【東風西乱】白河の関、馬揃え

■ショートシナリオ


担当:シーダ

対応レベル:12〜18lv

難易度:難しい

成功報酬:6 G 66 C

参加人数:10人

サポート参加人数:6人

冒険期間:07月04日〜07月11日

リプレイ公開日:2006年07月17日

●オープニング

●那須の風
 先日のこと、上野国沼田の地において、謀反鎮圧のための戦が起こった。
 山越えで背後を突かれた沼田城主・沼田万鬼斎は討たれ、那須・武蔵の連合軍は真田兵の追撃を振り切って一躍帰途に着いた。
 これにより、上州に火が付くかと思ったが、今のところ動きはなし‥‥
 各大名の思惑は、思ったよりも深く絡み合っているのか‥‥
 とは言え‥‥
 那須や武蔵にとって勝利は勝利。武士たちは凱声に士気を上げている。
 実を言うと源徳信康殿が那須入りし、湯本温泉神社や福原八幡を参詣した折、秘かに戦勝祈願が行われていたのだ。
 それを聞いた武士たちは神の加護に感謝し、多くの者が参拝したという。
 ただ、政はそれだけで済まない。
 那須藩主・那須与一公と家康公名代・源徳信康殿が、沼田会戦での戦勝の儀式を行うのだ。
 それが、加護の感謝を神に示す、福原八幡宮における弓射の神事。
 那須・武蔵の武士たちの武威を示す、白河の関における馬揃え。
 那須豪族たちの結束を固めるための湯本温泉神社への戦勝報告などなど‥‥

●黒頭巾の鬼武者
「吉次様から依頼で御座います。那須の馬揃えをぶっ潰せ。望むなら与一と信康の首を取れ‥‥と」
「相わかった。確かに、これで馬揃えが滅茶苦茶になれば、与一も源徳も面子は丸つぶれだ。
 死に場所と見つけたり。吉次殿に宜しくな。京で救ってもらった恩は必ず返す」
 堂の中に座っていた男からは殺気が漂ってくるようだ。
 用件を伝えた黒脚絆の男は、顔を青くしながら堂を去っていく。
 それを見計らうように、額に小さな一角をあしらった陣鉢を付け、布鎧の上から羽織を着けると、傍らにあった大刀2本を腰に差し、立ち上がる。
「この恨み、晴らさで置くべきか」
 その所作に隙はない‥‥
 光が走ったように思った瞬間、切り落とされた灯りが床に落ちる‥‥
 鬼のような相貌を隠すために黒頭巾を被ると、男は燃え上がろうとしている堂を後に歩を進めた。

●那須白河
 那須北東部のこの地は、兵を展開させるに十分な平地があり、交通の要衝でもあることから軍事上の重要な場所であり、広く『白河の関』として世間に知られている。
 かねてから剣呑な関係にある奥州藤原氏を牽制するためにも、仙台藩の伊達政宗公に示威するためにも、那須藩は武力を見せ付ける必要があった。
 そこで、沼田での戦勝を祝して、那須藩士、信康の部下、蒼天隊などが集い、ここ白河で馬揃えが行われることになったのである。
 鎧甲冑に身を包み、馬印を押し並べ、幟を背負い、屈強な軍馬の列が行く。
 見事な弓を携えた那須の弓軽騎兵、質実剛健な源徳信康殿配下の騎馬兵‥‥
 数百の那須兵、武蔵兵が白河小峰城の城下に集結し、馬揃えのときを待ちに待っているのが、遠くからでも感じられる。
 しかし‥‥
 この地で凄惨な戦いが始まろうとしていることに気づいている者はいない‥‥

●今回の参加者

 ea0204 鷹見 仁(31歳・♂・パラディン・人間・ジャパン)
 ea1488 限間 灯一(30歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea2473 刀根 要(43歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea3190 真幌葉 京士郎(36歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea3744 七瀬 水穂(30歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea4481 氷雨 絃也(33歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea4591 ミネア・ウェルロッド(21歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea8417 石動 悠一郎(35歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb0712 陸堂 明士郎(37歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb2244 クーリア・デルファ(34歳・♀・神聖騎士・人間・ノルマン王国)

●サポート参加者

限間 時雨(ea1968)/ レヴィ・ネコノミロクン(ea4164)/ 暁 鏡(ea9945)/ 将門 雅(eb1645)/ 緋宇美 桜(eb3064)/ 空間 明衣(eb4994

●リプレイ本文

●馬揃え
 どどどっと騎馬の列が、地を揺るがす。
 濃紺を基調とした、腹巻、護身羽織、大袖という出で立ちに、大小の刀を半槍を佩き、弓を携え、那須重臣・小山朝政殿に率いられた弓軽騎兵。
 片や、色取り取りの大鎧という出で立ちに、槍・刀・弓を携えた、信康殿の守役・平岩親吉率いる勇壮たる源徳騎兵。
 それら縦陣の2隊を先頭左右に並べ、下野大名の喜連川那須守与一宗高公と摂政・源徳家康の嫡子・源徳信康殿に続く形で、後方には、那須武士団、蒼天隊、源徳武士団が1列ずつ3列縦陣が続く。
「那須藩も少しは落ち着いてきた感じなのです」
 駿馬に跨った七瀬水穂(ea3744)が可愛らしく手を振ると、薬草園計画の折に仲良くなった女性たちから、きゃ〜と反応がある。
 さて‥‥
 隊列の中央で、あまり目立たない形の蒼天隊だが、これはこれで理由がある。
 言うなれば、有事の際に蒼天隊が遊撃の位置を確保できるよう上層部に配慮を頼んだ結果なのだ。
 先日、この白河の地では、熊鬼軍団の襲来があった。
 それらが黒の装備に統一されていたことから、欧州忍軍・黒脛巾組の手によるものではないかと噂され、与一公と信康殿が衆人の前に現れる、この機を彼らが逃すわけがない。
「良き領主たらんと突詰めようとすれば敵を生む。この世は、なんとままならぬことか」
 着流しに力襷、大刀2本を佩いただけの鷹見仁(ea0204)らは、思わず溜め息をつく。
 那須藩は他国の忍びと繋がりがあると、黒脛巾組の首魁と目される金売吉次からの出資を回収不能に、つまり借金を一方的に棒引きする触れを出した。この措置により藩内の経済が浮揚したのは嬉しい誤算だが、いかに那須藩が水面下で経済侵略を受けていたかの証左だが、吉次にしてみれば思うところもあるだろう。
「そうだな。那須藩が、これほど強硬に動くとは‥‥ だが、これが敵を呼び込む要因となる」
 紋付袴に力襷、十字鎌槍『宝蔵院』にミドルシールドと、和洋折衷の装備で戦馬・潮風を進める刀根要(ea2473)は思案顔だ。
 かつての部下である末蔵を介して馬具武具に細工がされていないか、それぞれの武士たちに確認を依頼する念の入れているが、内外から妨害はある‥‥ 必ず。それが冒険者たちの総意だった。
「心配が的外れならいいのだがな。にしても、この格好はマズかったか?」
「もとより蒼天隊は遊撃隊だしな。これもある意味、正装であろう」
 氷雨絃也(ea4481)も石動悠一郎(ea8417)も蒼天隊ならばこそ許される軽装で馬揃えに加わっている。
 最近増強されつつある那須藩密偵は、彼らの言を入れ、四方に探索の手を伸ばしている。
 事前に察知できれば、こちらは足軽がいない分、精強さは折り紙つき。
 しかし、万が一ということがある。周囲に武を示すのは大事なのだろうが、果たして‥‥

「日本を離れていたりで少々世情に疎くなっていたが‥‥ 知っていると、この馬揃えの意味もまた変わってくるな」
 藍染の鉢金の上に茨の冠、首元を蒼のスカーフで結んだノーブリスキルト、薄青色の透き通るようなサーコートを留める宝石の薔薇、右腕には青の飾り布を垂らした聖者の槍、左腕にはリュートベイルという歌舞いた姿の真幌葉京士郎(ea3190)には、観客の惜しみない声援が送られている。
「あぁ、大事な御二方だ。何としても護らなければな」
 すぐ後ろで戦馬・飛龍乗雲に騎乗するのは、黒鬼縅の武者鎧に鉄篭手を着け、胴田貫を佩いた陸堂明士郎(eb0712)。
「那須殿の進む道。その先が見たくなったからね」
「そうさ。俺みたいな者の描いた絵を見て、感謝の言葉をくれるような方だからな。死なすわけにはいかん。フィーのためにも」
 その後ろに葦毛の駿馬に跨り、戦いの女神を象った白亜の鎧と盾、純白のウィンプル、と、まさに白騎士という出で立ちのクーリア・デルファ(eb2244)が長巻を騎士の作法で体の前に構えて続き、護身羽織の抜き肩の部分からは内鎧であるホークウィングの鷹の羽が勇壮さを、業物の大刀は質実剛健を、木の葉のレリーフが刻まれた妖精の盾は優美さを引き立てる限間灯一(ea1488)は、歓声に答える。
「与一公と信康殿は必要な人。守ってみせるさ」
「えぇ。でも‥‥ どうにも心配性でいけませんね、自分は」
 挙動不審な視線を向ける者、見知らぬ者、家紋の不確かな者には十分注意するよう、警備責任者に頼んでおいたが、いかにも他人任せで鷹見も限間も不安だ。
 そのときだった。
「何だろ?」
 愛馬シフォンの鞍で満面の笑みを振り撒いて観客にアピールしていたミネア・ウェルロッド(ea4591)は目を凝らした。
 ざわっと空気が変わり、数瞬の後、観客から悲鳴が上がった。
「パレードの最中は、暗殺のセオリーだからね♪」
 やはり、とミネアたち冒険者は即応態勢に入る。
「源徳兵の展開する方向から狙うとは」
「軍備が固まっているとはいえ混乱してしまえば脆いとふんだか? 行ってくる」
 指揮系統や面子、武士の誇りなど、全て見越して最も混乱すると思われる方面から襲撃をかけてきたと予測した限間は、石動らが騒動の中心に向けて行くのを見送った。
「那須与一さんと渋いおじさんを護らないと♪ ぼっとしないで♪」
 既にミネアは馬を降りて、太刀を片手に与一公と信康殿の近くまで駆け寄っている。

●難敵
 観客が押し寄せ、源徳の武士たちが縄張りへの進入を阻止する形で混乱を助長していた。
「密集せよ! 殿をお守りするのだ!!」
「四方に集中せよ! これは囮の兵じゃ!」
 様々な怒声が飛び交い、混乱の収拾には暫し時間が必要なようであった。
 ともあれ、最精鋭である与一公と信康殿の周囲の武士たちは、肉の壁と化し、主君を護っている。
「この重装備は、護り手である為のものだ。白壁のようにな」
 クーリアも、その1人だ。重装備ゆえにリカバーもグットラックも使えないが、壁にはなれる。
 ミネアは、与一公と信康殿の周りを固める武士たちを観察していたが、どうやら、この中に敵が潜んでいる様子はない。
「行くぞ、真九郎! 鎮まれ、無理はせず、己が愛馬を沈めることに集中し、まずは隊列を整えるんだ。
 敵の数は少ない! それぞれの旗の下にまとまり、その生き様を見せてやれ!」
 周囲の武士から、わかっていると怒気を浴びせられながらも、真幌葉は構わず叫ぶ。
「陽動でしょうか」
「どこかに伏せ勢があって然るべきですね。奇襲とは、そういうものです」
「兎も角‥‥ 那須に今一度ともった灯‥‥ 絶やさせる訳にはいかぬのです」
 限間と刀根は周囲の馬を静めながら、殺気を放っている者がいないか、人が隠れられるような荷や屋台がないか気を配りながら、オーラエリベイションで集中力を高めた。

 騒動の渦中へ飛び込もうと、下馬して先陣を切っていた鷹見は、人混みの中に物騒な気を放つ男を見つけた。
 太刀筋を見極め、カウンターの一合で斬り倒そうと、鷹見は胴田貫に手を掛けた。
「曲者!」
「問答無用」
 低い声と同時に、白刃が走ったような気がしたが、激痛と共に身体が朱に染まるまで鷹見は把握できない。
 反撃しようとするが、男は観客に紛れて簡単に攻撃できない。
 その間にも与一公らへと接近する男の後を追い、背後から斬りつけようと間合いに入ろうとした瞬間、男は半身を開いて白刃を放った。カウンターしようにも太刀筋が見えない‥‥
「ば、馬鹿な‥‥」
 鷹見は押し寄せる観客の怒涛に剣を躊躇するが、男の神速の剣は刹那を突いて鷹見だけを狙ってくる。
「くそっ‥‥ せめて一太刀‥‥」
 真っ赤に染まる視界に鷹見が最後に捉えたのは、男の後姿だった‥‥

 石動と氷雨は、何かを求めるように伸ばす鷹見の手の先に、静かに歩を進める男を見つけた。
(「この馬揃え、両公の敵を誘い出す罠だと思っていたが違うのか‥‥」)
 いかにも武士たちの対応が受身に徹している。氷雨は舌打ちした。大量に血を流す鷹見を放ってはおけないが‥‥
「石動、鷹見を頼む!」
 氷雨が抜刀して駆け出すと周囲の観客に悲鳴が上がる。
 シャ‥‥
 男は振り向き様に、鞘鳴りの僅かな音と共に白刃を煌めかせた。
 居合い? くそっ‥‥ 相手の方が速い‥‥
 氷雨は途中で軌道を見失い、歯を食いしばった。
 痛みを堪えて繰り出した氷雨の一撃は手打ち。男の傷は浅い‥‥ 慌てて薬を飲み干した。
 男の居合いが閃くが、やはり最初の動作しか目に留まらない。
「やるな。だが‥‥」
 再び薬を飲み干し、剣を繰り出して男に一撃を与えるが、男は抜刀して嵐のように討ちつけてくる。
 捌かなければ‥‥
 しかし、男の方が手数が多い。薬を飲み干す間もない‥‥ 瞬く間に追い詰められていく‥‥
「ふん‥‥ 冒険者の遣り口を真似させてもらうぞ」
 男は懐から薬を取り出すと一気に飲み干し、再び歩き始める。
「くそっ‥‥」
 氷雨は遠のく意識の中、油断を呪い、自分の名を呼ぶ石動の声を聞いた。

●単騎突入
「まさか‥‥ 敵はあれだけなのか?」
「そんな馬鹿な」
「いや、腕に絶対の自信があり、死を恐れなければ‥‥」
 限間と刀根は顔を見合わせながらも、敵が1人だという可能性を否定できない。その証拠に他方面からの敵の襲撃は一向にないのだ。
 前後左右から斬り掛かる武士の刀や槍を物ともせずにさけ、男が通り過ぎた後は鎧の隙間から血を流す武士たちが倒れる。
「突破される前に、公らは御退きください」
 刀根たちは撤退を勧めるが、下手に動けば領民たちを危険にさらすと与一公は拒否した。
 自身の身を護ることが大事という信康殿の言葉を、後がないほど防御陣が突破されたわけではないと一蹴してである。
「民が見ている。陣を崩すな! 返り討ちにせよ!!」
「源徳の兵の強さを見せよ! これしきの数、捻りつぶせ!」
 与一公が下がらないのだから、信康殿も乗らねば仕方がない。
「頑張るですよ! たった1人に那須や武蔵の兵が敗れるなんて、冗談にもならないですよ」
 七瀬はファイヤーボムを上空に放って注意を惹こうとするが、この場合、逆効果だ。
 限間や刀根たちは、再び落ち着きをなくした馬たちを落ち着かせるのに忙殺される始末。

「俺は蒼天隊・陸堂明士郎! 沼田の戦いの戦場の死神とは俺のこと。いざ、尋常に勝負!!」
「この煌びやかな舞台を貴様の好きにはさせぬ‥‥ 烈風の京士郎、参る!」
 混乱する武士団に代わり、陸堂を筆頭に真幌葉やクーリアたちが前線へ出て、半包囲するように進む。
 無言で接近する男は、間合いを計る陸堂の動きに制空圏を感じて歩みを止めた。
「言うだけある‥‥が」
 男は、放たれた衝撃波をかわし、不用意に間合いに踏み込んだ真幌葉に一刀を加えた。
 その切っ先を見切ることも捌くこともできない。おまけに長さ2.5mもある槍だ。簡単に振り回せない。
 その槍を挟んで陸堂を牽制しつつ、男は2撃、3撃と真幌葉を滅多斬りにしていく。
「うぉお‥‥ 無念」
「くそっ、戦慣れしてやがる」
 力を失う真幌葉を見ながら何もすることはできない陸堂は歯噛んだ。
 その焦りからか、一瞬の隙を突かれて光が陸堂の顔の近くを掠った。 
 何とか軌道を捉えて目を斬られずには済んだが、出血が目に入り、視界は殆んどない。
 咄嗟に目を擦った瞬間、身も弥立つ恐怖が走り、陸堂はカウンターの剣を繰り出した。
 手応えはあったが、クーリアの援護も空しく、男は的確に陸堂の鎧のない部分を斬り裂く。
「小僧どもを斬り伏せる前の余興にしては血が騒ぐわ!」
「まさか俺が敗れるのか!」
 どれだけ斬られたのか、陸堂にもわからない‥‥ すでに視界も真っ暗だ‥‥
「邪魔だ」
「嘘‥‥」
 クーリアは盾をかざそうとするが動くこともできない。男の切っ先が切り裂いた首筋からは大量の血が流れている。
「させるか!」
 石動は月のエンブレムを掲げ、間一髪、クーリアの首筋に追撃をかける男の剣を止めた。
「皆の無念は拙者が晴らす。お前を、これ以上先には進ませない!」
「うぉりゃああああ!!」
 剣を鞘に仕舞う男の凄まじい殺気に気圧されそうになりながら、石動は霊刀『アマツミカボシ』を構える。
 見えた! 軌道を読んだ石動は再び白刃の閃きを止めた。
「できるな‥‥ 貴様」
 男の口の端がニヤリと歪んだ。

「刀根さん、限間さん、行ってくださいです。皆が‥‥ 仲間が死ぬところなんて、もう見たくないですよ」
 必死に汚名返上しようと七瀬は周囲の馬を宥めながら叫ぶ。
「何っ! 陸堂さんがやられたのか?」
 限間と刀根は、僅かに注意を逸らした間の攻防の決着に愕然としながらも、馬首を巡らせた。
「これほどの武士(もののふ)たちに出会えるとはな」
「強過ぎる‥‥ だが!!」
 男と石動は壮絶な潰し合いを繰り広げ、間合いを取っては薬で傷を癒して討ち込みを続けている。
「蒼天が一矢、刀根要、推参!」
 割り込むような十文字槍の馬上突撃を、男は何とか際どいところで捌いた。
 しかし、乱戦は、この男の得意とするところ。
 限間に手傷を負わせ、それを盾にして、複数に狙われないようにしていた。のだが‥‥
「油断してたでしょ」
 見下ろした男の目に映ったのは、120cmにも満たない身長の、幼さの残る胸(ごふっ)‥‥容姿の乙女、ミネアだ。
 戦場に似つかわない少女は太刀を持ち、その切っ先は、男の太腿に深く突き刺さっている。
 力を加えると、ミネアは邪魔にならないように飛び退る。
「ぐっ‥‥」
 それでも男の居合いは刀根らを捉え、穂先や剣先をかわし、捌き‥‥ いや、限間や石動の剣が、刀根の槍が、男を血まみれにし、動きを鈍らせていく。
「戦場で死ぬるは本望!!」
 男は刀を振りかざし、動かない。
「立ち往生しましたね‥‥」
 冒険者たちは、改めて血の気が引く思いを味わっていた。

●死地からの帰還
 薬とクーリアのリカバーで気が付いた鷹見は起き上がろうとして、目を回した。
「血を流しすぎました。暫くは安静にしておかなければ」
「それで、敵は?」
 朦朧とする頭で聞いた。クーリア自身、血が足りないが、リカバーを使える者は1人でも多い方が良いに決まっている。
「討ち死にしました。勿論、那須殿も源徳殿も無事。何人か、侍は斬られましたが‥‥」
 無理して笑顔を絶やさないクーリアの言葉にホッとして鷹見が首を巡らすと、そこには横たえられた仲間や武士たち、領民の姿が‥‥
 馬揃えに招かれていた高僧やクーリアのリカバーなど回復魔法、七瀬たちによる薬草での対処療法の御蔭で死者を出さなかったことだけが幸いである‥‥
 尤も、冷静に対処して凶賊を成敗できたとはいえ、武士団の名誉は著しく傷つけられただろう‥‥
 まるで吉次の笑いが聞えてきそうだ‥‥