渡る世間は天邪鬼ばかり

■ショートシナリオ


担当:シーダ

対応レベル:1〜4lv

難易度:難しい

成功報酬:1 G 20 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月05日〜08月10日

リプレイ公開日:2004年08月13日

●オープニング

 大店(おおだな)の商家が別宅を新築するってんで江戸郊外の林を開こうとして、もうだいぶ経つ‥‥
「おい、全然進んでおらぬではないか」
「へぇ、あっしらも頑張ってはいるんですが、どうも人足たちの喧嘩が絶えなくて困ってるんで‥‥」
「お前の手配がまずいのではないか?」
「とんでもございません。こんなことは初めてで‥‥」
 大工の棟梁が商人にジト〜っと視線を送っている。
「何が言いたい」
「へぇ、実はギルドに事態の調査と解決を依頼したいので、先立つ物を頂けないかと?」
 商人は腕組みをすると考え込むように溜息をついた。
「まぁ、仕方‥‥」
 商人が何か言いかけたとき、現場の方から喧騒が聞こえた。人足たちが殴り合いの喧嘩をしている。
「なにやってんだ!!」
 棟梁が駆けつけても一向に喧嘩が止む気配はなく、むしろ不快感を露(あらわ)に殴り合いがエスカレートしている。
「こんな感じなんでさぁ」
 棟梁は、商人を見て肩をすくめた。

 棟梁と商人は見ているしかなかった。商人は兎も角、殴り合いに自信がある棟梁でさえ、さすがに腕っ節に自信のある木こりの人足たち相手に喧嘩する勇気はない。
 2人は何か聞いたかと思うと、途端に不愉快さを感じた。
(「金持ってんだからとっとと出せっての」)
(「仕事がうまくいかないのを不可思議のせいにしようってのか?」)
 何故だかそんな気持ちまで起きてしまう。
「グリグリィ‥‥」
「キキキ‥‥グリィ」
 切り倒されそうになっていた大木の枝から大工と商人を見下ろす2つの影。その額には角が生えている。
「何か変でしょう?」
「あぁ、幼馴染の俺たちがこんなことで喧嘩するなんて普通じゃねぇな」
「じゃあ」
「ギルドに頼んでキッチリ片つけてやる」
 商人は鼻息荒く現場を立ち去った。

●今回の参加者

 ea0567 本所 銕三郎(35歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea0585 山崎 剱紅狼(37歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea1059 麻生 空弥(28歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea1774 山王 牙(37歳・♂・侍・ジャイアント・ジャパン)
 ea1808 朝比奈 隆史(31歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea2495 丙 鞘継(26歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea3094 夜十字 信人(29歳・♂・神聖騎士・人間・ジャパン)
 ea3220 九十九 嵐童(33歳・♂・忍者・パラ・ジャパン)
 ea3988 木賊 真崎(37歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea4530 朱鷺宮 朱緋(36歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●いきなり真相を衝かれて(笑)
「伐採作業の際の不可思議な状況ですか。それは皆様お困りでしょう。微力ながら原因究明のお手伝いをさせて頂きたいと存じます」
「あなた方がギルドからの‥‥」
「はい。お二方も現場にて急に不愉快な思いをなされたそうですが、その際の状況出来るだけ詳しくお聞かせ願いませんか?」
 商人や棟梁はその時の様子を朱鷺宮朱緋(ea4530)に詳しく話し始めた。
「大人が子供みたいに。ただの喧嘩じゃないだろうね。是は」
 夜十字信人(ea3094)が眉を潜めながら呟く。
「旦那、棟梁、何かを聞いた気がすると言っていたな」
「確かにその通り。だからこそギルドに調査を頼んだのです」
 本所銕三郎(ea0567)の問いに、商人は頷く。
「‥‥ 『何か聞いた気がした』のちの出来事で御座いますね? 私、ギルドの依頼でお仕事をした時に同じような経験をしたことがございます。確かではありませんが、天邪鬼の仕業ではないでしょうか」
「天邪鬼‥‥」
「その呟きを聞くと、途端に不愉快になるのです。ですから、恐らく今回の犯人は天邪鬼ではないかと‥‥」
「鬼が‥‥ やはりギルドに頼んで良かった。頼みましたよ」
 商人はニコニコ顔で満足そうだが、朱鷺宮は微妙に引っ掛かりを感じずにいられなかった。

●拓いた先に
「この辺に何か面白い話でも伝わってないかね? いやね。妹に土産話の一つでも持って帰りたいのだよ」
 夜十字は別宅予定地周辺の家を訪ね、屋敷を掃除していた使用人に声をかけた。
「この辺は化け物は出んのか? まあ、出たら開拓どころではないだろうがね」
「近頃、怪物が出たなんて話は聞かねぇな。
 そういや昔はよ。鬼が出て悪さばっかりするんで大変だったらしいよ」
「ほぅ‥‥ 鬼ね」
「なんでも悪さばっかりして不愉快な思いをさせる鬼を、偉い坊さんがこらしめたんだそうだ。
 そこの森から出ないようにってこっぴどくやったらしい。
 ほれ、そこの森じゃ。と言っても、今じゃ林になっちまったが‥‥」
 指差す先は依頼の現場。
「こんな話でよかったか?」
「あぁ、妹も喜ぶだろうよ」
 他の家でも同じような話を聞くことができた。
「そっちはどうですか?」
 同じように聞き込みをしていた山王牙(ea1774)が夜十字の方へ歩いてくる。
「こっちは鬼の伝承を聞くことができたよ。そちらは?」
「それは私も聞きました。
 それから依頼主の商人ですが、別宅を建てるからと挨拶回りに来たみたいですね。まめで人当たりもいいと評判は悪くありません。この線はなさそうですね」
「一筋縄ではいきそうにないな」
「ですね‥‥」
 2人は仲間と合流することにした。

 尼姿から商人の付き人らしい着物に着替えた朱鷺宮が、人足たちにお握りを振舞っていた。
「旦那様から仕事に精を出してほしいということで、お昼御飯を預かって参りました」
「おっ、あの旦那も気が利くねぇ。切り出しの前に腹ごしらえといこうや」
 ワイワイ賑やかに昼食が始まる。
 何故か殴り合いが絶えないことなど笑い話として、この現場でのことがたくさん話題に上った。
 しばし盛り上がっていると‥‥
(「古くせぇ服着やがって」)
 朱鷺宮は途端に不快な感じがした。
「なぜ? 耳栓をしているのに‥‥」
 聴覚には少しだけ自信がある。耳を澄ましていたのだから、どっちから聞こえたくらいはわかりそうなものである。
 それすら、わからなかった。
 いや、それ以前に耳栓をしていたのだ。聞こえるはずないのに‥‥
 なかなか思考に集中できない‥‥
(「心に直接語りかけているの?」)
 皆に注意を促さなければならない。そう思ったのだが‥‥
「‥‥ 遅かったですわ‥‥」
 目の前では人夫たちの殴り合いが繰り広げられている。
 その中に威勢のいいのが1人。
「なんで喧嘩をおっ始めたンだ? オラァ!!」
 力自慢の木こりの人夫たちを山崎剱紅狼(ea0585)が引っぺがす。
「うっせぇ」
「うっせぇのはそっちだぁ! ウダウダぬかすなぁ!!」
 唸る拳を手のひらで受け止めて、それをねじ上げる。
「いてて‥‥」
「少しは頭が冷えたか? あん?」
 下から煽るように睨み上げ、山崎の飄々とした顔が今日は悪人顔に見える。何発かくらって迫力充分。
 途中からは銕三郎たちも加わって殴り合っている人足たちを次から次に引き離し、気がつくと喧嘩の騒動は終息を迎えていた。
「あの‥‥」
「なに?」
「ひゃっ‥‥」
 山崎の顔に、朱鷺宮が縮こまって身を硬くしている。
「おぅ‥‥ すまん‥‥」
 現場から離れた場所に集められた木こりたちは、次第に気持ちも落ち着いてきていた。
「で?」
 怪しい物は見ていないこと、1人でいたときにも急にムカつくことがあったこと、喧嘩を始める前は決まって不愉快な気持ちになることなどを聞きだすことができた。
 そして気になるのが‥‥ 『伐採に来たときにのみ騒動が起きる』ということ。単に『人心を惑わす』というのが目的ではないように思えた。
 もしかしたらと期待して山王は現場の空気と会話したが、鬼に関する情報は得られなかった。
「しかし、この不快感は何とかならないのか? くそっ‥‥」
 丙鞘継(ea2495)がフゥーと息を吐く。
「幾ら腹の虫の居所が悪くても人様に八つ当たりなどはするものではない」
 夜十字が憂さ晴らしに、その辺の木を思いっきり蹴飛ばす。
「まったくです。天邪鬼とやら、耳栓の聞かぬ声とは、まこと難儀な力を持つものですね」
 姿さえ見えれば、追跡して住処(すみか)を突き止めようと思っていた朝比奈隆史(ea1808)も不快さを露わにしている。
 しかし、理不尽に不快な気持ちになることはあっても、そうなるとわかっていて殴り合いや斬り合いをするほど冒険者たちも馬鹿ではなかった。

「しかし、郊外の土地に別宅を新築か‥‥ 庶民には縁の無い話だな。全く、人間の開拓力には恐れ入るよ‥‥」
 麻生空弥(ea1059)は、まだ身の丈に合わないと手放した物を腰に探して苦笑いした。
「まぁ、引受けたからには大人しくきりきり働くさ」
 1人で現場の森に入った彼は、変わった痕跡や足跡を探した。
 遠くにいる人足たちや仲間は喧嘩の末、現場から離れている。
「人と同じ所ばかり見ていては見逃す物もあるしな」
 林の中や木の上など人足たちが騒動を起こした所とは別の場所を時間をかけて探す。
 ザザッ。
 何かの気配がしたような気がしたが、それ以上のものを得ることはできなかった。

「それでな‥‥」
 仕事終わりの一杯。ちょっと引っ掛けて帰ることにした人足たちに木賊真崎(ea3988)は同行していた。
 依頼での話に人足たちは箸を止めて聞き入っている。
 非日常の刺激など少ない一般人である。この手の話は聞き逃したくないのだろう。
「そちらには面白い話などないのか?」
 真崎はさりげなく本題に入る。
「俺たち見たらわかるだろ? 結構、仲いい訳よ」
 確かに‥‥
「そうそう。
 だけどなぁ。今の現場に行くようになって、なんかちょっとしたことでムカムカするようになっちまってよ」
「喧嘩が絶えねぇんだ」
 顔や腕の痣(あざ)を真崎に見せる。
「拓(ひら)くために下草を掃ってるときはなんともなかったんだ。でも、木を切り始めたころからこんな風になっちまってよ」
「なるほどな‥‥」
 真崎は人足たちに酒を注ぎ足した。

「これだけ執拗に伐採作業を妨害してくるということは‥‥
 そこに天邪鬼の意図があるのだと思います。
 伐採しようとしているこの林に、彼らの住処があると考えるのが妥当で御座いましょうか」
 朱鷺宮が商人と棟梁に語り始める。
「さてさて、人生は円満な人間関係で成り立つもの、喧嘩両成敗とも言うが、どうやら成敗する相手は他にも居そうだね」
 夜十字の育ちの良さそうな顔が微妙に冷笑を含む。
「調査が終わるまで林に入らないように人足たちに伝えてくれないか」
「わかった。人足たちには1日だけ暇をやる。その間に頼む」
 人足たちの様子を目の当たりにした九十九嵐童(ea3220)の心配は、棟梁の計らいによりとりあえず除かれたが‥‥

●囮捜査
「俺の所にサジマって馬がいてなぁ。奴の大喰らいのお陰で貧乏暇なしだ。顔を合わせれば俺は嫌味を言い、奴は拗ねる。
 ただ、俺は奴に愛着があり、奴も満更でもないようだ。天邪鬼って奴か?」
 無駄話で警戒を解き、顔を出すのを待ったが銕三郎は天邪鬼の姿を見ることができなかった。
 九十九たちも喧嘩の振りをしてみたり、いろいろ手段を講じてみたが、その姿を捉えることはできない。
 1人で歩き回ってみた銕三郎も同様。
 天邪鬼はいるだろうとは思う。しかし、その姿が捉えられないのでは、それが確証に代わることはない。
 それは目立たぬように九十九たちを影から見ていた鞘継や麻生も同じ。
(「伐採によって鬼が棲み家を脅かされている故の行動であれば、説得を試みてみたい‥‥」)
 鞘継の思いを知る由もない天邪鬼が、その気持ちに答えようがなかった。

「あっ」
 試しに何かいたという風に九十九が林の一角を指差すと、ガサッと枝が揺れた。
「嘘だろ‥‥」
 別に何かいたという確証があったわけでも気配がしたわけでもない。
 木から飛び降りた影が林の奥へと走り出す。
「みんな!! 出たぞ!!」
 九十九の声に反応して仲間たちも走り出す。

「そこまでだ‥‥」
 鞘継と山崎は天邪鬼の前に回りこんでいた。
(「どけっ」)
 天邪鬼の言霊に鞘継の心が乱れ、不快感でいっぱいになる。
「どく訳ないだろうがぁ!!」
「その通り!!」
 駆け抜けようとする天邪鬼めがけて鞘継が鞘がついたままの刀を払い、山崎がどぶろくの徳利(とっくり)で殴る。
 集中しきれない2人の攻撃を紙一重でかわすが、朝比奈の日本刀の峰が薙ぎ払われ、天邪鬼が転ぶ。
 すかさず助け起こされ、天邪鬼たちは走り出そうとするが、夜十字と九十九が間合いを詰める。1体を夜十字が鍔をぶつけて押し倒し、九十九が小柄の一撃で残る1体を気絶させた。
「グギギギ‥‥」
 気絶した仲間に駆け寄って天邪鬼が冒険者たちに何か叫ぶ。
(「ここから出て行け!! 森を返せ!!」)
 続けて不快感と一緒に九十九の心に何かが響く。それは天邪鬼の真意‥‥
 邪悪な存在である鬼たちにも日々の生活や住処があるということなのか‥‥

●説得
「この事件は‥‥ 伐採が原因だと推測している。あそこには昔から天邪鬼が住んでいる、そのような伝承があるそうだ」
「木を切るから妨害する。なら、場所を代えれば片が付く」
 真崎と銕三郎が調査結果をあれこれ伝えた。
「どのような生物も皆、住処を追われる事を快く思わないでしょう。
 これ以上の騒ぎが起こる前に、場所の変更などできないものでしょうか‥‥
 甘い考えかもしれませんが、今の状況では天邪鬼が邪悪とは思い切れないのです」
 朱鷺宮の榛(はしばみ)色の双眸が商人と棟梁を捉える。
「自然に住まう者とむやみに争いを起こす事は得策ではないと考える」
「あの辺りは昔から天邪鬼が住んでいた土地。無理に立ち退かせれば、貴方たちに報復を行う恐れもある。
 あえて危険を冒してまで住むのは止めた方が良いのでは?」
 真崎と山王の言葉に商人は黙り込んでしまった。
「あくまでどうするかは、あなたの判断だ。
 俺たちは事の原因を掴んできた。
 できれば解決も‥‥ということだったが、俺たちはこの地に手を出すべきではないという意見に落ち着いているからな。
 退治するのであれば別の依頼にしてほしい」
 真崎が示した反乱ともいえる状況に、商人は黙ったままだ。
「崇りにあったり、俺達駆け出し冒険者じゃ敵わない相手が出てきたらどうする?」
 麻生は商人に判断を委ねた。
「貴方の意向に反する話ではあるかもしれぬが‥‥ 自然と人との領域を守るのも‥‥ また『解決』かと。
 それに問題の別宅を使う者は家族や細君、あなたにとって大切な存在である人の筈。
 ならば‥‥ 奇奇怪怪な場所にその人達を住まわせる事ができるのか?」
 真崎の言葉に皆の視線が絡み合う。
 バタンッ!! そこへ障子が開け放って九十九が飛び込んできた。
「出た。鬼だ。やっぱりいたぞ。森を切り倒したのが気に入らないらしいな」
「フム‥‥」
 商人は腕組みを解くと大きく息を吸い込んだ。
「鎮守の地‥‥ 土地神のおわす所‥‥ 魔物の封印された地‥‥ 人が手を出してはならない場所はいくらでもある。
 天邪鬼がその警鐘でないとは言いきれぬからな。
 それに‥‥ 安心して住めないというのは困る。別宅を建てる場所を見つけねばならんな」
 商人は苦笑いを浮かべた。

 かくして、その林は鬼が住むと土地の人々に語り継がれることになった。
「ほら、良い子にしてないと森の鬼が来るよ!!」
「やだ〜〜」