銭投げ岡引 平治、真っ白い夏

■ショートシナリオ


担当:シーダ

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:6人

サポート参加人数:5人

冒険期間:08月08日〜08月13日

リプレイ公開日:2006年08月27日

●オープニング

「白い‥‥ 白いんだよ‥‥」
 顔面が紫色に鬱血した男は、荒い息で身体を震わせながら、冷汗を流している。
「親分、こりゃ大変だぁ」
「しかし、こりゃあ、埒が明かねぇな」
 最近、江戸の町で2人ほど同じ死に方をした者がいる。
 感じからして、死んでいれば3人目となったであろうと思える。
「でも、親分。あの2人と同じじゃねぇですかぃ?」
「俺も、そう思わぁ。しかし、わからねぇことばかりだ。なぁ、八」
「へぇ、こんなときはギルドに助けを求めるのが一番手っ取り早いんですがね」
 この親分と呼ばれていた男、明神下の親分と呼ばれる銭高平治という岡引。年は29。
 そして、八と呼ばれてた小柄な男は八兵衛という平治の子分。年は27。
「よぉ、彼か? 気になる男ってのは」
「へぇ、只野様。落ち着いたら話を聞こうと思ってるんですがね」
 彼は奉行所の与力で、平治たち神田明神の界隈を縄張りにする親分たちを纏める只野新三郎という武士。
 番屋の中で役人たちが心配そうに男を見つめているが、なかなか回復する気配はない。
 結局‥‥
「白く流れる雲に気をつけろ‥‥ やつらがやって来たら、すぐに逃げるんだ‥‥」
 男は、そう言って寝込んでしまい、部屋から出ないのだという。

『息を詰まらせて死んだような事件が2件、起きている。原因は不明。
 奇病ではないかという噂が流れ始めており、今のうちに原因の特定をし、可能ならば解決したい。
 この変わった事件の解決への尽力を頼みたい。』

 奉行所から、江戸冒険者ギルドが依頼を受けたのは、彼が奉行所に保護された、すぐ後のことだった。

●今回の参加者

 eb0272 ヨシュア・ウリュウ(35歳・♀・ナイト・人間・イスパニア王国)
 eb2654 火狩 吹雪(29歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb5303 スギノヒコ(39歳・♂・カムイラメトク・パラ・蝦夷)
 eb5532 牧杜 理緒(33歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 eb5647 小野 志津(35歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb5761 刈萱 菫(35歳・♀・浪人・人間・ジャパン)

●サポート参加者

御影 涼(ea0352)/ 田原 右之助(ea6144)/ 片桐 惣助(ea6649)/ ハーヴェイ・シェーンダーク(ea7059)/ 火狩 環(eb2643

●リプレイ本文

●推理推論
 まずは奉行所の情報に加えて独自に情報収集することにしたスギノヒコ(eb5303)たち。
「う〜ん。やっぱり一反木綿に襲われたのかなあ?」
「知り合いが、似たような事件に出会ったことがあると聞いているし、私も、まず浮かんだのは妖しではないかという事だ。
 あれ程、怯えるのは人の仕業とも思えん。証言内容から一反木綿ではないかと思うた」
 腕を組んで黙り込むスギノヒコに、小野志津(eb5647)は知りえた情報で捕捉するように、推理を平治親分に説明していく。
「一反木綿と仰っているのには同感ですわ」
 刈萱菫(eb5761)は、髪結の仕事中に聞いた世間話の真相を調べる依頼ということで、一も二も無く受けた訳だが、問題はここからだ。
 事件の共通点を敢えて挙げるとすれば雨の日には現れていないことだろうか。出現したらしき時間帯は区々(まちまち)だが夜には出ていないこと、それに被害にあった地区は神田周辺‥‥とある程度絞れている。尤も事件が3件しか起きていないため、確度の高い推論と言えないところが厳しいが、そこから事件を解決するのが冒険者の腕の見せ所だ。
「狙われたのは‥‥ もしかしたら、一反木綿の好物を持っていたという単純な事かもしれませんわね」
「ありえるね。亡くなった人が2人、未遂が1人‥‥ 本当に早く解決しないとね」
 思案を巡らせる刈萱に牧杜理緒(eb5532)が頷く。
「やつら‥‥と言うからには複数らしいしな。その辺の注意も必要と思われる」
「成る程な。複数の一反木綿って妖怪の仕業か」
「親分、仏さんたちの顔に何かに締め付けられた跡みたいなのはあったかね?」
「そう言われりゃ、番屋で布団かぶってる男も、顔に線のような痣が沢山ありやしたね」
 決まりだな‥‥ 平治親分の返事に小野たちは確信を深めた。

 男から直接、話を聞きたいと申し込んだ冒険者たちだが、怯えて話にならないと平治は、あまり乗り気ではない様子‥‥
「私に考えがあります」
 そう言う火狩吹雪(eb2654)の顔は自身ありげだ。
 というわけで、番屋へ移動し、男の部屋の前に‥‥
 印を組み、語りかけるように歌い始めると火狩の体が淡い銀の光に包まれた。
 不思議に思いつつも聞いていると、ほっとして落ち着くような歌詞が続き、暫くすると勇ましい歌詞になっていく。
 おや? 心静かに‥‥、でも勇気が出てくると言うか‥‥
「親分‥‥、てぇへんだぁ」
 八が指差すまでもない。男が布団を剥いで、こちらへやって来る。
「大丈夫かぃ?」
 心配そうに声を掛ける平治に男は頷いた。
「あぁ、歌を聞いたら、何か元気出た」
 優しく微笑む火狩に男は笑みを投げた。

●捜索
 正気を取り戻した男から襲われたときの状況を聞きだすことができ、事件の犯人は一反木綿であることがハッキリした。
 こんな思いをする者が、もう出ないように‥‥という火狩の説得とメロディの魔法に助けられて、辛い記憶を辿ってのことである。
「飛ぶ褌? つくも神? あっ、そういえば、向うにいたときに褌が売られていたような‥‥ 故郷にも現れるようになるんでしょうか」
 イギリスにいた時に褌を売っていたことを思い出したヨシュア・ウリュウ(eb0272)は、懐かしい国を思い出しながら溜め息1つ。
 そして、やはり敵は複数。
 逃れようとしたら2枚掛かりで体中ぐるぐるにされそうになったが、無我夢中で持っていた提灯を振り回していたら逃げてくれて助かったという話だ。
「現場に共通するのは見晴らしの良い場所ということかな」
「だろう」
 事件の書き付けを詳しく読みながら牧杜が小野らに意見を求めていると、与力の只野が現れた。
 顛末を聞き、一言‥‥
「相変わらず凄いものだな。男の正気を取り戻すとは。そういや、平治。神田明神でも江戸復興祭をやっていたな」
「へい。そのときの幟や何かが幾らか、まだ残ってやす」
 打てば響く。只野も平治も無能ではない。
「現場の中心には神田明神か‥‥」
 小野たちは、その推測が強(あなが)ち間違いではないと確信に近い直感を得るのだった。

「それじゃ周辺にも注意しててね」
「合点、承知」
 牧杜たちは駆け出す八を見送ると、一時的に人の通りを制限された神田明神に向けて歩いていく。
 只野たちは、神田明神へ一般人が近付かないように張り込み中。
 冒険者たちには、平治が同行することになった。

●漂う雲に妖の気配
 頻繁に縁日は開かれているので、幟が立っていないことは少ないのかもしれない。
 この日も神田明神には幟が何本も立っている。
「この中にいるのでしょうか‥‥」
「あ、悪い奴み〜つけた♪」
 見渡すヨシュアたちのなかでスギノヒコがニッコリ。
 天日干しでもしているかのようにハタハタと風に靡く2枚の白い幟。
 よ〜〜く目を凝らすと眠ってでもいるのか、いや、一反木綿が眠るのかは、この場の誰も知らないが‥‥、気持ち良さそうにハタハタと揺られている。
 しかし、まだ距離がある‥‥
「油断しまくりですね」
「見つけたからには逃がないよ」
 連携の手順を確認しながら、ヨシュアや牧杜たちが手際よく全員の武器にオーラパワーを掛けていく。
「行きますよ」
 薙鎌と日本刀をできるだけ体の影に隠しながら刈萱は参道を歩き、小野たちは物陰に身を潜めながら彼女に付き従う。

(「来たわね」)
 妖しい幟を視界に収めながら歩く刈萱に向かい、風に飛ばされたかのように青空に溶け込んだ白線2本は音も無く突っ込んでくる。小野は灯りを地面に置くと経巻を広げた。
「あれが一反木綿か。悪いことするから、こんなことになるんだよ」
 スギノヒコが矢を射たのと殆んど同時に、小野のマグナブローが境内に炎の柱を突き立てる。
「親分、行くぞ!」
「承知した! 一網打尽にしやすぜ、旦那方」
 凛々しく決めた小野の隣で、平治が十手を構えて飛び出していく。
 負けじと槍を構えて飛び込むヨシュアに、空中で軌道を変え、1枚の一反木綿が突っ込む。
 切れ長の目のような染みが、くわっと開き、笑みのような染みはクカカカと口が裂けるように形を変えていく。
「させるものですか!」
 ヨシュアは、一反木綿が顔に巻きつく動作に入ろうとした瞬間、顔の高さに穂先を持ってくる力を込めた。
 気づかない一反木綿は、穂先を挟んで顔を締め付けに入る。
 これで怯ませて純粋な白兵戦にでも持ち込めれば、冒険者たちに充分勝機はある。
「痛っ‥‥」
 しかし、予想以上に締め付けの威力が強く、額からは血が滲んでいる。
 一瞬怯むヨシュアだったが、それでも一反木綿の一部に傷を付け、巻きつきは阻止できた。

 一方、片方の一反木綿だけを相手にすれば良くなった刈萱は、日本刀の峰に薙鎌を持った腕を当てて待ち構える。
 絡みついた一反木綿は、体が裂けるのを感じて巻きつくのを途中で止めた。
「攻撃あるのみ‥‥」
 相手は空を飛ぶ。ならばと、間合いの短い日本刀を地面に差し、薙鎌を構えた。
 すぱっ‥‥
 鎌を振るい、余裕を見せて漂う一反木綿を引き寄せるように背後からの刃に晒す。
「遠いな‥‥ ちっ、効かねぇか」
 平治親分は銅銭を投げるが、中っても一反木綿は、どこ吹く風‥‥
 小野が仲間から聞き込んできた魔法の武器か炎に関する攻撃しか効かないという話は本当のようだ‥‥

●決着
 双方に傷つき一進一退‥‥
 一反木綿が空中から攻撃できる優位を得ているのと同じように、冒険者たちには頭数と魔法と矢の優位がある。
 それでも徐々に、冒険者たち優位に状況は進んでいった。

 ヨシュアは穂先に刻まれた一撃必殺の呪文に念を込てスマッシュを繰り出すが、相手も然る者‥‥、暖簾を腕押しするが如く穂先に手応えはない。
 とはいえ、一反木綿もあちこち破れていた。逃げ出そうとでもしているのか、高度を取ろうとしている。
「逃がさないよ」
 スギノヒコの矢が突き刺さり、一反木綿が空中で僅かに態勢を崩したところへ一歩踏み込む。
「止めをさして!」
 火狩のストーンの経巻が発動し、一反木綿の尻尾の先が石に変わった。
「魔は滅するのみ、魔槍よ、真の威力を見せなさい!!」
 学園都市ケンブリッジの戦学学位を修めたヨシュアにとって、学園の制服に恥じる戦いはできない。
 気合一閃。魔槍『レッドブランチ』を捌くと、動きの鈍い一反木綿目掛けて穂先を繰り出した。
 びしゃぁ‥‥
 布の裂ける音は、まるで悲鳴のようだ。

 ほぼ同時、ヨシュアたちの隣では刈萱らが激戦を繰り広げていた。
「逃がさぬよ!」
 宙へ舞い上がろうとする一反木綿に、小野のファイヤーコントロールの経巻が決まる。
 燃え上がった灯りの火は、一反木綿の上から覆いかぶさるように炎の壁となって上空への逃げ道を制限している。
 刈萱を無視して水平方向に逃げようとした一反木綿は、目の前の小野を行きがけの駄賃とばかりに襲おうとしている。
「そう簡単にいくと思う?」
 不敵な笑みを浮かべた牧杜は、オーラパワーを宿した拳を思い切り叩きつける。
「その通りでさぁ!」
 オーラパワーの助けを借りて、平治の十手が一反木綿を一撃。
「そろそろ終わりにしません?」
 刈萱は一反木綿の背後から鎌を突き立てると布地に合わせて薙鎌の柄を引いた。
 し‥‥ しゅうぅぅぅ‥‥
 暫時、舞い落ちる木の葉のように右へ左へ宙を流れた一反木綿は、冒険者たちの足元で動きを止めた。

 さて‥‥
 番屋の男は、何度か火狩のメロディを聞いて精神的に安定してきたようなので、自分の足で家に帰っていった。
「相変わらず、凄いですねぇ。冒険者ってのは。オイラも冒険者になろうかな」
「八。慌てもんのおめぇじゃ、依頼を受けて、てぇへんだ! って俺んとこへ駆け込んでくるのが落ちじゃねぇのかい?」
「アハハ、そうかもしれやせん」
 刈萱たちは奉行所与力・只野様の奢りで酒を交わしながら、平治や八の楽しそうな遣り取りを見て思わず笑った。
 って訳で、真っ白い夏の怪、これにて落着♪