●リプレイ本文
●それぞれの思惑
「押忍! 義侠塾壱号生、手等亜・明日漏礼守、蛙屋殿の為に尽力するでござる!」
晒しを巻き、鍛えた上半身を惜しげもなく披露しているのはテラー・アスモレス(eb3668)だ。
彼が曳いてきた荷車には、罠設置のためにと持ち込んだ道具がどっさり詰め込まれている。
「こちらこそ宜しくな。粋のいいのが来てくれたみたいで頼もしいや」
「当てにしてくれて構わん。毒を恐れて、何の義侠塾壱号生でござろうか!」
「毒蛙、恐るべき猛毒の様ですね。困っている者を助けるのは、セーラの司祭の務め。微力を尽くしましょう」
猟師たちは、テラーやアルフレッド・ラグナーソン(eb3526)の豪儀さに惚れこんだようだ。
で、打ち解けがてら、暫し相談。
「落とし穴か‥‥ 難しいな」
蛙屋の御用猟師が狩場にしているのは元来湿地であるため、掘るのは簡単ではないという。
おまけに跳躍力を考えると、かなり深く、広いものを作らなければならず、労力が馬鹿にならないし、猟場の安全性のために埋め戻しなど考えると効率的ではないようだ。
「何か罠を使って個別に捕獲するか、吹雪の術法で弱らせて、散らすか‥‥」
「冒険者ってのは噂どおり、色んなことを考えるんだな」
火澄八尋(ea7116)の示す様々な提案に、毒蛙猟師たちは関心を寄せ、話は弾んでいる。
どうやら彼ら、普段は1人単位で猟をし、投網と専用の刺股で動きを封じ、手足や口を縛って捕獲‥‥というのが常らしい。
季節ものの食材であるから設備投資に金をかけたり、大掛かりな罠などは使わないらしい。
所謂、出稼ぎに近く、猟をするのに金をかけては元の木阿弥という訳だ。
「はは、それにしても、あれが食材とはね。噂には聞いていたが」
火澄は苦笑いするが、近隣の住民からは毒蛙が増えすぎないから感謝されているという。
「毒蛙って、どんな味なんだろう‥‥ 美味しいのかな? 楽しみだよね」
「変わった料理ですからね‥‥ 毒蛙料理のために協力させていただきましょう」
「ポイズントードなら研究のために解剖したことならありますが、食べたことは流石にありませんからね。
それにしても、モンスターを料理するのは冒険者だけではないのですね。お仕事が終わった後の食事が本当に楽しみです」
解毒剤は、そちら持ちという条件ながら、獲ってきた毒蛙を料理してもらえることになっている神楽香(ea8104)や山城美雪(eb1817)、メアリ・テューダー(eb2205)たちは、今から落ち着かない。
「う〜ん‥‥ 毒のある物を食べられる様にするのって不思議だよね〜? 兎に角、食べず嫌いは良くないと思うし、頑張ろうっと」
色々と話し合った結果、早河恩(eb0559)が知り合いからもらった蜘蛛の巣状の網など、使えそうなものは使う方針でいくことになった。
樽を使った罠は、猟師たちの仕掛けと一緒に用いて閉じ込めて捕まえる罠として使うことになった。
酒で酔わせる案は、酔わせてみたことがないので、捕まえた毒蛙で試してから考えようということに。
「そんなことに使うなら飲んじまおうぜ」
という猟師もいたが、ものは試しと言われ、しぶしぶ引き下がった。
そうこうしていると‥‥
「危ない、危ない‥‥」
先行して猟師の1人と偵察に出ていた牙道鰐丸(eb3806)が戻ってきた。
何だか牙道の顔色が良くない。
「何かあったのか?」
「いやぁ、蛙がいたよ。一杯な」
その昔、蝦蟇の口寄せの修行をしていて酷い目に会って以来、これを禁術として蛙との出会いを極力避けていた牙道だったが、この先、忍者と対決するようなことがあれば大蝦蟇と対峙しなければならないこともあるはず‥‥
少しでも蛙に慣れておくための依頼でもあるため、普段ならば結構頼りになるはずなのだが、今回は微妙‥‥
蛙克服に挑む31歳、初夏‥‥ 牙道の明日はどっちだ‥‥
●罠
実際に対峙して捕まえるのが手っ取り早いが、蛙がなかなか見つからなかったり、毒をくらう危険性を考えれば、罠で捕らえるのは悪くない方法だ。
だが、前日に仕掛けた罠は、何かが現れた形跡こそあるものの、掛かった様子はない。
蛙用の罠を効果的なものにするには、もう少し経験と工夫が必要だということだろう。
「連携で捕いましょう。個々に対処したら怪我人が出ます」
山城の提案に猟師たちは頷いた。
さて‥‥
手を振りながら走って戻ってくる囮役のアルフレッドは何やら叫んでいる。
「蛙が‥‥一杯?」
早河の耳に届くが早いか‥‥
「な、なんじゃ、あありゃあぁあああああーーーーー!!!!!!!」
蛙の大群、いや大軍に、テラーが叫ぶ。
直接、蛙に触れるのが嫌な牙道は、まるごとわんこ姿で顔を青ざめさせ、汗をだらだら流している。
「あ‥‥はは‥‥ 蛙が‥‥一杯‥‥」
頑張れ牙道、31歳!
神楽はアイスチャクラを召喚して罠の広布の準備に取り掛かる。
「想像していたより多いですね」
山城は自分たちの前面に防壁のストーンウォールを立て、覗ける隙間を作り、視界を確保。
火澄のアイスブリザードで数匹が怯んだように逃げて行く。
同時にメアリのプラントコントロールで操られた植物が、これまた数匹を散らした。
「ここは拙者に任せて急ぐでござる!」
「助かります」
テラーが無差別に投網を投げる中、アルフレッドは必死に駆ける。
早河の春花の術の香りが、蛙たちへと漂うが、後方からやって来る蛙たちに踏みつけられて起きてしまった。
「いきます」
山城はアルフレッドらが防御陣の中に飛び込むや否や、ウォールホールの経巻を発動させ、直径1m、深さ1mほどの大穴を作った。
早河が端を杭で打ちつけ、神楽たちが広布の端を引っ張ると穴が隠れる。
余分な蛙を、再び火澄のアイスブリザードや神楽のアイスチャクラムで散らすが、まだまだ数が多すぎる。
ビョコタン‥‥ ずぽっ‥‥
迫り来る蛙たちの一部が落とし穴に消えた。
何としても広布を袋状に口を縛らなければ‥‥
ビュビュッと飛んでくる毒を辛うじてかわしながら飛び出す早河‥‥
遂に、びしゃっと毒が付着するが、痺れのようなものはない。黄勾玉に感謝しながら、紐を掴んで防壁の内側へ退避。
サイコキネシスでメアリが蛙を1匹放り込んだところで紐を引いて口を閉じた!
「どっせぇい!」
猟師が紐を受け取り、力をかけると袋が穴から上がってくる。
「漢を見せろぉ!」
「ぬめりゃぁあ!!」
シールドで毒を受けながら十手で蛙を追い払うテラーの声に、猟師たちが応える!
一方で‥‥
傷ついて眠っている蛙を押さえ込んで神楽らが縛り上げ、アルフレッドがリカバーをかけて傷を塞ぎ、袋に入れて一丁上がり。
「傷ついた蛙は干物にしても良いかもしれませんね」
メアリの呟きに、猟師たちは頷く‥‥が、そんなことをしてる暇はない。
プラントコントロールやサイコキネシスで蛙の足止めをしなければ‥‥
「こっちも頼む!」
外套で毒液を防いでいる火澄は術に集中できないでいる。
「く、来るなぁ」
息の荒い牙道が簗染めのハリセンで必死に蛙を追い払った。
ようやく集中できた火澄がアイスコフィンの術を完成させるが、効果が現れない‥‥
「流石に、これだけ全部の毒蛙の抵抗を排して凍らせるのは無理か‥‥」
今は1秒を争うとき‥‥ 袋の口を縛るように早河に頼み、火澄はアイスブリザードの詠唱に入るのだった。
「この数では、さすがにきついですね」
アルフレッドたちは深く息をついた‥‥
すぱぁあ〜〜〜〜ん!!
「ぜはぁ‥‥ ぜはぁ‥‥ いきなりこいつが‥‥」
ビクッと動いた毒蛙に牙道のハリセンが飛ぶ。
「まだ、克服できませんか?」
「ぜはぁ‥‥ まだ、ちょっと」
心配そうなメアリに、牙道は引きつった笑みを返した。
とりあえず、十匹ほどの蛙は撃退した。ちょっと気が重い‥‥
●蛙屋
何とか依頼を果たして蛙屋に帰還した冒険者たち。
「ご苦労さんだったね。おや?」
荷車には、生け捕りの毒蛙と共に氷漬けの蛙が満載されていた。
きらりん‥‥
蛙屋の主人の目が光った。
暫時‥‥
客間の周囲には、氷漬けの蛙が並べられ、客たちは珍しそうに眺めている。
「涼しいのぅ‥‥」
風が吹くと冷風が漂い、ジメジメした暑さを忘れさせてくれた。
新たに何個も毒蛙の氷漬けや季節の野菜のアイスコフィンを作らされて、火澄は御疲れ気味‥‥
外の喧騒と仲間たちを観客に横笛を奏している。
「どういう料理が出てくるかワクワクだよね♪」
神楽は、食の冒険という新境地に胸がときめいている模様。
やがて、仲居たちが料理を運びこんできた料理は、塩焼きや煮物など数種類。
匂いは涎を誘い、胡瓜や茄子など夏野菜の付け合せ共々、味が期待できそうだ。
「材料を知っているだけに期待と恐怖が混じった不思議な料理ですね」
アルフレッドは祈りを捧げて、山城は多少顔を顰めつつ、料理を口に運んだ。
「はぐっ、狐より美味いでござるな♪」
「何を食べているんですか‥‥」
美味しそうに齧り付くテラーに、メアリが小さく吹き出す。
蛙克服に一歩前進か? 牙道は料理を恐る恐る口に運んでいる。
食って飲んでの宴会が、一段落した頃‥‥
「何だ、当たりはナシですか?」
蛙屋の主人が早河を伴って部屋に入ってきた。
「あの‥‥ 美味しかった?」
美味しかったという仲間たちの返事に嬉しそうな早河‥‥
「もしかして?」
「私が作ったの」
えぇえ? と驚く神楽たちに、早河はキラキラした笑顔を向けている。
「うちの料理人の監督付きだから問題はないよ。それに解毒の準備には、手抜かりはないしな」
主人の言葉に、冒険者たちは、こりゃ敵わんと苦笑いするしかなかった。
さてさて‥‥
牙道の提案に嬉しそうに頷いた蛙屋の主人は、仕込んでいた毒蛙酒をこっそり牙道に見せてくれた。
そのうち、人体実験しなければならない時が来たら‥‥そのときは、冒険者の出番なのかもしれない‥‥