神木を護れ

■ショートシナリオ


担当:シーダ

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 62 C

参加人数:5人

サポート参加人数:2人

冒険期間:06月19日〜06月24日

リプレイ公開日:2006年06月29日

●オープニング

 ちゅーちゅー‥‥
 大木の枝が鼠を追い払うようにしなり、やがて鼠は大木の周りをクルクル回ると何処かに消えていった。
「困りましたな。境内で殺生は禁じられているし‥‥」
「しかし、このままでは‥‥」
 神主たちは齧られた柱などを見て、溜め息をついた。
 鼠が2匹、どこか近くに棲みついているらしい。
 問題が、もう一点。
 齧り痕が大きいのである。
 大きさが1mもある鼠の姿が確認されていることから、この痕は、そのお化け鼠の仕業であろう。
「御神体が被害を免れているのが唯一の救いですね」
「確かに。しかし、時間の問題だな」
 神主たちは、境内中央に鎮座する、樹齢を重ねた立派な御神木を見上げた。

 暫くして‥‥

『京から徒歩2日の、とある神社を荒らす不届きなお化け鼠を境内から追い出してほしい』

 京都の冒険者ギルドに、このような依頼が張り出された。

●今回の参加者

 eb0218 花井戸 彩香(33歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 eb4750 ルスト・リカルム(35歳・♀・クレリック・人間・イギリス王国)
 eb5390 凉暮 鏡華(25歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb5400 椥辻 雲母(33歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb5431 梔子 陽炎(37歳・♀・忍者・人間・ジャパン)

●サポート参加者

クロウ・ブラックフェザー(ea2562)/ アデリーナ・ホワイト(ea5635

●リプレイ本文

●愛すべき神木
 冒険者たちが件の神社に到着してみると、神主たちは今か今かと待ちわびていたよう。
「宜しくお願いします。早速ですが、少しお話させていただいてよろしいでしょうか?」
 神主や禰宜たちに依頼を受けた挨拶がてら、凉暮鏡華(eb5390)は状況を聞き始めた。
「御神木があると、お聞きしましたけれど」
「それなら、こちらに」
 鳥居を潜り、短いながら参道を進むと、本堂らしき建物の横に注連縄の巻かれた大木が立っていた。
「齢を重ね、神となられた御身。この境内を御守りしていただいているのです。
 しかし、不届き者の鼠を懲らしめようにも、御神木は動くことができませぬ。
 我らもできるだけの御手伝いをさせていただいておりますが‥‥」
「なんだか不思議な御神木ですね‥‥」
 花井戸彩香(eb0218)は、古くからの友人に会ったような感覚になり、守ってあげなくては‥‥という想いが募っていく。
「何とかしてあげないと」
 気づかぬうちにルスト・リカルム(eb4750)たちも同じような間隔に陥っていった。
「鼠たちを追っ払えば良いのね。冒険者たちの初仕事。初めが肝心って言うし、頑張るわぁ」
 梔子陽炎(eb5431)だけではない。皆の視線が御神木に対して熱を帯びたものになっている。
 普段なら『退治しちゃうだけなら簡単なんだけどぉ』などと軽口の一つも出るのだが、今日はそれもなかった。
「皆さん、熱心ね。あ痛たた‥‥ うぅぅぅ‥‥ 飲みすぎたぁ〜」
 二日酔いで溜め息一つ。椥辻雲母(eb5400)は楊枝を咥えながら仲間たちの様子を眺めている。
 どこか様子が変だが、気にするほどでもなさそう。
 ふと、香りを嗅いでみたが、御神木からは気になる匂いはしてこない。
 鼠たちが、匂いに呼び寄せられているというわけではなさそうだ。それよりも、痛たたたた‥‥
 凉暮らは神木の周りを、ぐるりと見て回ったが、とりあえず傷はないようだ。
 被害は社殿に集中しているが、梔子が知り合いから教えてもらった鼠の習性によると、これは恐らく歯を研いでいるのだろうと‥‥
 これに関しては、鼠を追い払うまでの間、完璧ではないものの、継続的に見張りを続けて警戒させるのが一番ということで、禰宜たちが積極的に手伝ってくれることになった。
 問題は、どうやって捕まえるか‥‥
 下手に境内で戦闘になれば血で穢してしまうかもしれない。そうなれば、神主たちが‥‥、何より御神木が悲しむに違いない‥‥ 
 となると、罠で捕らえるしかない。排除するだけなら殺してしまうような罠が確実性が高いが、同じ理由で却下。
 捕獲用の罠が必要になってくるが、何せ相手は1mもある鼠‥‥
 並大抵の罠では捕えることはできないだろう。
 ともあれ、それだけ大きいとあれば、痕跡は残されていた。
 梔子が、それを探し当てると、建物や庭、木々や茂みなどを掻き分けて、他の仲間たちも何とか痕跡を辿ることができた。
「足跡は山に続いていますね」
「この中、でしょうね。他に考えられません」
 ルストや凉暮たちが探り当てた巣穴は境内の裏山の中にあるようだ。
 建物の天井裏などにいたらどうしようと思ったが、大鼠の大きさを考えれば構造的に無理であることも確認できている。
 となると、この山としか考えられない。
「ところで鼠って夜に動くのでしょう?」
「そりゃ、子の刻といえば夜中ですからね。夜中にカリカリ音がすることがありますよ」
 十二支は、概ねそれぞれが最も活動しやすい時間帯を差していると言われているのだと神主から聞いて、梔子は成る程と頷いた。
「あ、灯りは大丈夫なのでしょうか? 先程、御神木は火を嫌うと仰っていましたが」
「提灯くらいならば構わないです。但し、松明など大きな火は避けた方が良いでしょうね」
 花井戸らは色々と注意点や問題点を解決しつつ、作戦を立てた。
 裏山での戦闘もできるだけ避けてほしいと注文が付いたが、御神木のことを考えると、無下にはできない。
 椥辻の他は、むしろ、そうするのが自然であるように思えるのだった。無論、椥辻がそれに反対する理由もないのだが‥‥

 さて‥‥
 設置は冒険者たちでするとして、神主の声掛かりで来てくれた大工のおかげで、罠の作成も何とかなりそうだ。
「クロウ君‥‥ 今度、お返しにお姉さんがイイ事教えてあげないとねぇ♪」
 罠を仕掛け始めた梔子たちに、神主たちは感心しきり。うまくいけば、戦わずして解決できるかもしれない。
 しかし、注意すべきは巨大鼠が2匹現れたという事実‥‥
 それは、梔子が知り合いの冒険者から注意を受けるまでもなく、鼠が番であるかもしれないという可能性を大きく示していた。
「鼠を追い払いたいのです。少しお手伝いいただけますか?」
 凉暮は御神木に手を当てて言葉に出した。
 本当ならばテレパシーには手を当てる必要も、声に出す必要もない。
 単に気持ちが伝わると思ったからだ。
『承知』
 御神木からの返事を聞いて仲間たちに笑顔を向ける凉暮に、交渉が成功したことを知り、枝がしなり、風もないのにワサワサと御神木が揺れるのを見て、花井戸たちは感激するのだった。

●出現
 ある夜のこと‥‥
 かたた‥‥
 仮詰め所で待機していた冒険者たちの傍らで鳴子が鳴った。
 鼠の通り道に仕掛けていたものに、何かが掛かった証拠だ。
「行きましょう」
 凉暮らは、巡回中の仲間に合流して、それぞれの持ち場へ散る予定だ。

 暫時、闇夜に境内の柱に掛けられた提灯の明かりに反射して赤く光るものが‥‥
(「来たわ」)
 夜目の利くルストは、動物が首を細かく動かして、用心深く御神木へと近付いてくるのを見た。
 巨大鼠だ‥‥
 どうやらトリモチでは鼠を止められなかったようである。
 まぁ、あの巨体では、相当量のトリモチがいるに違いない。駄目元と言われていたが、本当に駄目だと少し寂しかった。
 いやいや、今はそれどころではない。どちらにせよ、本命の罠はアレではないのだ。
 匂いを嗅ぐように顔をピッピッっと動かして、御神木との距離を詰めていく。
 そのとき、鼠たちの目に留まったものは‥‥
 団子だ。
 それに近付こうとしている鼠に、椥辻は『そこっ! もっと近寄ってよ!!』と咥えた楊枝をピコピコ動かしている。
 冒険者たちにとって苦行とも思える時間、警戒を解こうとはしなかった鼠たちが、徐々に、徐々に団子に近付き‥‥
 とうとう、器用に手にとってカリコリと齧り始めた。
『今です。網を落として』
『承知』
 凉暮のテレパシーで御神木の枝がしなり、引っ掛けておいた網が落ちてくる。
 危険を察知した鼠が逃げ出そうとした瞬間‥‥
「おっと、逃がさないわよぉ」
「そうそう」
 梔子の手には手裏剣が握られ、椥辻は刀を構えている。
 一瞬の出来事ではあるが‥‥
 逃げるのに躊躇した大鼠は、籠に被せられた網に捉われ、あわや狂乱状態に。
「やりましたわ」
 花井戸たちは提灯を網に近づける。
「凉暮さん、右をお願いね」
「わかりました」
 ルストは祈りを捧げ、コアギュレイトの発現を待ち、影が十分でないと判断した凉暮は、シャドウバインディングを諦め、スリープの詠唱に入った。
 逃げられない状況では、遂に金縛りにあい、鼠たちはその動きを止めた。
「見事なものですなぁ」
 騒動を聞きつけて、神主たちが、そろそろと出てきたようだ。
 兎も角、血を流さずに、冒険者たちは巨大鼠たちの排除に成功したのであった。

●複雑な思い
 期間が許す限り、罠は仕掛けてみたが、巨大鼠は、それ以後現れず。
 裏山を探索したが、他に巨大鼠の姿はなし‥‥
 依頼で汚してしまった境内を念入りに掃除して、花井戸らは帰還の途についた。
「わぁっ!」
 コアギュレイトで動きを封じていた鼠たちが自由になった途端、激しく暴れ始めた。
 丈夫そうな袋を選んで持ってきたことと、鎖帷子のようなもので2重に重ねる‥‥とまでは、いかなかったものの、袋を2重にしていたため、これくらいでは破れることはないが‥‥
「どこか遠くで逃がす?」
 持て余し気味に椥辻は眉を顰めた。
「巣ごと他に移ってもらいましょうか?」
 花井戸やルストも、僧侶やクレリックとしては殺生は避けたい気持ちがある。
「そうは言っても、放っておいたら危険ね。退治するしかないと思う」
 しかし、逃がしたら逃がしたで、危険な動物であった。ルストは目蓋を閉じて祈りを捧げている。
「本当は、丸く収まると良かったのですけれどね‥‥」
 凉暮としても本意ではなかったが、この状態で袋から出したところで、まともに意思疎通ができるとも思えなかったし、絆の深くない者に何か言われたとしても言うことを聞く確率は低い。何より鼠の動物の知性を考えれば、人間の言いいつけを守るとは思えないと指摘されれば納得せざるを得ない。
「聞き訳があれば何とかなったかもしれないけどさ。ちょっと可哀想だけどぉ、これも仕事だからしぃ」
 自分が悪役を被ることで何とかなるなら‥‥ 梔子は皆の背中を押してやることにした‥‥