【東風西乱】復讐の牙
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■ショートシナリオ
担当:シーダ
対応レベル:10〜16lv
難易度:やや難
成功報酬:7 G 56 C
参加人数:8人
サポート参加人数:4人
冒険期間:09月05日〜09月13日
リプレイ公開日:2006年09月27日
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●オープニング
●那須矢板・川崎城
この地には元々那須の拠点がある。
宇都宮から神田へ通じる商業の拠点であり、街道が整備されている関係上、下野での兵の展開を考えると当然のことである。
但し、動乱の兆しを見せる昨今の情勢を鑑みると、これまでの規模の城で良いとは言い切れなくなった。
と言うのも、那須兵と武蔵兵の連合で行われた上州沼田攻めが原因である。
那須・武蔵連合軍は日光を抜け、山越えで上州沼田を目指した。これにより敵の裏をかき、奇襲を成功させている。
しかし‥‥
那須藩が用いたのだから、敵も用いる。当然至極の論理だ。
そこで那須藩によって警戒態勢は取っている。
しかし、日光を経由して那須藩を攻める敵が現れた場合、増援が届くなど迎撃態勢が整うまで、矢板で食い止めなければならない。
幸いにも那須藩は河川が多く、戦に関しては短期間の防御には適した土地と言えた。
また、那須は現在、薬草での商売などに力を入れ、商業の規模が拡大しつつあり、中継拠点としての整備が不可欠でもあった。
そうなると橋や渡し舟の整備が不可欠となるが、戦略上重要な橋を影響下に置くためにも、やはりそれなりの規模の地域拠点が必要となり、様々な思惑が交差して、川崎城の整備が行われているのである。
●那須密偵 対 真田忍者
那須与一公直属の密偵の幹部たちが集まって、人知れず会合が行われている。
那須藩内の吉次勢力の完全駆逐を狙い、また、藩内の情報の把握や各地の動向の調査などを行わなければならず、そのための情報交換などを兼ねていた。
その性質から大量の登用とはいかないが、こつこつと人材を集めているのも確かである。
「築城ともなれば忍者どもが現れよう」
「しかし、増員も難しい。密偵の登用と同時に育成もしてはおるが、直ぐには無理だな」
「それでも、何とかしなければならんだろう?」
「やはり冒険者が適当か‥‥」
重要な部分は密偵が抑えるものの、不審人物の探索や撃退など任せられる部分は多々あるということだ。
一方、上州前橋・蒼海城下‥‥
「今回の任務は敵地への警戒厳重な川崎城の縄張りへの潜入だ。言うまでもないが油断は禁物。気を引き締めて情報を集めよ」
海野六郎は配下の真田忍者に言付けると、彼らが散っていくのを見届けた。
真田幸村のために一つでも多くの情報を集め、そのために十勇士の筆頭として真田忍軍を纏める立場にある上忍だ。
「自らの策略で自らの首を絞めたか。とは言え情報は多いに越さぬ。頼んだぞ」
「御意」
主である幸村の言葉に短く答えると海野六郎は部屋を下がった。
さて‥‥
冒険者ギルド那須支局を通じて那須藩から1つの依頼が持ち込まれた。
『下野国那須藩の矢板に築城中の川崎城において警備員を募集。
他国から押し寄せるであろう間者たちを発見し、撃退してほしい。
充分な配慮をしてほしいが、状況によっては曲者を殺害しても罪には問わない。なお、捕えることができれば、なお良い。
また、冒険者は蒼天隊に配属され、依頼の期間のみ準藩士の扱いを受ける』
●リプレイ本文
●矢板川崎城
矢板地域には多くの那須兵が警備に出ていた。
冒険者たちが現地に着いて警備責任者の藩士と目通りできるまで、どれ位の詰め所を抜けてきただろう。
建築に携わっている者たちの別区画間との繋がりは積極的に行わなければ、つまりは間者でもない限りは得られないようになっている。
それらを通過する前に互いに合い言葉を決め、増強中の川崎城の一画へ辿り着いた。
「攻めたならば攻め返される‥‥ 早いもので沼田城攻めより三月経ちますが、上州の忍は間違いなく来ると、お考えですか?」
「方々に忍びを放っているようだからな。うちにだけ来ないとは思えない」
警備責任者は那須藩士・限間灯一(ea1488)を筆頭とする冒険者たちに冗談交じりに笑ってみせた。
「こうやって応酬を続けくことが良いとは思えないですが、神皇陛下の威光に泥を塗る新田を侍として許すことはできません。
遅かれ早かれ、上州には討ち入ることになるでしょう。例え、那須藩だけであっても」
「殿‥‥」
一部の者には聞き覚えのある声の主が部屋に入ってきて、那須藩士は上座を空けた。
「必ず来ます。そのつもりで頑張ってください」
藩主自ら声をかける‥‥ その重大さに冒険者たちも身の引き締まる思いで警備任務に入るのであった。
冒険者たちが警備に当たり、まずやったのは面通し。
「料理、お持ちしました」
人足飯場に潜入した所所楽林檎(eb1555)とは、僅かに目を合わせるのみ。
人足たちの情報が交錯する飯場を監視するためにも、また飯場で働く間者がいないかなど様々な可能性を鑑みるに重要な役割と言えた。
「お疲れ様どす、調子はどないどすか?」
「藩からの差し入れです」
量は多くはないが、時折行われる運びとなった藩からの酒の差し入れは好評だ。
彼らを労って人心を掌握しながら、不審人物がいないか藩の人間が直接調べる機会が得られるということで一石二鳥の方法でもあった。
差し入れをしている限間や西園寺の連れている犬などの存在も忍びにとっては厄介だろう。
臭いや雰囲気で警戒されて吠え立てられれば、潜入の続行は難しいし、一目散に退散しなければ命の危険がある。
というわけで、忍びに警戒感を抱かせれば、行動の頻度を下げられるはず。それだけで抑止力になるということだ。
冒険者以外の警備兵も、時折、飯場などにまで顔を出し、一声かけて行くので適度に親密度を増し始め、間者はやり難くなったはずだ。
しかも、日替わりで2〜3人程度の班を組む警備を始めるようになるため、日に日に人遁で入れ替わるのも難しくなるだろう。
「全ての小路を憶えるのは難しいな。中々の防御だ」
気をつけて道を憶えようとしている石動悠一郎(ea8417)でさえ、この有様。戦の最中であれば‥‥と思いを巡らせた。
さて、冒険者たちが警備の拠点とした一軒の宿屋にて‥‥
「朔夜りんと調べてきたよ〜」
「危ない場所は押さえた。ここと‥‥」
カファール・ナイトレイド(ea0509)と叶朔夜(ea6769)が許される範囲内で調べてきた、敵に利用されそうな進入路や退路を示す。
隠密能力の高い2人である。自分たちが潜入するなら‥‥という視点で調査しているだけに確度は高い。
これにより隠れられそうな資材置き場などは移動し、間者に対する備えは格段に上昇していると言って良かった。
「人足に紛れ込む方法、兵士に化ける方法、色々と潜り込む方法はあるのだろうが、幾つかの方法はやり難くなったはずだ。とすれば」
アルディナル・カーレス(eb2658)は静かに笑みを浮かべている。
「外から来る‥‥、例えば商人や修験者などに気をつければ良い訳だ」
「でも、気をつけないと、ずっと前から潜んでるのを見過ごしちゃうかも。おかしな行動をする人は徹底的に調べた方がいいよ」
叶やカファールは、現場指揮を行う藩士や顔見知りの人足の中にも、不自然な動きをする者がいないか観察するように伝えた。
「何にしろ表立って騒がないことだ。疑心暗鬼で内部から混乱したのでは話にならない」
「確かにやり易くしてやることはあらへんなぁ」
叶の言葉に西園寺更紗(ea4734)が苦笑いして頷く。
「敵の狙いは築城中の城の見取り図、若しくはそれに準ずる城の情報やろか」
「それは狙われて初めてハッキリする類のことだ。今は不審人物の特定に全力を尽くそう」
「そうどすな」
限間の言葉に西園寺は再び頷いた。
「民の幸せのために力を尽くしまする」
火乃瀬紅葉(ea8917)が自分の言葉に頷くと、誰からとなく全員が頷いた。
●捕捉
警備開始から暫く経って‥‥
ふらふらと宙を舞うカファールの影。
シフールを知らない者であれば騒ぎになってもおかしくないが、作業員には通知されているため物珍しげに見られる程度で済んでいる。
尤も、それも彼女が姿を現す気があればこそ。
顔を動かさず、あちこちに注意を向けていた商人を、木陰に隠れて見張ることにしていた。
当たり。
顔の動き以上に見回す所作、自然と足音を消してしまう体裁きは、普通に見せているが一般人のそれではない。
「商人りん、何してるのかなぁ?」
「ええっ!?」
上空背後から掛けられたカファールの声に驚いて、商人は思わず身構えた。
近くにいた犬のエリりんも飛び出して、いつでも飛びかかれるようにしている。
「ほら、通行証の腕章もしている。怪しい者ではない。ビックリさせないでくれ」
「ふ〜ん? でも、エリりんが気になる臭いするって。『じんとん』とかしても無駄だよ」
「えぇい‥‥ 何故、ばれた。口を封じさせてもらう」
殆んどハッタリだったが、相手が口を割ってくれたのだから儲けもの。
おまけに腕章は単に那須藩が警戒していることを分からせるためのブラフなのだから商人、いや間者も憐れだ。
クナイを投げるが、カファールには最小限の動きでかわされてしまう。
「そんなの、おいらには中らないよ〜だ」
「ちちぃ‥‥」
一目散に逃げ始めた商人にスクロールのシャドウボムをくらわせ、カファールは呼子笛を吹くと、上空から追跡を開始した。
だが、その先は、わざわざ残しておいた逃走経路となり得る場所。人気も少なく、戦うには持って来いの場所と言えた。
「この先は通さない。大人しくするんだ」
アルディナルが剣と盾を手に立ち塞がり、熊犬・烈皇が隣に付き従って間者を睨みつけている。
増援。間者に声をかける前にリュドりんに託した書き付けを仲間たちが見てくれた証拠だ。
キキン‥‥
クナイを盾で弾いてアルディナルは歩を詰める。
「無駄なことを。巌流、西園寺更紗、参る」
わざと外した一の太刀と熊犬の吼え声に驚いて、間者は物陰からの一撃に足をもつれさせた。
昼組と夜組の交代時間に近かったのが、間者の不幸。
「手で持たなくてよい灯りは便利にございまする」
火乃瀬曰く『消えずの提灯』の鬼火・守秘火と世音火が放たれ、 足元の明るさを増した。
「ぼ、冒険者か‥‥」
間者の言葉に微笑みながら火乃瀬が鬼火2体に命じると、その背後を塞ぐように炎の壁が現れる。
無理に押し通ろうとする間者は火乃瀬のマグナブローで焼かれ、アルディナルの剣に斬り捨てられた。
「言い逃れはできませんよ。私からも情報を得ようとしていたでしょう?」
「飯場の飯炊き女‥‥」
影から姿を現した所所楽を見て、間者は唾を飲んで顔を青くしていた。
「観念しようよ〜」
カファールは指を振っている。
●襲撃
「敵襲!」
周囲を警戒していた叶の一声で状況が一変した。
すかさずカファールは間者の背後から急所を一蹴して気絶させる。
「撃退する! 全力で倒しますよ!!」
その間にも限間たちは捕えた間者を守るように得物を構えて展開していた。
チラッと影が見えた瞬間、文殊の数珠を突き出した所所楽が短く経を唱えた。
ぐはっと呻き声が聞え、体勢を崩して木の上から落ちた曲者は、一気に間合いを詰めた西園寺の長巻で斬り落とされ、地面を転がった。
「敵は落ちたの入れて3人」
「了解!」
気絶させた間者を狙った手裏剣は、アルディナルと石動の盾で、ことごとく弾いた。
暗闇に紛れている敵は、黒装束でハッキリと姿を捉えることはできない。
顔は隠され、唇の動きは当然のことながら、表情も殆んどわからない。
「中々の手並み、しかと見させてもらった」
そう言うと雰囲気のある1人の忍者が印を組んでドロンと煙に包まれた。
背筋が凍る恐怖を覚え、反射的に石動は剣を捌く。
「やるな」
そこには煙で消えた男の姿があり、逆に今まで男がいた場所には気絶させた商人が‥‥
「空蝉か‥‥」
一瞬思考が止まった叶たちを尻目に、忍者頭は大きく跳躍すると空中で体を捻って離れた場所に着地した。
「まずい! 逃がすな!!」
「任せろ! 飛斬!!」
駆け出す限間の後ろから石動のソニックブームが飛ぶ。
「春炎香!」
頭の声に忍者の1人が術を発動させると、忍者頭は手から炎を吹き出した。
それをモロに喰らったカファールと火乃瀬が眠りに落ち、奇跡的に盾で炎は防いだ限間も花の香りに耐え切れず眠りに‥‥
更には炎に巻き込まれなかったものの、所所楽が流れてきた香にやられて眠りに落ちた。
「くっ‥‥ なんて奴らだ‥‥」
歯噛みするが、枯葉に火が着いて煙が立ち込め始めている。犬たちの鼻も期待できるか分からない状況だ。
「ちぃ」
追撃の石動の飛斬に手応えは感じたものの、気配は遠のくばかり‥‥
その後の調査で、冒険者たちが手に入れた商人の荷物や用いられた手裏剣から、商人に化けていた曲者は上州真田忍者に繋がりがあると分析、報告された‥‥