老いても勇者

■ショートシナリオ


担当:シーダ

対応レベル:7〜13lv

難易度:やや難

成功報酬:3 G 80 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:07月05日〜07月10日

リプレイ公開日:2006年07月19日

●オープニング

「江戸の平和はワシが守る! い痛たたた‥‥」
「あぁ、爺さんしっかりしなって」
「えぇい、年寄り扱いせんでくれ」
「そうは言ってもさ」
 江戸冒険者ギルドで、ギルドの親仁が白髪、白髭、皺だらけの顔のお爺さんの‥‥ あ痛‥‥ 熟練の剣士の身体を支えた。
「まだまだ若いもんには負けはせん」
 背中をシャンと伸ばし、鞘つきのまま剣を構えて見せるその姿には中々の貫禄がある。
「え〜っと、牛頭鬼の退治依頼が入ってるんだけど?」
 馬鹿‥‥という親仁の目配せに、職員がヤバイといった表情になるが遅い‥‥
「これじゃな」
 案の定、爺さ‥‥ あ痛‥‥ 錬達の剣士が、依頼の書き付けを手にとってフムフムと髭を扱きながら読んでいる。
「ワシの探し取った引退依頼としよう。
 九尾は旗取りに負けて討ちに行けなかったし、京都の乱は、ひ孫が熱を出して上京は涙を呑んだ」
「重蔵殿‥‥」
「だから、せめて! 名のある魔物でも退治して隠居生活に戻ろうかと思っておるのだよ」
 親仁は苦笑いしながら重蔵を‥‥ あ痛‥‥ 剣豪・重蔵殿を見つめている。
「わかったよ、重蔵殿。俺が仲間を集めてくるから、待っててくれ」
「いや、ワシの仲間じゃ。この目に適う者でなければな」
 そうして、何人かの冒険者が貴台の英雄・重蔵殿の目に適ったのであった。

 依頼内容は、こう‥‥
 江戸から徒歩で1日ほどの村でのこと‥‥
 昔、六部(諸国六十六箇所の霊場を回る行脚僧)が封じたという牛の角を持った鬼の縛が、不届きのせいで解かれてしまった。
 以来、捧げ物を与えなければ村を襲うようになったようだ。
 それを倒してほしい。
 なお、普段は棲家を決めず、山中を気ままに放浪しており、牛頭鬼の所在を突き止めるのは難しいという。
 だが、先にも言ったとおり、牛頭鬼は5日おきくらいの間隔で、供物を取りにやってくる。
 そのときを狙って倒してほしい。
 ということだ。

●今回の参加者

 ea2831 超 美人(30歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea2832 マクファーソン・パトリシア(24歳・♀・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 ea3665 青 龍華(30歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea4026 白井 鈴(32歳・♂・忍者・パラ・ジャパン)
 ea5557 志乃守 乱雪(39歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 ea5794 レディス・フォレストロード(25歳・♀・神聖騎士・シフール・ノルマン王国)
 ea7310 モードレッド・サージェイ(34歳・♂・神聖騎士・人間・ロシア王国)
 ea9191 ステラ・シアフィールド(27歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)

●サポート参加者

御簾丸 月桂(eb3383

●リプレイ本文

●作戦
「年長者はどっしり構えて、若者が失敗した時にだけ手を貸す方が、人生の先輩らしくて頼りになる人って思えるけどね、私は」
 まずは‥‥と青龍華(ea3665)は宣言した。こういうことは始めが肝心。
「わかったよ。作戦には口は出さん。皆、宜しくな」
「わかっています、わかっていますとも。最後の依頼の仲間に僧侶の私を選んだ、重蔵さんのお覚悟のほど!」
「どういう意味じゃい」
「そうではないのですか? それにしても女性が多いですね」
 志乃守乱雪(ea5557)の軽口に、重蔵は、はにかんでいる。
「うむ。こういう依頼も良いのぅ」
「どういう意味ですか?」
「上品な巫女さんに、色っぽいエルフとハーフエルフの乙女、健康美の華国美人、凛とした女僧、可愛らしいシフールの女剣士‥‥ 欧州では、こういう状態を、確か‥‥ごーれむとか言うたか」
「それを言うならハーレムよ」
 青は思わず吹き出した。
「にしてもさ。この格好なのに、何で重蔵さんの目に適ったのか凄い気になるところよね」
「簡単さ。その瞳に惚れた」
「な、何、言ってるの!」
 しろやぎ帽子のことを突っ込んでくれるのかと思いきや、瞳をジッと見つめられて不覚にもドキッとしてしまった。
「強さを求める真剣な眼差し。ワシは好きだよ」
(「何か調子狂うなぁ」)
 そう思いながら、青は思わず笑顔で溜め息。
「それなら、男が2人いるのは、なぜですの?」
「1人は腕っ節が強そうだったから用心棒役の荷物持ち。で、お前さんが、何と言ったかな‥‥ ますかっと? というやつだ」
「それを言うならマスコットです」
「にゃはは〜☆ 何だか知らないけど、役には立ってるんだね」
 白井鈴(ea4026)の頭を撫でる重蔵に、ステラ・シアフィールド(ea9191)が笑う。
「俺は用心棒かよ。ま、引退の餞ってやつだからな‥‥ 大目に見てやるさ。
 ただよぉ‥‥ ここ一番てとこで、酷ェ腰痛で倒れ込まないでくれよな‥‥」
 胡乱(うろん)な目で、じ〜っと見つめるモードレッド・サージェイ(ea7310)。
「とまぁ、こういう優しい奴なんじゃよ」
「おいおい‥‥」
 どうやら、口では敵いそうにない。
「牛頭鬼。相手にとって不足はないが、罠を作れば少しは有利に立てるか。重蔵殿、どう思われる?」
 怖いのは己の油断と超美人(ea2831)は決意を新たにし、その上で重蔵に尋ねた。
「まぁ、思うところはあるが、作戦には口を挟まん約束だからな。好きにやってみると良い。本当に危険なら言われんでも口を挟む」
「年寄りの冷や水って言う言葉があるけど、そればかりじゃないみたいね。でも、私には私の良さがあるのよ。力の質は違えど負けないわよ」
「そうだな。因る年波には勝てぬ。年寄りは年寄りだよ」
 変な対抗心を抱いていたマクファーソン・パトリシア(ea2832)は、どこかうまくはぐらかされた気がした。
 兎も角、ギルドの親仁が一目置くような人物だ。何かを得て帰ろう。
 それはマクファーソンだけでなく、他の冒険者たちも、そう思い始めるのだった。
「こういう方って、やめる、やめると口にしながら、やめないものですよねぇ‥‥」
「何か言ったかい?」
「いえ」
 レディス・フォレストロード(ea5794)は、優しい微笑みを重蔵に向けた。
「惚れてはいかんぞ」
「惚れません」
 悪戯っぽく笑う重蔵と一緒に、一行も思わず笑ってしまうのだった。

●早く言ってよ
「この辺も通りそうよ。罠を置いても無駄にはならないでしょう」
 マクファーソンの指示で罠が掘られ、供物台の周辺に罠が設置された。
「それにしても牛頭鬼って、結構とんでもない鬼らしいわね。女性攫ったりとか、強い以前の問題で」
 不完全な情報ながら志乃守から牛頭鬼のことを聞いた青は憤慨している。
「なぁ、良いか?」
「いいから手出さないで見ておけ」
「気の強い女は好きだが、聞きなさい」
「作戦には口出ししないって言ってたでしょ? 武士に二言は?」
「ない。ないが‥‥ 向こうを見てから言うんだな」
 重蔵が口を挟もうとしていると思った青は、逆に反論を封じられ‥‥
 牛頭鬼が、こちらを見ているのと目が合ってしまった。
「時間は稼ぐ。何とかせよ」
「同じく」
 重蔵とレディスは、臨戦態勢だ。
「出現の周期は気にしていたのだがな」
「相手あっての作戦だ。いつも上手く嵌るとは限らんよ」
 重蔵の言うことも確かに尤もかもしれない。
「それに欲張りすぎだ。逃げ帰る道、全てに落とし穴を仕掛ければ、敵がやってくるときに掛かるのは道理。違うかな?」
 確かに‥‥ マクファーソンは、溜め息をつく。
「とは言うても手傷くらいは与えたようだな。レディス、回り込んでくれ。上空から頭上を狙うんだ」
「了解。さて、牛鬼を相手にするのは初めてですね‥‥ どの程度戦えるものか試してみましょうか」
 ベストな状況で戦えるとは限らない。
 その中でベストに近い状態に持っていくのが冒険者の本領。幸いにも罠に仕掛けておいた竹槍で掠り傷くらいは与えたらしい。
 警戒を重ねて牛頭鬼が逃げ出さなかったのも幸運と言うべきだろう。
「なぜ、落とし穴に嵌りながらもやってきたのでしょう?」
「食い物がほしいからさ。相手は単純な鬼‥‥なのだろう?」
 重蔵はマクファーソンに笑みを向けている。
「重蔵様、どうか後進である私たちにお任せ頂けないでしょうか。
 もしお手伝い頂けるのであれば、私と同じように後方支援をお願い出来ないでしょうか?
 前に出る事だけが戦いではないことを、至らない私どもに御教授願えないでしょうか」
 重蔵が前線に出ることのリスクは十分に承知しているが、ステラの提案は、いかにも腰が低すぎて慇懃無礼に聞える。
「そう言うな。ワシの力が足りなかったときのために仲間がおるのだろ?」
 重蔵は、仲間たちがあたふたしている間にオーラエリベイションを発動した。
「御神酒は無駄になっちゃったな」
「作戦通りにいけば役に立ってたわよ」
 オーラエリベイションにより集中力を高めた青は、白井の肩を叩いた。
「突っ込んでくる前に態勢を整えないと」
 マクファーソンはフレイムエリベイションを発動させ、次の魔法の詠唱に入る。
「俺は、いつでもいいぜ」
 モードレッドはクルスソードを構え、祈りを捧げる。
「御仏の護法を。さあ重蔵さん、思い残すことのないよう、最後の戦いを」
「かたじけない‥‥って、不吉な言い方をせんでくれ」
 志乃守は重蔵にグットラックをかけた。
 牛頭鬼は、今日に限って、なぜか穴に落ちたりして虫の居所が悪いようだ。
「キョロキョロしおって! 根性無しめ! 我らを恐れぬなら掛かってこぬかぁ!!」
 馬鹿にしたように鼻で笑う重蔵に、牛頭鬼の浮き出た血管がピクッと動く。
「鼻で笑って、振り向いて歩くのだ。気は抜くなよ」
「ちょっと」
 重蔵の言葉に口を挟もうとした青を超が制す。
 重蔵たちが背中を向けた途端、牛頭鬼は猛然と突進してくる。
「そういえば、あそこにも掘ったっけ」
 白井の呟きと同時に牛頭鬼が足元に張ってあった縄に躓き、転んだ先の落とし穴に嵌る。
「一気に仕留めます」
 マクファーソンは、振り向き様に高速詠唱のウォーターボムを唱えた。
 動きは鈍らないが、牛頭鬼は全身ずぶ濡れだ。
 重蔵が飛び出すのに合わせて全員が動く。
「大地の鳴動よ! 彼の敵を妨げよ!!」
 ステラのクエイクが牛頭鬼の足元を揺らした。
「これだ。この連携が冒険者の醍醐味!」
 作戦を話し合っていたときから重蔵にはわかっていたのだろう。
 掘り返され、柔らかくなった土が水を含み、牛頭鬼の重量がかかったところを大地ごと揺らす。
 踝の上まで埋もれ、湿った土で牛頭鬼は上手く這い上がれない。
「もう少し、じっとしててね」
 白井の風車が牛頭鬼に突き刺さる。
 手傷というには小さな傷だが、牛頭鬼が這い上がるのを遅らせるのには十分。
「モードレッド、そこ、足元気をつけて! あっ、青は回り込んで!」
 マクファーソンの指示でモードレッドは落とし穴の近くから位置取りを変え、レディスが頭上で回り込む。
 牛頭鬼が穴から這い上がったときには、周囲は既に冒険者たちに囲まれていた。
「ぶもぉおお!!」
 牛頭鬼は雄叫びを上げるが、ずぶ濡れ、ドロドロ、完全包囲で凄まれても‥‥
「斧には十分気をつけて」
 マクファーソンの言葉に一同は頷いた。
「バラバラにいくなよ。一気に押し込むぞ」
 モードレッドは、囮のスマッシュを仕掛けた。牛頭鬼は、それを受け止める。
「破っ!」
 青の龍叱爪が牛頭鬼を切り裂き、突き刺した。

●必殺技
「避けてばかりではない。こちらの攻撃も受けてみろ!」
 超ら、他の仲間の攻撃も効いてはいるのだろうが、頑強な雰囲気そのままに牛頭鬼は打たれ強い。
「えぇい、しぶとい。こうなれば必殺技を使うしかない!」
 重蔵は落とし穴から少し距離を取り、集中を始めた。
「賭け事のようなやり方はあまり好きではないのですが‥‥」
 援護のためにレディスが牛頭鬼の頭上から顔の前を横切るように斬撃を加える。
 モードレッドがバーストアタックを繰り出すが、流石に大斧を壊すほどの打撃は産み出せない。
「はぃやぁああ! 流星の舞い!!」
 魔法を発動させた重蔵は、見違えるような動きで次々と刀を繰り出す!
 牛頭鬼も必死に受けようとするが、捉えきれない刃が確実に、その身体を切り刻んでいく。
 素晴らしい身体捌きでポーズを決めた瞬間‥‥
「あ痛‥‥ たたた‥‥」
「オーラマックスなんか使うからだ!」
 瀕死級の腰痛で動けなくなった重蔵に総ツッコミ!
「馬鹿やってんじゃねえ、人生からも引退しちゃ、本末転倒ってやつだろうがよ!」
「すまねぇ」
「それは言わない約束だろ」
 モードレッドは、重蔵を引きずるように牛頭鬼から遠ざけた。
 とはいえ、牛頭鬼の動きは確実に鈍っている。
「残念だけど生きて返すわけにはいかない」
「そう、女の敵は生かしておけないの!」
 超は問答無用で剣を振り下ろし、青は逃れようとする牛頭鬼の顎に強烈な龍飛翔の一撃をくらわせた。

「はーい、急患入ったわよー」
 青の声の調子からは、予想通りよねぇ‥‥みたいな感じが聞き取れる。
「流石の活躍、感服しました。貴重な経験を得られた事に感謝します」
 自前のポーションを飲み、暫し横になって、重蔵は超らの指圧を受けている。
「ま、最後に相応しい活躍はしたんじゃない。私の活躍のおかげも大きいのだけれど。後は、あなた次第よ」
 どうやらマクファーソン、最後まで対抗意識丸出しのようである。
 しかし、その言葉の裏には『まだやれる』という思いが篭っていそうだ。
「そうだな。まだまだ若いもんに色々教えてやらにゃ、いかん。もう少し、冒険者を続けて後進に助言をするとしよう」
「やっぱり、こうなるのね‥‥」
 え〜〜〜と溜め息をつく仲間たちを眺めながら、レディスは御茶を一服するのだった。

 さて‥‥
 冒険者たちは倒した牛頭鬼を封印されていたという場所に埋め、封印の祠を墓の代わりとして志乃守は弔いの経をあげた。
 戒めの意味も込めて、志乃守は村人たちに時々供え物をして祠を綺麗に保つように言いつけ、奉ることを忘れれば、いつかまた、牛頭鬼が現れると付け加えた‥‥