銭投げ岡引 平治の女難
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■ショートシナリオ
担当:シーダ
対応レベル:3〜7lv
難易度:普通
成功報酬:2 G 4 C
参加人数:5人
サポート参加人数:1人
冒険期間:06月07日〜06月12日
リプレイ公開日:2006年06月16日
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●オープニング
さてさて‥‥
ここは江戸、神田明神の辺り‥‥
「親分、てぇへんだぁ」
「わかってらぁ、八」
十手を構えながら子分の八兵衛がにじりながら下がるのを叱咤ながら、銭高平治自身も手の打ちようがなかった。
「神妙にしなっ! その娘を放さねぇか」
鮮やかな薄緑の組紐で巻かれた柄と同じ色の房であしらわれた片刃の十手を突きつけるが、相手は物ともしていない。
「一緒になれた。ずっと一緒に‥‥」
死人の顔、そして胸から下は血まみれ‥‥
「こりゃ俺たちの手にゃ負えねぇ。八、冒険者ギルドへ走って応援を呼べ! 四の五の言ってられる状況じゃねぇ!!」
平治も遠巻きにするしか手がないようだ。
事の起こりは少し前のこと‥‥
「親分さん、相談したいことがあるんです」
大人の女と言うには幼さが残るが、美人と言って申し分ない娘が長屋の軒先に立っていた。
八兵衛が思わず煮物の欠片を飲み込み、ゲホゲホと咳き込み、差し出されたお茶で一息ついた。
「おめぇさん、神田明神の水茶屋の」
「お鈴と言います」
頭を下げる娘に上がるように勧めると、平治は火鉢にかけてあった瓶から湯を注いでお茶を出した。
「水茶屋で評判の茶汲娘に出せるような茶じゃねぇが、勘弁してくんな」
「いえ‥‥」
娘の顔は走ってきたのか、ほんのり赤い。
「で、どんな用だい?」
「御世話になった姉さんが浪人に付き纏われて困っているんです。親分さんなら、きっと何とかしてくれると思って‥‥」
「詳しく話してくんな」
茶屋で世話になった先輩の茶汲娘・お珠が大工と結婚すると聞いて、彼女に心寄せていた浪人・潤一郎が急に言い寄ってくるようになったのが問題の発端。
想い人がいるからと、お珠は断ったのだが、浪人はしつこく付き纏っているらしい。
「羨ましいなぁ、親分」
八兵衛は、話をする2人を見て、やけ食いするのだった。
‥‥で、平治たちがお珠の家を訪ねてみると‥‥
「お鈴‥‥ちゃん‥‥ 助けて」
着流しに大小の刀を差した男は、平治たちの姿を見てヒクッと頬を引きつらせた。
壁に追い詰められるように身動きできないでいるのが、お珠だろう。
「俺とあの世で一緒になろう‥‥」
小太刀を抜くと自分の鳩尾に突き刺し、押し込んで一気に引き抜いた。
いきなりのことに平治たちも止める隙もない‥‥
「お‥‥珠‥‥」
お珠に手をかけようとするが、力が入らずに、潤一郎は、そのまま崩れ落ちた。
「馬鹿な奴だ‥‥ 命を粗末にしやがって」
平治が潤一郎の様子を見ようと近寄ろうとし、お鈴はお珠に駆け寄ろうとする。
瞬間‥‥
潤一郎の身体から半透明の影が抜け出し、一瞬辺りを見渡すと不思議そうに身体に戻っていく。
そして‥‥
だらだら血を流しながら潤一郎は立ち上がって、お珠を抱き寄せた。
「ついに一緒になれた。一緒に‥‥」
お珠は彼の腕の中で気を失った‥‥
●リプレイ本文
●慌て者、走る
「銭高の親分からの依頼でぃ! おやっさん、冒険者を借りてくぜ!!」
「おいおい、八っさん!」
「少し待ちなさいって」
ギルドの親仁さんを置いてけぼりに、出て行こうとする八兵衛の首根っこを飛麗華(eb2545)が引っ掴んだ。
「どんな依頼でござるか? 聞かなければ、どうしようもないでござるよ」
「お鈴さんって娘と、死んじまって、胸を刀で一突き、お珠さんを、幽霊が、訪ねたら、浪人が、突然生き返って、身体に入り込んで、お珠さんを人質にされてしまった。でも、浪人は死んでるから、冒険者を連れて来いって、手に負えないんで」
「はぁ?」
首を傾げる風魔隠(eb4673)と飛の後ろから、山城美雪(eb1817)がお茶を八に差し出した。
「つまりです‥‥」
山城は少し考え込む‥‥
「お鈴さんって娘とお珠さんを訪ねたら、浪人が胸を刀で一突き、死んじまって、幽霊が身体に入り込んで、突然、生き返って、お珠さんを人質にされてしまった。でも、浪人は死んでるから手に負えないんで、冒険者を連れて来いって‥‥ことですね。恐らくは」
「そうそう、それそれ‥‥ げほっ」
咽る八が山城を必死に指差している。
「その浪人ってのが勝手に片思いして、嫁入りが決まってるお珠って娘を無理矢理、無理心中しようとしてるのさ」
「まったくなんて男でござろうな。良縁の決まった女子に言い寄るとは女の敵でござる!」
飛び出そうとする風魔の首根っこを飛が引っ掴む。
「どこの国でも、しつこい男は女から敬遠されるっていうのに、取り憑いてまで言い寄るんだから厄介この上ないぜ、全く」
レオン・ウォレス(eb3305)は、装備の確認を始めている。
「さて、面妖な事件ですね」
山城は立ち上がると襟元をピシッと合わせた。
「それじゃ、依頼主は平治親分ってことで、お前さんたち行ってくれるか?」
親仁の言葉に冒険者たちが頷く。
「‥‥で、お前さんもゴロゴロしてないで行って来な」
「折角、ギルドでダラダラしてたのに‥‥」
限間時雨(ea1968)は、やおら起き上がると、親仁に急かされて立ち上がった。
「ほらほら、善は急げって言うだろ?」
「まぁ善ってガラじゃ無いけどね、私は。かといってほっとけるほどワルでも無し。とりあえず、後でお酒でも奢ってね♪」
「助けりゃ、誰かが奢ってくれまさぁな!」
八を先頭に冒険者たちはギルドを後にした。
全員全速力!
神田の方へ、駆ける、駆ける。
「って‥‥ そういう‥‥訳でさぁ‥‥ ふぅふぅ」
現場まで走りながら残る事情を思い出す限り冒険者たちに伝えた八。
喋りながら走ったからか、息が切れている。
「にしても、死んですぐに生き返るだなんて奇妙なもんだね。一度死んで怨霊になって自分の死体に取り憑いた‥‥とか、かな」
「呪法ということも‥‥考えられ‥‥ますね」
八と一緒に急ぐ限間の後ろから、山城の声が聞えた。
装備が軽く、体力もある限間や飛などは多少余裕があるが、他の者は息も切れ切れである。
走るのが仕事の八も、往路であればまだしも、復路となればきつかろう‥‥
「相手が幽霊の類なら、この黄金の枝を使ってみるか‥‥」
ギルドの親仁に使い方を聞きにきて、早速使うことになるとは‥‥と、レオンは前方を行く八たちを見つめた。
幸いにも清らかな聖水も持ち合わせている。これを浴びせれば怯ませられるかもしれない‥‥
「そこを‥‥ 右に曲がったら‥‥ 見えるはずでさぁ‥‥ ふぅひぃ‥‥」
そんなことを考えているうちに、現場が近くなってきたようだ。
●恐怖の時間
「でかしたぜ、八」
「も、もう‥‥ 走れや‥‥せんぜ‥‥」
十手を構えた男が、足をもつれさせた八を支えた。
そうこの男が、明神下の親分こと銭高平治。ということは、彼の後ろで涙を浮かべて震えているのがお鈴という娘か‥‥
日本刀を抜いた浪人虚ろな視線で何処か遠くを見つめて狂気をはらんだ笑みを浮かべている。
いや、その顔のまま、死んだのだろう。表情は動かない。
「一緒に‥‥ い‥‥ 一緒に‥‥ お珠‥‥ うふふふふ‥‥」
足元の血溜まり、死人のような顔色を見ればわかる。潤一郎と呼ばれていた男が、すでに生きていないことは‥‥
「お珠さんと揃って冥土に行ったものと勘違いしてるのかな‥‥」
「恐らくはな」
潤一郎の死角に回り込みつつある限間に倣って平治も位置取りを変えた。
「で、どうする? 俺に手伝えることがあれば言ってくれ。冒険者の方が死者との戦いなんかには慣れてるからな。指示に従うぜ」
カッパー銭をいつでも投げられるようにしながら、平治はジリッと足をにじった。
「すまない。もう少し時間が欲しい。念には念を入れさせてくれ」
レオンは黄金の枝を地面に突き刺し、集中し始めた。
「うふふふふ‥‥ あはははは‥‥ これで二人は結ばれる‥‥ うははは‥‥」
ネトつくような不気味な雰囲気の中で潤一郎の高笑いだけが響く。
「何かあれば、お珠さんは私が護ります。皆は潤一郎を止めてください」
「わかったでござる。」
十二形意拳・酉の構えを取りながら飛の目は獲物を狙う鷹のように鋭い。
風魔も聖水と八握剣を構えた。
「親分‥‥ 何か冗談でも言わねぇと、息が詰まりそうでさぁ」
「馬鹿やろ」
八の軽口に、一同は思わず鼻で笑った。
暫時‥‥
野次馬たちが集まり、奉行所与力の只野たちも駆けつけるが、異様な状況に手も足も、それこそ口も出せそうになかった。
そのときだ‥‥
死人の浪人・潤一郎の腕の中で、お珠が目を覚ました‥‥
ひゅう‥‥
思わず息を呑んで硬直してしまう。
「お珠さん、動くんじゃねぇよ。その浪人さんは死んでる。だがよ、死に切れねぇでいるんだ。
もう少しで俺たちが助けてやるから、じっとしてな」
「もう少しだけ我慢してください」
平治と山城の声掛けに、震えながら僅かに首を縦に振った。
段々と意識がハッキリしてきて背中が妙に暖かく濡れているのを感じるが、何が起きているか分からない。
お鈴が声に出さずに『大丈夫』とだけ言うと、お珠は震えながら頷く。
「待たせたな。いくぞ」
レオンは聖水を片手に2つ持つと一気に投げた。
パリィ‥‥
小壷が割れた瞬間、潤一郎は、この世のものとは思えない叫びをあげた。
「うぎゃぁあああああ!」
同時にお珠は気を失う。
「銭高の親分、今!」
「おぅ!」
真空刃となった居合いが潤一郎の腕を裂き、銭高のカッパー銭が潤一郎の目に突き刺さった。
「死者には死者に相応しい死を」
山城の放った月光の如き矢が、潤一郎を突き刺さる!
「お珠さん」
目に留まらないほど素早い鳥爪撃の蹴りが、お珠を支えていた腕を蹴り飛ばした!!
腕の中から滑り落ち、膝をついて、倒れこむ!
「邪魔はさせないでござる!」
再び抱きかかえようともがく潤一郎に風魔の投げた聖水がかかる。
明らかに動きは鈍い。
「一気に片付ける!」
レオンの矢が潤一郎に突き刺さった。
●彷徨う魂
勝利を確信した瞬間、ボロボロになった潤一郎の身体から何かが抜け出す。
「ゆ、幽霊でござる!」
身体から抜け出した半透明のそれは、潤一郎の姿形をしており、思わず風魔が叫んだ。
「お珠‥‥」
「手に負えないぜ。未練がましい」
「女性の気持ちを考えたらどうなんですか!」
半ば消えかけながらも迫ろうとしている潤一郎の霊に、レオンと飛は言い放つと、身動きできないお珠に肩を貸し、担いで走り出す。
「一緒にぃ‥‥」
「お珠さんはまだ生きてんだ! 勝手に連れてくんじゃない!」
大人しく成仏してろとばかりに限間の小太刀『陸奥宝寿』が一閃! 次の瞬間には鞘に収まる。
夢想の刃によって青白い炎のような潤一郎の霊の腕が切り落とされ、そこが霧散していった。
「月の光よ、彼の霊を討て」
山城の組んだ剣印の先から発せられた月光が容赦なく潤一郎の霊の姿を薄く‥‥ 消していく‥‥
「お珠ぁ‥‥ 一緒にぃ‥‥」
潤一郎の断末魔の声が途切れ途切れに聞えてくる。
「悲しいでござるが、このままよりは良いのでござるよ」
八握剣が潤一郎を貫き、軒先に突き刺さると同時に‥‥
遂に潤一郎の霊は消え去った。
●生きる
お珠は、お鈴に介抱されているところへ駆けつけた婚約者の腕の中で目を覚まし、2人はしっかりと抱き合った。
潤一郎の遺体は、検分するために平治や八、駆けつけた奉行所の与力たちの手によって番屋に運ばれる手はずだ。
「死んで直ぐに自分の死体に乗り移るなんて、本当に珍しいですね」
「そうでござるな」
莚を掛けられ、戸板に乗せられて運ばれようとしている死体を見て、山城と風魔がが考え込んでいる。
与力の許可を得て、潤一郎の刀を調べたが、別段どうということはない。
何かの呪いを受けた様子もわからなかった。
ともあれ‥‥
「しっかし、だ。やっぱり色恋沙汰は怖いってコトかねぇ‥‥ 独り身のが、気が楽かなぁ」
そんなことを言いながらも、限間の心は、既に奢りの酒へと移っている。
これじゃ恋人なんて当分できねぇや。そう心の中で言ったはずの八だったが、どうやら漏れていたようで‥‥
「なにをぉ。お詫びに奢りなさい」
「うひゃあ、今日は、もう走りたくねぇってのに」
限間に追いかけられて、八は笑いながら走っている。
「兎も角、無事で良かった」
「だな」
飛とレオンは周囲を見渡して言った。
「ありがとうございました、親分さん」
「どうってことねぇや」
お鈴の前で粋がってみせるものの、ギルドへの報酬の払いを考えると、トホホな平治なのであった‥‥