【東風西乱】八溝入植計画、始動
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■ショートシナリオ
担当:シーダ
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 98 C
参加人数:8人
サポート参加人数:10人
冒険期間:08月02日〜08月09日
リプレイ公開日:2006年08月19日
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●オープニング
●那須の風
先だっての那須藩主・那須与一公の神田城帰還の報、そして家康公の激文の許で行われた上野国沼田への遠征成功の報、更には従軍した足軽たちの殆んどが無事に帰ってきた報に、領民たちは嬉しそうに顔を輝かせている。
福原八幡での弓射の神事は成功し‥‥
襲撃を受けたものの敵は無事に撃退し、最終的に馬揃えは、なぁなぁになってしまったが、那須与一公と源徳信康殿が鞍を並べて姿を現したことで、武蔵と那須の連合が堅いことを示すことはできた。少なくとも特定の藩には‥‥
ともあれ、那須に吹き始めた風はどこに向かうのか‥‥ それは後の歴史‥‥、いや、当事者たちの見た現実だけが‥‥、いやいや、誰も本質を見抜くことができないかもしれない真実だけが知っているのかもしれない。
さて‥‥
沼田会戦に参加した江戸からの国抜けの者たちは、那須へ帰還して、約定通りにその罪を許された。
武蔵と下野の両国の取り決めを手続きしている間に多くの刻を過ごしてしまったが、与一公と信康殿の那須での会合の総仕上げとして復興祭を前に、それもつつがなく終わった。
なお、復興祭の噂を聞き、ある程度は江戸に帰ることにしたらしいが、それでも行き場のなかった自分たちを気遣い、助命の道を示してくれた那須に残りたいという者たちもいる。
彼らには那須に土地が与えられることになったのだが、普通、大量の余所者を好んで受け入れてくれる土地は無い。
だが、幸か不幸か、那須には、人が住め、かつ、人の住んでいない土地があった。
それはどこか‥‥
那須東部にある八溝山の麓である。
過去に鬼の国騒動として那須を揺るがせた騒動の折、麓の住民は少なからず被害を受けていた。
全滅した村もあれば、幾つかの村人たちが集って、1つの村に住んでいるところもあるという。
「やはり、人手が足らぬの」
長老は辺りを見渡して溜め息をついた。
往年であれば、一面に田んぼを作っているはずなのに‥‥
「そうじゃ、そう言えば捕えられた江戸の国抜け衆が戦勝の赦免を受けたと聞きますぞ」
壮年の男が言うと、長老は『おぉ』と、その意を理解した。
「お上に申し出よう。国抜けを許された者たちを是非にも八溝の地に入植を、とな」
陣屋への根回しなどを済ませた長老は那須神田を目指し、陳情の途に着いた。
●八溝
八溝山が鬼の拠点となって以来、那須藩は、この近辺に睨みを利かせられる麓の地に地形を利用した砦を設置した。
先年の八溝山決戦の折、那須軍が布陣した場所であり、防御陣地をそのまま転用したものである。
さて、平時においては監視の役目が大きいため、常駐する兵数は少ないが、それでもそこらの陣屋に比べれば規模は大きい。
彼らの任務は、先に述べたとおり、主に八溝山の監視だ。
だが、それ以外にも、住む者たちのいなくなった、あるいは少なくなった村々の警備も任務として与えられていた。
しかし、受け持ちの広さに比して人数は少ない。
重要拠点である那須神田城と白河小峰城の他に、矢板川崎城の防備を固め、各拠点の連絡路を整備中だからである。
矢板・大田原・黒磯・白河と、奥州へ続く街道の整備は、商業のためと謳っているが、有事には軍路として使われるのは明白である。
また、武具増産計画は用途を絞り、規模を縮小しながらも着々と成果を上げている。
その成果が、先の沼田合戦、馬揃えの那須弓軽騎兵であり、弓射の神事で与えられた銀の鏃の矢である。
さらには、軍馬育成計画に関しては、馬揃えで秘かに何頭かが御目見えしているようだ。
藩士の手が比較的に掛からなくなってきたのは薬草育成に関する七瀬計画だろうか‥‥
話を戻そう。
八溝砦だけでは管区を監視下、庇護下に置くことは難しい。
那須藩の総事業に対して藩士の数が足りていないからだ。
ある日の評定でのこと‥‥
発言を許された若き那須藩士は言った。
「殿、八溝の小村や廃村にて鬼や魔物を見たと報告が参っております。
それと、那須へ移民する者たちですが、優先的に八溝周辺に入植させては頂けないでしょうか。
近隣の村々は、鬼騒動の折、被害を受けて十分に働き手が無いところもあります。
ましてや全滅に近い村があったのは周知のこと」
「良いでしょう。その線で各所、検討を始めてください」
従来の生産技術を用いる場合、生産の限度がある以上、人口増加により生産効率は単純に上がらない。
ましてや人手が足りていない所があるならば、生産力の底上げをする方が先決なのは自明の理である。
「それについてなのですが‥‥」
若き藩士は続けて語った。
八溝山の麓では、砦の兵の巡回の目を盗んで、あるいは目に付き難い場所に魔物が棲みついているようだ‥‥と。
放っておけば、那須領の一部が再び、魔物の脅威に晒されるかもしれない‥‥と。
入植するのであれば、当然、露払いはしなければならない。
そこで白羽の矢が立ったのが、那須藩預かりの冒険者部隊・蒼天隊である。
冒険者ギルド那須支局を通じて持ち込まれた依頼の1つが、これだ。
『とある廃村の中央に立つ木に巨大な雀蜂が巣を作っている。
これの退治に蒼天隊の存分なる働きを期待する。
但し、入植予定地につき、村内は、できるだけ荒らさぬこと』
なお、江戸から2日の距離にある那須喜連川の冒険者ギルド那須支局を拠点にして現地へ赴くように、とのこと。
那須支局にて情報提供など簡単な支援は受けられるようだ‥‥
●リプレイ本文
●偵察行
アルディナル・カーレス(eb2658)たち冒険者は、那須支局に立ち寄り、情報や支援を受けて出発した。
「全部、退治したみたいです」
「ここで小鬼2匹と遭遇、退治‥‥と」
渡された地図を元にアルナディルたちは手持ちの経巻に書き込みを入れながら、地道に周辺を踏破しつつ、リアナ・レジーネス(eb1421)のブレスセンサーなどで探索しながら現地の村へと歩を進めている。
強敵が現れないことや、水源や水路が、それほど被害を受けていないのが不幸中の幸い。
だが、今回の本命は、これらのパトロールにあらず。
「あの時は時間があったのと、地元民のシフールたちの協力があって、蜂が夜間に行動しないという行動パターンが分かったんだがね。
ただ失敗した事もあって、巣を燃やした際に底が焼け落ちて蜂に襲われて危なかった。今回も十分に気を付けたほうが良さそうだな」
「成る程。至極容易いことだと思いますけれど、寧ろ、あれこれ考えてしまいますと、存外、手ごわいかもしれませんね」
道々、クーリア・デルファ(eb2244)の語るドレスタッドでラージビーと戦った経験やジークリンデ・ケリン(eb3225)のモンスター知識を教授され、一行は予想以上の強敵ぶりに頭を痛めていた。
とは言え、幾らかの攻略法は考えた。
村に入るのは、とりあえず夜。近くに廃寺になっている堂があったので、得物の手入れなどしながら、その時を待つ。
「雀蜂って、刺されると命にかかわる程、猛毒を持ってるのよね? 巨大なら、毒の量も相当なんでしょうね」
「厄介な相手だな。とりあえず、刺されないようにしないとな」
「そうね。これがあったって命を保障される訳じゃないわ。やられないのが一番よ」
マクファーソン・パトリシア(ea2832)と霧島小夜(ea8703)は解毒剤を確認した。
「まあ〜、おっきな蜂さんの巣を、うまくカチンコチンにできれば良いのですけれどね」
ユナ・クランティ(eb2898)の言う通り、作戦が上手くいけば必要のないものになるかもしれない。
だが、御守り代わりの保険として持っていれば、少しは安心できる。作戦に失敗は付き物だ。万が一の事態に役に立てば‥‥
「まずは村の巣を駆除しなくてはな。周辺に他の巣が無ければ良いが‥‥」
「そうだな。だが、まずは休息をとり、仕掛ける時期をこちらで決められる優位を最大限に活かすことだ」
楊飛瓏(ea9913)に促され、マクファーソンたちは日の高いうちに眠りについた。
●奇襲失敗
日暮れを狙って注意深く村へ侵入した冒険者たち。
巨大雀蜂の巣があるからか、動物の姿は見えない。
「動くものや色の濃いものに襲い掛かるから、それが見えにくい夜は殆んど行動しないはずです」
ジークリンデの知識を以てしても細かい生態まではわからないが、これだけわかれば十分に役に立つ。
暗闇に紛れて近寄った甲斐あって、雀蜂の襲撃を受けずに件の木に近付くことができた。
「聞きしに勝る大きさですね‥‥」
「凍らせたら運べる大きさじゃないな。やれやれ‥‥ 骨の折れる虫退治だよ、全く」
マクファーソンや霧島は、巣の大きさに思わず溜め息をついている。
「私たち以外に特に目立った呼吸は感じられません」
「こちらも同じく異常なしです」
リアナのブレスセンサーでも、ジークリンデのインフラビジョンでも、周囲に異常は見られない。
「人様の都合で悪いが、ちょっと、お引取り願おうか」
そこで、フレイムエリベイションなどを掛け、戦闘準備を整えた霧島たちは、かねてより予定していた作戦を実行することにした。
「いこうか」
アルディナルは、ドラゴンを象った兜を被り、骸骨のような面頬を着ける。それは、竜の口があたかも骸骨を咥えているかのようだ。戦の女神を意匠した板金鎧とのアンバランスさが、逆に勇壮さを増している。更には魔力を帯びた長さ1.5mほどの立派な直剣を抜き、炎の紋章の盾を構え、バードでもいれば竜戦士とでも呼んで伝承にしそうな出で立ちで巨大雀蜂の巣との距離を縮めている。
後方にはユナと護衛のクーリアの2人。
月明かりで狙いをつけているため、巣からの距離は射程ギリギリの約15m。
「ふふふ、ちょっぴり女王様気分?」
「そろそろ、詠唱を始めたら?」
自分の魔法を待ち、自分の魔法詠唱を援護するために仲間たちが展開し、護衛に付いてくれている。
もう少し、この気分に浸っていられるかと思っていたが、要請があるならば仕方がない。
「氷の精霊よ‥‥」
印を組み、呪文の詠唱を終えると、白みがかった水色の光が身を纏い、巣に向かって吹雪が叩きつけられる。
「使うのはアイスコフィンでしょ!?」
「あ、アイスコフィンと間違ってアイスブリザード使っちゃいました。てへ」
クーリアの叫びに、ユナは首を竦めて舌を出している。
「何をやっているの! 来たわよ!!」
マクファーソンは高速詠唱でウォーターボムを唱えた。
直撃をくらって崩したバランスを立て直して雀蜂が飛来する。
数秒間隔で1匹、また1匹と‥‥
「いやぁ‥‥」
巨大雀蜂の大きさが50cmほど。通常の大きさの雀蜂を5〜8cmくらいと考えれば、実際の距離は15mでも、普通の大きさの雀蜂の間隔でいけば巣から3〜5mくらいの距離にいることになるのだ。つまり、この場合、前衛も後衛も関係ない。
「大丈夫! アイスコフィンを唱え直して!! 雀蜂がこれ以上、出てこないうちに!!」
ユナを狙う雀蜂をガディスシールドで追い払いながら、クーリアが長巻『相州行光』を繰り出す。
クーリアは遠慮なく長巻を振り下ろすと足の何本かが吹き飛び、腹が大きく裂けて地面に落ちた。
「目が見えにくくても、襲い掛かっては来るみたいだな。だが‥‥」
楊は、銀色に輝く手甲の拳を繰り出す。
「周囲に巨大雀蜂らしき気配が3個。こちらに来ます」
カチカチと音を鳴らし、威嚇する雀蜂たちは展開するように半包囲すると、リアナの声に前後して好き好きに突入してくる。
「いつまでも、もちません!」
「急げ!!」
蜂比礼に念を込めていた霧島にしても、剣を振るうアルディナルにしても、四方八方に加え、上方からも凄まじい速度で接近する雀蜂をいつまでも捌ききれるものではない。例え、個々の力量が勝っていても毒の存在を考えると、一発逆転すら考えられる。おまけに敵の総数は、今後、巣がある限り増える。巣の大きさから考えるに自分たちの数を上回るのは想像に難くない。
ゴォゥ! ズガガッ!!
ジークリンデの爆炎が巣を焼き、リアナのライトニングボルトが空気を引き裂いて巣を撃つ!
「早くアイスコフィンを」
ファイヤーボムでは焼くことはできても巣に火をつけることは難しい。ジークリンデが叫ぶ。
蜂比礼の効果で近寄ることのできない蜂たちに安心したのか、パニックから回復したユナが高速詠唱で唱えたアイスコフィンが巣を氷に包んでいく。
それでも数十秒の間に何匹か雀蜂は巣の外に出てきた。
「コレは、ちょっと刺されたくないな」
「かなりの数ね。無駄玉撃たない為にも良く狙って確実に仕留めるわ」
「ごめんなさい。後は皆さん、がんばってくださいね♪」
ユナの言葉にムッとしながらも、霧島は蜂比礼を振り続け、マクファーソンは詠唱を始めた。
敵の増援は断てたのだ。後は目前の敵を倒してから考える。
「お前もアイスブリザードを撃て。間違っても仲間を撃ったりするなよ」
アルディナルの髑髏の面頬の奥の瞳が月明かりに光って、ユナは思わず頷く。
「煙を嫌うと聞いた。ジークリンデの魔法で試してみるか?」
「いや、自分たちの不利の方が大きい。幸い、今なら倒せない動きではないし、正攻法でいこう」
「承知した」
霧島はアルディナスに頷いて大脇差を抜くと、札を仕舞った。
「今です!」
リアナのライトニングボルトが巨大雀蜂たちを撃ち、ジークリンデのファイヤーボムが爆炎と共に巨大雀蜂たちを地面に叩きつけ、宙高く吹き飛ばす。
「やっ!」
「そこです」
雀蜂の歯や針をかわし、霧島の刃と楊の拳が雀蜂の体を捉える。
魔法の先制攻撃によるダメージと月光の闇が冒険者たちの味方をしてくれていた。
「落ちろ!」
マクファーソンを庇うように蜂の一撃を盾で防いだアルディナルは、カウンターの一撃を思い切ってぶち込む!
頭から腹まで真っ二つになった巨大雀蜂がアルディナルを避けるように左右に落ちた。
●後処理
不運にも傷は負ったもの、毒はくらわなかったし、戦闘後のリカバーで回復できる程度で戦いは終わった。
「運ぶのは無理そうだな」
アルディナルは馬に引かせて運んできた荷車の荷を解くと、麻布を取り出した。
それを凍らせた巣に被せ、油をかけて燃やすのだ。
クーリアの過去の失敗を考えれば、どこか別の場所に運んで確実に燃やしてしまいたかったが‥‥
「この木は燃えてしまうかもしれませんね」
楊は借りてきた鋸を下ろすと凍っていない所から枝ごと切り落とすことにした。
とはいえ、巣の重量と氷の塊の重さを考えると運ぶのはアルディナスの言うように難しい。
「この木をアイスコフィンで凍らせたら燃えなくて済むかも‥‥」
「あっ、その手がありましたか」
納得するリアナに笑顔を向けられ、ユナも少しだけ汚名返上できたようである。
暫くして、村の真ん中の鎮守の木の下で大きな焚き火が炎を上げた。
村に残されていた薪を十分に積み、蒸し焼きから数時間、溶かされたアイスコフィンの中の雀蜂の巣は、完全に炭になるまで燃やし尽くされた。
「疲れたです〜」
その間、ユナは鎮守の木に向かって、溶けては掛け、溶けては掛け‥‥とアイスコフィンを唱え続けた。
「これで女王蜂も死にましたね」
マクファーソンのウォーターボムで延焼を防ぎ、被害も最小限。
その後、期間一杯、村の周辺を探索した冒険者たちは、他に巨大雀蜂の巣がないことを確認して帰還した。