拾い話 〜小角精霊使い〜

■ショートシナリオ


担当:シーダ

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:0 G 31 C

参加人数:5人

サポート参加人数:3人

冒険期間:10月15日〜10月18日

リプレイ公開日:2006年10月23日

●オープニング

『話し拾いを手伝ってくれる者を募集』
 こんな依頼が江戸冒険者ギルドに貼り出された。
「珍しいというか、内容がわからないというか、どんな依頼なの?」
 そういう冒険者にギルドの親仁は、可笑しさを堪えながら苦笑いを浮かべている。
「あ。私、知ってる」
「どんな依頼なの?」
「ひ・み・つ」
 何じゃそりゃ‥‥と聞き出そうとするが、教えない方が面白いと思ったのか、知ってると言った冒険者も親仁も微笑んでいる。
「ま、楽しみにして、依頼人の退屈しのぎに付き合うと思ってやってみな」
「説明になってねぇ‥‥」
 冒険者は苦笑いした。

 さて‥‥
「昔々の話だ。魔笛を用い、精霊を操る役者がいたと言う」
 依頼人の屋敷にやってきた冒険者たちは、いきなりそう話かけられて思わず頷いた。
「その役者には額に小さな角があったらしいが、詳しい話はわからない。
 そこでだ。キミたちに、どんな話だったか拾ってほしいんだ」
 拾うって? そう言う冒険者たちに依頼人は真面目な顔で言う。
「忘れられるって悲しいことだよ」
 遠い目になった依頼人に、一同思わず溜め息。
「昔のことだからね。昔に行ければいいのに‥‥ 本気で、そう思うよ」
 申し訳ありません。道楽に付き合ってやってください。
 そう耳打ちする内儀の言葉に、仕方なく、あるいは率先して、冒険者は手を貸すことにするのだった。

●今回の参加者

 ea1628 三笠 明信(28歳・♂・パラディン・ジャイアント・ジャパン)
 ea4927 リフィーティア・レリス(29歳・♂・ジプシー・人間・エジプト)
 ea8714 トマス・ウェスト(43歳・♂・僧侶・人間・イギリス王国)
 eb3701 上杉 藤政(26歳・♂・陰陽師・パラ・ジャパン)
 eb4646 ヴァンアーブル・ムージョ(63歳・♀・バード・シフール・イギリス王国)

●サポート参加者

パラーリア・ゲラー(eb2257)/ フレイア・ケリン(eb2258)/ ジュリアンヌ・ウェストゴースト(eb7142

●リプレイ本文

●ノルマンの小角精霊使い
「昔、訳あってノルマンを訪れていた時に伝え聞いた話があったが、愚鈍なる私は当初その話の意味を理解できずに、書に認めて持ち帰り、知り合いに相談して意味を教えて貰った‥‥ そういう話です」
「うん。私も、もしかしたら、ノルマンで聞いたあの話が小角精霊使いなのかもしれないと思ったのだわ」
 皮兜が特徴的な侍である三笠明信(ea1628)、ちょっと素敵な話を求めてジャパンまで来たというシフールのバードであるヴァンアーブル・ムージョ(eb4646)、そしてドクターことトマス・ウェスト(ea8714)が語り始めたのは次のような話だ。

「かつて、精霊使いが訪れた町は、紺碧の海に囲まれ、深く美しい自然に抱かれ、それはそれは美しいものだったと言う。
 豊かな自然の加護もあり、また、真面目で聡明な領主は民のために心を砕き、民たちは幸せに暮らしていたのです」
 時折、書き付けに目を落としながら三笠は区切りの良いところで一息ついた。
「ふむ、我が輩が聞いた話では、何やら不思議な町で、そこにたどり着くには黄色い石畳の街道というものがあるとか〜」
 ドクターが思案顔で三笠の話を補足している。
「むか〜し、あるところに笛を吹きながら旅をする少年がいたのだわ。
 その笛の音は美しく、人々だけでなく、自然と動物たちの心まで捉え、心を癒したのだわ」
 そして、旋律に乗せたような語りでヴァンアーブルは2人の話を追いかけてゆく。
「あるとき、その町をオーガ、つまり鬼の集団が襲ったのです。平和だった町は、動揺で混乱しました」
「オーガたちを率いていた魔女が、町の者たちの心を乱したのだね〜」
「そう。槍の代わりに間違えて鍬を手にする兵士もいたくらいみたいなのだわ♪」
「落ち着きを失った人々は、互いに喧嘩をはじめ‥‥ そして、領主は僅かな手勢だけを率いて町の外で迎え撃つしかなくなったのです」
「オーガは町へ迫り来る。だけど、迎え撃つ領主の軍の何倍もの数♪ ギャオーと恐ろしい声を上げながら迫り来るのだわ♪」
「民たちは領主に怨嗟の声を浴びせた。無謀な戦いをする、無能な領主だ〜とね」
「それでも領主と兵たちは勇猛果敢に剣を抜き、槍を振るい、矢も尽きよとオーガを迎え撃ちます」
「ズバズバ、ビュンビュン♪ ヴァッサリン♪」
 領主軍がオーガたちを蹴散らしていく勇壮な戦いのサーガが繰り広げられていく。
 やがて、三笠の真剣な表情と彼の傍らで盛り上げるヴァンアーブルの話術に、商家夫婦は思わず息を呑む。
 それにドクターは、身振り手振りをつけながら夫婦の目の前を行き来するのだから、言葉は喉を通らない。
「しかし、だね〜」
「兵の数の差は、勇気では埋められなかったのだわ」
「1騎、また1騎と領主軍は兵の数を損ねていきます。そのとき、現れたのは立ち上がった領民たち」
「彼らの怒涛を後押しするように妙なる調べが戦場を覆ったのだわ」
「オーガを蹴散らすのは今ぞ!」
 ドクターの声に思わず夫婦は頷く。力強く。
「領主の雄叫びに兵たちは力を取り戻し、戦場を照らす銀の光と美しい笛の調べにオーガたちは怯みました」
「そうなれば勢いは領主軍のものだわ♪」
「地の利を活かし、領主軍はオーガ軍を蹴散らし、町を護り切った領主と民たちは、大宴会を開いたそうです」
「城では少年を招いて晩餐会が開かれたそうだね〜」
 ここでヴァンアーブルは合いの手を入れなかった。
 夫婦は思わず唾を飲み、深く息を吐く。
「晩餐会は何日も続き、楽しい時間が過ぎていきます。しかし、家臣や領民の様子がおかしいのです」
「領主の母の命日が来る‥‥と溜め息をついているのだわ‥‥」
「少年は首を傾げましたが、その日が近付くにつれ、彼にもその意味がわかってきました。
 城には町中の少女たちが集められ、あろうことか、今年は戦いで捕えた牛角のオーガ・ミノタウロスまで城内に引き入れられたのです」
「家臣たちが諌めても、これが聞かないのだわ♪」
「何を言っても無駄。もしかしたら魔女の呪いだったのかもしれないね〜」
「何を思ったのか、牛追い祭りになぞらえた乱痴気騒ぎに、大怪我する少女まで出る始末‥‥
 町の人々は、ほとほと閉口し、少年に頼みました」
「領主の心を鎮めてほしいのだわ♪」
 夫婦たちは思わず、うんうんと頷いている。
「そこで少年は精霊の魔法を使ったのだよ〜」
「領主に母親の在りし頃の幻覚を見せ、これを諌めたのです」
「本当にお母さんが好きだったのね」
 ヴァンアーブルの言葉にドクターは、一瞬、遠い目を見せた。
「それが効いたのだろうね〜」
「幻の母の言葉に領主は泣きじゃくり、催しを止めさせると、ひどく安らかな寝顔を見せたそうです」
「お母さんの膝で眠ったのだわ。きっと♪」
 手を取り合う夫婦にヴァンアーブルは思わず微笑んだ。
「こんなこともあり、町での少年の評判は上がる一方」
「だけど、少年には小さな秘密があったのだわ。どんなときにも帽子を脱がなかったのね」
「好奇心に駆られた領主は少年が眠っているときに、こっそりと帽子を取ってみたのです」
「少年の頭には輝く角のようなものが♪ 普段は帽子で隠していたのだわ」
「恐る恐る領主は、その角に触れてみたそうです。その瞬間、少年は飛び起き、寂しそうに言ったそうです」
「僕は人じゃありません。知られたからには、ここにいることはできないのです‥‥とね〜」
「次の瞬間、少年は人外のものに姿、ふさふさした毛に覆われた、犬のような顔の大蛇に形を変えていったのです」
「美しい笛の音のような鳴き声を残して、紺碧の町の上を何度も回り、小角精霊使いの少年は何処へとなく消えたということなのだわ♪」
 三笠が深く礼をし、ヴァンアーブルが片手を体の前に持ってきて礼をとると、夫婦は手を叩いて喜んだ。
「異国にも、そのような伝説があるのですね。いやぁ、こいつは収穫だ」
 主人の喜ぶ様子を優しく見つめる内儀に、三笠もヴァンアーブルもドクターも満足そうな表情で顔を見合わせた。

●日本の小角精霊使い
「次は私たちの番だな。陰陽師をしていると様々な話を聞く機会がある。その際に聞いた話をしようかと思う」
 そう前置きして、陰陽師の上杉藤政(eb3701)は話を始めた。
「一説には相州での話だと聞くが定かではない。
 その半島の先には、それを覆うような島があるのだと言う。
 それが何故、陰陽師に伝わっているかというと鬼の島だからだ」
「姿形は人に似ていたそうだから、一見、鬼だとわからなかったようだな。
 だが、額に角のような瘤(こぶ)を持つ。それだけで人とは違うということだから周りの村からは敬遠されていたらしい。
 珍しいモノを見るような奇異の視線を投げられていたそうだ」
 熱砂とオアシスの国のジプシーであるリフィーティア・レリス(ea4927)は歌うように話を継ぐ。
「だが、鬼と言っても異形の存在というだけで、悪さをすることはなかったそうだ。
 魚を取って暮らし、半島の者たちとは魚と農作物と交換したりもする、一応の平和な暮らしをしていたそうな」
「ただ、荒行をするために島へ入ったという役者の末裔たちというだけあって、不思議な術を使う者たちだったようだな」
「そう。乞われて半島に出向き、雨乞いをすることもあったようだ。陰陽師の間では、水の精霊を操ったのだろうと言われている」
「ただ、その芸を理解してくれる人は少なくて。その役者のことは不吉だ、なんて言うヤツが大半だったんだ。
 本当は大小の災厄から、みんなのことを助けたかっただけなのに‥‥」
 静かに語る上杉とリフィーティアの話は、淡々としているだけに真実味を帯びているように感じ、主人は、話の節々で小さく頷いた。
 上杉は湯飲みに口をつけると、ゆっくりとそれを置き、再び口を開いた。
「あるとき、その半島は長の日照りに見舞われた。そのままでは農作物が壊滅しかねないほどだったそうな」
「悪意のある者は、どこにでも、いつの時代にもいるもの。島の役者たちが悪いような噂が立ってしまったんだ」
 微かに、僅かに頷くリフィーティアに夫婦たちは思わず頷く。
「そこで武士たちは島へ上陸し、役者たちを糾弾して、島一番の魔笛の使い手を捕えるように半島に招聘した」
「本当は役者たちは半島へは行きたくなかったんだ。そこに役者たちを目の敵にしている武士がいるのを知っていたからな」
「だが、役者は連れてこられた」
「雨乞いをさせるために」
「目の敵にしていた武士の噂に躍らされて」
 夫婦たちの表情が一瞬にして曇る‥‥
「普段は受け入れられていたからと隠していなかった小角を露に‥‥」
「役者は人々の前に引き出された」
「人々は、その武士の言葉を信じていた」
「こいつは鬼だと」
「こいつが雨を降らせないのだと」
「そして、縛り上げられ、大木に磔にされ、日に晒されて、人々は呪いの言葉を役者に投げた」
「それは役者の心を引き裂き、呪いの心を生み‥‥」
 一瞬の間に夫婦たちの息が止まる。
「荒神となった‥‥」
 夫婦たちの息が僅かに漏れる‥‥
「陽の光を嫌うように月光の元で命絶えた役者は、縛めを抜け出し、魔笛を吹き鳴らし、半島を百日、月夜に閉ざしたという」
「人々の望んだとおり、日照りは止んだが、大飢饉となり、恨みを買った武家は民たちの手により絶えた‥‥と聞く」
「そして、荒神となった役者は、月の明かりに包まれ、どこへとなく姿を消してしまったそうだ」
 上杉とリフィーティアは憂いの表情を浮かべて俯き、苦笑いを夫婦に向けた。
「全く‥‥」
 主人は深く何度も溜め息をつくと、ただ一言漏らすのだった‥‥