【東風西乱】弓射の神事
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■ショートシナリオ
担当:シーダ
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 71 C
参加人数:8人
サポート参加人数:6人
冒険期間:07月01日〜07月07日
リプレイ公開日:2006年07月14日
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●オープニング
●那須の風
先日のこと、上野国沼田の地において、謀反鎮圧のための戦が起こった。
山越えで背後を突かれた沼田城主・沼田万鬼斎は討たれ、那須・武蔵の連合軍は真田兵の追撃を振り切って一躍帰途に着いた。
これにより、上州に火が付くかと思ったが、今のところ動きはなし‥‥
各大名の思惑は、思ったよりも深く絡み合っているのか‥‥
とは言え‥‥
那須や武蔵にとって勝利は勝利。武士たちは凱声に士気を上げている。
実を言うと源徳信康殿が那須入りし、湯本温泉神社や福原八幡を参詣した折、秘かに戦勝祈願が行われていたのだ。
それを聞いた武士たちは神の加護に感謝し、多くの者が参拝したという。
ただ、政はそれだけで済まない。
那須藩主・那須与一公と家康公名代・源徳信康殿が、沼田会戦での戦勝の儀式を行うのだ。
それが、加護の感謝を神に示す、福原八幡宮における弓射の神事。
那須・武蔵の武士たちの武威を示す、白河の関における馬揃え。
那須豪族たちの結束を固めるための湯本温泉神社への戦勝報告などなど‥‥
●弓射の神事
那須城内に『千勝(チカッサマ)』の愛称で呼ばれている神社がある。
『千勝つ』という文字からくる合意が、武人にとって好まれる千勝神社だ。
祭神は猿田彦命(さるたひこのみこと)と須藤那須守貞信の2柱。
今回の沼田攻めに当たっても、那須の武人たちだけでなく、武蔵の武士たちも、この神社に戦勝を祈願したという。
那須・武蔵の連合軍が帰還して一段落するかしないかのうちに、この神社では与一公による流鏑馬と扇落としが奉納され、見事、的を射抜いたというが、神田城内でのこと、那須の領民たちは噂で聞くしかない。
そこで意味を持ってくるのが福原八幡宮だ。
那須家の氏神様で、那須家の祖である須藤権守貞信(すどう・ごんのかみ・さだのぶ)が八溝山に住む悪鬼・岩嶽丸討伐のため出陣するにあたり戦勝を祈願し、見事討伐を成したという由緒ある社である。
社殿の正面には与一公の『一』と人をまとめる意味をもつ『菊』を組合わせた『一の下に菊』の那須家の家紋が付けられており、左右には『左三つ巴』の紋が付けられている。祭神は誉田別名(ほむたわけ)。
那須の領民にとって重要な意味を持つ神社なのである。
勉学のために異国を巡ったことのある杉田玄白の献策により、那須与一公は、ここでも弓射の神事を行うという。
一般席も用意されるとあって、那須領民たちの期待も大きい。
「此度は弓射の神事に冒険者も招待されるようだな」
「腕の立つ者が多いからな。俺も精進潔斎、努力邁進して事に当たらねばな。負けてはおれん」
「那須の誇りを見せてやれ。頑張れよ」
「任しておけ」
那須藩士たちの表情は明るく、彼らの関心も高いようだ。
会場の設営は刻一刻と進捗している‥‥
●リプレイ本文
●神事の前の大事
福原八幡の祭神でもある那須開祖は、岩嶽丸との戦いの折、エルフに弓技の手ほどきを受けた。
以来、弓の盛んな国柄となったからか、那須の弓射の神事は他の地域のものに比べると勇壮で激しい。
数十の弦打ちの音が響き渡り、その中にはシグマリル(eb5073)ら冒険者たちの姿も見える。
「すごい雰囲気だね」
「フリーウィル卒業生の名誉にかけて、頑張るのですよ」
「まぁ、日頃の練磨の成果を披露すれば良いのさ」
「気を楽に、しかし、真剣にやれば良いのです」
チップ・エイオータ(ea0061)とアリエス・アリア(ea0210)に、ヴィグ・カノス(ea0294)やアイーダ・ノースフィールド(ea6264)が声をかけている。
「クリスお兄さんが、手取り足取り教えてあげるよ☆ 待っててね、那須の麗しいレディたち♪」
尤も、クリス・ウェルロッド(ea5708)のようにリラックスした参加者もいるのだが‥‥
(「敵いそうにない方たちばかりですね。でも、うちにできる範囲で頑張るだけです」)
練達の弓使いたちが集う様子に、クゥエヘリ・ライ(ea9507)は決意を新たにした。
「始まるようでござります」
那須の紆余曲折を知る白羽与一(ea4536)は、冒険者たちを温かく迎えてくれた那須の藩士や領民たちの姿を見て、思わず涙が滲んだ。
●風変
的中させて緊張から開放された那須藩士たちを他所に、神事を芸の延長線くらいに考えているチップにとっては、失敗したら御免なさい程度の普通の緊張感でしかない。
「次、よろしくお願いします」
チップの声に、大きさの違う鈴が付けられた鞠を携えた5人の巫女が現れると、予測のつかない展開に会場は静まり返った。
巫女たちが鞠を投げると、素早い動作で番えられた2矢が放たれ、素早く3矢を手に取ったチップは弧を描く鞠に意識を集中した。
しゃしゃん‥‥ しゃしゃしゃん‥‥
鞠は空中で矢が命中し、見事に5つの音階を奏でる。
(「最後のは危なかったなぁ」)
心の中で溜め息をつきながらも、チップは歓声に応えた。
「難しいことをしますね」
難易度を的確に理解できるのはクリスも高い弓射の技術を持っているからだ。
だが、それを戦いに活かしたいとは思わない。
『百人の英雄になるより、一人の英雄の方が私には合っている。人を殺す術など誇れない‥‥』、それが彼の誇りだ。
「御手伝い願いますでしょうか、レディ」
クリスは観客席にいた女性に花を贈り、手を取って会場内に引き入れると射撃位置についた。
やがて、ライトロングボウを構えたクリスは、15mほど離れた台座に組み付けられた大鎧に狙いをつける。
ひゅん‥‥ ひゅん‥‥
鎧の後ろの女性をイメージしながら、大鎧の喉、両肩、両肘、両膝の隙間を的確に狙い撃ちしていく。
そして最後の1矢‥‥
矢は花びらを散らし、花に引っ掛けておいた指輪が茎を伝って女性の手に当たった。
「その指輪をあなたに」
欧州であればロマンティックな場面となるのであろうが、ここは日本。
女性は少し首を傾げながらも、贈り物だということはわかったらしく、ありがとうと微笑んでくれた。
クリスが頭を下げ、手の甲を差し出すと、恥ずかしがりながらも笑顔で女性は握手を返してきた。
文化の違いに涙しながらも、女性の笑顔には大満足なクリスなのであった。
とはいえ、これが既婚の女性だったらよいう怖い考えは置いとくとして‥‥
「十矢よ、那須の蒼天を行け!!」
10mほど離れた地面に置かれた的にシグマリルの放った矢が、1本、また1本‥‥、山なりに吸い込まれていく。
ギルドで蒼天十矢隊の活躍を見て、彼らの行動に心動かされ、その行動に敬意を表しての射技だ。
「イメラッ」
シグマリルの声に愛隼はクゥッと応えると、的の1つを掴んで蒼天の空へ駆け上がっていく。
落とせの声に的を放すと、的はヒラッヒラッと揺らめきながら落下を始めた。
チュプ・カムイ‥‥
太陽の神に祈ると光が陰り、優れた眼は的の動きを捉えた。
自然を感じ、無心で放った矢が的中した音に、シグマリルは笑みを浮かべた。
次に現れたのはヴィグだが、弓を持参していないと、どよめきが起こっている。
(「神事とはいえ、普段と同じ様に穿つのみだ」)
ヴィグは、的から10mほどの位置に駆け出し、縄ひょうを放った。
縄の先のひょうは、すかん‥‥と的に中り、ヴィグが縄を器用に引くと、ひょうは彼の手元へと戻ってくる。
続け様に反対の手のひょうを投げ、先ほど中った的の殆んど同じ位置に命中した。
ヴィグが身を捩り、両の手を舞う鳥の如く振るうと、縄は生き物のように空中でのたうち、自在にひょうの軌道を変え、手首のスナップで軌道を変えたひょうが的の側面を捉える。
腕に縄を巻き取り、ひょうを手にして一礼すると、まるで神楽舞のようだと感嘆の声が聞える中、ヴィグは場を後にした。
クールな表情に笑みを浮かべて‥‥
「さて、あの時の貸しは、これで忘れてあげるわね。手伝って頂戴」
アイーダに連れられて驚くクリスだが、頭の上に桃の実を乗せられると大体見当がついてくる。
「えっ‥‥と」
「桃以外に中てたりしないから安心なさい」
「あはは‥‥ アイーダ嬢の腕なら間違いないよね」
那須の麗しき女性たちの前で、無様な格好は見せられないのがクリスの悲しい性‥‥
「頭の上の果実を射抜き、名を成した弓の名手の偉人伝に倣い、見事、射抜いてみせましょう」
オーラエリベイションを発動させ、意識を集中させたアイーダは、ゆっくりと梓弓を構える。
矢を番え、弓を引き絞った状態で5秒、10秒‥‥
「ま、まだ?」
クリスが呟く。
15秒、20秒‥‥
静まり返った会場からは隣の唾を飲む音まで聞こえそうだ。
25秒、30秒‥‥
鳥の羽ばたきに皆が息を呑んだ瞬間、びやっと風を切った矢は、桃を射抜き、頭から落ちた衝撃で真っ二つ。
「ほら、大丈夫だったでしょ」
アイーダは歩み寄ってクリスに一声かけると、観客に向かって一礼した。
続いて巫女たちが運んできた2本の棒が立てられると、その間に張られた縄の中間には鬼面がぶら下がっている。
岩嶽丸と那須の因縁の他に、邪気払いの意味があるのだろう。
そこに現れたアリエスは、キューピッドボウを手に厳しい視線を鬼面に向けている。
それは戦いを憎む、真っ直ぐな視線‥‥
鬼面を支える縄を矢で断ち切ると、那須の民を嘲笑うように鬼面が揺れた。
(「戦いは人を悲しませるのです」)
アリエスの放った2矢が同時に鬼面の目を潰すように貫き、観衆の声が上がった。
人の歴史は戦いを好む‥‥ 彼女と観衆との意識の違いすら肌で感じられる‥‥ だが‥‥
アリエスの目指す道のりは遥か遠い‥‥
●絆
さて‥‥
奉納弓射の山場といえば流鏑馬であり、クゥエヘリと白羽の姿も見える。
那須藩士たちの流鏑馬が行われ、白の駿馬に跨ったクゥエヘリは自分の番を待った。
桔梗があしらわれた藤色の狩衣袴に身を包み、早矢と鏑矢を矢筒に収め、業物の短弓『早矢』を携えている。
自分の名を呼ばれ、愛馬・白の腹を蹴った。
「白、うちが居るから大丈夫よ」
だだっ、だだっ‥‥
リズムに合わせて1矢を的中させ、2本を同時に掴むと2つ並んだ的を撃つ!
ぱ〜ん‥‥ ぱぱ〜ん‥‥
「白、風を纏おうね」
良い音に満足しながら、3矢を掴み、呼吸を合わせて3連の的を射抜いた。
ピューィ!
合図に合わせて愛鷹・蒼穹が扇を落とすと、要の部分が前後左右に空中で軌道を変える。
「ここですわ。中って!」
優しき瞳の奥に焔を宿し、放った鏑矢はチッと音を立て、扇を掠った。
白と蒼穹に感謝しながら、クゥエヘリは観客の声援に応えるのだった。
続く那須藩士たちへの歓声の中、最後の弓射のため、2騎が現れた。
1人は真白き衣を身に纏い、白狼天狗の面に純白の羽織を纏い、白馬に乗って颯爽と現れた。
腕には蒼天十矢隊を示す矢の意匠。顔は見えないが、小柄で黒髪の隊員と言えば、十矢隊隊長・白羽与一だ。
片や紅紐をあしらった濃い藍色の袴と陣羽織に身を包み、大袖のみを着け、黒馬に騎乗した武士。
家紋を見るまでもなく、その人は那須藩主・那須与一公。
対照的な2人の意匠も然ることながら、2人の与一が現れたことに会場の熱は一気に上がっていく。
やがて、2人は息を合わせるように闘気の力を解放し、集中度を高めると、それぞれの愛馬、漣と鵜黒の腹を蹴り、走路に飛び込んでいく。
同時に梓弓を構え、銀の鏃の早矢を番える姿は、殆んどずれがない‥‥
単純なように見えるが、互いの気持ちが合っていなければ、信頼がなければ、こうはいくまい。
だだっ、だだっ‥‥
観客は2騎の動きに固唾を呑んでいる‥‥
そして‥‥
放たれた矢は殆んど同時に両面から的に命中し、互いの矢の力で的を左右から捻るように割った。
「殿‥‥」
「上手くいきましたね。良かった」
与一公は、白羽の横に鞍を並べ、藩士、領民たちへ手を振ると歓声が飛んだ。
なお‥‥
福原八幡の記録によると、2人の射儀は後に『互信の矢』と名付けられたという‥‥
●密かに
「例え、どんなに厳しい掟があっても構いません。それが、私を支える鎖となってくれるでしょうから」
「そうか。決意が変わらないなら、殿に会ってもらおう」
神事の後、旅装の男に声を掛けられたアリエスは、神社の一角に通された。
「決心したのですね」
須藤貞信の木像に手を合わせ座っていた男は、やおら振り向く。
「はい。私が上手く動ければ、その分、人々が戦争に借り出されることもなくなる‥‥かも。そう思います」
「良いでしょう。あなたは冒険者。そのような密偵が1人くらいいても良いかもしれません」
那須密偵との繋ぎの方法の幾つかを教わり、那須密偵であることを漏らさないように約束したアリエスは、その一歩を踏み出したのだった。