●リプレイ本文
●出発
「街道で暴れながら町に向かってくる鬼か。人々に迷惑をかける鬼は退治しないとな」
「5匹ってのは、ちょっと面倒かな〜〜って思うけど、まぁ、どうにかなるでしょ」
「山鬼か倒せば鬼殺しと名乗れる大物。一瞬の気の緩みが死を招きそうだな。油断するなよ」
「大丈夫〜」
馬を駆り、カイ・ローン(ea3054)や御藤美衣(ea1151)などが偵察と罠設置のために先行を始めた。
その後に残りの冒険者たちが続く。
「鬼、ねぇ。流石に強いだろうが‥‥ まぁ、依頼として受けた以上、仕留めて『魅せる』さ」
後続組として先行組の荷物を預かり、愛馬・赫耀(カクヨウ)を引いて歩く殊未那乖杜(ea0076)。その周りには10名ちかい冒険者たちが歩みを共にしている。
「また鬼ですか。最近は出没頻度が増えてますね。何より強い奴の出現が気になります。
何かの前触れでなければいいけど‥‥
ともかく油断は禁物。気を引き締めていきましょう」
不安を振り払うように陸潤信(ea1170)が気合を入れるのを見て、少し緊張気味の九条棗(ea3833)も深呼吸した。
自分たちの勝利を信じ、彼らの士気は高い。
●‥‥
「何か忘れとりゃせんか?」
穴を掘っている村人がその手を止めて考え込んでいる。
「どうしました?」
「どぅわ!!」
風間悠姫(ea0437)が後ろから話しかけたので、村人はビックリして思わず鍬(くわ)を放り出した。
「ビックリさせてすんまへん。何の話をしてはるの?」
一緒にいた西園寺更紗(ea4734)が笑顔を見せる。
「いや‥‥ いやな感じがするんじゃ。わしのはよく当たるんじゃぞ」
「はぁ」
漠然とした不安を抱きながら作業を再開しようとしたところへ、美衣が馬をとばして来た。
「すぐそこまで山鬼たちが来てるわ」
「!!」
村人がポンと手を叩いて風間たちの方を見た。
「そうですよね‥‥」
状況を理解したカイは作業を中断すると素早く騎乗した。
「相手は江戸に近づいていたんだった‥‥」
殊未那も悔しそうに騎乗する。
『奴等が来るまでに多少罠を作りたい。道具と力のある者を貸してくれないだろうか。安全は俺達が全力で保障する』
そう言って村人たちを駆り出した以上、南天輝(ea2557)もここは引くしかない。
「念頭になかったな‥‥」
「折角、うってつけの場所を見つけたっていうのに‥‥」
村人を守りながら戦えるほど甘くはないと、美衣が早くも避難の指示を与える。
「どこかで山鬼が暴れてい〜る。それをみんなでやっつけて〜。煮てさ、焼いてさ、食ってさ♪」
後続組みはアーク・ウイング(ea3055)の鼻歌に誰もツッコミを入れないあたり、どこか楽勝ムードである。
その前方から必死に駆けてくる騎馬たち。
「後退だ!!」
それがカイたちであるとわかった途端、そのような声をかけられては後続組も驚きを隠せない。
「どうしたんだ?」
馬を休めるために歩みを止めた一行は、先行組からの報告で自分たちの置かれた状況をようやく理解した。
「わしがついておりながら的確な助言もできんとはな」
「いえ、俺たち全員の責任です。まずは態勢を立て直しませんか?」
年長者としての責任を感じるマグナ・アドミラル(ea4868)を気遣いながら南天は話題を切り替える。
「1日くらい戻ったところに待ち伏せできそうな場所があったはず‥‥」
高村綺羅(ea5694)が即答する。
「とりあえず、そこまで戻ろう‥‥」
「そっちはどうですか?」
「ここはもうすぐ終わるが、やはり全部は無理だ。村人を避難させる時間がなくなる」
殊未那が受け持ち作業を終え、現場の指揮を執っているマグナの指示を受けるために戻ってくると、村人たちは移動の準備をしていた。
「プラントコントロールで落とし穴は隠し終わった。次はどうすればいい?」
エドゥワルト・ヴェルネ(ea3402)も次の指示を受けるためにマグナの元へやって来た。
「だれか村人たちの避難を頼まれてくれないか?」
「俺が行きますよ」
「あたいもここにいてもすることは少ないし」
殊未那と美衣に連れられて、早速村人たちが移動を開始する。
「しかし、これだけの罠では、うまく敵を分散できるか心配だな」
「確かに心配ですね」
全体の進捗(しんちょく)を見る限り、状況は良いとは言えない。
「ただいま戻りました」
偵察から帰還したカイが馬から降りてマグナのもとへ歩いてくる。
「山鬼は約2時間で到着します」
「そうか‥‥ みんなに伝えてくれ。早々に作業を切り上げて休息をとる」
全員の顔に疲労がにじんでいる。しかし、敵は待ってはくれない‥‥
一行は緊張の面持ちで山鬼たちを待ち受けていた。
そこへ斥候に出ていた美衣が迎撃地点まで引いてくる。
山鬼たちが罠を張った街道沿いを歩いてきたのは、せめてもの救いであった。しかし、準備不足でどこまで戦えるか不安要素は大きい。
●迎撃
目印の花を避け、冒険者たちは街道から散開していく。
「オガオガァ!!」
「まず1つ」
山鬼が腰の辺りまで埋まりながら転倒する。
3体目までは落とし穴に落ちたが、そのうち1体は罠から這い出してきた。
足に傷を受けているが、その動きが阻害されるほどではないようだ。
エンジュ・ファレス(ea3913)が多少でも効果があればと置いておいた肉の塊は見向きもされない。
「3体か‥‥」
足を止めて殊未那がオーラショットを撃つ。
「オオオオガァア」
「怒れ、その方が好都合だ」
「こっちです」
潤信が木々の間から手招きしている。殊未那が林に入ると、士気旺盛な山鬼たちは彼らを追った。
「予定通りですね。さてさて、鬼退治と洒落こむとしますか」
孫陸(ea2391)たちは木々の間を抜け、引き離さないように駆けて、徐々に山鬼を分散させていった。
「くそっ‥‥ なんて奴らだ」
力任せに罠を引き剥がし、足に刺さった杭を引き抜くと何事もなかったように山鬼は林へ入っていく。このままでは仲間たちが危ない。
「迷ってる暇はない」
綺羅が隠れていた藪から飛び出し、美衣と風間もそれに続く。
「ウガァ」
それに気づいた2体の鬼が風間たち3人に突進してくる。
「あたいにはこういうのの方が向いてるのよね!! キャッ‥‥」
軌跡を変えながら美衣の繰り出す日本刀の一撃一撃が山鬼を捉えるが、山鬼の攻撃も鋭い。
「美衣、無理しないで!!」
綺羅が背後から一撃を加えると、美衣の手を取って走り出す。
「鬼か‥‥ 相手としては不足なし‥‥」
風間は恐怖を感じながら、自分の感覚が研ぎ澄まされていくのを感じた。
とりあえずは逃げの一手‥‥
「かかった!!」
殊未那をリーダー格の山鬼が追ってくる。
ズズン‥‥ 大木が倒れる音がして木の葉が一面に舞う。
ほぼ同時に潤信と陸を追っていた山鬼が落とし穴に落ちた。
すかさず潤信が爆虎掌を、陸も猪突拳を放つ。
「敵は強敵どす。気を引き締めてかかりましょ」
落とし穴の山鬼目掛けて西園寺が油を投げ込み、松明を放り込んだ。
しかし、体に纏わりつく炎を嫌いながらも山鬼は穴から這い出してくる。杭も僅かに傷をつけたばかり。
「青き守護者カイ・ローン、参る」
グッドラックの加護を受けたカイが短槍を構えて山鬼に対峙し、その脇を潤信と陸が固める。
茂みを掻き分けて殊未那が戻ってくるなり、気弾を打ち込むために集中を始めた。
「やっぱ山鬼たちバカだね。罠に思いっきりひっかかってるよ」
アークたち後方支援の者たちも姿を現した。
エドゥワルトのプラントコントロールで絡め取った山鬼たちが、怪力でそれを引きちぎると穴から這い出してきた。
ついに決戦である。
ズズン‥‥ あらかじめ切れ込みを入れておいた木が倒れ、リーダー格の山鬼の視界から仲間の山鬼が遮られる。
その木を掻き分けて行こうとした山鬼は、声と気配に振り向かざるをえなかった。
「おっと、お前の相手は俺達だ!!」
倒れた木の根元には不敵な笑みを浮かべる南天、そして九条とマグナの3人。
「グワァァァ」
山鬼が雄叫びを上げた。
「その自慢の角貰ったぜ」
角をへし折って戦いの主導権を奪おうとした南天の真空刃は運良く命中したが、その表面に傷をつけるに過ぎなかった。
「ぼっとするな!!」
九条の連撃が山鬼を捉える。
「すまん!! ぐ‥‥ 強い。
俺が‥‥ 見くびっていたのか? がはっ‥‥」
軽やかな足捌きで山鬼の攻撃をかわしながら南天も打ち込むが、狙いすましたような攻撃は空を切り、続けて放たれた山鬼の攻撃が命中する。そのたびに南天の動きが鈍る。
「ここはわしに任せるんだ」
受けに徹すれば避けられない攻撃ではないが、戦技に長けたマグナがいつまでも防御に徹していれば仲間が危ない。
「仲間に手出しはさせんぞ」
まるで暴風のように金棒とロングソードが振るわれるたびに互いの傷が増えていく。
「ガハハハハァア」
山鬼が歓喜の声を上げる。
ギャリィィン、シャンッ、バキン、ガンッッ!!
火花が散り、周囲の枝がババッと飛び散る。
「きゃぁぁ」
九条が木に叩きつけられた。
「わしだけでもやってみせる!! はぁあぁ!!」
マグナの一撃が山鬼の腹部に吸い込まれていく!
「オガァァ!!」
しかし、同時に山鬼の一撃もマグナを薙ぎ払っていた。
ドドサッ‥‥
両者が地に伏せる。
「マグナ‥‥」
九条が起き上がって助けに行こうとするが、先に山鬼がよろめきながら立ち上がる。
九条と南天は言葉を失い、もがくが体は満足に動かない。マグナは気を失ったままである。
「ギャァオオオオ!!」
もうダメだと覚悟を決めたとき、山鬼は腹からロングソードを抜き取ると雄叫びを残して森の中へ消えていった‥‥
「助かったのか?」
南天は肩で息をしながらマグナに歩み寄った。
「甘く見ていたな‥‥ 私たちは‥‥」
九条はその場にへたり込むとマグナの頬を叩いた。
戦況は冒険者たちにとって不利だった。
相手の一撃が大きいことや攻撃が意外に当たることに相手の討たれ強さが相まって被害は増すばかりであった。
期待したエドゥワルトのアグラベイションは抵抗されることが多く、戦況を決定づけるほどではなかったし、何より乱戦でファラ・ルシェイメア(ea4112)とアークのライトニングサンダーボルトが初弾しか放てなかったのが痛い。
「失敗したな‥‥」
何とか位置取りしようとファラは茂みの中を掻き分けたが、法衣に枝など纏わりついて思うように移動できない。
「皆はん、大丈夫おすぇ?」
西園寺が負傷したカイと潤信に肩を貸して後退させる。
「間に合わないよ‥‥」
「俺も攻撃に参加できれば‥‥」
エンジュとカイが傷を回復していくが、仲間が受けるダメージはその回復量を上回る。
何とか陸が防御に専念して足を使い山鬼の気を惹いてはいるが、どこまでもつかは分からない。
うまく狭い場所におびき寄せたと思っていたのに、向こうは怪力で周囲の木々を物ともせず一撃を繰り出してくる。
多少は敵の動きを阻害する効果があるようだが、味方の動きが制限されて連携できない方が痛かった。
そして、その隙を衝くように1体の山鬼が後方支援している者たちの間近まで突進してきた。
「くそぅ」
折り悪く、殊未那のオーラショットもさっき撃ったので打ち止めだった。
絶体絶命‥‥ 回復がなくなっては、冒険者たちに勝ち目はない。
「イヤ‥‥ 来ないで」
エンジュに山鬼の一撃が振り下ろされようとしたとき、祈りが山鬼を運良く呪縛した。
「今のうちに‥‥」
エンジュの消え入るような声に西園寺が反応する。
「雁流、西園寺更紗。うちが逝かせてあげますぇ」
武器の重さを十分に乗せた一撃を加えても山鬼は倒れない。
「気持ちよく、逝ってくれるとうれしいんやけどぉ‥‥ 何で倒れませんの‥‥」
身動きできない山鬼に何度も何度も斬りつけて、ようやく山鬼は絶命したようだ。西園寺は肩で息をしている。
西園寺が顔を上げたとき、視線が遠くに固まる。山鬼の腕は大きく振り上げられていた。
「陸!!」
ついに陸が山鬼の一撃に捉まり、足をもつれさせて転がり倒れた。
しかし、運は冒険者たちに味方してくれたようである。
「見えた!!」
「そこだね♪」
一瞬、ファラとアークの視線がライトニングサンダーボルトの射線を捉える。
ファラが一瞬の詠唱の後に稲妻が山鬼を焼き、少し遅れてブスブスと煙を上げる山鬼へアークの放った稲妻が伸びた。
殊未那の短刀が山鬼の肉を裂き、陸の猪突拳が山鬼の体にめり込む。
「オォォ‥‥」
ズンッ‥‥ 山鬼はついに倒れた。
●鬼は蹴散らしたが‥‥
山鬼たちを追い払い、2体倒したと喜ぶ庄屋たちの勝利の宴に呼ばれたが、一行はどうも喜ぶ気になれなかった。
結局、最初に罠にかかった2体とリーダー格の1体には逃げられてしまったからだ。
「色々考えた作戦だったけど、どうも抜けた部分が多かったね‥‥ 用心したつもりだったけど」
夜戦まで視野に入れてファラが用意した灯りも、危惧していた火を使う罠の消火も杞憂に終わった。
しかも、運良く依頼主の庄屋の知り合いに回復に長けた僧がいたおかげで事なきをえたものの傷ついた者が多かった。
「全員生きて帰れたんだから、まだマシなのかな‥‥」
わずかに出た金一封が冒険者たちの前に置かれている。それが余計に彼らの気持ちを落ち込ませていた。