【東風西乱・上州騒乱】前橋、間諜

■ショートシナリオ


担当:シーダ

対応レベル:8〜14lv

難易度:難しい

成功報酬:5 G 47 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月02日〜06月08日

リプレイ公開日:2006年06月10日

●オープニング

●那須神田城
「武蔵の武士たちは痺れを切らしていましょうな」
「出兵の内定が延び延びになっていますからな」
 那須藩主、与一公の屋敷に招かれた源徳信康殿は、酒を交わしながら堅苦しい話をしていた。
 彼らの傍らには那須藩家臣である小山朝政と信康の側近で補佐役の平岩親吉が、話を邪魔しないように座って杯を傾けている。

 現在、上野国、つまり上州はクーデター状態にある。
 事の発端は、金山城を拠点とする新田義貞の上杉憲政公に対する挙兵にあった。
 激戦の末、1月16日、新田真田連合軍の攻撃を受けていた上杉憲政公の居城、平井城が陥落。憲政公は落ち延びて姿を隠した。時を前後して平井城の陥落の前日1月15日、新田氏の居城、金山城が反上州連合を名乗る者たちによって陥落。報せを受けた新田軍は反転するが、動向を見守っていた源徳家康公が金山城に兵500を差し向けた事を知り、平井城に戻った。前橋に入り体勢を立て直した新田義貞は、金山城の奪還を目指すが、源徳兵と大雪の為に、新田兵は一時断念して撤兵するしかなかった。
 なお、1月末に義貞は平井城から上野国府・前橋の蒼海城に入ったと言われ、関東上杉氏を打倒した義貞に上州の主だった国人領主たちが臣従したと伝えられている。
 その上州へ源徳家康公は摂政として鎮圧の兵を送ろうと画策しているのだが、中々うまくいかない。
 北の越後上杉氏、西の甲斐武田氏の動きが鈍く、足並みが揃わず、最初の一歩が踏み出せないのだ。
 源徳家康の嫡男、信康が白河の関を望む那須へ赴くことで何らかのリアクションがあるかと期待したが、各地の兵、いわんや反乱の当事者たる上州の兵にすら確たる動きは見られなかった。裏面では那須への移動中に、奥州に関わりがあると噂される忍軍に襲撃されたことと、白河への魔物襲来に対する伊達政宗公の探りを入れるような書状が届いただけで奥州の兵も動いていない。
 他の者の動きに対応できるように積極性が失われているのかもしれないが、本当のところはわからないでいる。

 さて‥‥
「幸いにも那須兵の戦準備は万端。狙って帰還したのですから、いつでも出陣できます」
「しかし、与一公‥‥ 父は沼田を攻めて上杉に揺さぶりをかけよと言っておりましたが、必死の戦いですね」
「これ以上、時を寝かせれば新田の支配は既成の事実となりましょう。今は動く一手です」
 家康公から謀反征伐の檄文が発せられてから時が経っている。
 これ以上、動きがなければ家康公の影響力低下と見られて各藩の離反が懸念されるだろう。
「沼田の主将は沼田万鬼斎‥‥でございましたな。関東上杉から離反した者なのに謙信が討たぬとは‥‥」
「信康殿、言っても詮なきこと。動き出せば諸大名の思惑も見えてきます。それに連なる者たちの思惑も」
 沼田は越後との境界にあり、新田氏が上野国を押さえるための北の要ともいえる急所だ。
 下野や武蔵からならば、平井、前橋を抜かなければ到達できない場所である。
「日光の難所を抜け、山道を用いて行けば敵の裏をかけましょう。道案内は那須密偵と知己の修験者にさせますれば」
「わかりました。源徳隠密衆の調べでは、沼田城の総勢は270〜300。目付けに近い形で、沼田の支城に真田昌幸と手勢が入っているということですが、恐らくはこれは100に満たないだろうと聞いております」
 与一公と信康殿は、地図に目をやって表情を引き締めた。
「那須から250、信康殿の兵から250で宜しいか?」
「総勢500ですか。異存はありません。多ければ行軍に支障をきたしましょうし、少なくては目的が達せられませぬ」
「城を落とさないまでも一定の勝利を収めなければ意味がないですからね」
 2人は頷くことで互いの了承を確認した。
「しかし。前橋の蒼海城の新田の兵に邪魔されないようにせねばなりませんな」
「真田の主力、幸村の兵も前橋にいるとか。そちらは間諜をかけましょう」
 細かい打ち合わせがなされていく。そして、一段落した後‥‥
「「殿、主将を仕りたく」」
 小山朝光と平岩親吉が同時に声をあげた。2人は顔を見合わせ、僅かに笑う。
「「許す」」
 与一公と信康殿も静かに溜め息をついて同じ答えを返した。

 那須釈迦ヶ岳に秘かに終結した小山朝政率いる那須兵250、平岩親吉率いる源徳兵250、それに道案内の修験者・虎太郎と那須密偵を加えた10ほど、それに那須預かりの冒険者たち蒼天隊を加えた那須・武蔵連合軍は6月1日、日光の難所を越え始めた。
 那須兵主力は小山朝政を筆頭に先の那須藩クーデター騒ぎに加担した者たちが多く参加している。那須帰還に伴う主君の采配に罪悪感を感じるのか、雪辱を晴らすためと士気は高い。那須兵足軽には、昨年の江戸の大火以降、下野に流れた武蔵国抜けの者たちが付けられ、対外的には那須藩内の兵力は推移しておらず、那須兵が動いたようには見えにくい。国抜けの者たちは本来重罪が課せられるのだが、今回の派兵が一段落したところで罪を減じられ、晴れて那須藩に入植するか武蔵に戻ることの選択を許される‥‥と那須与一と家康名代の信康の名で触れを出されており、こちらも士気は高い‥‥ とはいえ、脆さと裏腹の士気の高さではあるのだが‥‥

●前橋蒼海城
 新田軍主力が蒼海城内に入り、周辺の支城や出城にも新田の兵が入っている。
 それを補うように兵を展開しているのが、真田幸村指揮下の兵だ。
 真田丸と呼ばれる郭砦を建築し、兵は即時対応が可能な様相を呈している。
「言うまでもないが油断は禁物。気を引き締めて情報を集めよ」
 海野六郎は配下の真田忍者に言付けると、彼らが散っていくのを見届けた。
 真田幸村のために一つでも多くの情報を集め、そのために十勇士の筆頭として真田忍軍を纏める立場にもある。
「昌幸様の調略、流石だな‥‥ 武蔵の兵は動く気配はなし。上州は暫く安泰か‥‥
 上州の豪族もそろそろ落ちる頃合‥‥ 後は‥‥」
 情報の書きつけられた紙片を並べ、幸村への報告を纏めるために暫し押し黙った。
「甲斐の武田も越後の上杉も京の様子が気になるのか、動く気配はなし。
 奥州の情報は少ないが、今のところ出方を見ているというところか‥‥」
 海野は、前橋警戒を命じた配下からの報告を受けると、腰を上げた。

●隠密部隊
「今回は那須藩預かりのお前さんたちと、家康公預かりの俺たちの2班で間諜を仕掛けることになった。よろしく」
 冒険者長屋のヌシとして知られている山内志賀之助は、いつもの任侠的な雰囲気とは違い、暗色系の旅装に同系色の外套という何処か洗練された格好で表情も引き締まって見える。山内が頭を下げると、後ろの冒険者7名も頭を下げた。
 今回の沼田攻めは源徳と那須の連合軍による作戦。それはここでも同じということだ。
「この2隊の働きが沼田攻めの肝といっても過言じゃないぞ。気を抜かないで頑張ろうな」
 総指揮官として両部隊の繋ぎをする那須密偵は、冒険者たちを前に静かに語った。

●今回の参加者

 ea2482 甲斐 さくや(30歳・♂・忍者・パラ・ジャパン)
 ea5601 城戸 烽火(30歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea8531 羽 鈴(29歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea9028 マハラ・フィー(26歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・インドゥーラ国)

●リプレイ本文

●噂
 甲斐さくや(ea2482)たち2人組2組の4名が前橋での情報収集と囮を務め、山内志賀之助たち8名は、沼田と前橋の中間地点での状況を確認し、時が来れば、伝令を阻止するために江戸を出たのが数日前。
 上州での騒乱を期待して集まった任侠や武芸者たちが多く流入し、休戦期間ということで物資の流通も盛んであるために、人の出入りは比較的盛んで思ったより簡単に冒険者たちは上野国に入ることができた。

「よぉ、一緒に飲んでかないか?」
「いいネ」
 通り一遍等で投げやりな口説き文句だが、羽鈴(ea8531)と城戸にとっては渡りに船。
 とりあえず、その辺の飲み屋でってことで、店に入った。
「最近、那須の兵が動いたから、此処でも職にありつけるかと、この人と行動ヨ」
「那須か。狸親仁の弓取りの矢だろ? ビューンと射られて、ハイ、さようならってな」
 男たちの言葉に、羽は笑うしかない。
「それにしても、ここらは賑やかですね」
 城戸烽火(ea5601)は話題を逸らした。
「おぅ、早々にも、この辺は戦になるぜぇ」
「戦巧者の真田の殿様が、あの摂政・家康に楯突こうってのが、いいじゃねぇか」
 男たちは顔を見合わせて笑っている。
「そうそう、真田の殿様にかかりゃ、切り取り放題さ」
「そんで、それに味方する俺たちは功名をあげて、末は城持ち大名って訳さ」
「いい時勢に生んでくれたって、親には感謝しなくちゃいけねぇな〜」
 冗長に話す2人の男は、目をつぶると上を向いてパンパンと拍手を打っている。
「真田家は、そんなに良いのですか?」
 城戸は再び話題を変えた。
「おぅおぅ、それよ。真田の殿様の子、幸村様ってのがいいんだ、これが」
「百戦錬磨の昌幸様に勝るとも劣らずって評判でなぁ。お若いのに人柄も才気も新田なんか足元にも及ばないらしいぜ」
「それで真田の殿様は安心して前橋の抑えに残されて、沼田の方に行かれたとか」
 まるで自分のことのように鼻高々に話している。
「沼田‥‥ 上杉方に使者でも送られたのですか?」
「さぁね、上杉から領地を切り取る算段をつけてるんじゃねぇのか?」
「それより、上杉を味方に引き入れる算段をしてると聞いたネ」
「そりゃいい。やってくれそうな話じゃねぇか」
 色々と情報や噂話を手に入れた城戸と羽は、理由をつけると店を後にした。

●追跡者
 前橋に近付くにつれ、新田兵や真田兵の姿と共に、任侠風の者や浪人風の者も多く見かけるようになった。
 それは兎も角‥‥
「つけられているわね」
「そうでござるな」
 別行動の城戸と羽の動きを遠くから確認しながら、マハラ・フィー(ea9028)と甲斐は、彼らをつける存在に気づいていた。
 旅の商人風に見えるが、あの男が噂の真田忍者なのか‥‥

 人影のない場所まで来たところで、甲斐とマハラは動いた。
 マハラの振るう鞭が男の腕を捉え、驚愕した男は甲斐の手刀に気絶させられた。
 近くの小屋に引き込んで縛り上げると、暫くして男は目を覚ました。
「話、聞きたいですね」
「こ、殺さないでくれ」
「死にたくなければ話しなさい」
 マハラの縄を引っ張って男を座らせた。
「前橋には、どのくらいの兵がいるのでござる?」
「さぁ‥‥ 俺にはわからない。でも、兵隊が沢山集まってるのは知ってる。だから商売をしに‥‥行こうと」
 甲斐は短刀を突きつけるが、男は怯えているだけで、しつこく聞くが詳しくは知らないようだ。
「真田と新田の繋がりは」
「お侍様方の‥‥繋がりなんてわかりませんよ」
 要領を得ない甲斐とマハラは溜め息をついた。
「真田の忍者は、那須に入っているのでござるか?」
「そんなこと‥‥ 私が知るわけないじゃないですか」
 泣き出しそうな男の顔を見て、2人は大きく溜め息をついた。
 何か手掛かりがあるかと、男の荷物を改め、改めて気絶させると、甲斐とマハラは小屋を後にした。 

 彼らと入れ違いに入ってきた男によって、商人風の男は縄と猿轡を解かれた。
 暫くして気がつくと、一息つく。
「大丈夫か?」
 あぁ、と商人風の男は頷いた。
「あのような聞き方で話すわけがなかろうが‥‥ 尤も、拷問されても口は割らんが‥‥
 それにしても、あいつら、何者? 那須のことを気にしておったが‥‥ まさか、那須の忍びとは思えんしな。
 いや、命を取られなかったところをみると、そう思わせる何者かなのか? 兎も角、報告だ」
 片方の男は印を組み、術を発動させて風のように去ってゆく。

●伝令
 ほぅ、ほぅ‥‥
 仲間の合図に山内組が崖の下を見やると、沼田兵の幟を掲げた鎧の騎馬武者が一心不乱に駆けて来るのが視界に入ってきた。
「やるぞ」
 山内たちは、各々散った。

 突然、馬の首の高さに張られた網に掛かり、騎馬武者は慌てて手綱を捌く。
 追い討ちをかけるように、飛び出した山内が馬の足を切り裂いた。
 転倒する馬から投げ出された武者に小柄が投げられ、3人がかりで武者を取り囲む。
「もしや‥‥ 源徳か那須の手の者か!」
 鎧武者は刀を抜こうとするが‥‥
 容赦ない渾身の一撃で二の腕に深手を負った武者は、反撃態勢も取れないまま、数人に撫で斬りにされた。
「これが、書状か」
 書状を読んで懐にしまうと、所持品を確認して武者の死体を隠した。

 時間を置いてやってきた第二、第三の伝令も倒し、沼田城からの援軍要請の書状を入手した山内たちは、見張りの仲間を置いて情報収集のために少し離れた場所の茶屋を訪れた。
 沼田での戦の噂が、まだ届いていないのか、旅人たちの会話に不穏な様子はない。
 任侠が床机に銭を置き、茶屋を後にしたとき、ニヤッと笑ったように思ったが、気のせいか‥‥
 山内は街道を見つめながら一服した。

●捕縛
 前橋を直前に、城戸と羽は数名の男たちの襲撃を受けた。
 急に眠くなって気がついたら‥‥という記憶からすると、おそらく春花の術で眠らされたのだろう。
 縛られていることに気づくが、心得のある者が縛ったのか縄抜けができない。
 石造りの床や天井、壁には窓もなく、部屋の一面は格子で閉じられており‥‥
 牢ということは、ここは真田忍者の拠点の1つかもしれない‥‥
「捕まってしまったようですね」
 城戸は溜め息をついた。
「余裕だな。それなりの手練のようだが」
 そこへ男の声。気配は感じなかったのに‥‥
「戦いなら自信あるネ。真田の殿様、人気アル。だから雇ってくれないか来たのに酷いネ」
「追い剥ぎにしては、捕まえるなんて変です。何者です?」
「さぁな。答える義理はない」
 羽たちの疑問に男は鼻で笑う。
「なぜ私たちなのです? 他にも流れ者は大勢いたのに」
「忍び足に長けている者は、普段から気づかぬうちにそうしているものさ。それに、敵地へ潜入する者ならば、警戒心から自ずとそうなる」
 男は声を出して城戸を笑った。
「それで? 何を探りに来た?」
 そんなことを聞いても、答えないのはわかっている。とでも言いたいかのように、男は笑みは崩さない。
「まぁいい、拷問で吐かせてやろう。それよりも、尾行も付いてなかったとは、何をしていたんだ!」
 男が他の者に指図していると、別の男が飛び込んできた。
「沼田に‥‥が現れ‥‥」
 男たちは顔を見合わせると部屋を出ていった。

 少しして隣の部屋で何かが倒れる音がして、甲斐とマハラが現れた。
「大変でしたね」
 微笑むマハラの隣で、甲斐が開錠の術を使って、牢の鍵を外す。
「真田の忍びや敵方の情報がないか探してみましょう」
 しかし、情報はなく‥‥
 装備を取り戻して、彼らは小屋を後にした。

●錯綜
「どこから抜けたと言うんだ‥‥」
 後日、山内は、総数約300の真田軍が通過するのを目の当たりにし、間諜を断念した‥‥
 本当ならば前橋からの増援に先駆けて情報を届ける予定だっただけに、江戸に帰還したマハラや山内たちの気落ちは深い。
 それはさておき、彼らが得た情報だが‥‥
 上州を切り取ろうと源徳家康公が上杉憲政公を討ち、御救いしようと新田義貞は兵を挙げたのだが、それを謀反だと流布されたのだ‥‥と聞いた。
 尤も、新田義貞が謀反を起こして、家康公が鎮圧の兵を送り込んだのだという、江戸の者たちがよく知る話もあったが‥‥
 なお‥‥
 山内率いる部隊が沼田からの伝令を寸断しながら、情報が前橋に届いたことに対する原因の究明はできていない。
 それが真田忍軍の実力か‥‥と言えば、それまでだが、予測や判断をするには情報が少なすぎた。

 さて‥‥
 今回の援兵に関して‥‥
 真田幸村は新田の重臣たちの反対にあって沼田への出陣を諦め、配下を向かわせたと噂を聞いた。
 それは、真田幸村に武勲を立てさせたくないという目論見があるのだという噂でもあった。
 同時に‥‥
 ノコノコと前橋の主力部隊が出陣し、越後上杉、甲斐武田に背後を突かれるのを良しとしなかった‥‥とも聞き、
 北上するかもしれない武蔵兵たちへの押さえとして残らざるを得なかった‥‥とも聞いた。
 実際に越後上杉も甲斐武田も動きを見せなかったのだが、背景となる両者の都合はわからない。
 しかしながら、幸村が前橋を離れず、数百の真田兵が慌しく出撃を待つ中、主将が決まらずに出陣が遅れたのは事実。
 その結果、援兵は連合軍を痛撃する好機を失ったことも事実だった。
 しかし、連合軍の撤退が早かったとはいえ、援兵が連合軍の殿との戦闘に参加している以上、出立が早ければ結果は違っていたかもしれないが、それを口にする者は殆んどいないという‥‥