戦禍の果てに魂は彷徨う
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■ショートシナリオ
担当:シーダ
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 35 C
参加人数:6人
サポート参加人数:2人
冒険期間:07月12日〜07月17日
リプレイ公開日:2006年07月21日
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●オープニング
「流石に、もう残っちゃいないかぁ」
戦場(いくさば)の死体から武具を漁って売る。そんなことは、古今東西、行われてきたことだ。
時には当代の業物が手に入ることもあり、そんなものが見つかれば、どれだけ遊んで暮らせるか‥‥
だからこそ、必ず誰かが現れる。
まぁ‥‥
五常の乱が収束して、この方、京都周辺で戦らしい戦は起きていないから、一稼ぎに来た者たちにとって諦め半分。
だからといって期待していないというわけではない。
死体が覆いかぶさっていて目に触れなかった、価値のあるものが見つかるかもしれないからだ。
「お、金じゃねぇか」
鎧兜の飾りの切れっ端か何かだろうが、金は金。金そのものの価値は、幾許かある。
「さて、もう少し見つかってくれれば酒の肴になるんだが‥‥」
鏃が銀になっていないかとか都合の良いことを想像しながら、男は髑髏などをひっくり返している。
ぼてっ‥‥
からら‥‥
ぎしゃっ‥‥
異様な物音に男が驚き、恐る恐る振り向くと‥‥
かかかかか‥‥
髑髏の顎が鳴り、まるで笑っているかのよう‥‥
そこには、腐って肉の削げ落ちた骸骨の武者が、ボロボロになった鞍を載せた半ば骸骨の騎馬に跨っている。
穴の開いた武者兜から風に靡くザンバラ髪‥‥
面頬の隙間から覗く、どこまでも吸い込まれそうな真っ黒な眼窩‥‥
鎧の所々は留め紐や留め金が破損していて、脱落している‥‥
血と脂肪の固まって、穂先の曲がった槍‥‥
そして、手にしている甲羅盾は傷だらけで、激戦を物語っていた。
「ま‥‥ マジかよ‥‥」
男は一目散に逃げるが、荷物を抱えたままでは骸骨騎馬の速度に敵わない。
焦るあまり、荷物をぶちまけ、慌てて拾おうと屈んだ頭の上を、穂先が空を切る音が切り裂く。
「こんなこと、してる場合じゃねぇ!! って、マジかよ」
荷物を捨てて走るが、骸骨騎馬は、ぴったりと後についてくる。
結局、散々追い回されて、男は命からがら逃げ延びたのだった‥‥
京都冒険者ギルドに京都近辺の陣屋からの依頼が張り出されたのは、この事件の少し後のことだ。
『京から徒歩1日半の戦場跡にて、死人の騎馬武者を発見。退治のため、冒険者を向かわせたし』
‥‥と。
●リプレイ本文
●彷徨う魂
「髑髏‥‥ 笑っている‥‥?」
「酒代稼ぎもしなきゃって思ったし、暇だから依頼を受けたけど、これ‥‥」
笑みにも似た乾いた顔は、そこはかとなく物悲しい。襲ってこなければ‥‥の話ではあるが‥‥
斑淵花子(eb5228)と椥辻雲母(eb5400)は、周囲の遺骨に手を合わせた。
さて、兵士たちの遺体は、基本的に放っておかれる。
心ある者が時間のあるときに、あるいは時間を作って少しずつ、また、僧らが、これまた少しずつ埋葬したり、供養したり‥‥
「戦の後とは、いつであろうと惨い有様ですね‥‥」
「全くね。ちゃんと成仏してほしいわ」
野ざらしの屍の下からは埋もれさせるように草が伸び、早くも土に返ろうとし始めているのを見て、花井戸彩香(eb0218)と仔神傀竜(ea1309)は経を唱えた。
1つ1つが成仏できるように経を唱えてやりたいが、戦場は広く、数も多い。
適当なところで切り上げなければ、いくら時間があっても足りない。
「俺が襲われたのは、こっちだ。う〜ん、大した物は落ちてねぇな」
尤も、男にしてみれば色々と探す時間ができて、それなりに有意義なようだが‥‥
褒められるものではないが、彼にとって、これは大事な収入源の1つなのだ。
花井戸たちにしてみても、予想位置はわかっても、この広い戦場だ。当てもなく探せば依頼を達成できないかもしれない。
最低限の戦闘力しかない男を護らなければならない危険はあるが、依頼達成の確率を上げる方が大事。
だからこそ‥‥か、見て見ぬふりとはいかないが、少しの間、気づいていないふりをするくらいはできる。
そうこうしながら冒険者たちは男の道案内で戦場跡に踏み込んでいく。
「襲われたのは、ここだな。あっちこっち逃げ回ったから、よく憶えてないけど、振り切ったのは向こうか」
男の説明を聞き、とりあえずここを基点に探索を行うことにした。
●骸骨騎馬
「道返の石を使うわ。ええやろ?」
仲間から道返の石を借りた焔珠樹(eb5580)は、意識を集中して長々と祈りを捧げる。
やがて一瞬空気が澄んだと感じ、焔が顔を上げる。
「これで半刻は成仏できない死者の動きを鈍らせることができるっちゅうわけやな。そんじゃ‥‥」
焔の言葉を遮るように花井戸の持っていた『惑いのしゃれこうべ』が、かたっかたっ‥‥と歯を鳴らし始めた。
ということは、近くにアンデッドがいる‥‥
危ういところであった。何も知らずに動き回っていたら、奇襲を受けたかもしれない。
全員で周囲を警戒するために、円陣を組んだ。
今回の冒険者は、白兵戦ができる前衛が2人と少ない。対して男も含めると後衛は4人。
早期発見が後の戦況を左右すると言っても良い。
「あなたは、この中にいて」
仔神は時間の許す限り、ホーリーフィールドの結界を張るために魔法詠唱に専念し、まずは男にその中に入るように言った。
骸骨武者の攻撃を受ければ破れてしまうかもしれないが、一撃くらいは肩代わりしてくれし、敵のみの移動を阻害してくれるため、配置のしようによっては陣地代わりとしても使えるはずだ。
いざとなれば仔神も錫杖を手に、前衛の援護くらいはするつもりだが、兎も角も、今回は後衛の安全を確保するのが先決。
後衛を気にしながらでは、前衛が実力を出し切れない。
「あ、あ‥‥ あれ‥‥」
斑淵は泣きそうな顔で一点を指差した。
から‥‥ かららっ‥‥
「頭に刺さっている矢が致命傷だったのかな‥‥」
「戦いに集中しないと、今度は斑淵君があんな風になるかもしれないよ」
「あ‥‥ それはヤダ。ボケッとしてたね。御免」
そっと頷く椥辻に、斑淵は笑うと得物を構えなおした。
「馬に乗っておられるということは、元はそれなりのお方だったのでしょうか」
花井戸は息をするのもさえ忘れがちになる。
「恐らくは怪骨や死人憑きと呼ばれるようなものでしょう。怪骨であれば、かなり素早い動きをするはずです。皆様、気をつけて」
それでも、何とか成仏させたいという思いが、花井戸の思考を、身体を動かす。
「で、出たぁ‥‥」
散らばる骸骨の中から兜を被った髑髏が頭をもたげ、骸骨馬が立ち上がると、骸骨騎馬に追いかけられた記憶が蘇ったのか、男は青い顔で後ずさりする。
「あなたは、結界の中にいて。この石の近くにいれば、とりあえず安心だから」
仔神に諭され、男は頷いて蹲った。
「あぁっ‥‥ やはり、この距離では‥‥」
花井戸のコアギュレイトは発動に失敗したようだ。
今の実力で専門ランクではどうしても成功率が下がってしまう。
「意識を戦いに集中せな。勝てる戦いも勝てへんで」
焔の作り出したファンタズムの兵士に、骸骨騎馬は突っ込む気配だ。
これで少しは前衛も戦いやすくなるだろう。
●激戦
道返の石の効果の中にあるというのに、骸骨騎馬の槍捌きは、それなりに冴えを見せている。
突かれたのがファンタズムの兵士でなければ、もしかしたらかわしきれなかったかもしれない。
「こっちだよ!」
斑淵を狙おうとしている骸骨騎馬に月桂樹の木剣を繰り出すが、際どいところで大きな甲羅の盾に受けられてしまった。
向きを変えた骸骨騎馬は槍を連続で繰り出してくる。
やるなぁと感心しながら、至近でかわした槍にヒヤリとした。
ならば!
斑淵は腰の真鉄の煙管を抜くと、木刀と同時に繰り出した。
流石に同時攻撃は1つの盾では受けられず、片方は槍で受けるしかない。
しかも、長大な槍での受けは難しい!
80cmもある大きな煙管は、骸骨武者の肋骨を何本か逝かせた。
「常世の闇よ! 彷徨える魂を包み込んで」
仔神のダークネスが骸骨武者を包み、途端に目標を見失ったのか闇雲に走り、結界に突っ込むようにぶつかり、一瞬、骸骨騎馬は動きを止めた。
「ひぃ‥‥」
まるで闇を纏ったかのような骸骨武者に、結界の中で蹲っていた男が思わず押しを抜かす。
「ちゃららら〜ん、今です☆」
斑淵は槌を振り上げ、背後からスマッシュをくらわせると、ぱきぃっと乾いた音で骨が砕ける。
ぐわっしゃ‥‥
音を立て、骸骨武者の足は砕け、骸骨馬から落馬した。
その身は暗闇に覆われながらも外形をうかがわせる。
片足がないので立ち上がれないようだ。
そのとき‥‥
「今です。破壊してください!」
「任せてよ」
ピュアリファイでもあれば成仏させられたであろうが、ないものはしかたがない。
動きを止めるまで破壊するしかないのだ。
花井戸のコアギュレイトで動きを止めた骸骨馬を、斑淵の槌が、仔神の錫杖が砕いていく。
骸骨武者は出鱈目に槍を振るため、余程油断していなければ当たることはない。
「待って! 頭は御家族の下に返してあげたいのです」
「分かった!!」
花井戸の叫びに応え、椥辻は身体を重点的に砕いていく。
もはや、盾の受けも意味を成さない‥‥
ただ、破壊されゆくのみ‥‥
「ヒヤッとしたけど、結界もあったし、魔法の支援もあったし、割と楽だったね」
「敵が1体でしたからね。数が多ければ、ああはいかなかったでしょう」
「それに、敵さんが都合よく現れてくれた、いうんが、良かったんちゃう?」
冒険者たちを見て、男は‥‥
(「こいつらを敵に回すのだけは、よしとこう‥‥」)
そう心に誓うのだった。
●鎮魂
「とりあえず、これで我慢して」
斑淵は、戦場荒らしの男に耳打ちすると、壊れた飾りを握らせた。
泥などで汚れてはいるが、金だ。幾許かの金にはなるだろう。
驚く男に斑淵は、くぱっと微笑む。
「これはあなたのものかしら?」
包みの中には貴金属や翡翠などの宝石のかけら、その他、雑多な素材の切れ端などが入っている。
但し、男の落胆振りを見る限り、破れて全てが揃っているわけではなさそうだが‥‥
それでも無いよりはマシと、男は仔神に礼を言っている。
神楽鈴を打ち鳴らし、焔珠樹が鎮魂の舞を続けると、狐のようなファンタズムの焔が立ち並んでいく。
焔が揺らめかないのが、まるで死者の魂がその場に縛られ、時間が止まっていることを示しているかのように‥‥
「貴方がいるべき所へお帰り下さい」
「どうか迷わず光の元へ進めますように‥‥ 暫くすれば盆にもなりましょう。そのときは家にお帰りなさい」
その舞いと合わさるように花井戸と仔神の読経が続く‥‥
骸骨武者は荼毘に付され、焼き尽くされていく。
これでもう、この骸骨武者が、この世に迷い出ることはあるまい。
時間の許す限り、鎮魂の儀式を済ませ、冒険者たちは帰路についた。
後日‥‥
椥辻らが、回収した武具と遺骨をギルドに持ち込み、陰陽寮経由で家紋などを調べてもらったところ、無事、本人の特定がなされ、遺骨・遺品は家へ帰ることができたという。
ギルドへの調査依頼の金と武家からの謝礼金とで概ね相殺されて冒険者に実入りはなかったが、武士が供養してもらえるとわかり、少しは気分良く顛末を迎えることができた。
なお、思っていたより、かなり少なかったが、少しは実入りがあったと戦場荒らしの男も諦めながら納得して去っていったという。