【恋の夜の夢】七夕に願いを込めて
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■ショートシナリオ
担当:シーダ
対応レベル:フリーlv
難易度:易しい
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:8人
サポート参加人数:3人
冒険期間:07月06日〜07月11日
リプレイ公開日:2006年07月21日
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●オープニング
「お〜、結構見事だな」
ギルドの表に飾られた大笹を、ギルドの親仁や冒険者たちが見上げている。
枝葉が多く、薄緑の節々は、どこか目に優しく、神秘的な雰囲気に包まれていた。
しかも、それは全高8mほどもある大きなもので、周囲の建物よりも高く、結構目だっている。
江戸城富士見楼などから見えるのだと聞くし、道行く人の話題となっているようだ。
さて、これをどうしたものかというと、冒険者たちが鎮守の竹林と呼ばれるところから頂いてきたものだ。
土砂崩れで倒れてしまい、枯れてしまうしかないものを貰い受けてきたのである。
「守護霊の宿る竹林から貰い受けてきた、霊験あらたかな笹だからな。願い事にも御利益があるぞ。きっとな」
もうすぐ、七夕。
希望する冒険者には白・黒・紅・黄・緑の五色の短冊の中から好きな物が渡され、この七夕の飾り笹に思いを込めて、願いを書いた短冊を吊るすことが許されている。
「宿木(やどりぎ)みたいなものか?」
「その木の下のカップルはキスをしても構わないとかって、あれか?」
頷く異国の騎士に、親仁は少し違うかなと笑った。
「なぁ、親仁さん。願い事って何でも良いのか?」
「本来は織姫と彦星に願いをかけるのだから、裁縫や織物、字の上達なんかを願うんだろうが、俺は色々書くぞ」
「何個も書いて良いのか?」
「あ〜、誤解されるような言い方しちまったな。短冊1枚に1個って俺は決めてる。枝に結べるのは1年に1枚ともね。その方が御利益がありそうだろ?」
首を捻る騎士の許に、女性がやってきた。途端に周囲の空気が、お花一杯になったような錯覚を感じる‥‥
「どうだい? 彼女と願いを込めてみては」
「そうですね。良いかも」
異国の騎士は不思議そうな顔をする彼女に話を始めた‥‥
冒険者たちは果たして、どのような願いを込めるのだろうか‥‥
依頼の斡旋など正規の業務で忙しいギルド職員に代わって短冊を渡す奉仕作業を請け負ってくれる冒険者を募集する旨の依頼が張り出されるのだった。
●リプレイ本文
●準備万端
「お上の立て札じゃないんだからさ。もちっと何とかならなかったのか?」
「例えば?」
異国の者への七夕の解説文などを載せた看板の前で、ギルドの親仁に言われ、ネム・シルファ(eb4902)は首を傾げた。
「こんな感じかな」
箪笥の棚に牡丹餅の絵を、さらさらっと描いている。
「何の意味があるのです?」
「願いが叶ったら儲けもの‥‥ 棚から牡丹餅‥‥ 棚牡丹(たなぼた)‥‥ 七夕(たなばた)‥‥という洒落ですな」
湯田直躬(eb1807)は、ふむふむと頷いている。
「これがジャパンのユーモアと言うやつなのですね。異国情緒溢れて、面白くて楽しそうな、お祭りです♪」
クリス・ラインハルト(ea2004)は、目をキラキラさせて親仁のことを見ている。
「しっかし、生足、半乳、色っぽい姿はギルドにいれば幾らでも見れるが、浴衣でやるのは、どうにかならんのか?」
「でも、可愛いでしょ?」
帯で止めるように、膝上まで折り返して短くしたミニ丈浴衣で以てクルリ。
ギルドに頼んだら、暑苦しいよりは良いだろうと、快く古着屋から貸りてくれた浴衣である。
冒険者たちの目にも留まりやすく、宣伝効果は十分に認められるようだ。
クリスの意図していない部分で目に留まっている面も多分にあるのだが、それは置いとくとして‥‥
「目のやり場に困るんだよな‥‥」
「その気持ちはわかりますぞ」
顔を赤らめ、一応指摘した親仁に、湯田は苦笑いしながら頷いている。
「可愛くなかったですか?」
「いや、可愛いとは思うが‥‥」
「良かった。ほら、みんなも可愛いでしょ」
こりゃ敵わんとギルドの親仁も苦笑い。
「涼しくて気持ち良いですよ」
コロボックルのイノンノ(eb5092)にしてみれば、京都の暑さから逃れて江戸に来たのに、やっぱり暑いので辟易していたのだ。
特にコロボックルの民族衣装は、蝦夷の寒さに対応しているものだけに、江戸ではちょっと‥‥
「ところで、それは?」
「あぁ、里芋の葉に溜まった朝露、つまり、月の滴を集めてきたのですよ」
「これを使って墨を磨るんですって。きゃあ」
どったーん!
何もないところで唐突に転んだリーラル・ラーン(ea9412)が湯田にぶつかって、壷が放物線を描いて‥‥
ごくっ‥‥
その場にいる者たちの唾を飲む音が聞こえる中、転んだ先のリーラルの手に‥‥
「あぅぅ‥‥痛いです。また、転んじゃいました」
ちょっぴり首を竦めて微笑むリーラルが壷を抱いているのを見て、ほっと溜め息。
「そろそろ始めましょうか。大笹に、どんな想いが込められるのか楽しみです。ステキな七夕にしましょう♪」
「そうですな。この大笹のためにも、日頃、お世話になっているギルドの皆様へのお礼も兼ねまして、良き七夕となるよう裏方の仕事に励みますぞ」
「僕も頑張るよ」
竪琴を掻き鳴らすネムに、湯田や糺空(eb3886)たちは頷いた。
「奉仕活動などとは無縁だと思っていたがな‥‥」
「よし、張り切ってご奉仕するぜ」
そこに現れたのは赤い髪のどこか面影の似た2人。
「妖怪小僧じゃねぇか」
「そういうお前は俺の偽者」
互角のメンチを切っているのは、夜十字信人(ea3094)と夜十字信人(ea9547)だ‥‥って紛らわしい。
あまつさえ偶然にも2人が選んだ浴衣は同じ柄‥‥
区別がつくところといえば、背丈?
そして、ちびっこい方は女‥‥ どぶほぉ‥‥
そのことには‥‥触れないとして‥‥
「まあまあ、喧嘩なんかしないで。ほら、キミはこうした方が可愛いですよ」
クリスが夜十字の‥‥、ええと、ちびっこい方の夜十字の裾を膝上までたくし上げる。
「って、な、何だ、それは‥‥ 俺はヤだぞ」
肌が露になった、ちびっこい方の夜十字は顔を赤らめて、裾を直した。
「これが大和撫子というものですな」
親仁と湯田は、うんうんと頷いている。
「お前、女だろうが! しかも俺の名前を使いやがって。だいたい、俺の名前で騒がれると迷惑なんだよ」
「てめ〜! 俺は男だ〜〜!」
はっ‥‥ どこかで波の音がしたような‥‥
それは兎も角、くんずほぐれつ、ボッコボコに殴りあう夜十字信人と夜十字信人。ええぃ、紛らわしい!
大きい方を信人一号、小さい方を信人二号としておこう。
「俺との区別のために格好くらい変えろよ」
「い、嫌だ。俺はしないぞ、俺は男だからしな‥‥ うぼあー」
どこぞの皇帝のような叫び声を上げながら、信人二号は圧倒的な信人一号の腕力に組み伏せられてミニ丈浴衣を着せられていく。
肌蹴た浴衣の合わせの隙間から晒しが覗き、周囲から、おぉ‥‥と溜め息が漏れる。
「酷いよ」
「あ、いや‥‥ すまない」
信人二号は噛み付いた! 続けて、信人二号は引っ掻いた!!
「てめっ!」
「嫌だぁ‥‥」
格闘戦の実力の差は如何ともしがたく‥‥
「世の為、人の為、は似合わんのだが‥‥ まあ、微妙に楽しいから良いか‥‥って、じゃないか」
じんわり涙を浮かべている信人二号を上から下へ、下から上へ舐るように信人一号が見つめる。
「ジ、ジロジロ見るんじゃねぇよ!!」
「似合ってると思ってな」
「気持ち悪いこと言うな、偽物のくせに」
信人一号の瞳に、肉親の情のようなものが宿っていることに、2人とも気がついていないのだった。
とはいえ、これを似合っているとは‥‥ ろりきゅあの称号も伊達じゃないということか‥‥
ともあれ‥‥
『良い天気に恵まれますように』
イノンノは大笹を採ってきた鎮守の竹林の守護霊の願いを見上げて微笑んでいる。
あの短冊が願い事、第一号‥‥
「一々、俺の願いなどに目を通すほど、織姫も彦星も暇ではないかな」
「きっと見てくれますって」
信人一号とクリスは、『俺の姫様の幸せを願う』、『お裁縫が上手くなりますように』、『お胸がもうすこし自己主張してくれますように』という黒短冊を見て、微笑んだ。
「『もっと強くなれますように。後、金持ちになれますように。それと、早く俺が本物の夜十字信人だと周囲が認めてくれますように。頼むぜ、カミサマ!』? 多っ! というか、お前なぁ」
「一枚しか書かないのが通ってもんさ。長さは関係ない」
白い短冊の1枚にツッコミを入れる信人一号に、それだけ言うと信人二号は知らん振りをした。
「何笑ってんだ、俺?」
思わず微笑んでいた自分に、信人一号は自分へのツッコミを入れた。
●ギルド前
「織姫・彦星に届くよう、鎮守の竹林の大笹に想いを託してみませんか〜」
ギルドの前では、ネムたちが冒険者たちに声掛けをしている。
「何の騒ぎです?」
「七夕ですよ。ジャパンの御祭りなんです」
大笹の葉の下でネムとクリスが歌で伝説や内容を説明をすると、異国のウィザードは、乗り乗りで参加してくれた。
「暑さに負けず、挫けぬことですな。ん、卓袱台が吉物と出ましたぞ」
墨を磨り終わった湯田は、短冊を渡しながら今月の運勢を占っている。
「こんな風に書けばいいんですよ」
『どの国の子供たちも笑顔で暮らせますように』という短冊を指差してクリスは短冊を差し出した。
ノルマンでもジャパンでも悲しい目の子供の姿は、見ていて辛い‥‥ それはクリスの切なる願いであった。
「何色の短冊が宜しいですか?」
「白いのを」
「これですね‥‥ 是非、笹に祈りをささげる際、大笹にもありがとうって言ってください‥‥ きっと大笹も喜んでくれますよ」
「そうしよう」
自然と笑みがこぼれてしまう。それを見て、リーラルは嬉しさで一杯になる。
「高いところに下げたい方は、梯子を使ってくださいね」
「良ければ私が」
短冊を受け取り、クリスが結わえた。
「これも頼みますぞ」
江戸城のお偉いさんにも書いてもらえないかと打診していた短冊が帰ってきたらしく、それも結わえられる。
『この世がさらなる栄華を極めるよう・・・・』
ともあれ‥‥
皆が喜んでいるのを見ていると、出だしは上々のようである。
●冒険者長屋
色んな理由でギルドに足を運べない者もいるだろうと思った信人一号二号、イノンノ、糺らは冒険者長屋や酒場を回って冒険者を探し、短冊を代わりに結んでやろうと奔走していた。
「さー、良い子のみんな、お兄ちゃんが短冊を上げようね。何色が良い?」
「お姉ちゃんじゃ無いの?」
冒険者の子供が首を傾げる。
「な、何だとこのクソガ‥‥」
ばきっ!
身体を横に『く』の字にして信人二号が吹っ飛ぶ。
「オイラも、そんな凄っい蹴りをしてみたい〜」
「ほら、この短冊に願いを書いて笹に吊るすと叶う、と言うぞ」
「ホント? お兄ちゃん?」
「さあな? ただ、神頼みをアテにする前に、己で足掻くのを忘れるな。それが‥‥ 男ってもんさ」
拳を握って見せる信人一号の笑顔に、キランと歯が光る。
「何すんだ〜!!」
首が『く』の字に曲がったまま、信人一号の涙が日の光を反射して、キラキラと尾を引いた。
「はい、これですよ」
イノンノが短冊を渡すと、子供は嬉しそうに、一生懸命に書き始めた。
ミニ丈浴衣で走り回って疲れた糺。酒場にいる冒険者を探しに来たついでに近くの飯屋で昼御飯にすることにした。
店員に貰った鰹節を愛猫・白雪に与えながら、軒先の床机で素麺を啜っている。
「結構配ったね、白雪」
「なぉ」
撫でてやると、白雪は嬉しそうに目を細めた。
つるるっ‥‥ ちゅるん‥‥
面を啜っていると‥‥
「あっ!? 柳お姉ちゃ〜〜〜ん」
「空、どうしたの?」
一生懸命に走った糺は、にっこり近付いて、微笑みながら短冊を差し出す。
「はぁはぁ‥‥ 白・黒・紅・黄・緑の五色がるけど、どれが良い?」
「それじゃあ、これ」
「ちょっと待っててね」
グッドラックを短冊にかけ、糺は彼女に短冊を渡した。
「ところで何なの、この短冊? あ、もしかして七夕なの?」
こくんと頷く糺に、彼女は微笑み返した。
●七夕の夜
「誕生日、おめでとう!」
仲間たちの拍手に包まれて、ビックリしたけれどリーラルは幸せな気分で一杯だ。
クリスとネムの竪琴と歌が、気分を盛り上げていく。
宴の料理は、食の進む素麺。
親仁からの差し入れが、鯛の尾頭付きというところが純和風なのも、ほのぼのとした雰囲気にさせた。
『雨乞舞の益々の上達を願う』という短冊を下げた湯田のウェザーコントロールの御蔭で、今夜は快晴。
空には星がキラキラ瞬いている。
大笹の枝には、わんさと短冊が下がっており、折り紙などの飾りと相まって華やかな姿が浮かび上がっていた。
短冊には『世界を巡れますように』やら『彼女募集中』やら『駄洒落を極めたい!』やら、様々な願いが結ばれている。
中には『息子に早く嫁を貰えますように』と親心たっぷりの短冊も‥‥
糺の隣には志士の女性が佇む。傍から見れば男女逆に思えるかもしれない2人の指には揃いの指輪が‥‥
『みんなとずっと一緒に居れます様に』
彼女の短冊の隣に下げた糺の短冊は、本当は彼女と一緒にいたいという気持ちの表れなのか‥‥
糺が彼女を見上げると、手が触れて思わず、びくっとしてしまった。
再び見上げると、そこにあったのは、彼女の微笑み。
2人は、そっと手を繋いで空を見上げた。
「空?」
疲れたように肩に頭を預け、寝息を立て始める糺に、彼女は思わず微笑む‥‥
「願いが叶うといいですね」
『素敵な出会いがありますように』‥‥
蝦夷を出て、初めての土地で戸惑ったり、言葉に右往左往したり、そんなときの様々な出会いに感謝しているイノンノは、自分の短冊を見て、次に周りの短冊を見渡して七夕の空に祈りを捧げるのだった‥‥