騙りの商人
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■ショートシナリオ
担当:シーダ
対応レベル:9〜15lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 50 C
参加人数:5人
サポート参加人数:1人
冒険期間:06月08日〜06月13日
リプレイ公開日:2006年06月17日
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●オープニング
昨今、良い値が付いている物がある。
進化の人参などペットに与える特別な物品である。
冒険者の間では市価の何倍もの値で取引されることも多い。
需要があれば供給が生まれる。単純な理だが、そこに人の欲が絡んでくると話は別だ。
『騙された‥‥ 不思議なマタタビだと思ったのに‥‥』
『愛馬が腹を壊して大変だった』
などなど‥‥
進化を促進すると偽った物品を売りつけられた冒険者からギルドに何件か被害が寄せられ、奉行所にも訴状が出されているという。尤も、非公開ながら武家にも被害が出ているようで、奉行所も『本腰を入れずに』『力を入れて』捜査が始めたようだ。
「そういうわけで、犯人を探してくれ。捕まえて奉行所で口を割らせてもいいが、できれば証拠が欲しいな。
こういう物証は手に入ってるが、できれば騙す現場を押さえてほしいんだ。言い逃れできないようにな」
ギルドの親仁は人参を見せた。見る人が見ればわかる。萎びていて成長が悪いし、件の人参ではない。
これを20G程度で売りつけていたというから悪質極まりない。
という訳で、冒険者ギルドでは、これ以上の被害が出ないように冒険者を雇い、奉行所と協力することにしたのだった。
「ぐふふふ、そろそろ潮時かな」
「お大尽様、何のことですの?」
「気にすんな。お前のことじゃないからよ」
御徒町のお座敷の小部屋を占領している太めの男は、女の肩に手を当てると杯を空けた。
「あら、酷い方」
女は、すかさず酌をする。
‥‥と。
別の座敷から喧嘩の声が聞える。
バタバタと音がして太めの男の部屋に女が転がり込んでくる。
「助けて‥‥」
女が太目の男の後ろに隠れると、チンピラ風の男が怒鳴り込んできた。
「その女をこっちによこしやがれ!」
「静かにしねぇか」
駆け寄ってくるチンピラ風の男の腕を掴むと、太めの男は殴り飛ばした。
転がる男を蹴飛ばすと廊下にまで転がっていく。
「お、憶えてやがれ!」
チンピラ風の男は逃げ出すが、座敷の用心棒が放っておくわけがない。たちまち連行されていく。
「すげぇ、腕っ節の奴だぜ」
「あら、金さん。飲みなおそう?」
「今晩は寝かせねぇぞ」
傍目に見ていた遊び人と女は自分たちの座敷に戻っていった。
●リプレイ本文
●捜査会議
簡単に下調べを終えた冒険者たちは、親分の三輪を交えて集まった。
「騙された武家というのは? 物証があるということは、ある程度、目星はついてるんだろ?」
石動悠一郎(ea8417)は逢莉笛舞(ea6780)の飼い猫と戯れながら言った。
「世の中には、あんまり深入りしない方が良いこともあるのですよ。只野に、そう言われたよ‥‥」
被害にあった武家の話を聞きに奉行所を訪れたアルバート・オズボーン(eb2284)は、只野から言われた同じ台詞を石動に向けた。
「しないのではなく、できないようですね」
藤宮深雪(ea2065)は、苦笑いしながら小さく笑う。
「事情を察してほしいね。お上が本気で探索しているからこそ、ギルドに頼んだんだから」
艶っぽい声で三輪は微笑んだ。
「それにしても悪い人たちも色々と考えるのですね」
「越後屋の競りで高値がついているのを見たような見てないような」
逢莉笛は愛猫・琴を撫でた。なぉ‥‥と声が返ってくる。
「可愛いうちの子たちは、そんな物がなくても充分だけどな」
「兎も角、人を騙すのはいけない事ですし、探し出して止めさせないとです」
脱線したリフィーティア・レリス(ea4927)の話を戻し、被害にあった武家に只野が無理言って入手したという似顔絵を藤宮は仲間たちに見せた。悪そうな顔である‥‥
「こいつ、御徒町のお座敷で見かけたことあるぜ」
ひょいと覗き込んできた遊び人がニヤッと笑う。
「おぶぎょ‥‥」
「しっかし、こいつが騙りの下手人だったとはな」
そのときのことを話す金さんと名乗った遊び人に、三輪は苦笑い。
「見た目とは違い、かなり腕っ節が強いようだな」
「それにしても、冒険者相手に詐欺とは、命知らずというか何というか」
リフィーティアと逢莉笛の溜め息に、冒険者たちは一同に頷くのだった。
●囮捜査
被害者たちへの聞き込みの結果、松之屋か越後屋でペットアイテムが欲しいという話をした後に、町中で例の小太りの男から声を掛けられたと知った冒険者たちは囮捜査を行うことにした。
事をうまく運ばせるために被害者たちには数日の間、松之屋や越後屋にはできるだけ足を運ばないよう、三輪を通してリフィーティアたちは頼み込んで準備はできた。
後は、件の男が現れるだけだが‥‥
果たして‥‥
「来た‥‥」
人相書きの男が松之屋へと向かってくるのを見て、逢莉笛は石動に頭を掻いて合図した。
「琴、お前を良く育ててくれるマタタビがあるんだと。手に入れられたら、もっと可愛くなるんだろうな」
両の前足と手をつなぎながら、石動は身体を揺らしながら、躍るように遊び始める。
そこへ男が入って来、ニヤッと笑った。
「ギルドに行こう。お前に不思議なマタタビを買ってやるためにも、もっと稼がなくちゃ」
石動が店を出るのを見計らって、男も席を立った。
少し歩いて‥‥
「やぁ、良い猫だね」
「琴って言うんだ」
石動は男に笑みを返した。
沢山の猫に囲まれる生活は幸せだ‥‥とか、暫く猫談義に花を咲かせて‥‥
「そういえば、知り合いの商人が賢い猫がもっと賢くなるマタタビを手に入れたと言ってましたね」
来た、とばかりに石動は喰い付いた。
「不思議なマタタビか? でも、高いからな」
「幾らくらいなら出せそうです? 値引きを頼んであげますよ」
石動が金額を提示すると、男は少しばかり駆け引きし、折り合いをつけた。
「それでは今日の夕方、来てください。話はつけておきますから」
御徒町の、とある場所を指定した男は、笑顔を振りまいて去って行く。
石動は琴の手を取って、さようならとばかりに手を振った。
「馬鹿な奴、扱いやすいぜ」
男の呟きを唇で読み、米神に血管を浮かべた逢莉笛だったが、そこはそれ、手練の忍者だ。
度々、姿、格好を人遁の術で変えて尾行し、男の棲家を突き止めた。
「御徒町のお座敷が、棲家代わりとは‥‥」
女の許に転がり込んで、1人で座敷の用心棒をしているようである。
どうやら、被害者たちからの話と合わせても、単独犯で間違いなさそうだ‥‥
男を油断させるために、石動は金を払い、何の変哲もないマタタビを手に入れた。
一部始終を与力の只野や三輪の親分にも見せた今、次の餌に喰らい付いたところで吊り上げる手はずだ。
さてさて、これからが本命‥‥
「進化の人参、やっぱり高いね。競りじゃ手が出ないよ」
越後屋から出てきたリフィーティアは、愛馬・ルツェルの手綱を引いて歩き出す。
「アガーテ‥‥ 少しの間、厳選した乾草で我慢してくれ。必ず進化の人参を食べさせてやるからな」
「ふふ、俺の方が先さ」
育つモンは放っておいても育つとリフィーティアは心の中で苦笑いしつつも、騙り男が越後屋近くに来ていると逢莉笛からの繋ぎがあればこそ、2人は目立つ行動を取っていた。
と言ってる側から‥‥
「こりゃあ、立派だ。2頭とも甲乙付け難い」
ペタペタと馬体を確かめるように手の平を当てている。
「こんな馬に進化の人参を使ったら、素晴らしい馬になるでしょうな」
人相書きからは想像もつかないような満面の笑みで、男はリフィーティアとアルバートの顔を見た。
「如何せん高いからな。そうそう手は出ないさ」
アルバートが愛馬を見つめて話しかけると、顔を摺り寄せてきた。
「あなた方の情愛の深さに打たれました。私は進化の人参を持っているのですが、お二人に儲けギリギリでお譲りしましょう」
値段を聞いて喜ぶ2人を連れ、男は御徒町へと歩き始めた。
●末路
一端、御徒町の座敷に上がった男は、木箱を携えて出てきた。
「これが進化の人参か。楽しみだな」
リフィーティアたちは、萎びた形の悪い人参を受け取って金子を渡した。
愛馬に臭いを嗅がせようとするアルバートに男は言った。
「朝方に食べさせると効果が高いそうですよ」
男は人参を箱に入れ直して渡す。
「そんな風に何人も騙したのか」
成る程、目端が利き、口の立つ男だと嫌悪感を覚え、リフィーティアは睨みつける。
「何を言ってるんです?」
疑われるのは心外と、困ったように笑みを浮かべているが、目は笑っていない。
「人間楽な方に逃げたら、それでお終いだと思うんだが」
「余計な世話だ」
吐き捨てる男を前に、リフィーティアは鬼神ノ小柄を構えた。
「騙される方からすれば『余計』ではないだろう? 実感してわからないか?」
日本刀と盾を構えるアルバートに気がつき、チッと舌を鳴らして男は小太刀を抜いた。
踵を返そうとした瞬間‥‥
衝撃波が男の足元を撃った。
「逃げようなんて、勝手だな」
「はっきりと見せてもらったわ」
男が振り向くと、霊刀『ホムラ』を構え、石動が睨みつけ、十手をチラつかせた三輪が通りの一方を塞いでいる。
別の道を探そうとした男の額に、蕎麦切りの親仁が投げた柄杓が中った。
一撃を忍者刀で受け流した逢莉笛へ、男は小太刀の一撃と同時に拳を繰り出してきた。
流石に予測できずに逢莉笛は態勢を崩し、只野が刀を抜く一瞬の隙を突いて男が駆け出す。
「待てっ!」
「待てと言われて待つ馬鹿はいねぇ」
アルバートとリフィーティアが駆け出すが、男の方が僅かに速い。
「無傷じゃなきゃいけないなんて言われてないんだ。く、止まらないか」
石動の衝撃波を背中に受けながらも、男は身体を丸めて突進をやめない。
その前に飛び出したのが藤宮。
「痛っ」
「邪魔しやがって、こいつ!!」
転んだ腹癒せに藤宮を狙った小太刀を濡れた手拭いが打つ。
「何でこんなに居るんだ」
男は周囲を改めて見渡す‥‥
「いけねぇな。ジタバタせずに神妙にしなって」
遊び人の金さんが立ち塞がる。
「罪を憎んで人を憎まず、です」
けほっと咳をしながら藤宮は、男を指差した。
「殺したくはないからな」
戦いになれば手加減はできそうにないと、石動は感じていた。
「悪いことした分、しっかりと反省してこいよ」
リフィーティアも、これで観念してくれなければ、命の遣り取りになると感じている。
「逃げられはしないさ」
自分の剣の腕を知ればこそ、アルバートらも同じ思いだった。
「騙した人たちにお金を返して、きちんと罪を償ってください。きっとまた、お天道様の下を歩けるようになりますよ」
「そいつはどうかな‥‥」
意味深な言葉を藤宮に投げ、男は与力の只野と三輪の親分にしょっ引かれた。
番屋に送られて、奉行所の裁きを待つことになろう。
残された冒険者たちは、一斉に溜め息をついた。
数日後には、囮捜査の金子が差し引かれ、残った金額を被害者たちが均等に分けるよう江戸奉行・遠山金四郎から沙汰が出た。
なお‥‥
『その男、動物を愛しむ心を玩び、人を騙し、金品をせしむること、不届きにつき、百叩きの後、江戸、所払い』
と裁きが決まった。
与力やその配下が捕縛現場をしかと見届けたとあっては言い逃れもできず、殆んど即決だったと聞く。
百叩きの場には被害者たちが顔を揃え、途中、奉行所の役人に代わって叩くことが許されたこともあり、彼らは納得したように帰っていったという。
だが‥‥
江戸の外れで、懐に石を抱いて身投げした、件の騙りの商人らしき遺体が浮かんだと聞く。
刺突の痕があったともいうが‥‥ これは噂である。
「自ら命を立つ男には見えなかったが‥‥ 騙してはいけない者を騙してしまったということなんだろうな」
噂を聞いたアルバートは目蓋を閉じて首を振った‥‥