りにスモークフィールドを唱えた。
戦場に突然出現した煙に視界を遮られながらも、ここに至って突進を止めるなど、敵騎馬隊の戦法にはない‥‥
そうなるであろうことは小山・平岩の両将から指摘されているために蒼天隊に動揺はない。
続けてファイヤーボムの詠唱を行い、戦場に猛火が巻き起こった!
直径100mにも及ぶ煙で敵主力から隠して‥‥
「突撃ぃいい!!」
爆炎を抜けて蒼天隊の目前に飛び出してきたズタボロの敵に、限間の合図で前衛部隊が突撃を開始した。
「これで!」
羽雪嶺(ea2478)の爆虎掌をくらい、馬上の武者は血を吐く。
「巌流、西園寺更紗、参ります」
西園寺更紗(ea4734)は十分に威力を乗せた長巻を振るい、戦馬の腹を大きく裂いた。
馬ごと倒れこむ侍の首を目掛けて限間の相州正宗が叩き込まれ、その首が飛んだ。
「えぇい! 数では勝っている!! 突っ込め!」
立派な武具の敵武者が号令すると、敵の士気が上がるのが肌を通してわかった。
「蒼天隊・陸堂明士郎推参! 死にたい奴は前に出ろ!」
陸堂は槍を受け止め、馬の首ごと胴田貫で侍を討ち取った。
「い、一撃で‥‥」
仇と一斉に半槍や刀が繰り出されるが、生半可な攻撃では陸堂に掠り傷しか与えられない。
「化け物め‥‥」
「無駄口は生き残ってするんだな」
鷹見の剣が、敵兵の言葉の続きを遮った。
混乱して足を止めた騎馬隊の後ろから歩兵が出現。
ズタズタの味方に驚きながらも後ろからやってくる味方に押し出されるように前進してくる。
「私は蒼天隊の刀根要です! いざ、尋常に勝負!!」
刀根要(ea2473)は、戦馬を操りながら十字鎌槍『宝蔵院』で足軽を討ち取っていく。
「猪口才な!」
「汝の名は!」
飛来する矢を避けもせず、刀根は敵将を睨んだ。掠り傷に血が滲むが、その視線は敵将を見つめたままだ。
「沼田家家臣、金子新左衛門、我が槍の餌食になりたくなくば、疾く失せよ!!」
「相手にとって不足なし、勝負!!」
「満足に名乗りも上げずに一騎討ちか! せっかちな奴め」
ギャリィイイン! ジャッ、ビュゥオ!!
名乗りもそこそこに刀根が討ち込む。
一閃の後、愛馬・潮風を加速させ、すれ違い様に金子の背中を貫いた。
周囲の時間が一瞬止まる‥‥
「金子を救え! 奴らを捻り潰すのだ!!」
沼田足軽らが敵の後方から殺到する。
「殿! 出すぎで御座ります!!」
手傷を省みずに、金子が馬首を巡らせた。
「殿? まさか‥‥ 戦場では手加減は出来ません‥‥ 許してとも、言えません」
アリエス・アリア(ea0210)の操る縄ひょうが腕に巻き付き、金子のバランスを崩させ、刀根のパワーチャージで落馬を余儀なくされる。それを見て、詰め寄る足軽を、鷹見が、羽が、陸堂が阻むと、煌びやかな大鎧に身を包んだ武将が姿を現した。
「殿、お引きください!」
「高々、これしきの兵! それにお前を失っては、兵たちの士気が萎えるわ!」
金子が叫ぶが、武将は聞き入れず采配を振るっている。
「沼田万鬼斎!」
「おぅよ! 皆の者、金子を救い出し、一気に押し潰すのだ!!」
アリエスの声に武将が答えた瞬間、鷹見の剣が、西園寺の一閃が、羽の気合の拳が、陸堂の一撃が足軽を叩き伏せた。
「敵の数の方が多いのです! 油断なされますな!」
「敵兵、来ます!!」
白羽の矢が、アリエスの縄ひょうが、鷹見を狙う沼田兵を撃った。
●迂回挟撃、側背強襲
「突っ込めぇ!!」
ありったけの那須軽騎兵を投入し、戦場の煙を迂回しながら馬上から矢を放つ!
突然の背後からの攻撃に混乱した沼田兵は壮絶な同士討ちを始めた。
小山殿は弧月型に槍兵を前進させ、矢も尽きんばかりに弓兵に命じる。
その間に、那須軽騎兵は敵の背後を迂回して敵右翼の側背を突こうとしている。
どの部隊がどこまで作戦を遂行しているかはわからないが、相互の連絡がリアルタイムで取れない以上、決められた通りに動くまで!!
「押せ! 押せ! 押せぇ!!」
敵が那須軽騎兵の鬨の声に気をとられた隙を突いて平岩殿の号令が飛ぶ。
兵が切り開いた場所を埋め、突入してきた那須軽騎兵を援護するように弓兵から矢が飛ぶ。
一進一退を繰り広げていた戦場が動いた瞬間だった‥‥
「もしも‥‥ 戦争そのものが神隠しで攫われる事ができれば、どんなに良いのでしょうね‥‥」
地煙とスモークフィールドの煙が晴れつつある中、アリエスは敵兵を撃ちながら呟いた。
壮絶な戦いの末、個々の戦力とポーションでの回復力に優れる蒼天隊は、金子率いる騎馬隊を壊走させ、万鬼斎率いる部隊を混乱させることに成功した。
「白羽隊長、那須軍が包囲を絞り始めます」
「わかりました。しかし、これでは満足に戦えますまい。一端退きまする」
限間の報告に隊長の白羽は頷いた。
50以上は敵を討ち取っただろうか‥‥
しかし、蒼天隊の疲弊は激しく、息をつく暇が必要と白羽は足を止めるように号令をかけた。
程なく再突入を行った蒼天隊甲隊は、沼田万鬼斎を那須藩士が討ち取ったと報せを聞いた。