きちんと鍵を掛けましょう

■ショートシナリオ


担当:シーダ

対応レベル:7〜13lv

難易度:難しい

成功報酬:3 G 80 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月17日〜06月22日

リプレイ公開日:2006年06月27日

●オープニング

「旦那様、タマが逃げました」
「逃げた? タマが‥‥」
 番頭の報告を聞いた商人は、ガックリと溜め息をついた。
「冒険者ギルドに頼んで捕まえてもらおう」
 番頭は、ギルドへと向かった。

 ちりり‥‥
 首輪の鈴の音が響く。
「おっかぁ、おっきいニャンコ♪」
 男の子が撫でているのは、猫っぽいけど大きさが明らかに猫ではない‥‥
 体長2mもありそうな黒と黄色の縞縞模様の猫‥‥
 知っている者が見れば、虎だと訂正するところだろう。
 おっと、こんなことを言っている暇はない。
 上等な着物の女は気を失いかけて、ギルドの親仁に身体を受け止められた。
「報酬を頂ければ、何とかしてくれそうな者に声を掛けますよ」
 虎は今のところ機嫌よく撫でられて目を細めている。
 しかし、元来は獰猛な獣である。いつ、どうなるか、わかったものではない。
「お願いします!」
 ギルドの親仁の言葉に、母親は直ぐに反応した。

「子供が虎と一緒にいる! どうにかして子供を助けてくれる奴、いるか?」
 すぐ近くの冒険者ギルドに飛び込んだ親仁は、開口一番、叫んだ。
「ちょっと待った。もしかしてタマかも‥‥」
 この男、商家の番頭で、見世物のために連れてきた虎が逃げ出したので捕まえてほしいと依頼をしたばかりだった。
「額に十字の斑のある虎かい?」
「そう、たぶんタマです」
 緊急に冒険者が募られることになった。

●今回の参加者

 ea3874 三菱 扶桑(50歳・♂・浪人・ジャイアント・ジャパン)
 ea4591 ミネア・ウェルロッド(21歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea7767 虎魔 慶牙(30歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea7976 ピリル・メリクール(27歳・♀・バード・人間・フランク王国)
 ea9191 ステラ・シアフィールド(27歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb2284 アルバート・オズボーン(27歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 eb3225 ジークリンデ・ケリン(23歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb3532 アレーナ・オレアリス(35歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)

●リプレイ本文

●走れ冒険者
「おっきな猫ちゃんだって。今日のおっ仕事、楽しそう〜♪ ころちゃんのお友だちになってくれるかなぁ?」
 ミネア・ウェルロッド(ea4591)の隣を、ボーダコリーのワッサンとチーターのコロネとが走り回っている。
「そうですね。たまには動物さんと戯れるのも楽しいかしら」
 ジークリンデ・ケリン(eb3225)は楽しそうに思案顔。
「頼むから真面目にやってくれよ」
 近頃のペット事情は‥‥と複雑な気持ちの親仁。現場を案内するのに、一緒に激走中だ。
 依頼人の店に寄って虎を釣るための生肉を調達する、と別れたアルバート・オズボーン(eb2284)と番頭は、追っ付けやってくるだろうが、とりあえず、一刻も早く現場に着かなくては‥‥
「なるべく良い形で解決できるようにしたいですね〜。タマちゃん、せっかく男の子と友達になれたのに悲しい別れは嫌ですもん」
「その場で躾けて進ぜよう」
 悲劇を思い浮かべるピリル・メリクール(ea7976)の横を走るアレーナ・オレアリス(eb3532)は、蛇皮の鞭カラミティバイパーの具合やビシッと音の感触を確かめてるし‥‥
「うだうだ言ってても始まらないさ! 江戸の傾奇者、虎と言えば、この慶牙様よぉ!! 火事と喧嘩は江戸の華! 派手に行こうぜぇ!!」
 めっさ良い笑顔で拳を握る虎魔慶牙(ea7767)の台詞に、ヲイヲイと不安を増す親仁なのであった‥‥
 そんな親仁を気遣ってくれるのか、三菱扶桑(ea3874)が背中を軽く叩く。
「虎の捕獲か‥‥ 確か1年ほど前にもやったな。今回も傷つけないで捕まえる事ができるように頑張ってみるよ」
 三菱が声をかけると、親父の心配そうな表情が僅かに緩んだ。
「でも、虎と戦えるかもしれないのは嬉しいが」
「そうですかい‥‥」
 るる〜と親仁は涙を流しながら走る。
「大丈夫ですよ。こんな風でもやるときはやりますから」
「殺るときは殺る? そのときは任せときな。容赦はしねぇ」
 真面目に答えたステラ・シアフィールド(ea9191)に乗っかる虎魔が不敵な笑みを浮かべているのを見て、人選間違ったか? とか落ち込む親仁なのであった。

 とまぁ、親父の不安は‥‥置いといて♪
 現場へと到着した冒険者たち。
「お‥‥、お願い‥‥します‥‥」
 嫌な汗をビッショリかいているお母さんは、フロストウルフやチーターといった更なる猛獣たちの登場に卒倒寸前である。
 幸いにもタマの注意は男の子にいっていて、直接タマの視界に入っていないため、大事にはなっていない。
 このあたり油断ないのが、冒険者としての力量なのだろうと、親仁はしたり顔で頷く。
「ミネア、一緒に猫ちゃんと遊んでも、いけると思うんだよね?」
 確かに、男の子に心開いている感じだし、まだちんまいミネアなら、あるいは‥‥
「江戸中を走り回るのは御免だからな。ぬかるなよ」
 ともあれ、気づかれないように周囲を囲むのが先決。
 地形と作戦を確認すると、三菱たちは包囲網を完成させるために、あちこちに散って行った。

●天然の要害
 あちらこちらから手で合図が送られ、どうやら配置は完了した模様‥‥
「これで大人しくなってね」
 ジークリンデはスクロールを広げるとスリープを発動させた。これでタマも1時間は眠‥‥って?
「ニャンコたん、おっきいニャンコたん?」
 子供がペシペシとタマの顔を叩いて起こしてしまった。
 なぁああ‥‥
 毛を立てて大きく伸びをするタマを見て、男の子は手を叩いて喜んでいる。
 あは‥‥ あはは‥‥
 冒険者たちは笑うしかない。
「虎と子供を一度に無力化しないと難しいようですね‥‥」
「私もスリープが使えるけど、どうする?」
 考え込むステラにピリルが手を挙げる。
 母親に確認して承諾をもらったので、とりあえずやってみようということに。
 ダブルのスリープでタマと子供を眠らせようとしたのだが‥‥
 ぇえええ‥‥
 今度は眠ってしまった子供をタマがペロペロ舐めて起こしてしまう始末‥‥
「ニャンコ、おっはよう♪」
 タマにも子供にも非がないだけに、またも苦笑い。
「みのる‥‥ お母さんのところにおいで」
「やだぁ、もうすこし、おっきいニャンコとあそぶぅ」
 ステラとピリルが頼んだお母さんからの説得も敢え無く玉砕‥‥
 このままでは持久戦か?
 しかし、野次馬も集まって来だし、いつタマの機嫌を損ねるかもしれない。
『お母さんが心配してるから戻っておいで♪』
 息詰まる智謀戦。ピリルのテレパシーで言葉を子供に届けるが‥‥
「やだよぉ、そんなこと言わないで、もっとあそぼうよぉ」
 子供はタマの顔を撫で、不思議そうな表情でタマはそれを見つめ返す。
 まさに天然の要害‥‥
 ぺろり、子供の顔を舐めるのを見て、お母さんが遂に気を失った。
 腕っ節が必要なら言ってくれと笑顔で虎魔が訴えかけるが‥‥、とりあえず却下らしい。
 そのとき‥‥
 ヴルルル‥‥
 タマの鼻と耳がピクッと動いた。
「ほ〜ら、タマちゃん。御飯だよ。お腹空いてないかな〜?」
 怖がる番頭に代わって、大八車に搭載してきたマタタビを刷り込んだ肉の塊を挟んで、猫じゃらしをパタパタさせ、呼びかけているのはアルバートだ。そうやらないと食べないと言われ、番頭の要望に応えたものの‥‥
「本当に効くんですか?」
 口に手を当てて、後ろに小声でアルバートが確認していると‥‥
 タマは、のそりと立ち上がって、巨体に似合わない身軽さで殆んど足音もさせずに大八車に足を掛け、タマと書かれた専用の餌皿に乗った肉を美味しそうに食べ始めた。
「ほら、虎と遊ぼうな」
 タイミングよく虎魔が抱え上げ、目いっぱいの笑顔を向けると、子供は顔を引っ張って楽しそうに笑った。
 子供が後で泣くであろうことは自分が何とかしますからと母親の懇願もあって、タマの知らぬところでピリルのスリープをかけられ、眠ったみのる君は、お母さんの背中でぐっすり。
「いつもの依頼より何倍も疲れたような気がします」
「本当ね」
 ステラやピリルは胸を撫で下ろした。
「そろそろ出番だね。聖母の白薔薇が、タマちゃんの世話、もとい、し・つ・けをして進ぜよう♪ ふふっ、腕がなるというものだよ」
 アレーナは鞭を鳴らして不敵に笑っている。色気を感じるが怪しい雰囲気だ。
「せめて人出のないところに運んでからお願いしますね」
 ジークリンデはタマが御馳走様するのを待って、アイスコフィンのスクロールを使った。
 これでタマの氷漬けの出来上がり。大八車に乗っているところを氷漬けにしたから運搬にも便利という、嬉しい特典つきだ。
 慌てる番頭さんを、ジークリンデたちは溶けたら元通りになるからと説明しながら、縄でタマを固定する。
「さぁ、お曳き!」
 三菱と虎魔の怪力コンビが大八車を曳き、荷車の上ではアレーナが陣取って、ますます怪しい雰囲気でパシッと鞭で良い音をさせた。
 この暑さだ。氷がいつ溶けてしまうかわからない。急がないと。

●本気の遊び
 さて、それから数日。
 急ぎ仕事は失敗が多いと、特に丁寧にしたわけではないのだが、やはり檻と鍵の修理には多少の時間が掛かるようだ。
 と言うより、ピリルがテレパシーで聞き出した要望を飼い主が入れ、檻を大きくしたり、遊ぶ道具を作ったりと、余分なことをしているので、頼まれた期間一杯になってしまいそうな雰囲気だ。
 それでも文句を言う者はいない。
「あの‥‥ タマがまた、遊んでほしいそうです」
 テレパシーを使ったピリルが困ったように笑顔を浮かべている横で、タマが期待の眼差しを向けている。
 ピリルやステラが頭を撫でてやるが、嫌がる様子はない。賢いのか、本当に大人しい。
 加減が難しすぎるので、コロネやフレキとは遊ばせてやることができないのだが‥‥
「任せておけ」
 腕を抜いて上半身裸になって虎魔が首を回している。
 向こうは遊んでいるつもりでも猛獣である。気を抜けば大怪我をしかねない。
 飛びついてくるのを何度か捌いて、からかった後、わざと組み付かせてゴロゴロと転がる。
 まともに圧し掛かられれば、ただでは済まないだろうが、不利な体勢から何とか捌いて圧し掛かられたふりをしたりと、かなり本気の戦いになっている。
 とはいえ、必死の虎魔と遊びのタマでは自ずと疲労度が違う。
 暫くすると、やはり虎魔に疲労の色が見えてきた。
「じゃ、今度は自分がいくか」
「だめ、だめ。今度はミネア♪ スコーン、遊ぼ♪」
 タマですって‥‥
 三菱たちの苦笑いを笑顔で吹き飛ばし、プルプル震えているワッフルと太刀をジークリンデに預けて、ミネアが飛び込んでいく。
 背中に飛び乗っては簡単に振り落とされてしまうが、何度も試しているうちに、遊びたいという感情以外の何かが芽生えてきたようだ。
 静かに蹲ると身体を丸めて、優しくミネアに顔を寄せる。もしかすると、子供の世話でもしているつもりなのだろうか‥‥
「もふもふだぁ」
 ミネアが気持ちよさそうに背中に顔を埋めるのを見つめ、タマは目を細めて顔を寄せた。
 ピリルの演奏に合わせて、ステラの歌声が風に乗る‥‥
 そのうちにミネアもタマも寝てしまったようである。仲間たちに笑顔を浮かぶ。
「あの時の虎は今はどうしているのやら?」
 三菱は、昔捕り物をした献上品の虎の行方を思った。
「おや、昼寝の真っ最中か」
 大八車で餌を運んできたアルバートは、気持ち良さそうな1人と1匹の寝顔に思わず吹いた‥‥
 暫くして、タマは欠伸をして身を震わせる。
「あと、ちょっと‥‥」
 ミネアは、もう少し夢の中のようだ。
「さぁ、タマ! 食事の時間よ」
 アレーナがビシッと鞭を鳴らすと、ミネアを気遣いながら、タマは嬉しそうに立ち上がって餌皿に向かう。
 身体を寄せ、首を抱くようにアレーナが撫でてやると、気持ちよさそうに目を細めた。

 後日、番頭さんから鞭を鳴らさないと餌を時間通りに食べてくれなくなった‥‥と変な苦情が届いたそうな‥‥