●リプレイ本文
●勇気凛々♪
待ちきれない様子の商家の旦那に粗茶ですが‥‥と御茶を差し出したミルフィーナ・ショコラータ(ea4111)は、小豆を使った手製の茶請けを添え、ネム・シルファ(eb4902)は弦を爪弾いた。
「今は昔‥‥ 何処かの夢の世界の物語〜♪」
「御茶の国の皇子(みこ)様、華桃茶様の御話でござりまする♪」
火乃瀬紅葉(ea8917)もミルフィーナの調子に似せて掛け合い、それにネムの竪琴が調べを重ねる。
「この国では長猪狩大帝の治世のもと、民は皆、日没にはお茶の間に集まり、お茶を飲んで面白おかしく暮らしていたと聞きまする♪」
「楽しく、笑って、飲み明かす♪ 御茶の国の皇子様は、何よりお茶の時間が大好きで♪ 客を招いて利き茶の集いなどを愉しんでおりました〜♪」
「そんなある日のことでござりまする♪」
「豊かな筈の御茶の国の茶葉、それが上手に育たない♪ 御米が取れなくなるようなもの♪」
火乃瀬とミルフィーナが目配せ。
「そこに現れたのは‥‥」
おどろしいオーラを放ちながらルーロ・ルロロ(ea7504)が割り込んできたのに商家夫婦が驚き、大丈夫ですかなと小声で声を掛け、湯田直躬(eb1807)が内儀のこぼしたお茶を拭う。
「槍を担ぎ、鏃のような尻尾を持った黒尽くめの男、首領のバイ‥‥
そのバイを王、つまりキングに持つ、バイキングなる一団、ルンルン一家‥‥
世界一美味しいお茶を飲みたい〜‥‥と甘える小悪魔の笑みの女が、バイのパートナーでド・キンという女。早く飲みたい〜‥‥と矢の催促に、バイはルンルン一家を御茶の国へ向けたのじゃ」
でろでろ‥‥と不気味な旋律に合わせ、困った表情のミルフィーナと腹黒そうな笑みを浮かべたルーロは語るように続けた。
「御茶の国では、お茶の値段がどんどん高くなっていました‥‥」
「ドちゃんは喜んでるし、ボクは御茶の買占めで大儲け〜。勿論、裏で糸を引いているのは、バイじゃ」
「買占めで品薄を装って、美味しい御茶を独り占め、ついでに大儲けしようとする陰謀だったのです〜」
商家の主人は御茶を呷ると、フンッと鼻息を荒くした。
「そんな時を見計らってか‥‥ 隣国、珈琲国の黒珈琲国王が、自分の国の飲み物の方が美味しいと攻めて来たのです〜」
「バイに耳打ちするのは、小悪魔ド・キンちゃん。御茶の国を乗っ取って、美味しいお茶の飲み放題を狙っていたのじゃ」
大変‥‥ 内儀は思わず言葉を漏らした。
「バイは、世界に2つと無いと言われているお茶を、黒珈琲国王に贈るように、こっそりと勧めたのじゃ」
「それは御茶の国の秘蔵のお茶。御茶会で歓待して和解しようと考えていた皇子様だったのですが」
「世間知らずの皇子様は、バイが御茶の国が負けを認め、御茶を差し出したのだと黒珈琲国王に耳打ちしたことに気がつかん‥‥」
御茶の国は、どうなってしまうの? と不安げな商家夫婦は手を取り合っている。
「そのときじゃ!」
ルーロの声に合わせ、ミルフィーナの竪琴が軽快な音楽を奏で出す。
「まて〜〜」
「そこに現れたのは、丸顔のアン♪」
恥ずかしいのか頬を染めた火乃瀬に、ミルフィーナの合いの手が。
「また、悪事を働いているのか! ルンルン一家!!」
「魔法使いのおじさん、ジャム♪」
湯田は神仙の杖をルーロに突きつける。
「皇子様、御茶の品薄は、バイが買占めしているからなのです」
「ワン」
「その娘、バターと愛犬チーズ」
ミルフィーナたちの紋切りに、商家夫婦の表情が、ぱぁっと明るくなっていく。
「騙されてはいけません、黒珈琲国王」
「颯爽と現れたのは、四角い顔のショク♪」
ネムは、商家夫婦に、にこやかな笑みを向ける。
「雑魚は、僕らに任せるんだ、アン」
「脂っこい顔のカレー♪」
力こぶを作ったのは黄桜喜八(eb5347)。
「邪魔するなら、こうだ」
ルーロも火乃瀬に突きを繰り出す。
「話し合いの場は、あっという間に大乱闘♪」
千切っては投げ、斬った張った、ドタバタ、やんやと盛り上がる。
「え〜い、ぱ〜んち」
頬染めた火乃瀬の拳が軽く当たり、ルーロは大げさに転がった。
「くっぞ〜。退くぞ。バイバイ、キング〜」
「バイを追って、手下たちも逃げ出していく♪ そこへ♪」
やったぁと商家の主人は、内儀をしっかと抱きしめている。
「互いの飲み物の美味しさを知って、仲直りしてはどうですかな?」
「ジャムの焼いたパンの匂いに、みんなの気持ちは、ほんわか気分♪」
「落ち着いた御茶の国の大帝と珈琲の国の王は、互いの飲み物の美味しさを知って、和解したのです〜♪」
一騒ぎして、皆、少々御疲れ気味。一息つくことにしたのだった。
●行け、西へ
人心地ついて、拾い話が再開された。
「珈琲国との紛争、そしてバイの陰謀を回避した御茶の国だったのですが♪」
「長雨で御茶が病気になったり、枯れてしまったり、御茶の不作は、解決してはいなかったのだよ♪」
忘れてた‥‥と商家夫婦は顔を見合わせている。
「皇子よ、この凶事を解決する方法を探し出してきてくれ。それに、まだお前の知らぬお茶もある。諸国を巡り、御茶見聞を広めてくるのだ!」
「長猪狩大帝の命により、皇子様は旅に出ることになりました♪」
「行く先は、遥か西にあるという天竺。そこには、古今東西、全ての御茶を記した経巻があるという♪」
湯田、ミルフィーナ、黄桜などが調子を合わせて歌い上げていく。
「諸国漫遊の旅の空、皇子は、陰謀あれば打ち砕き、悪代官に泣く者あれば、名刀『華手錦(かてきん)』を手に、これを成敗したと言いまする♪」
「そのときの御供が、御茶の国の若者、出十嵐茶太郎(でがらし・さたろう)♪ 悪漢どもを、業物『歩利笛悩流(ぽりふぇのーる)』でズババッと解決♪」
火乃瀬やネムがまくし立てると、商家夫婦も握り締めた拳の手の平にジッと汗をかいているようである。
「旅の途中で、河童忍者、豚戦士、猿浪人を供に加え、天竺目指して一路西へ‥‥ そこに待ち構えていたのは‥‥」
ルーロは袖をバサッと振り上げた。
「悪の権化、カビ魔王〜♪」
商家夫婦の顔に縦線が‥‥
「フハハハ‥‥ 御茶皇子を煎じて飲めば、強大な力を得られるという。捕えて参れ!」
ルーロは生真面目に悪役を演じている。
「魑魅魍魎に襲われる中、抹茶姫、茶兎蘭姫というお姫様たちが、カビ魔王の城に囚われていると聞いた皇子たち♪
姫たちを救うため、苦しめられている者たちを救うため、カビ魔王を倒しに城に向うのだが、一行の行く手を遮るように一人の老婆が現れた♪」
すっと膝を立てた湯田に商家夫婦は息を飲む。
「この道を通っては、なりませぬ。どうか、どうか‥‥遠回りでも別の道をお通り下さいませ」
ミルフィーナは、声色で老婆を真似ると、深々と頭を下げた。
「薄汚い老婆の突拍子もない戯言♪ しかし、皇子は歩みを止めたのだ♪」
「お婆さん、ありがとうございます。けれど私たちは先を急がねばならないのです」
「礼を言わねばならないのは、こちらでございます‥‥ 皇子様には、昔、助けていただいた身」
パッと羽を広げると、横笛を残し、ミルフィーナは飛び上がっていく。
「この笛は‥‥ あのときの‥‥」
「皇子様に、幼い頃の思い出が過ぎったのでございまする♪」
「先を急がれるのも承知。しかし、この先の罠にかかれば、御命まで取られかねませぬ」
「わかりました。あなたの導かれるままに」
「そうして、獣道を行き、間道を抜け、皇子たちは魔王の城、そして姫たちが捕らえられている塔に辿り着いたのです♪」
「あぁ‥‥ これで安らかに眠りにつける‥‥」
「老婆は恩返しを果たし、その魂は天に昇って星となった♪」
商家夫婦の目に薄っすらと涙が‥‥
「しかし‥‥」
「早く逃げてくださいませ。あなたはカビ魔王の恐ろしさを知らないのです」
「おぉ、姫が信じてくださるなら、私は魔王を倒すことだって、千種の御茶を汲むことだってできますのに」
「皇子は抹茶姫、茶太郎は茶兎蘭姫を励ましまするが、信じてもらえませぬ♪」
なんで‥‥ 思わず内儀の口から、そんな言葉が漏れる。
「そこへ現れたカビ魔王♪」
チャンチャンバラバラと丁々発止。商家夫婦から応援の声が飛ぶ。
「これくらいで良いでしょう」
「えぇい、全員集合! こちらにおわす御方を、どなたと心得る。恐れ多くも御茶の国16世、御茶皇子、華桃茶様にあらせられるぞ。一同の者、茶を飲めぇぃ!」
皇子役のネムが頃合を計り、茶太郎役の火乃瀬が声を張り上げた。
「御茶を飲んで幸せな気持ちになったカビ魔王たちは改心して、皇子や姫たちを厚くもてなしたそうだ♪」
「そして天竺に辿り着いたのだけど♪」
「最後の難関が待ち受けていたのです〜♪」
「ぱぱらぱ〜。苦難を聞いて御茶の国に暗雲を呼んだ曲神を連れてきた。闘茶でワシを負かせば経巻をやろう」
「ちっ‥‥ 俺を負かせば雲は払ってやる」
「現れたのは正神と曲神、2柱の御茶の神々♪」
「緑・青・紅・黒・黄・白‥‥ 皇子様と抹茶姫は、驚くほどの種類の茶を淹れていきますが、2柱の神は間違えません♪」
「しかし、千と1つ目の椀に口を付けたとき、2柱の神は渋い顔♪ 正解することはできなかったのです〜♪」
「これはいったい、なんという御茶だ? 負けた、負けたと言う神々に、皇子様の返した答えは如何に♪」
「これは白湯です。もう御茶の種類がなくなってしまったんですよ」
「これには神様たちも大笑い。御茶の国の暗雲は晴れ、御茶の経巻を手に入れ♪」
「一行は無事に御茶の国への帰路についたのです〜♪」
「国に帰った皇子様は抹茶姫と結ばれ、茶太郎も茶兎蘭姫と結ばれ、皆で美味しく御茶を楽しんで、仲睦まじく暮らしたそうです〜♪」
「そのときの御供たちの木像が彫られ、今でも御茶の国で祀られているそうだぞ♪」
顔を乗り出す黄桜に、商家夫婦は思わずニッコリ。
「目出度し、目出度し♪」
最後は商家夫婦も一緒に大合唱。笑いが周囲を明るくするのだった。