【東風西乱】続・七瀬計画

■ショートシナリオ


担当:シーダ

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:1 G 17 C

参加人数:8人

サポート参加人数:8人

冒険期間:08月03日〜08月13日

リプレイ公開日:2006年08月21日

●オープニング

●那須の風
 先だっての那須藩主・那須与一公の神田城帰還の報、そして家康公の激文の許で行われた上野国沼田への遠征成功の報、更には従軍した足軽たちの殆んどが無事に帰ってきた報に、領民たちは嬉しそうに顔を輝かせている。
 福原八幡での弓射の神事は成功し‥‥
 襲撃を受けたものの敵は無事に撃退し、最終的に馬揃えは、なぁなぁになってしまったが、那須与一公と源徳信康殿が鞍を並べて姿を現したことで、武蔵と那須の連合が堅いことを示すことはできた。少なくとも特定の藩には‥‥
 ともあれ、那須に吹き始めた風はどこに向かうのか‥‥ それは後の歴史‥‥、いや、当事者たちの見た現実だけが‥‥、いやいや、誰も本質を見抜くことができないかもしれない真実だけが知っているのかもしれない。

 さて‥‥
 沼田会戦に参加した江戸からの国抜けの者たちは、那須へ帰還して、約定通りにその罪を許された。
 武蔵と下野の両国の取り決めを手続きしている間に多くの刻を過ごしてしまったが、与一公と信康殿の那須での会合の総仕上げとして復興祭を前に、それもつつがなく終わった。
 なお、復興祭の噂を聞き、ある程度は江戸に帰ることにしたらしいが、それでも行き場のなかった自分たちを気遣い、助命の道を示してくれた那須に残りたいという者たちもいる。
 彼らには那須に土地が与えられることになったのだが、普通、大量の余所者を好んで受け入れてくれる土地は無い。
 だが、幸か不幸か、那須には、人が住め、かつ、人の住んでいない土地があった。
 それはどこか‥‥
 那須東部にある八溝山の麓である。
 過去に鬼の国騒動として那須を揺るがせた騒動の折、麓の住民は少なからず被害を受けていた。
 全滅した村もあれば、幾つかの村人たちが集って、1つの村に住んでいるところもあるという。
「やはり、人手が足らぬの」
 長老は辺りを見渡して溜め息をついた。
 往年であれば、一面に田んぼを作っているはずなのに‥‥
「そうじゃ、そう言えば捕えられた江戸の国抜け衆が戦勝の赦免を受けたと聞きますぞ」
 壮年の男が言うと、長老は『おぉ』と、その意を理解した。
「お上に申し出よう。国抜けを許された者たちを是非にも八溝の地に入植を、とな」
 陣屋への根回しなどを済ませた長老は那須神田を目指し、陳情の途に着いた。

●七瀬計画
 那須藩の評定で、江戸からの国抜け衆で赦免された者たちのうち、那須に残ると表明した者たちが八溝に入植することが決定した。
 しかし、1年以上も人の手が入らない場所というものは、厄介この上ない。
 農地は荒れ、ヒト社会の影響が及び難いとなれば、魔物たちも跋扈しやすくなる。
 そこで、那須藩は武士団と冒険者たちによる魔物退治で地均しをして、入植させることにした。
 どちらにしろ、今すぐ入植しても手をかけるべき稲はないわけで、危険を考えて実際に移り住むのは少し先になりそうだ。
 そこで那須でのやり方に慣れてもらうために‥‥と、那須西部の町、藩主与一公の直轄領・喜連川で住み込みで働くことになっている。
 この作業により、彼らの今年の年貢は免除されることとされている。
 だが、それでは彼らに収入の道はない。
 そこで採用されたのが、最近、那須藩士としてメキメキと頭角を現してきた杉田玄白の献策であった。
 彼らに喜連川薬草園を開墾させ、生産した薬草を那須藩が買い取り、それを現金収入とさせることだ。
 尤も、八溝に入植の目処が立てば、移り住まなければならないため収穫ができないことも多々ありえる。
 そこで、入植までに薬草が収穫できなかった場合、喜連川を去る八溝衆(便宜上、今後はこう呼ぶ)に喜連川の領民や与一公が対価を払って買い取るか、一部の者が管理者として開墾した薬草園に残り、入植者たちの暫定的な収入として数年間の優遇措置を採ることにしたのである。
「各地に人手が取られており、これ以上の手間は藩士たちの大きな負担となります。
 記録によると薬草園の立ち上げには後に蒼天十矢隊と呼ばれた冒険者が大きく関わったとありますな。
 そのときの手腕を此度も期待してよいのではないでしょうか
 それに上州での謀反騒動が本格的な戦になれば、薬草は必ず役に立ちましょう」
 玄白の、この一言に、藩士たちも納得し、最終的な与一公の許可が出た。

『七瀬計画の一環として、八溝衆により喜連川に薬草園が開墾されることになった。
 那須医療局の藩士1名と那須勘定方の藩士1名が責任者として派遣される由、彼らと相談して事を進められたし。
 冒険者たちの手腕に期待する。なお、依頼の期間において、冒険者たちは準藩士として扱われる』

 このような依頼が、江戸から2日の距離にある那須喜連川の江戸冒険者ギルド那須支局を通じて持ち込まれた。

 補足事項:
 10名程度ならば十分に寝泊りすることができ、それなりの広さがあるため、那須支局を宿泊や開墾作業の拠点にして構わない、とのこと。
 また、那須支局の資料室に保管されている那須関連の一般公開資料や喜連川の民による作付け表など地域資料は、自由に使用して構わないということだ。
 この事業に関して、那須藩からは当面の資金として300両(300G)が計上され、後払いの冒険者たちへの能力給も含まれている。
 薬草の種や苗などに関しては、他国で入手した場合の輸送費を考えると、那須藩では統制価格が出されているために比べて安いが、喜連川で入手できる量は決して多くない。
 資材に関しては、薄利覚悟で土地の商人たちが安価で現地調達を可能にしてくれており、官民一体の事業であることが覗われる。
 これらを鑑みて立案、実行に当たるべし。

●今回の参加者

 ea2127 九竜 鋼斗(32歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea3225 七神 斗織(26歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 ea3731 ジェームス・モンド(56歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea3744 七瀬 水穂(30歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb1118 キルト・マーガッヅ(22歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 eb3529 フィーネ・オレアリス(25歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb3581 将門 夕凪(33歳・♀・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)
 eb5183 藺 崔那(31歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)

●サポート参加者

ヴィグ・カノス(ea0294)/ ミリコット・クリス(ea3302)/ 所所楽 石榴(eb1098)/ 林 潤花(eb1119)/ ウィルフィン・シェルアーチェ(eb1300)/ キドナス・マーガッヅ(eb1591)/ パラーリア・ゲラー(eb2257)/ アンリ・フィルス(eb4667

●リプレイ本文

●喜連川へ
「‥‥という訳なのです」
「ふむ、色々大変だったんだな。よしっ、その遅れを取り戻す為にも、俺も頑張らせて貰うぞ‥‥ 何、まだ若いもんには負けんぞ」
 云々と喜連川の那須支局を目指す道すがら、那須の経緯を話すのは七瀬水穂(ea3744)。
 ニカッと笑うジェームス・モンド(ea3731)をはじめ、同行する冒険者たちは成る程と頷いている。
 阿紫の江戸襲撃、そして那須の鬼騒動。茶臼山での九尾復活などなど‥‥
 尤も、七瀬の話には脚色がある気がするが、然程(さほど)の問題はなかろう。
「薬草園が機能すれば、救える命も増えます。頑張りましょう」
「そうだね。植物に関する知識は無いけど、僕にだって手伝う事くらいはできるからね」
 腕の中の子猫の暁を撫でる将門夕凪(eb3581)の横を、藺崔那(eb5183)が歩いている。
「そろそろ着くって話だからな。頑張れよ」
 愛馬・普銅丸の背を撫でる九竜鋼斗(ea2127)は、道の向こうで領民たちが手を振っているのを見た。
「こいつの鼻も、なかなか捨てたものじゃないぞ。捜査の基本は鼻だと、昔の偉い人もいっておったしな」
 ジェームスらは、手を振り返した。

●作業開始
 新しい薬草園の開墾地は、キルト・マーガッヅ(eb1118)らの意見を考慮して野生の薬草の生息地近くに作ることとなった。
 生息環境に近い場所を用意した方が、生長の助けになるだろうという試験的な試みでもある。
「皆さん、ごきげんよう♪ 聖母の赤薔薇のフィーネ・リュースが、皆さんをお手伝いしますわ♪」
 そう言って、鷲の後ろ半身が獅子という美しい獣、グリフォンに跨って舞い降りてきたのはフィーネ・オレアリス(eb3529)。
 グリフォンの前足は資材を吊るした縄を、しっかりと掴んでいる。
「大丈夫です。彼女は冒険者ですから」
 キルトが事前にグリフォンのことについて周囲の人々に話しておいてくれたことと、混乱した状況を必死に治めてくれたおかげで大事には至っていない。
「ありがとう。助かりますわ」
「根無し草の本領発揮です。これくらい、朝飯前。世界中を周ったのは伊達じゃありませんわ♪」
 今回の開墾に当たり、多数の馬が労働力として動員されている。
 日本では馬は貴族の独占所有物と言ってよく、武士階級のステイタスでもあり、一般に労働力として使われることは、まずない。
 通常、農作業で力仕事といえば牛なのだが、牛もそれほど普及していないだけに、数を揃えた馬の威力は抜群であった。
「ほら、ナルサス、ダリューン、しっかり♪」
 突貫で用意した耕具の使用や、切り株の掘り起こしで絶大な威力を発揮している。

「空から地表を眺めるなんて貴重な体験をした」
「お役に立てて良かったです」
 地上と上空から確認した地図に基づいて縄張りが修正され、整地や掘削が進んでいく。
 人力以外を巧みに利用しているために作業効率は良いと言える。
 とはいえ、開墾作業に怪我人は付き物。
 それらは豊富な薬草で処置し、必要ならフィーネがリカバーを施すことができる。
 労働力の稼働率の高さは、そのまま生産性の高さに繋がっていた。
「それでは次の荷物を取りに行ってきますね」
 空中を移動するグリフォンは街道を必要とせず、輸送にも大きな力を発揮しそうだ。
「先に鳴子や柵の設置をしなくちゃいけないから、それ用の資材を優先してほしいって伝えて」
 藺は猟師らと、獣の進入を防ぐための仕掛けを作っている模様。
 大概の場合、人間の領域であることをわからせれば、獣は警戒する。
 それが成功すれば、後は猟師と獣の力比べ、知恵比べ。住民たちの仕事になる手筈という訳だ。
「了解」
 八溝衆たちは、フィーネの騎乗するグリフォンに手を振った。

●教本
「以前、京で本を描いた時よりも、ハードだな‥‥ 下痢止めは、このマークと‥‥」
 忙しそうに挿絵を描くジェームスの周囲には同じように机に向かった八溝衆たちの姿が‥‥
「文章は、これで良いだろうか?」
「ここは削って欲しいですよ。教本に駄洒落は必要ないのです」
「そうか? 駄洒落は日本語を豊かにするものだぞ」
 専門的な薬草の知識がないだけに、表現は九竜に任されているものの、内容は七瀬や那須医局の専門家に校正してもらわなければならない。
「薬草の食べ方って知ってるか? 薬草だけに焼くそう(薬草)だ‥‥なんてな」
 日本語授業を希望した八溝衆たちは、ぷぷっと吹き出し、止めた写本の筆を進めている。
 とはいえ、やはり教本に駄洒落は必要ない。そこは削除するとして‥‥
「ここの項は、この部分と差し替えてみてはどうでしょう?
 効能が同じ薬草を近くに記しておけば、期待する薬効を調べるだけで、色々な薬草を知ることができます」
「でも、薬草には幾つも効果があるですよ」
「それなら‥‥ 目次を付けてみませんか?
 薬草の紹介文と共に、余分な効果を抑えるために一緒に使った方がよい薬を示せすのにも役に立ちます。
 それに、華国伝来の薬学の知識では、幾つかの薬草を組み合わせて処方すると思いも因らぬ効果があると聞きます。
 鎖国状態にあるとは言え、何らかの方法で、それらの本を手に入れることができれば、那須の医局は大きく発展いたしましょう」
 七神斗織(ea3225)の提案に、一同は大きく深く頷いた。
「おや、杉田殿」
 矢板川崎城の視察の帰路で、七瀬計画の様子を覗きに来たと語る杉田玄白を、那須藩士たちは快く迎えた。
(「この方が、あの‥‥」)
 七神たちは自己紹介をし、状況を説明した。
「流石は風御殿を師と仰ぐだけはある。蒼天十矢隊の功績は、このようにして冒険者から冒険者に、そして那須の糧となっていくのだな」
「再び水穂の理想を掲げるために、神皇様へのお薬献上成就のために、水穂は帰ってきたです!」
「ははは、七瀬殿、噂に違いませんな」
 玄白らが笑う。
 七瀬を始めとして冒険者で那須藩士を名乗ることが許されているのは数名。
「なれるものなら藩士として那須医療局に所属したいモノですわね」
 七神は静かに溜め息をついた。

●進行
「薬草と毒草には気をつけるように。それから‥‥」
 九竜の説明を受けているが、パパッと憶えられれば苦労はしない。
 八溝衆たちも既存の教本を友に薬草を見分けようとしているが、慣れるには少しかかりそうだ。
「この仕事は、那須にとっても、かなり重要な位置を占めています。皆様の働きが大勢の人の命を救うことに繋がるのです。
 頑張りましょう、皆様方は決して厄介者などではありません。皆様方の有用性は皆様方自身の手で証明するのですわ」
「その前に腹ごしらえ。御腹が空いていると考える力も湧きませんよ」
「御腹一杯食べて頑張りましょう!」
 七神、将門、藺らは八溝衆や喜連川領民たちと協力して、食事を共にしている。

「今後の事を考えますと、悲しいことですが、戦のことを考えたら必要ですよ」
 那須藩で実用されている化膿止め・熱さまし・腹下しの携帯薬セット以外に、今回の成果として後方支援用薬セットとして火傷薬と外傷薬の採取も進んでいる。
「冒険者ってのは、ほんに物知りだな」
「薬草の採取と加工は、日課のようなものですしね」
 将門は食事をしながら採取してきた薬草の苗を前に、様々な知識を披露していた。
 土地を乾き難くするために、背の低い樹木を垣根とする案なども、そうである。

●始動
 いかに与一公の直轄領であろうと利権を持つ豪農などは存在する。
 それらを無視して土地の産物を右から左へと動かすことはできない。
 そこで那須藩勘定方が間に入り、条件などの折り合いをつけた山野に自生する薬草の苗代と那須の商家から仕入れた苗代が合わせて120両。
 残る予算のうち、資材に100両、雑費として30両。50両は繰り越しとなっている。
 当初の予定では苗に180両、資材に50両、道具類に50両、予備で20両となっていたが、喜連川の僻地を何箇所か開墾するために想定外の予算が必要になっているのである。
 苗の代金が抑えられているのは、那須藩士としての七瀬の顔と交渉に因るものが大きい。
 尤も、開拓予定地の広さに必要な株の予定数に届いていないため、これだけの予算で収まっているのだが‥‥
 なお、資材の額が大きいのは、水路などの整備費以外に、喜連川に入植する八溝衆たちのための家屋の建築費が入っているからだ。
 居住予定者が働き手となって人足代がタダ同然であったこともあり、長屋型の仮設住宅は順調に建築中である。

「遅れた分を取り戻せたですかね」
「少なくとも進みはしたさ。しかし、お天道様がやけに染みるな」
 七瀬やジェームスは笑みを浮かべながら、今回の成果を思い起こしている。
 薬草初級教本に関しては、依頼期間中に行われた日本語授業の一環である写本により、多少の部数を確保。
 薬草の挿絵によって、実用性は確実に上がっている。
 九竜らによって行われた日本語の講義や授業を1つの規範として、武士階級以外を視野に入れた識字率を上げるための教室の設置が検討されることになった。
 また、ジェームスによって提唱された挿絵を版画にする作業は、職人を確保次第、実行に移すとのこと。
 これに関して、那須での今後の利用を鑑み、職人の育成を前提に技術開発の予算が出るよう上申するということだ。
 玄白は、それらのことから小学や大学のようなものを作り、小学の下に藩士などによる私塾のようなものを作ってはどうかと与一公に話してみようと約束してくれた。

「冒険者の皆様方、助かりました」
 八溝衆の長が、冒険者たちに深々と頭を下げ、その後ろでは見送りに来られる八溝衆の殆んどが集まっている。
「知識面であんまり貢献出来なかった分、それ以外をやれる範囲で役に立ててたらいいんだけどね」
 藺は仲良くなった猟師らに手を振りあっている。
 班分けをして習熟を念頭に置いた作業を行った効果も、遅かれ早かれ現れるだろう‥‥