●リプレイ本文
●怪異
こうなって、こう‥‥
現場を目撃した村人は、時折、気分を悪くしながらも身振り手振りや地図で色々と説明してくれた。
「飲み込まれるように消えた‥‥か」
「砂の塊が女性を溶かしたぁ? 何て勿体ないコトをするんだ」
鋼蒼牙(ea3167)とレンティス・シルハーノ(eb0370)は違う意味で大きく溜め息をついた。
「まぁ、人が頭から溶けてゆくなど、不気味な光景だな。冒険者をやっている以上、それ以上の光景も目にしてきたが‥‥」
えぇ〜‥‥ そうなの? という村人たちの視線を集めながら、アルバート・オズボーン(eb2284)はモンスターを特定しようと記憶を手繰る。
「砂の化けモンなんているもんなのかね」
リフィーティア・レリス(ea4927)は、襲撃の様子を聞いて、あからさまに嫌そうな顔をしている。
「ジェルのようなモンスターなのだろうか‥‥」
「話を聞く限り‥‥、砂男という妖怪のようでござりまするが、実際、調べてみないとわかりませぬね‥‥」
呟くアルバートに、火乃瀬紅葉(ea8917)は自信を持って答えた。
といっても、自身の目で確実に見極めようとするあたり、流石は魔物ハンターの異名を持つ冒険者である。
「モンスターのせいで水辺に近づけなければ生活にも支障が出ますよね。水浴びして遊ぶことも出来ませんし。
微力ですが、村の皆さんの力になれるよう頑張ってみましょう」
「はいっ。村の民の安全のためにも、紅葉、必ずや水辺の怪異を退治してみせまする」
確かに安心して洗濯もできないし、身体も洗えないしな‥‥と言う、村人たちの不安そうな表情を払拭するように、ユリアル・カートライト(ea1249)や火乃瀬たちは、努めて落ち着いた様子で怪物への対処法を相談し始めた。
村人たちも切羽詰っているのか、消えた女についての話、川辺の砂地についての話、最近村の周囲であった出来事など、全く関係なさそうな情報まで細かく話してくれる。
「そういえば、同じ砂でも海には水があるのに、砂漠にはないですね」
「砂の化け物っていうと水辺からは離れてそうなもんだけどな。水に流されたら終わりっぽいし。あ、砂じゃなくて、砂被ってるだけなのかな」
大宗院鳴(ea1569)の唐突な脱線や、リフィーティアのふとした疑問に多少混乱しつつも、怪物の現れた場所や事件の傾向は纏まってきた。後は現地へ赴いて実際に判断するしかない。
「些か厄介だが、引き受けた仕事はキッチリこなさないと」
「あぁ。でも、俺たちが消されないように注意しなきゃいけないな」
雪切刀也(ea6228)やリフィーティアたちが村人を励ますように言うが、やはり最後は神頼み。
「建御雷之男神様の力により妖怪を滅ぼしますので安心してください」
大宗院の言葉に、村人たちは大いに力づけられるのだった。
●水辺の探索
問題の川辺へとやって来た冒険者たち。
周辺の様子は詳しく教えてもらっていただけに、少し調べただけで現場や周辺で視界を確保しながら身を隠しやすい場所などを見つけ出すことができた。
「特に変わった様子はないですね」
大宗院らは掘り返された跡がないか眺めるが、遠くからではよくわからない。
といって、すぐに足を踏み込むほど迂闊ではない。
リフィーティアは適当に枯れ小枝を現場となった水辺へ投げ入れてみるが、反応はない。
「探知系の魔法に引っかからなくても、実体があれば、これが動く。それでわかるはずさ」
そこらで拾った小石を、鋼はバラ撒くように投げ入れた。
「モンスターは動くものに反応するのかな?」
首を捻るリフィーティア。
「かもしれないな。それじゃ、可哀想だが‥‥ しっかり囮になってくれよ」
雪切は、村の狩人から分けてもらった兎に紐をつけて放った。
紐の先は釣竿に結び付けられ、雪切は、その竿を操ることで嫌がる兎を水辺の砂地へと誘導した。
主義主張はこの際、置いておくしかない‥‥ 安全の為、奇麗事は言ってられない。
「それじゃ、こっちも」
レンティスは、ついさっき釣り上げた魚を魚篭から取り出し、針を身体に刺して竿を振った。
ぽちゃん‥‥
釣り糸は流れに逆らい、一杯に糸が張ると、魚は泳ぎの向きを変えた。
「今のところ、変わった様子はないな」
「こちらにも変化は」
インフラビジョンで熱源の変化を探っている雪切や、バイブレーションセンサーで接近する振動を感知しようとしているユリアルらは首を振った。
「さぁ‥‥ 尻尾を出してみろ‥‥ とはいっても尻尾は無さそうだが」
鋼は闘気の力・オーラエリベイションにより、集中力を高めて風景の少しの変化も見落とすまいと目を皿のようにしている。
「現れませんね」
ユリアルが溜め息をついた、そのとき‥‥
石や枯れ枝が僅かに動いたような‥‥
「来たか?」
鋼の声に、全員が集中して水辺を見守る。
そして、唐突に砂地が盛り上がり、兎が反応する間もなく、包み込んだ。
「あら、本当にいきなり出てくるのですね」
のんびりとした大宗院の感想を他所に兎は逃れようと必死にもがくが、その動きに合わせて、体を包んだ砂は形を変え、力を逃がしているようだ。
雪切は兎を助けようと竿を引くが、それすら‥‥
「すまないな。後で墓くらい作ってやる」
暗器の風車を投げ、それでも駄目だと悟った雪切は、一瞬、黙祷して竿を放した。いつまでも手間を掛けてはいられない。
逃げられ、警戒でもされたら、倒す好機を逸してしまうかもしれない。
「もう少し誘き寄せられれば良かったんだけど」
ユリアルは口を解いた水袋を投げつけた。
生命を持っているかのような砂は墨を被ったが、傷ついたのではないと安心したのか、僅かに動いただけで、一層、兎を包み込んだ。
「砂に飲み込まれたのかな?」
リフィーティアのサンレーザーが太陽光を凝集するが、威力が低く、ビクッと砂が波打つだけだ。
「正体見たり、砂男‥‥ 烈火の紅葉、いざ参りまする!」
火乃瀬が砂の塊の辺りに高速詠唱ファイヤートラップを掛けるが、表面を焦がしただけで、その焦げも、すぐに体の中に練りこまれるように消えていった。
「打たれ強うございます。お気を付けくださいませ」
「みたいだな」
「よし、行ってくれ」
「任せろ」
レンティスは、鋼にオーラパワーを付与してもらった日本刀を構え、隠れていた場所から踏み出そうとした。
近付くことは得策ではない。それはわかっている。
「一気に決めよう」
オーラエリベイションを発動させたアルバートが続こうとしたとき‥‥
するり‥‥
砂男は溶けるように崩れ、砂地と一体化した。
「しまった‥‥」
レンティスは歯噛みするが、パッと見ただけでは、どこに砂男がいるのかわからない。
「モンスターの仕業とわかっただけでも進展だ。人攫いや殺人者が、魔法の幻で、怪物が人間を捕食したように見せたなどという手の込んだ事件ではなかったんだからな。それにまだこの近くにいるはずだ」
アルバートは、必死になって探すが、中々それらしい気配はない。
「砂男は殆んど捕食の本能で動く魔物。複雑な思考ができる魔物ではありませぬ。今探し出せば‥‥」
「早くしないと逃げられてしまいますわ」
思案を巡らそうとしている火乃瀬の言葉の途中で、大宗院は川辺に向かって歩き始めた。
「お待ちくださりませ」
「大丈夫、建御雷之男神様の加護は得ましたの」
見れば大宗院の身体は時折光る燐光を纏っている。
「無理はしてないんだな?」
「大丈夫ですわ」
アルバートの剣にオーラパワーを付与した鋼に、にっこりと大宗院が微笑むと、冒険者たちは互いを見つめて頷いた。
●囮
仲間たちが臨戦態勢で待ち受ける中、大宗院は水辺へと歩を進めた。
「いた」
「あそこだ」
ばら撒かれていた石や枯れ枝が僅かに動き、墨で黒くなった砂地の中に、普通の砂が見える。
どうやら掛けられた墨は吸収してしまったらしいが、それが砂男の位置を明確にしていた。
怪我の功名。あるいは不幸中の幸いか?
大宗院も、それに気づいたらしく、近寄ってくる速度にあわせて水辺から離れるように仲間たちの方へと歩き出す。
「あっ‥‥」
ユリアルの叫びと同時に砂は急激に盛り上がり、大宗院に纏わりついた。
ババシッ!!
帯電していた電気が砂男を襲い、ざわわと身体をうねらせて、砂男は思わず大宗院から離れた。
「くそっ、手応えがない‥‥」
「本当に効いているんでしょうか‥‥」
「それでもやるしかありませぬ」
「しぶとい!!」
鋼のオーラショットが、ユリアルのグラビティーキャノンが、火乃瀬のファイヤートラップが、リフィーティアのサンレーザー砂男を捉えるが、ぐにゃぐにゃの体で本当に効いているのかよくわからない。
「こいつっ!!」
レンティスは伸ばしてきた砂男の一部にカウンターアタックでスマッシュを決めようとするが、密着するように盾を絡め取られ、効果的にカウンターできない。おまけに日本刀の重さを威力に上乗せしようにも密着しすぎていて、逆手で日本刀を突き立てるのが精一杯。
「レンティス!」
アルバートの日本刀が切り裂くが砂男は離れない。その間にもレンティスは砂男に飲み込まれていく。
「これ以上は、させません」
ユリアルのアグラベイションが砂男の動きを奪っていく。
うにゃり、うにゃら‥‥
思うように動けないようだ。よし!!
「これで終わりにしろ!」
雪切はクリスタルソードを砂男に突き立て、リフィーティア、鋼、大宗院たちも刃を砂男の身に埋めた。
「ふん‥‥ 厄介な敵がいたものだな‥‥ これからも、どんなのが出てくるやら‥‥」
鋼は苦笑いで辺りを探索している。他にも砂男がいたら危険だ。
「さ、これが終わったら、釣っておいた魚でも焼いて食おう。腹が減ったし、疲れたよ」
大きく溜め息をつくレンティスに、皆も思わず苦笑いするのだった。